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第六百二十七話 決着

 わたしは、黄色い光を追っている。


 闇の中を、ピップ虫の飛ぶ方へ、必死で泳いでいく。


 ぜったいに、あれを見失っちゃだめだ。

 もがいてもがいて、なんとかついて行く。


 ピップ虫は、あっちへちらちら、こっちへちらちら、気ままに飛び続ける。


 ――と、今まで飛び回っていたピップ虫の動きが、止まる。

 闇の中、一か所で、ホバリングをしている。


「動かないでよ……」


 わたしは泳いでいく。


 そして手を伸ばす。


 わたしはピップ虫を捕まえかける。

 しかし、虫はするり、とその手の間を抜けてしまう。


 その瞬間、何かが心に起こる。

 ――重要なことがある。忘れちゃいけないことだ。


「わたたっ」


 わたしはピップ虫を逃して、先へ行きすぎてしまう。


 一瞬、また、ぼんやりと景色が見えかける。

 それは高速で流れていく。


 あまりの速さに、意識がとびかける。


 赤色。はじめは血の赤かと思う。

 けれどちがう。それは信じられないほどきれいな赤。

 今までこんな赤、見たことがない。

 心にじんとくる赤だった。


 それから、おそろしいほどの解放感。

 何か聞こえる……。その声は、わたしに「まて」と言う。

 敵に追われているのか? いや、ちがう。それは、とても温かな声。


 また意識がとびそうになる。


 気づくと、白い何かが見える。

 あれは……人? ううん、……石像?

 ――白い石像。

 ただの彫像と思いきや、違う。その奥に隠された、危険な刃。

 ひみつの切り札。


 そして……

 ……驚愕。


 一度しか使えない、その戦法。

 避けるのでも、弾くのでもなく、わざと傷を受け、そのまま相手を殺す。


 肉を切らせて骨を断つ。

 わたしは、ここが重要だ、ここが肝心だ、と思う。

 忘れちゃいけない。



 広げられた手、それから声がきこえる――



「……してみせよう」



 景色が見える。

 誰かの後頭部。


 獣耳の生えたその誰かは、戸惑って、頭が真っ白になっている。

 あれは……わたし?


 声がきこえる。


「……簡単に言うと、あれは、外宇宙の一部をここへ持ってくる魔法なのだよ」

 

 前方で話し続けているのは、神。


「いや、ここから持っていく、と言った方が正しいか」


 わたしは思う。

 ――戻って来た!


「空間に開いたゲートからね。何もかも持ち去られる。水も、火も、岩も、空気でさえも。逃れるすべはない」


 神は講義を続けている。

 そうだ……たしかこの後……


「それでは、ちょっと実演してみせよう」


 神がそう言うと、両手を広げる。


「何故だ! どうして私たちを狙う!?」


 リーゼロッテが叫ぶ。


「言っただろう。私は曲がりなりにもこの世界の神じゃ。直接手を下すわけにはいかんのだ」

「く……!」


 リーゼロッテが、魔法を放った。


 にゃあ介の声が聞こえる。


(ミオン、走れ)


「神に手を上げるなど、畏れ多きことと――」


 わたしは走り始めている。

 忘れちゃいけない、一度しか使えない戦法のこと、それにひみつの切り札のこと……そう心に言い聞かせながら。


「その魔法を唱えさせちゃダメ!」




   ◆




 ほんの一瞬の差。

 詠唱を終える前に、わたしは神を斬った。



 おどろくほどすんなりと、神は左腕を差し出し、わたしに斬らせた。

 普通なら、唖然として動けなくなるところだ。


 そのまま神は、右手をわたしに向ける。


「あまいな」


 ――ここが重要だ。ここが肝心だ。


 一瞬の躊躇もしない。

 わたしは、返す刀で、神の胸へルミナス・ブレードを突き立てる。


 神の驚愕の表情。


「なに……!?」


「忘れちゃいけないこと。一度しか使えないその戦法。……必殺のカウンターアタック――だけど」


 わたしは言う。


「ちょっと運が悪かったね」


 神はよろけながら後じさりする。


 神の胸から鮮血が噴き出す。




   ◆




 神が倒れている。


「……天晴れだ、胡桃沢美音」


 神はかすれ声で言う。


「ぐっ」


 起き上がろうともがく神。


「私はもうだめだ」


 神はうめく。


「最後に、下界を見たい。すまんが手を貸してくれんか」


 そのとき、時のはざまで見た石像のイメージが浮かぶ。白い石像……ひみつの切り札。


「――ダークフレイム!」


 わたしは振り向きざまに魔法を放つ。


 神が手を上げようとした方向――神殿の入り口めがけて炎弾が飛ぶ。

 炎弾はそこにあった石像に直撃し、がらがらと音を立てて崩れ落ちる。


「ブラストスピリット――でしょう?」


 神の動きが止まる。


「あの彫像に乗り移ろうとしても、だめ」


 神の上げかけた手が、力なく床に落ちる。


「なぜわかった?」


 神の声がうつろに響く。


「なぜそんなことまで……」


 神の焦点の定まらない瞳に、黄色い光がちらつく。


「ルシオ・アルデミラ……」


 神が全てを理解したのかどうかは分からない。

 だが、そんなことはもうどうでもよかった。


 わたしは後ろを振り返る。


「セレーナ!」


 セレーナの元へと駆け寄る。


「セレーナ、セレーナ!」


 抱き着いて泣きじゃくるわたしを、セレーナは困ったような顔で見守る。


「セレーナ、よかった……うう」


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