5-12 夜の復帰
「だったら、彼女を逮捕してください。」
桜内はあまりの驚きで、綿の言葉を受け取り切れなかった。
「笛木さんを?どうしてですか?」
「彼女が六件目、いや、美家さんを除いて、ほとんどの事件の犯人だからだ。」
「それはどういうことですか?」
「まずは安中真悠璃、ポリーの事件だ。
「真犯人はポリーを教会まで呼び出して、彼女を殺害した。ポリーの信頼を得ている人ということは、恐らく女性で、そして殴打にその傷痕、多分感情的な人物であってるんだろう。
「なのに、ポリーの腸は綺麗に拭かれた形跡があった。指紋を残さないよう、かなり丁寧で冷静なやり方だ。」
「次は中馬明奈、黒メイナの事件。
「傷痕から見ればわかるぐらいの優秀な解剖技術。にも関わらず、四時頃に殺人、四時半に龍崎洵太に見つかれた。三十分は長すぎる。
「可能性としては、殺人時刻と死体処理時刻は一致していない、ということだ。
「例えば、笛木夫人は四時頃に人を殺し、そして笛木志月は四時十分頃に死体の始末を始めた、とか。」
「続いて、ほぼ同時に起こった二つの事件。先に起こったのは須田繪麗莎、長リージの事件だ。
「朝方零時三十五分に目撃された男性、それは笛木志月であってるんだろう。
「しかし彼は彼女を殺さなかった。殺そうとしなかった。彼女を殺したいのは別の人だった。
「そう、零時五十分に、木寺茉郁さんが去ったのを待って、そして手を出した笛木夫人だ。
「ここは、前の事件と同じ流れになるはずだったが、今回の志月は死体処分のために来たのではなく、死体を見つけたいわゆる目撃者だ。
「彼は笛木夫人のそれ以上の行為を阻止し、彼女を連れて避難させることができた。
「そこで、五件目の被害者である江戸風理。
「志月がいるから、笛木夫人は人を殺すはずがない?そう、その通り。
「でも、殺せずわけにはいかなかったんだ。見られたからな、犯人と共犯者。
「そして、子宮と腎臟が取られただろう?
「それは恐らく、中馬明奈の件で、犯人には器官を集める趣味があるかもしれないという報道があったから、志月はその話を利用したかったからだろう。
「恐らく、志月は整ってから警察に通報したのだろう。」
「そして最後の死者、計良真吏步、キョンの事件。
「桜内も一部参加したから、細かい説明は飛ばすぞ。
「桜内が志月を逮捕したあと、笛木夫人はその話を知らずに、キョンの部屋に入って、彼女を殺そうとした。
「四時のその悲鳴が本当だったら、笛木夫人は恐らく三時半頃に訪れて、四時頃に手を出し、四時三十分に確実にキョンを殺したのだろう。
「しかし、今までは全部志月に任せっきりで、笛木夫人には解剖の専門知識がないから、素人だってことがバレバレだ。」
桜内は慌ててノートを書いたり消したりしていた。
それを見た義孝は、笑ってペン型ボイスレコーダーを渡した。
「速いよね。そのうち慣れるよ。」
「…!黒澤さん、ありがとうございます!朝田さんも!容疑者の二人に改めて確認しておきます。」
「でも朝田、あの三通の手紙と落書き、あとエプロンの話、まったくしなかったじゃん?」
「手紙?ああ、犯人が書いたものじゃないんだ。そしてエプロンは…」
「そのエプロンは、初めて人を殺した笛木志月が慌てて、道端に捨てたものです。」
突然現れた声は、入り口に立っている女性からの声だった。
義孝と綿も驚いたが、一番驚いたのは彼だった。
「そんなに…綺麗な瞳でしたか…」
「大袈裟ですよ、桜内さん。」
彼女は微笑んで、綿と義孝のほうを見る。
「ただいま、綿、義孝。」
「話を戻すと、その手紙たちについて、一つ目も二つ目も私が書いたものです。」
「え…!?や、やなさんが!」
「はい。見えるようになったあと、こちらからも調べてみました。ところが、そのような解剖技術と経験を持っている人物の中には、怪しい人は見つかりませんでした。
「となると、警察側に犯人がいる可能性が高くなりました。それで手紙を書き、犯人を怒らせたかったのです。」
「そうなんですね。」
「しかし、その後の調査によって、私はもう一人の女性の参与に気付きました。君たちにさりげなく伝えたかったので、あの落書きを残したのです。」
「やなさんの言う通りのでしたら、三通目の手紙を書いたのは一体…?」
「三通目の手紙を書いた人については、私より、桜内さんのほうが一番詳しいんだと思いますよ。まぁ、彼女も一緒に来たので、説明してもらいましょう。」
やなの目線を追って、三人はもう一人の少女に気付いた。
「…赤蝶!?」「皇さん!」「赤蝶さん!?」
「私が三通目の手紙を書いた本人であり、やな姉さんを治した人だよ。」
皇家の当主である皇赤蝶は単刀直入に言った。
「あの腎臟は、朝田綿の言った通り、笛木志月が犯行を隠蔽するために切り落としたもので、使えないのでそのあとゴミ箱に捨てられた。
「私の部下はその行動を見かけたので、死者の腎臓を回収してくれた。私はそれを留守さんに送ったのは、君たちに調べてもらうために、また、犯人を刺激したかったから、かな。」
赤蝶はニコッと笑い、桜内のほうを見る。
「お疲れさま、桜内。」




