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俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました  作者: 白河リオン
第十三章 「アイランドリバーサル」

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第135話 「内通者」

~憲章暦997年8月16日(風の日)~


 アルセディア商会の応接室。机いっぱいに地図と書類が広げられ、完全に作戦本部になっている。


「まず、王宮の構造から整理します」


 そう言って口を開いたのはカイルだった。


 机の中央に置かれたのは、王宮周辺の見取り図と、ミラが拾ってきた内部情報を重ねて作った簡易図だ。正式な図面じゃない。だが、ここまで揃えば十分使える。


「王宮は表の居住区、政務区、儀礼区画のほかに、地下に古い祭祀区画を抱えています」


 カイルの指が、地図の中央をなぞる。


「問題はここです。地下へ降りる経路はいくつかある。ただし、奥――大規模な空間へ繋がる道は、おそらく一つしかない」


「ミラの話と一致するわけだね」


 クロエが淡々と言う。


「ええ。表向きの階段や管理用通路は複数あります。ですが、大型の物資を継続して運び込める導線は限られる。儀式場があるなら、そこが本命です」


 カイルの説明は無駄がなかった。王宮の外周、見張り塔、夜間の巡回、警備兵の交代時刻。必要な情報だけが、順番に積み上がっていく。


「問題は、その本命にどう辿り着くかだ」


 俺が言うと、カイルは頷いた。


「正面からは厳しいでしょう。警備は明日さらに強まるはずです」


「でしょうね」


 ティタニアが足を組んだまま肩をすくめる。


「大きい魔力結晶なんて物を運び込むなら、向こうも神経質になるに決まってる」


 部屋の空気が少しだけ重くなる。


 その沈黙を破ったのはミラだった。


「だから、その前に一人、会わせたい相手がいる」


 赤い目が細くなる。


「王宮内の協力者だ」


 その一言で、室内の視線が一斉にミラへ集まった。


「……そんな切り札、今まで黙ってたのかよ」


「裏を取るまでは言えないさ。こういう話は、確実じゃないと毒になる」


 ミラは壁から背を離した。


「今は確実だ。連れてきてある」


 そう言って、ミラは隣室へ繋がる扉を開いた。


 入ってきたのは、深い色の外套を羽織った女だった。顔は薄布で隠れている。


 フィリアがわずかに目を細める。


「高位女官、ですの?」


 女は否定も肯定もしなかった。


「時間がありません。要点だけお伝えします」


 声音は静かで、よく通る。


「王女殿下は、地下の区画におります」


 ニナが息を呑む。


 ヒカリも、ぎゅっと指を握った。


「奴隷たちも同じです。すでに何人かは下へ運ばれました」


「地下への正式な入口は?」


 クロエがすぐに問う。


「ここです。ただ、その日は封鎖されるでしょう」


 女は、王宮内の地図を指しながら即答した。


「王宮内の通常動線からは特別な人間しか入れません」


「じゃあ、詰みじゃないか」


 レイラが低く言う。


「いいえ」


 女は、そこで初めて少しだけ声を強くした。


「明日、超大型魔力結晶が運び込まれます」


 部屋が静まる。


「搬入には、古い王族用避難路が使われます。表の記録には残らない導線です。今も存在を知る者は限られています。恐らく奴隷たちもこの近くで待機させられているはずです」


「……それを使えば、地下へ近づける」


 俺が言うと、女は静かに頷いた。


「そうです。ただし、使えるのは搬入の時だけです。そして、搬入に紛れ込めるのは数人でしょう」


 つまり、使えるのは一瞬。しかも、少人数だけ。


「で、どうする?」


 レイラが腕を組んだまま聞く。


「せっかく正式な入口が分かったんだ。これを使わない手はない」


「どういうことだ?」


 俺の言葉にレイラが身を乗り出す。


「まず、王宮突入組は、事前に協力者の手引きで先に王宮内へ潜り込む」


 俺は視線を上げ、フードの女性を見る。


「そして、奴隷救出組は、魔力結晶の搬入に紛れて侵入。奴隷を見つけ次第、救出。そして、退路を確保した後に騒ぎを起こす。これは、警備の目をそっちへ向ける陽動だ」


「それで?」


 ミラが続きを促す。


「奴隷救出組が騒ぎを起こして警備を引きつける。その隙に、潜んでいる王宮突入組が正規ルートで儀式場へ踏み込んで王女を救出する。そこから先は正直、出たとこ勝負だな」


 数秒、誰も口を開かなかった。


 だが最初に頷いたのはクロエだった。


「悪くない。むしろ、それしかないね」


「あたしらが先に騒ぎを起こして、警備を引っ張るわけだね」


 レイラが口元を歪める。


「だったら、あたしとカイル、ヒカリが搬入路から突っ込む。奴隷たちを逃がしつつ、派手にやる」


 ヒカリは少し緊張した顔のまま、それでもしっかり頷いた。


「やります」


「王宮側は、私とミラ、ティタニア、ニナちゃんで先行潜入だね」


 クロエが淡々と言う。


「協力者に中まで案内してもらって、儀式場へ向かう。騒ぎが起きた瞬間が勝負だ」


 ニナが小さく息を吸う。


「……はい」


 その声は、前よりずっと強かった。


「中の案内は私が受け持つ」


 ミラが言い、ティタニアも笑う。


「こっちはこっちで片をつけるわ」


 残るのは、俺たちだ。


 全員の顔を順に見る。


「王宮突入と同時に、こっちは市場で総仕上げと行こう」


「ええ」


 フィリアが頷く。


「市場のほうは任せてくださいまし」


「わたしもやります」


 アイラの声は真剣だった。


「アルさんの横で、ちゃんと支えます」


「僕もいるよ」


 イオナが軽く手を上げる。


「……こちらも働きましょう」


 エルヴィナは一歩前へ出た。


「商会側の連絡線と万が一の退路の確保は私が請け負います」


「よし」


 そこまで言って、俺は協力者の女へ向き直る。


 女は少しだけ目を伏せた。


「助けられるべき方が、まだ地下におります」


 短い言葉だった。


 だが、その声音には切実さがあった。


 だからそれ以上、素性を問う気にはならなかった。


 会議が終わると、みんな一斉に動き出した。武器の確認、経路の再整理、潜入用の服、連絡手順の確認。明日に向けて、全員がそれぞれの仕事へ散っていく。


 単なる旅行のはずだったのに、気がつけば王宮突入と奴隷救出、それに市場への仕掛けまで同時にやる話になっている。


 我ながら、どうしてこうなったと言いたくなる。


 そんなことを考えながら椅子にもたれた、その時だった。


――ずん。


 低い音が、床の下から突き上げてきた。


 机の上のインク瓶が跳ねる。窓ガラスがびり、と震えた。


「地震……?」


 リーリアが目を見開く。


 次の瞬間、島全体を揺らすような震動がもう一度走った。


 揺れは長くは続かない。だが、止んだ後の静けさが、かえって不気味だった。


「……今の、何だい」


 レイラが低く呟く。


 ミラがすぐに窓辺へ走り、クロエも顔を上げる。


 俺は嫌な汗を感じていた。


 予定より早い。


 何かが、すでに動き始めている。そんな予感だけが、妙に鮮明だった。

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