目立つ容姿じゃなきゃ忘れられてしまうほどの影薄い系美少女は残念ながら俺の従妹でした。
修羅場は上市の勝利(物理)でした。
佳奈姐がやって来て制服が乾くまでの着替えを上市に渡しました。
野球のユニフォーム姿の上市が居間に現れました。
「いやー、私エリーちゃんのユニフォーム姿見たことなかったから、一回見たかったんだよね~」
「だからって――」
「いいでしょ~、どうせ制服が乾く間だけなんだし、それにしても似合いすぎてて私は理性を抑えるので精一杯だよ!」
とても理性を押さえているようには見えないぐらい息遣いを荒くした佳奈姐は上市に抱きついている。
「……理性を抑えている人間の行動じゃないですよね?」
「えー、抑えてるよ~、もし抑えてなかったら今頃エリーちゃんを押し倒して、あんなことやこんなことをしているところだよ~」
「は、早く、離れてください!」
この二人の仲がいいような悪いようなやり取りをもう何度見たことか、そう思いながらため息を吐くと「ちょっと宏! なんとかしなさいよ!」上市がそうSOSを出してきたので俺はいつものように暴走中の佳奈姐にデコピンをして機能停止させる。
「ううっ、宏君痛いよ」
「そうだね、佳奈姐はいろんな意味でイタイね」
俺が呆れていると洗濯終了を告げるメロディが居間に流れてくる。どうやら上市が最初に居間へ来る前に制服などを洗濯機に入れていたようだ。
「洗濯してたのか?」
「シャワーを浴びたあとにねっ、じゃあ、あたし制服を乾燥機に入れてくるから――」
「あっ、エリーちゃん。自分で言っておいてなんだけど、制服って洗ったり乾燥機にかけたりしてよかったっけ?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと気をつければね。宏乾燥終わったらアイロン借りるわ」
俺の返事も聞かないまま上市は佳奈姐の相手をして若干疲れたような様子のまま居間を出て脱衣所に向かった。
「あ~行っちゃった。今時の制服は凄いね。家で洗えて乾燥出来るなんて」
「普通はしないと思うけどな。上市が変わっているって言うか、家事とかそっち方面のスキル意外と高いんだよ」
「まぁ、私もそれとなくは知ってたけど、ふ~ん、あのエリーちゃんがねぇ」
「その意味深な表情は何なんだよ?」
「別にぃ、苦手なことでも努力次第でなんとかなるもんだなぁと改めて感じてるだけ、そんなに家事スキルが高いと将来の旦那さんはさぞ嬉しいだろうね?」
「え? ……まぁ、そうかもな」
上市が結婚か……。全然想像もつかないな。
「相変わらずつまんない反応だね~。あっ、それよりもさぁ、エリーちゃんのユニフォーム姿ずっと見てたかったのにぃ、残念だったね~?」
「俺に同意を求めるな」
「でも似合ってたよね~」
「……まぁ、な」
「可愛かったよね~?」
「……」
正直見慣れていたとは言え、もちろん似合っているし可愛いと思っていた。もともと美少女なんだから当然といえば当然なんだが、俺と上市の関係はもはや互いにかっこいいだの可愛いだのと言い合うような関係ではない、なにが言いたいかといえば照れくさい。
「あれ~、可愛くなかった? おかしいな? そんなはずは……、あっ、そっか、なるほどねぇ、私もそれは少し残念かなと思っていたけど私てきにはありだからな~」
「えっ、なんのこと?」
「あれでしょ、エリーちゃんの貧乳属性が気に入らなかったんでしょ? 宏君も人畜無害そうに見えても男の子だもんねぇ、わかる、わかるよその気持ち、私も一応気を使って少しでもボディラインが出るようにあれでもかなりタイトなサイズを選んだつもりだったんだけど、私の予想を上回る小ささだったね、あれはえ――」
「誰もそんなこと――」
俺が佳奈姐の勝手な推側に対して慌てていると、廊下からさっきまでの軽快な足音とは違い一歩一歩重く大きな足音が居間に近づいてくる。
「ひ~ろ~!」
まさに鬼の形相とでも言うのだろうか、目はつりあがり顔を真っ赤にして幻覚で角が見えるほど俺を睨みながら上市が居間に入ってきた。
「エリーちゃんに宏君の本音が聞こえていたみたいだね~、早く謝ったほうが宏君の為だと思うけど?」
「本音って! あれは佳奈姐が――」
俺の主張を聞いてヘイトが佳奈姐に向いたようで上市は睨む先を変える。
「だ、だめだよ~、人のせいにしちゃ~、宏君が「あれじゃあ、髪を短くしたら普通に男子の野球部員だな」って言っていたんだよ~」
さすがの佳奈姐も自らの身の危険を感じたのか、完全な虚言を……、いや、少しは思ったかもしれないけど決して口には出していないことをさも言ったように上市に吹き込みやがって、そのせいで上市がまたこっちを見るじゃないか。
「ち、違う! 待て! 上市落ち着け!」
俺はそう宥めたが上市の怒りは収まらずに一歩一歩距離を詰めてくる。その様子を見て佳奈姐はもう自分が被害に遭わないと確信したのかこの状況を楽しみ始める。
「エリーちゃん、いい物があるよ、きんぞくばっと~」
いつものように某猫型ロボット(今度は二代目)の真似を器用にしながら、金属バットをどこからともなく取り出す。
「そんなもん、さっきまで持ってなかっただろ! どこから出したんだよ!?」
「それは乙女の、ひ・み・つ」
そのウインクは『一番ムカつくウインクをした人が優勝』世界選手権があったとすれば間違いなく優勝できるだろう、そんなウインクにイラついている内に上市が佳奈姐から金属バットを受け取り再び距離を詰めてくる。
「(くそっ、余計なことを)」
鬼に金棒とはよく言ったものだと思いながらも迫りくる死に抵抗するため上市の説得を続けた。
「落ち着け上市、さすがに元野球部のお前にそれで殴られたら俺は――」
窮地に陥っていた俺は自分の言葉で上市を説得する名言を閃く。
「あ、あたしだって胸のことは気にしてるのに~、宏の馬鹿ぁぁぁぁ」
上市は顔を赤くしながらフルスイングまで三秒前といった様子でバットを構える。
「上市! 『バットは人を殴るものじゃないぞ!』」
どこかの野球漫画で見たような台詞だが、元野球部の上市にはこの台詞は効果があったようだった。
「っく、……そうね、その通りね」
顔を赤くしていた上市に俺の名言が届いたのか構えていたバットを下ろす。
元野球部の上市ならこの言葉を聞けば止まるだろうと、さっき閃いてなければどうなっていたことか、人は追い込まれると普段以上の力が出ると言うが起死回生の一手を思いついた俺を俺は褒めてやりたい、そう思いながら「助かった~」とつい心の声が漏れる。
「でもっ、あたしのことを……ひっ、貧乳とか言ったのは許さないから!」
「(そこまでは言ってないし、そもそも俺が言ったわけじゃないんだけどな)」
「エリーちゃん、いい解決策を思いついたんだけど?」
「なんですか?」
また余計なこと言いだすんじゃないかと思い俺はジト目で佳奈姐を警戒する。
「エリーちゃん、――問題です。バットは何をするための道具でしょうか?」
「そんなのボールを打つために決まっているじゃない」
「正解! バットはボールを打つもの、つまりボールを打てばいいんだよ、幸いなことに宏君の体にも二つの――」
「言わせねえよ!!」
とんでもねえ悪魔の提案だよ!!
上市の答えを聞きニヤッと笑った佳奈姐はそんなふざけたことを言おうとしたので俺は佳奈姐の口を手で塞ぐ、これ以上喋らせればかなり危険なことになるのは明白だろう。
「なに余計なこと言おうとしてんの!? 佳奈姐の提案がもし可決されたら俺死んじゃうだろ!?」
正気じゃない提案をしてくる佳奈姐に耳元でささやくと佳奈姐も「死ぬなんて大げさだよ」と半笑いで返してくる。
「いや、死ぬって、男として死ぬよ!」
涙目になっているんじゃないかってぐらい追い詰められている俺を見て佳奈姐はクスクスと笑いながら「ごめん、ごめん、つい楽しくなっちゃって」と小さく謝ってくる。
「ちょっと、二人で何こそこそ話してるのよ!?」
「なんでもないって、そうだ今度、上市の好きな41(フォーティワン)のアイスでも奢るから今回のことは許してくれないか?」
「アイス!? 本当!?」
「あ、あぁ、本当だ、なんならアイスケーキでもいいぞ」
「アイスケーキ!? し、仕方ないわね、今回だけは許してあげても――」
大好物のアイスの話をしたからか、上市のお腹からぐぅ~と空腹を知らせる虫が鳴く。
「ち、違うわよ、今のはその、あたしじゃないから、本当だから!」
「わかったよ、とりあえず飯でも食べていくか?」
「……うん」
顔を赤くし焦った様子で恥ずかしそうに俯きながらも上市は頷いたので俺はテーブルに並べてある料理をレンジで温め直し、俺と上市と佳奈姐の三人で昼食を食べた。
食べ終わってしばらくすると服が乾いたようで乾燥機からメロディが流れてくる。上市は整えた制服に着替えるとユニフォームを佳奈姐に返し『じゃあ、あたしは帰るから、今日は色々……ありがと』そう言って自分の家へと帰っていった。
俺が居間に戻ると佳奈姐がいつものようにスイットをゴロゴロ転がりながらやり始めていたが、俺の耳に聞こえてきたのはゲームの音だけではなくて、なにやらすすり泣くような声が聞こえてきた。その声の主は部屋の隅で横になっていたラファだった。
「あっ……、ラファ起きたのか?」
「今、『あっ』と言ったな! やはり、わちのことを忘れておったんじゃな!?」
「そんなこと……ないよ」
「なんじゃ、その間は!」
「そ、そうだよ、可愛い、可愛い弟子であるラファちゃんのことをこの私が忘れるなんて……ないよ」
「じゃあ、なぜ二人ともわちから目をそらすのじゃ!」
うぅ~と小型犬が怒っているような唸り声をあげるラファに対して俺と佳奈姐はラファに聞こえないように小声で作戦会議を始める。
「存在を忘れられたのを相当怒っているみたいだな」
「いや~、全然気がつかなかったよ~ステルススキルでも使っているんじゃないかって疑うほどに壁と同化してたから」
「俺もすっかり忘れてた」
「気づいたんだけどラファちゃんって、あの目立つ容姿がなかったらかなり陰の薄い子なんだね~」
「まぁ、今でこそ俺らの前ではあんな感じだが、元々は内気でおとなしくて性格的には目立たなかったからな、その影響もあるんじゃないのか?」
「……おぬしら、言いたいことを言いよってぇ」
俺たちが振り向くとこっそり近づいて来ていたラファが怒りに震えていた。聞こえないように小声で話していたつもりだがどうやら聞かれてしまったらしい。
「ラファ?」
「おぬしら二人は――うぅ~、馬鹿者じゃぁぁぁ」
そう言い残し足早に自分の部屋へと駆け上がっていくラファの背中を見送る俺はまた面倒なことになったと言わんばかりにため息を吐くのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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モチベーション高く書かせて貰っているのでより良くより早く投稿できるように頑張ります。
まずは手始めに今週は3話投稿……できたらやります(出来なかったらすみません)
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