腐れ縁じゃなきゃ通報してしまうほどの犯行現場で座っていたのは残念ながら俺の腐れ縁でした。
簡単日記
上市にシャワーを浴びせました。
着替えとして置いたはずのジャージの下を忘れていました。
居間でラファと鉢合わせ何故か修羅場っぽくなってしまいました。
俺はラファの言葉にドキッとした。たしかに置いてきたのはジャージだけで下着は置いていない、あの時の川への落ち方は確実に下着も濡れていただろう、だとするとシャワーを浴びた後に濡れている下着をもう一度履くことは……。
だ、ダメだ。考えないようにしよう。これ以上考えてはいけないと思い邪念を振り払らう。
「はっ、履いているに決まっているでしょ!」
上市は焦っているような口調で顔を赤くしながらそう言ったので俺は察してしまうと同時にまずいと思った。ラファもなんとなく怪しいと思った様子で。
「宏直よ、少しの間、廊下に出ているのじゃ」
こんなことになったのも俺がズボンを置き忘れたのがそもそもの原因なのだからなんとか上市を助けたいと思ったがここで変に上市を庇うとよりラファに怪しまれると思い、俺は僅かな可能性に賭けて廊下に出た。
「さぁ、宏直もいなくなったのじゃから、パンツを見せてみよ」
廊下に出ていているとはいえ襖一枚挟んでいるだけなのでラファの声がはっきりと聞こえてくる。
「な、なんで、そんなことしないといけないのよ!」
「履いておるなら見せられるじゃろ? わちらは女同士なのじゃから」
「い、嫌よ!」
「むぅ~、いいから見せるのじゃ!」
「やっ、やめなさいよ!」
俺には中の様子がわからないがラファたちの会話と音を頼りに今の状況を推測するとラファは上市を問い詰めていたが一向に進展しないので力ずくで真偽を確かめようとしている。といったところだろうが――。
「くぅ~、なんという馬鹿力なのじゃ」
ラファは痛みを堪えているような声が聞こえてくる。おそらくゲンコツでも食らったのだろう。
「馬鹿力って、あんたが非力なだけでしょ!」
いや、実際上市は並みの女子よりは力があるほうだろう、並みの女子では今朝の豪快なフルスイングはありえない。
まぁ、上市の言うとおりラファが非力過ぎるのもあるが、そもそもラファの身体能力で強攻策に出たこと事態間違いなのだ。
そもそもあの二人初対面なのになんであんなに仲悪いんだ? それにラファの奴が初対面の奴にここまで攻撃的なのは俺が知っている中で始めてだぞ。
「そうじゃ!」
俺が不思議に思っているとラファが何か閃いたような声を上げる。
「……スマホなんか取り出してなにする気よ?」
「ふんっ、なぁに、ちょっと知恵を借りようと思ってのぉ……、おおぉ、こんなに早く返事をくれるとは、なになに……なるほど! さすがは師匠じゃ」
どうやらラファは自分の力ではどうにもならないと踏んで佳奈姐にラインをして知恵を借りたってところか、さて、どんな悪知恵をラファに吹き込んだのやら。
「ひっ、宏直よ、なにを覗いておるのじゃ!」
「(冤罪だぁ!)」
俺は心臓が飛び出るかのように驚いてしまう。いや、絶対にバレないと思っていたからとかそう言うわけじゃなく、そもそも俺は居間と廊下を遮っている襖を背にしていたのだから完全な濡れ衣だ。
「なっ、見たの!? あたしのを後ろから覘いて見たの!? 宏の変態! バカ! 最低!」
「見てないって! ちゃんと襖に背を預けてるんだから見えるはずないだろ!」
怒っているような、焦っているような、恥ずかしがっているような上市に対して俺が慌てて釈明すると居間からは「ひっ」とラファの悲鳴のようなものが聞こえた。
「おぬし、まさか本当に履いて――」
「いゃぁぁぁぁ」
「うぐっ」
ラファの声が聞こえたと思ったら今度は上市の悲鳴が聞こえ、もう一度ラファの声がしたと思ったら人が倒れるような音がしたので俺は慌てて居間に入った。
「どうした!?」
俺の目に飛び込んできたのは顔を真っ赤にして、荒い息づかいでペタンと女の子座りをしている上市と前のめりに倒れているラファだった。
状況だけ見れば修羅場の末乱心した上市がラファを手に掛けたと見られても仕方がない状況だろう。俺も上市が乱心してラファをやったのかと思い、焦ってラファに近寄り息を確認するとただ気絶しているだけだとわかり少しホッとして、とりあえずラファを部屋の隅で横に寝させながらもこのあとどうしようかと考えていた。
ちなみにこれは後でラファに聞いた話だが、どうやって上市のを確認したかと言うと前屈みでジャージを下へ引っ張り見えないようにしていたので後ろを振り向かせれば簡単に確認できたらしい。
さて話を戻して、とりあえず上市に謝らなければいけないことが色々あったが、いかにも『あたしに話しかけないで』と言うような雰囲気を上市は放っていたので俺はどうするべきか考えてみるが正直どうすればいいかわからない、そんな時頃合いを見計らったかのように玄関の戸が開く音がした。
「宏君、ただいま~」
紙袋を片手に持ち、ニコニコと笑顔でスキップながら佳奈姐が居間に入ってくる。
「ただいまって、ここは佳奈姐の家じゃないんだけど」
「ふ~ん、いいのかな、そんなこと言って、私がせっかくこの状況を助けてあげようと思ってやってきたのに、――はい、これ、エリーちゃんにおみあげだよ~」
「えっ、あたしに?」
「中身は着替えだよ~、宏君はこういうとこに気が利かないから、きっとこうなると思って来たんだよ~、さぁ、エリーちゃん脱衣所にGO!」
上市は紙袋を受け取るとコクッと頷き俺を睨む。それがどういう意味なのか理解し上市に背を向けるとすぐにタッタッタッと上市と思われる足音が遠のいていった。
「もう振り向いても大丈夫だよ~、宏君」
その声を聞いて振り向くと佳奈姐がご機嫌そうにニコニコしながら俺を見ていた。
「まさかとは思うけど、見てた?」
「見てたよ~、宏君がギャルゲーの主人公みたいになっているあたりからず~と、その窓からこっそり見てた」
佳奈姐は上機嫌のまま部屋の窓を指差したのでやっぱりなと思う。
「けど、よくわかったね~」
「佳奈姐が家に入ってきたタイミングが偶然とは思えないほど良かったし、なによりもその満足そうな顔を見て、もしかしてと思っただけだよ」
「さすが体は大人、頭脳は子供の名探偵といったところかしら」
「いや、それ逆にしないとただの悪口だからな」
「……」
「なぜ言い直さない……、まさか! パロディと見せかけて、ただの悪口を言いたかっただけか!」
「そそそ、そんなわけないよ~」
わざとらしく動揺して見せる姿を見てイラッとしながらも、いつものことだと思い心を静める。
「それにしてもあの美少女二人の言い合いは私の予想以上だったよ~、へへっ、思い出すだけでニヤけちゃうよ~」
「予想以上? それじゃあ、こうなることが分かっていたように聞こえるんだけど?」
「そうだよ、ここで起こったことの大半は私の予想どおりだったよ~」
「……だから、あんなに家でシャワーを浴びるよう上市に薦めたのか?」
「そうだよ、まぁ、単純にエリーちゃんが寒そうだった、ってのもあるけどメインはきっとあの二人が顔を合わせればケンカするって思ったからね~」
つまり佳奈姐がゲーセンに行くのをキャンセルしたり、俺たちの代わりにゴミを持って行ったりしてくれたのは二人の美少女がケンカを始めてそれに巻き込まれる俺が見たかったからか、そう考えると大体の辻褄が合う。
「なんで不満そうな顔してるの? むしろ感謝してほしいぐらいなのに~」
「しないよ、つーか、よくあの二人がケンカするって思ったな、二人とも初対面だぞ? 上市はあんな性格だから可能性はあるけどラファは人見知りだし俺の知る限り初対面の相手にあんな噛みついてるとこ見たことないぞ」
「そりゃあねえ、どんな大人しい子だって勝ち気な子だって自分のテリトリーを犯そうとする奴は敵なわけ、敵には攻撃的になるのは当然だよ、人見知りのラファちゃんだって例外なくね」
「テリトリーって、また訳のわからん例えを――」
「その様子だとやっぱり宏君にはわからないんでしょ~?」
「その何でも知ってるお姉さんみたいな喋りは何とかならないのか?」
「ふふん、ならないね。なぜなら私は何でも知っているからね」
佳奈姐のしたり顔をなんとか変えたくて俺はなんとか答えようと頭を悩ませるが結局答えがわからず黙ってしまう。
「知りたい?」
「あ、あぁ(なんだ、教えてくれるのか珍しく素直だな)」
「それはね~、ヒ・ミ・ツ」
「(……もうこれ、怒りを通り越して殺意が沸いてきたな)」
もし今、撃っても罪にならない銃弾が込められた拳銃を神様に与えられていたら躊躇なく全弾撃ち込んでいたんじゃないかって思えてしまう程イラッとしてしまい、改めて俺は手元に拳銃が無くてよかったと思っていると廊下をドタドタと走る音が聞こえてくる。
「なんで、着替えがユニフォームなんですか!?」
さっきと同じように勢いよく居間の戸を開けて開口一番抗議したのは野球のユニフォーム姿の上市だった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
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正直今週は二本厳しいかと思っていましたがおかげさまでやる気も上がり何とかなりました。
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