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#22 投降する革命家



 エルドランド国会議事堂。先日のハイジャック事件にて被害を受けた自由人民党本部から大通りの交差点を挟んだ斜向かい。エルドランド全国から集められた最高品質の石材で造られ、純白の殿堂と称賛されるエルドランドの権威の象徴。その全貌が見渡せる文部科学省のビルの屋上で、舞杏は身を潜めて国会議事堂周りの動きを見ている。

 およそ500メートル離れた場所で安全を確保して双眼鏡を覗く。

 30機のバトルフレームが国会議事堂を囲み、防衛省や警察が周辺を封鎖して交通誘導をしている。議事堂前の道路には簡易シェルターが置かれ、周りに土嚢が高く積み上げられている。爆破予告事件の対策指揮所となるそのシェルターには爆発物処理班も待機している。

 気楽に見物に来た舞杏とは異なり、爆破予告された正午まで10分を切り同じビルの屋上の機動隊狙撃班は四方を監視してピリピリとひりついた空気を醸し出していた。

 国会議事堂は現在無人。厳戒態勢が敷かれたエルドランド国政の中枢、怪しい存在はいない。

(さて、本当に革命家はやってくるのかな。名乗りを上げるために爆破するなんて迷惑な話だが、真の狙いがそれだけとは限らない…。爆発物が建物に無かった以上、これだけの警備の中爆弾を持ってこないといけないが、捕まりに来るようなもんだ。…となるとミサイル…?いや、たかが犯罪者がミサイルを用意できるとは思えないが……ドローンなら現実的か…)

 舞杏は空を見渡すが付近を飛行しているものは無い。民間の飛行は制限され、公安も使う透明化を見破るシステムまで導入されている。透明化装置自体民間には公開されていない技術だが、それを多角的な視点からレーダーの照射と観測を行うことで目に見えない透明化した存在を捉える技術も完成している。

(ま、ミサイルやドローンを使ったとて、撃ち落とされて終わりだろうね)

 構えるバトルフレームは機動力を捨てて重装甲と連続射撃に特化した装備だ。

(あの装甲なら近くで爆発が起こっても耐えられる。堂々と鎮座しているバトルフレームの操縦士も、皆射撃の腕はトップクラスだろう)

 時間を確認すると正午まで1分となっていた。

 緊張が増す。しかし国政の中枢は穏やかなままだ。

(動きはない…。革命家たちも諦めたかな?)

 正午になり、念のために建物の陰に身を低くして構える舞杏。

 爆発はない。と現場の誰しもが思うほどの静寂の時間が数秒続いた時、突如として街中に警報が鳴る。

 それは通常、防衛省が怪人警報に使う設備から響いた。

『…あー、あー…いけてる?ちゃんと声出てるのこれ…?』

 スピーカーからは男の声。どことなく聞き覚えがある声に舞杏の眉がピクリと動く。

(タングス…?)

『あ、そう。おっけ、じゃあ予定通りに…。あー…我々は理想なき革命家。これより予告した通りエルドランド国会議事堂を爆破させてもらう。まずは防衛省、警察諸君。一般人の立入り規制と誘導感謝する。余計な被害を出すことなく我々の目的は遂行されるだろう』

 その声は街中に響き、関係者の動きが慌ただしくなる。

(防衛省の設備をジャックしたか)

 機動隊狙撃班にも情報が入り、舞杏と面識のある1人が周囲の警戒を続けたまま声をかける。

「鷹司、国営放送を確認できるか?そっちもジャックされたみたいだ」

 警戒に専念している知人スナイパーの代わりにデバイスで国営放送を確認すると暗闇の中でタングス独りが穏やかに話している映像が流れている。

「タングスだ。私達に接触してきた人物で間違いない」

『この国会議事堂はエルドランドの権威の象徴。他国にも誇れる立派な議事堂だが、そこで行われる審議は稚拙なものだ。重要な議題には無関心に居眠りするものまで居て、無駄な議題に熱を上げる姿はまるで小学校の学級会だな』

 エルドランドの政治を馬鹿にした表情を見せるタングス。

『お前達にはこの議事堂は勿体ない…。お前達はプレハブ小屋でだべってるくらいが丁度良い』

(エルドランド政権に対する批判。理想なき革命家達はエルドランド生命保険金不払い事件の被害者だけじゃない…)

『…我々の目的は革命ではない。だが我々の行動はこの国に革命をもたらす。理想なき革命家は悪なる政治家に鉄槌を望む力無き国民。しかしお前達が悪であり続けるならば、我々の力は大きくなるものと知れ』

 タングスの声が街に響き、電波に乗って人々に届くが、落ち着いた様子で各放送機関を乗っ取るタングスの声が一瞬止まる。

『…ん…?』

 それは素っ頓狂な声で、何か予定外の出来事が起きたことが窺えた。

 舞杏が居るビルから国会議事堂を挟んだ向こう側、自由人民党本部のさらに向こうから1機のドローンが高速で飛行して国会議事堂に向かう。

「ドローン!」

 いち早く気付いたスナイパーが指揮所に報告すると共にドローンに照準を合わせるが、議事堂を守るバトルフレームが先に迎撃を開始する。

 ドン、ドドンと数発の弾丸が放たれるとその内の1発が命中してドローンは議事堂に届くことなく小さく爆発して地に落ちる。

『舐めているのか?』

 バトルフレームの操縦士から思わず声が漏れた。

(しょぼい…!爆発も、ドローンの性能もしょぼすぎるだろ)

 呆れた舞杏の口がポカンと開く。

(本当に、何がしたいんだよ革命家は…?街中でドローンを飛ばせば撃たれないと思ったのか?議事堂周辺は対怪人用のシェルターを下ろしてる。防衛省はいつも通り容赦なく発砲するぞ?)

 あまりの出来の悪さに理想なき革命家を心配してしまう舞杏。

「市販されてる量産型だな。ドローンの性能は低く積載量も少ない…。販路から足はつかないだろうが…拍子抜けだな」

「はは、もう撤収していいんじゃないです?オレ今日用事あるんすよね」

 冷静に分析する機動隊も呆れ、軽口をたたく隊員もいる。

『…あぁ…すまない…。どこかの誰かが先走ってしまったようだね』

 タングスさえドローンの突撃失敗に半笑いを浮かべている。

(どこかの誰か…?…タングスの余裕は崩れない…)

『みんなもう待ちきれないみたいだな…。挨拶は終わりだ…さぁ、始めようか。力無き国民がエルドランドの権威に鉄槌を下す!パレードの開演だ!!』

 タングスが力強くそう宣言すると規制線の外側から無数のドローンが飛び立った。それは乗り捨てられたトラックから、テナントを募集するビルの一画から、排水路や路地の隙間から。街の至る所から現れて数え切れないほどの群れを成したドローンは異様な音を響かせて皆同じ場所を目指す。

「な、なんだこの数…!?」

 舞杏は身を乗り出して状況を見る。

「伏せろ!鷹司!」

 舞杏を引っ張り伏せさせる機動隊スナイパー。同時に議事堂を囲むバトルフレームの迎撃が全方位に向けて開始される。

「我々も迎撃だ!議事堂側に顔を出すなよ、味方の攻撃を喰らうぞ!」

 指示を受けたスナイパー達が規制線の外から飛んでくるドローンを狙い迎撃を始めた。

 対策指揮所では公安三課の主任が焦りの色を見せる。

「数は!?どれだけ飛んでいる!?」

「およそ3万から5万!まだ増えています!」

 広域監視映像からAIで処理して数を割り出すが多く素早いドローン群の全貌を把握出来ない。

 三課主任は一度指揮所の外に出て自分の目で空を確認するが、すぐに戻って扉を閉ざす。

「落としきれない!ジャミングして遠隔操縦を阻害しろ!」

 怒号にも似た命令が指揮所に響く。

「りょ、了解!」

 オペレーターは直ちに命令を実行するが、ドローンは少しふらついただけで体勢を立て直して議事堂へ迫る。

「どうした!?」

「だ、ダメです!アンチジャミング!」

「くっ…!いや、見える範囲に装置があるか!?…空の規制線を広げさせろ!半径15キロを立ち入り禁止だ!」

「規制線を広げます…間に合いません!ドローン、到着します!」

 外では必死の迎撃が行われるが、圧倒的な物量差に撃ち漏らしたドローンが国会議事堂を襲い始める。

 一つ一つは小さな爆発だが、確実に建物にダメージを与えていく。

「やむを得ん!EMP兵器を使え!」

「!?…ドローンは全方位から来てます!電磁パルス攻撃は周囲の電子機器被害が大きすぎます!」

 電磁パルス(Electromagnetic Pulse)を利用した攻撃手段。電子機器の破壊に有効だが、防衛省が用意したそれは対怪人用に強化されている建物さえ貫通して一般の電子機器も破壊してしまう。

「味方の装備にも…」

「議事堂に被害が出てる、テロリストのいいようにさせるな!」

「は、はい…!」

 オペレーターは手分けしてEMP兵器の準備をする。

 防衛省のEMP兵器は大きなスピーカーのような見た目である程度の攻撃範囲を設定できるが、全方位から迫るドローンへの対処には能力不足だった。ドローンに向けて電磁パルス攻撃が開始され、攻撃範囲内のドローンは機能停止して墜落するが、照準を動かすのに時間がかかる。

「EMP!?」

 舞杏が居るビルの屋上の機動隊員にもEMP兵器の使用が知らされる。

「おいおいマジかよ、デバイス新調したばっかだぞ」

 軽口をたたきながらも屋上からドローンを狙い、撃ち続ける。

(撃ち落とされることを前提にした物量作戦か…。やるじゃないか革命家…少し見直したよ)

 舞杏は機動隊狙撃班と離れて議事堂側の様子を窺う。

 ドローンはビルの屋上よりも低い位置を飛んで行く為バトルフレームからの攻撃が屋上付近に命中することは多くはない。が、もはや狙いを定めることなく乱射される銃弾は屋上を超えていくこともある。

(EMP兵器は1機か…。これじゃ対応できないね)

 舞杏の思い通りEMP兵器を使っても次々と向かってくるドローンは止めきれない。それどころかドローンの一部はEMP兵器に狙いを切り替えて飛び、数十機が激突、爆破してEMP兵器を破壊した。

(ありゃりゃ…。こりゃあ負けだね。これだけの数を用意されたんじゃ守り切れない。…にしてもこれは、遠隔操作なのか?…タングスはどこかの誰かが先走った、と言ったが、AIでなく人の手で操作しているとしたら、それだけの人数がこの件に関わってるってことだ…)

 ドローン全体の動きを俯瞰する舞杏。EMP兵器を狙った動き、統率されたとは言い難いものだった。議事堂に向かうドローンの中には遊ぶように無駄な宙返りをするものまで居る。決定的なのはドローン同士での衝突が稀に発生していること。

(やっぱり、全部とは言い切れないが、人が動かしてるね…。だとしたらジャミング対策は必須)

 上空を見上げる舞杏だが、警察関係以外の飛行物体はない。

(…。…まさか地上に…?)

 思案する舞杏。

(最初のドローン…。ここから見える前にタングスは異変に気づいてた…。…いや、考え過ぎか…?)

 最初のドローンが飛び出してきた方向、舞杏は攻撃を受け続ける国会議事堂の向こう側、自由人民党本部に目を向ける。

(………)

 国営放送のジャックは終わり、タングスの姿はない。報道はさらに遠く離れた場所から国会議事堂を捉えた映像を流している。

(…有り得る…。国会議事堂から近い自由人民党本部は無人のはず。それに、今の人民党本部は最上階に穴が開いてる状態…!陽動作戦が好きな連中だ、何か別の目的があるとすれば、人民党本部が関係している可能性はある。わざわざ攻撃力の低い物量作戦に出たのも、より長く時間を稼ぐためだとしたら…)

 舞杏はため息をついて立ち上がる。

(攻撃は上空に集中している。地上を建物の陰から回り込めば行けるか…)

 狙撃班が迎撃する規制線側に移動して地上を見下ろす。

「引っ込んでろ鷹司!」

 言葉は荒いが舞杏の身を心配する機動隊員。

「いやすまない、用事を思い出したんで私はもう行くよ」

 言いながら緊急用のロープを地上に垂らす。

「はぁ!?お前、何を!?」

「んじゃ、ここはよろしくぅ!」

 ロープを使ってビルから滑り降りる舞杏。

「ちょっ!おまっ…!…はぁ…変わんねぇな、アイツ」

 知人のスナイパーは呆れながらも舞杏を援護するように付近のドローンを優先して撃ち落とした。

 


 自由人民党本部は現在、ハイジャック事件で損傷した建屋の補修の為外壁周りに工事用の足場が組まれている。無人であるはずのこの建物に5人の人影。バトルフレームからの流れ弾を当てられないようにドローンは人民党本部を避けるように飛んで行く。

「時間だ、撤収するよ」

 関係者の居ない建屋内、時間を確認して他の4人に呼びかける機動隊出動服を着たタングス。

「了解」

 同じように機動隊に扮した4人の男女は荷物をまとめて破壊された外壁から足場に出る。

 足場には目隠しのシートがされており、ジグザグに階段を駆け下りる5人の姿は外から見えず、ガンガンと鉄を踏む足音は爆音と銃声に掻き消される。

「予定通り、ルートAを使って撤収。ティナと合流します」

 4人は頷き、建物の陰に隠れるように身を低くして小走りで移動する。

 殿しんがりを務めるタングスの耳に雑な着地音が届く。

「おいおい、もうパーティーは終わりかい?」

 振り返るタングス。国会議事堂の反対側から駆け付けた舞杏の息は荒い。その存在に5人は足を止めて警戒する。

「なんだ、1人で来たのか…?」

「ふっ…。イベントと称して自ら作った火事場で泥棒かい?…所詮こそ泥あがりの自称革命家だな」

 舞杏がタングスの前を走っていた2人が抱える大荷物を見て鼻で笑うと、先頭を走っていた男が不機嫌そうに舞杏へ銃を向ける。

「イベント費用の回収だと思ってくれ。結構金が掛かったイベントなんだ」

「…だろうな」

 タングスは手を横に出して先頭の男を制止する。

 ドローンによる波状攻撃は未だ続き、国会議事堂は大きく損傷して火の手が上がる。迎撃するバトルフレームは今や自棄糞やけくそに銃を乱射しているだけだ。

「量産型だが爆弾と改造費込みで1機10万。それを12万機用意した」

「じゅぅっ…!?12万…。それってぇ…と…」

「120億」

「ひぇっ…。と、とてもこそ泥が出資できる額じゃないだろ!なにドローン産業に貢献してるんだよ!?」

「ははっ、こそ泥して稼いだ金だよ。…表立って報道されている被害額よりも多く稼いでるからな…。裏金、不正資金、隠し財産…。盗まれたところで被害を訴えない奴が多い」

「それで…?ここでも大金を盗んできたってのかい?」

「…鷹司。奴等が隠してるのは金だけじゃないぞ」

「それは、そうだろうね…」

 舞杏が人民党本部の建屋を見上げると、先頭の男がタングスに声をかける。

「タングス、時間が」

「あぁ、そうだな。先に行ってくれ。予定通りルートA、プランはBに変更。俺は時間を稼いで単独でC以降のルートを使て離脱する」

「OK、無理するなよ」

 頷き、4人はタングスを置いて走り出す。

「こっからは2人っきりか?寂しいな」

 ポキポキと指を鳴らす舞杏。

「今日はやる気があるじゃないか」

「勤務中でね。お前を捕まえて、あわよくば臨時ボーナスだ!」

 瞬間、舞杏は銃を抜いて低く構えるとタングスの後ろを走る4人に向けて発砲。

「ッ!!」

 しかしその弾丸はタングスの左手左足に止められてしまう。

(弾丸に反応した!?…いや、それより…)

「おいおい、無視するなよ」

「…その手…その足…」

 タングスは平然と立ち塞がり、首をぐるりと回してから接近戦の構えをとる。

 ズン、とタングスは力強く踏み込んで舞杏に詰め寄る。銃を撃って応戦するが、弾丸は全て弾かれて後ろに飛ぶ。

 舞杏も銃を捨てて接近戦の構え。得意の体術を繰り出す。

 タングスの左手を警戒して左からのジャブ。右の回し蹴りで顎を狙うが躱される。

(腐っても元軍人か)

 タングスは余裕な表情を崩さない。

 舞杏はスタンロッドを振りかぶるが、腕をはたかれ腹に掌底を喰らって飛ばされる。

「ぐっ!」

(重い!!)

 受け身を取って体勢を立て直す。

 平静を装うが腹部にダメージが残る。

「鷹司、お前にとって正義とはなんだ?」

「…犯罪者の説法ほど無用なものはないな…」

「高尚な社会正義なんて個人の人生に価値はない…。自分の人生にとって正義とは自分自身だ」

「身勝手な意見だな。それこそお前の嫌いな、独善的な政治家と同じ思想だろうに」

「ふっ…。そうだ。結局、正義を貫くってのはわがままなんだよ」

「人間社会に居る以上お前の正義は犯罪でしかないな」

 鼻で笑う舞杏だが、タングスも同じように笑う。

(あー、お腹痛い。独りだとちょっと厳しいか…?臨時ボーナスはお預けか…)

 舞杏は腕のデバイスで応援を要請しようとするが、しんと静まり起動しない。

「電磁パルスめッ!!!」

 デバイスを地面に叩きつける舞杏。

「これはどっちに弁償させればいい!?三課か!?お前か!?」

「……三課じゃね?」

「いやお前だッ!」

 踏み込みスタンロッドを振るう。一歩下がって躱すタングスにロッドを投げつけて距離を詰める。

「歯を食いしばれ!」

 右ストレートで顔面を狙う舞杏。しかしタングスに受け止められる。

(硬い!)

 すぐさま引いて上段蹴りを繋げた。

「あまいな!」

 蹴りの軌道を流される。バランスを崩しながらも後ろに回転して距離を離すが、今度はタングスが迫る。左手が舞杏の胸ぐらを掴もうと伸びるがギリギリのところで躱して見せた。

「!!?」

 タングスの左手は舞杏に届かない、はずだった。だがその左腕はガシャン、と音を立てるとほんの20センチほど伸びて舞杏を捕らえる。

 タングスは捕まえた舞杏を塀に投げつける。

「ぐえっ!」

 低いブロック塀に突っ込んで破壊する。

 全身に激痛が走り身体が重い。

「クッ…。やはり…お前の手…。いや、お前の身体…」

 痛みに苦しむ舞杏の前に立つタングスは左手の手袋を外して袖をまくる。

「コメリッカ製の軍用義肢。なかなか役に立つモノだ」

「…復讐の為…?」

(コイツのスピードとパワー。人間のものじゃないと思ったが…)

「ああ、覚悟を示し、目的を達成するために四肢を切断して取り付けた」

(全身か…。身体そのものが兵器じゃないか)

「お前を痛めつける気はない。今はそこで大人しくしていろ」

 タングスは微笑んで舞杏に背を向ける。

「待て!…これで勝ったつもりか…!?」

 立ち上がろうとするが思うように身体は動かずふらついて膝をつく。

「落ち着け。今お前に捕まる訳にはいかない。また今度…」

 タングスは言葉の途中、何者かが駆け寄ってくる気配に気付く。

 ドローンの爆発音がまばらになり波状攻撃も終盤。近くを警戒していた2人組の警察官が走ってくる。

「そこで何してる!?」

(でかした!)

 身を低くして走りながら拳銃を抜くが、機動隊の出動服を着ているタングスに銃口は向けない。

「不審な女を無力化した。拘束を頼む」

 その言葉にタングスを素通りして舞杏を見る警察官。

「ばっ!ばっかも~ん!!そいつが主犯だ!捕まえろーッ!!!」

 舞杏の叫びも虚しく、タングスは2人の警官の顎を一瞬で打ち抜き気絶させる。

「ふふふっ。すぐにまた会える。そんなに寂しそうな顔をするなよ、じゃあな」

 タングスはそう言い残し、笑いながら立ち去った。

 悔しがる舞杏。

 ドローンの攻撃も終わり、国会議事堂は見る影もなく無惨に崩れて燃盛っていた。



 一週間後、公安六課。

 負傷し、療養していた舞杏がオフィスに戻る。

「復帰おめでとうございます」

 寝ているスカーレットを抱いている双連が上司を迎える。

「ああ、すまないね。一週間も休んでしまった」

「いえ、ぶっ飛ばされて一週間で済むなんてさすが主任です」

「タングスめ、次会った時はこっちがブッ飛ばしてやる!」

「二度あることは三度ある、ですね」

「負ける前提で話してる!?三度目の正直ってヤツだろ!」

「鷹司さん。退院おめでとうございます」

 合流する真夏。

「あぁ。お見舞いありがとう。真夏君だけだよ、私のことを愛してくれているのは」

「え?いや、べつに愛してはいないと思いますけど…」

「やだな~、私もお見舞いしたじゃないですか~」

 にまにまと笑う双連。

「全身打撲で寝てる相手にダンベルなんか持ってくんなよ!持ち帰るのも大変だったよ!」

 平日の午後、退院してそのまま六課へ顔を出した舞杏。重たいダンベルをドスン、とデスクに置く。

「あはは、主任が打倒タングスとか言うから~」

「はぁ…もっと優しい部下が欲しい…」

 復帰早々わちゃわちゃしていると、慌てた捜査員が駆け寄ってくる。

「た、鷹司主任!で、電話です…!」

「ん、電話?そんなに慌てて、誰からだい?」

「タングスです!タングスと名乗る男から、鷹司主任に!」

「タングスから!?」

「はい、こちらに転送されます。逆探知も準備中なので、できるだけ話を引き延ばしてほしいとのことです」

 舞杏のデスクの固定電話機が鳴る。

「タングス…本物か?…わかった、出よう」

 少し考えてから受話器を取り耳に当てる。

「…鷹司だ」

『久しぶり、というほどでもないか…』

「タングス、か?悪戯電話なら他所にしてくれ。電話越しだと本人かどうかも分かりかねん」

『本物だ。しらたき派のタングスだ』

「てめーっ!タングスコノヤロー!!ブッ飛ばしてやるから出て来やがれ!!!」

 受話器を強く握りしめて怒鳴る舞杏。

「鷹司さんって警察に向いてないんじゃ…」

 ぼそっと声が漏れる真夏。

「シッ!真夏ちゃん、思っていても声に出さないのが社会人だよ!」

 双連は一喝し、舞杏とタングスの会話に聞き耳を立てる。

『ははは、ブッ飛ばされるのは勘弁だが、出て行ってもいいとは思ってる』

「はぁ?」

『条件はあるが、自首したい』

「ふっ!?ふざけてんのかお前!?」

『本気だ。そちらが条件を呑むことが前提だがな』

「…条件って…。いや、そもそもお前はもう身元が割れてんだ、自首じゃなくて出頭だな」

『細かいことはどうでもいい。どうだ?大犯罪者様を捕まえるチャンスだぞ』

「…元総理大臣の殺害に国会議事堂爆破。ハイジャックへの関与に窃盗、強盗等余罪多数…。立派な大犯罪者様だな。残念だが減刑の余地もない」

『減刑は条件じゃない』

「ほう…。減刑はお望みじゃない、と…。まぁ、聞くだけ聞いてやろうか」

『あぁ、助かるよ。逆探知はされてもいいが、手短に話そう』

 タングスからの連絡が来たことを知り、清水や他の捜査員たちも舞杏のデスク周りに集まってくる。

『条件はみっつだ。ひとつ、政府与党の政治家と対談する場を用意してほしい。我々の意志は行動で示してきたが、直接対話する場も必要だろう?』

「平和的に対話できる程度を超えている。誰もお前の前には立ちたくないはずだ」

『俺の身体のことは知っているだろ?出頭する場に来いとは言わないさ、無力化してくれて構わない』

「無力化…。手足を取り外した状態で対談すると?」

『それで怖がる奴はいないだろう?あとはまぁ、LEXエルイーエックス1373を返したい、と伝えてくれればきっと対談に乗ってくれる』

「LEX…?」

『我々には持て余す、と…。そのまま上に報告すればいい。分かるヤツには分かることだ…』

(理想なき革命家が盗んだ何か、か…)

『…ふたつ。その対談の場に幸谷真夏を同席させること』

「えっ?私…?」

 名前が出たことに驚く。

「しつこいな。真夏君は私のモノだ。勝手は許さん」

(違います)

 思ったことを心に留める真夏。

『来てくれるだけでいいんだ。対談の結末を見届けてほしい』

(真夏君をタングスの前に…。いや、それよりも与党議員の前に出すのも危険か…?)

「その場合、私もそこに同席するが?」

『あぁ喜んで。鷹司も招待するよ』

「はぁ…嬉しくない招待だな…。それで?」

『…みっつ。この対談をテレビで放送してほしい。生放送がいいが、贅沢は言わん。国民に…仲間達にこの対談が届くようにしてもらいたい』

「…生放送は…まぁ無理だろうな。お前は危険すぎる…」

『…理解してる。そこは善処してくれればいいさ』

 舞杏はわざとらしく大きなため息をつく。

「ふぅ…。と言っても、私にこの条件を呑んで対談の場を用意する権限はないな。今ここで返事はできないぞ」

 電話を取次いだ捜査員が逆探知が成功したことを身振り手振りで舞杏に伝える。

『ああ、聞いてくれて感謝するよ。…明後日AM3時、エールスカイタワーてっぺんの航空障害灯でモールス信号を送れ。5分間だけ観測する、遅れるなよ』

「いいだろう、話は進めておく。首を洗って待ってな」

『ふっ…楽しみにしておく…』

 プツッ、と電話が切れる。

「お疲れ様でした。タングスの方には一課と三課の捜査員が向かいました」

「うん、まぁ捕まらないだろうけどね」

(用意周到、逃げ道はしっかり作ってるだろう。…となると)

「条件を呑んでもろくな事にはならないだろうが…。課長はどう思う?」

「うむ…。幸谷さんの同席を求めているのであればこちらにも拒否権はあるが…。三課は何としてでもタングスを捕まえたいだろうからね。場合によってはどこかから圧力がかかるだろう」

 舞杏は下卑た笑いをする。

「ふっふっふ…。出頭して無力化したところで約束なんか守りませーんって言ってやろうぜ」

「さっすが主任!卑怯者!」

 囃し立てる双連。

「よせやい、照れるだろぅ」

「冗談はさておき、それをさせないためのLEX1373だろう」

 清水はデバイスで情報を整理して関係各所に連絡する。

「理想なき革命家達が盗んだ、持て余すなにか…。条件を反故にすればそれは返されない」

「結局、決めるのは上になる。報告を上げて判断を待とう」

 集まっていた捜査員達が解散する。

「復帰早々面倒なことになりましたね」

「そ、そうですね。鷹司さんが退院するのを見計らったみたいです」

「実際、見ていたのかもね。本人か、それ以外か…。理想なき革命家は私達が思っていたよりもずっと規模の大きな組織だ。どこに協力者が潜んでいても不思議じゃない」

「国会議事堂破壊事件、数千人が関与している可能性があるみたいですしね」

 舞杏は頷く。

「その中の、中心人物の1人。タングスの出頭…。何事もなく終わる、わけないよな…」



 二日後、首都エールのランドマーク、エールスカイタワーから対談の条件を呑む旨の信号が発信された。



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