羽毛の温もりと、朝の光
破壊された門が土魔法で完全に塞がれ、あたりが静寂に包まれた。
あまりの出来事に呆然としていた騎士学園の生徒たちだったが、すぐに我に返る。
「おいっ!?」
「倒れたぞ! 大丈夫か!?」
自分たちの命を救ってくれた少年が、糸が切れたように地面へと崩れ落ちたのだ。
生徒たちが慌てて駆け寄ろうとした、その時。
「グパパパパッ!!」
「うわっ!?」
少年の傍らにいた巨鳥が、鋭い鳴き声を上げて立ちはだかった。
全身の羽を逆立てた猛獣の威嚇に、生徒たちは本能的な恐怖で足を止める。
「お、俺達はそいつを助けたいんだ……!」
勇気を振り絞ってそう伝えたが、ダッシュバーードは首を振って拒絶した。
それどころか、主を守るようにその場に座り込むと、自身の大きな翼で少年の体を包み込んでしまった。
「……駄目だ。近づけさせてくれねぇ」
無理に近寄れば、敵とみなされる。
そんな殺気が痛いほど伝わってきた。
それでも、恩人を冷たい石畳の上で寝かせておくわけにはいかない。
騎士学園のリーダー格の生徒が毛布を手に持ち、ゆっくりと巨鳥との距離を詰める。
「お、おい。それだけだと寒いだろ? これだけは受け取ってくれないか?」
そう語りかけると、ダッシュバーードはゆっくりとリーダーに顔を近づけた。
反射的に喰われるかもしれないと考えてしまい身体が硬直した瞬間、巨鳥は器用に毛布だけを口で咥え取った。
そして一旦翼をどけると、器用に少年に毛布を掛け、再び大切そうに翼で包み込む。
「そいつ……大丈夫なのか?」
「グパ」
短く頷くような鳴き声。
まるで「私に任せておけ」と言っているような雰囲気だった。
これ以上、生徒たちに出来ることはなかった。
翌朝。
ラグナは柔らかな羽毛の感触と、獣の匂いの中で目を覚ました。
『……あったけぇ』
最初に感じたのは、全身を包み込む心地よい温もりだった。
ゆっくりと意識が覚醒していく。
ぼんやりとした視界いっぱいに、見慣れた羽毛が広がっていた。
「……ダッシュバーード?」
「……グパ?」
小さな鳴き声と共に、羽のドームが開く。
「まぶしっ!」
遮られていた朝の光が一気に降り注ぎ、ラグナは目を細めた。
顔を逸らすと、ダッシュバーードの大きな瞳が心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「あぁ……ダッシュバーード。俺はあのまま気を失ったのか……お前がずっと守ってくれていたのか……?」
ラグナが少し掠れた声で呟くと、ダッシュバーードは「グパパッ!」と嬉しそうに鳴き、自慢げに胸を張った。
「ありがとな」
愛鳥の首元を優しく撫で、身を起こそうとする。
……予想以上に身体が重い。
無理を重ねて連戦した代償か、まだ魔力が回復しきっていないようだ。
ゆっくり周囲を確認すると、遠巻きにこちらを見ている騎士学園の生徒たちの姿があった。
彼らの表情には安堵の色と共に、どこか濃い疲労の色が張り付いている。
ラグナは軽く首を回して凝り固まった筋肉をほぐすと、生徒たちに向けて口を開いた。
「……おはようございます。昨日は迷惑かけてすみません」
ラグナが深々と頭を下げると、生徒たちは慌てて手を振った。
「そんな……!」
「頭を上げてください! 助けてもらったのは俺らの方なんだから……」
恐縮しきりの生徒たち。
そのうちの一人、リーダー格の男子生徒が、少し気まずそうに口を開いた。
「いや……その、さ」
「?」
「お前のその鳥がさ……ガードが固すぎて、近づけなかったんだよ。急に倒れたから心配になって俺達は駆け付けたんだけどさ」
少し困ったように笑う彼を見て、ラグナはダッシュバーードを振り返る。
そんな相棒は「当然だろ?」と言わんばかりのドヤ顔をしていた。
「グワッパァ!」
誇らしげに鳴くダッシュバーードに呆れつつも、感謝していた。
「なんかごめん……。お前もありがとうな」
ラグナは生徒たちへの謝罪と相棒への感謝を口にし、改めて砦の様子を伺った。
昨夜の喧騒が嘘のように、あたりは静まり返っていた。
だが、その静けさは平穏なものではない。
生徒たちの顔に浮かぶ、明らかな焦燥感がそれを物語っている。
「おはようございます」
砦の入り口へ向かい、警備をしていた騎士学園の生徒たちに挨拶をする。
「あぁ……おはよう……」
「身体の方は大丈夫なのか?」
「うーん……まだ少し怠い感じがあるけど、問題はないかな。それよりもみんな疲れているみたいだけど……何かあった?」
特に、目の前にいる騎士学園の生徒たちの疲労が酷い。
目が充血し、立っているのがやっとという様子だ。
「まぁ……な……」
言いにくそうにしていたが、騎士学園のリーダーがぽつりと答えた。
「教官や学園騎士や冒険者達、それにお前まで倒れてしまったからな。騎士学園の生徒十一人でローテーションを組んで、夜通し警備をしたんだ。……魔物が来ませんようにって、女神さまに祈りながらな」
その言葉に、ラグナはハッとして、すぐに申し訳なさそうに眉を下げた。
「そっか……俺が気を失ってしまったから余計に負担が……」
ラグナは居住まいを正し、彼らに向かって再び深々と頭を下げた。
「手伝えなくて本当にすみませんでした……」
どこまでも礼儀正しいラグナの態度。
それに、張り詰めていた生徒たちの肩の力が、ふっと抜けたようだった。
「い、いや……礼を言われるようなことじゃ……」
「俺たちだって、死にたくなかっただけだしな」
「そうだよ。そもそもお前がゴブリン達を倒してくれたからこそ、俺達は無事だったんだ。これくらいはやらないと、教官たちに怒られちまう」
照れくさそうに視線を逸らす彼らを見て、ラグナは少しだけ安堵した。
「それで……昨日の、怪我をしていた冒険者さん達の様子は?」
「……酷いもんだよ。商業科の連中が、一晩中つきっきりで看病してたんだ」
その言葉に導かれるように、ラグナは広間の奥、重傷者たちが集められている区画へと歩を進めた。
そこは、不思議なほど静まり返っていた。
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