5-11 謎の人物
六月九日、朝方。
笛木志月を逮捕した桜内は、現実を信じきれず、事務室に引っ込むこととした。
ところが、十一時に、さらにあり得ない報告が来てしまった。
六件目。
というわけで、当日の午後、綿と義孝は桜内の事務室に集まった。
「桜内、倒れてはいけないぞ。せめて、今日中に起こったことをすべて説明してくれないと。」
「…わかっています、朝田さん。順番通り説明します。」
何度も深呼吸してから、桜内は語り始めた。
「まずは六月八日の夜、枝川末利は笛木志月とある女性を尾行していました。二人は十一時四十五分に、その女性が住んでいたアパートに入り、女性は歌いし始めました。
「そして、六月九日の朝方一時頃、女性は歌うことを止め、その後一時二十分、笛木志月だけがアパートから出て、僕たちに逮捕されました。
「その後、朝方四時半、推定死亡時刻です。死者はその女性、同じく娼婦のキョン。
「死体が見つかれたのは、十時四十五分のことです。見つけたのは、家賃をもらうに訪れた大家の部下の方です。」
「死体は全身裸で、ベッドの真ん中に横になっていた。胸元、顔、腕、首には切り傷あります。
「子宮、腎臟、そして片方の乳房は切り落とされ、頭の下に置いてありました。もう片方の乳房は右足にありました。それから、肝臓は両足の間、腸は体の右側、脾臓は体の左側に置いてあります。
「心臓は見当たりませんでした。腹や太ももから切り落とされた肉片らしきものはテーブルから見つけました。」
桜内は写真を示しながら説明した。
「そして、今回の傷痕は以前と違って、解剖に慣れていない感じでした。」
「…まぁ、君たちは事件前にすでに笛木志月を逮捕したし。」
「その通りです。」
「目撃情報は?」
「ありませんでした。ただ、四時頃に女性の叫び声を聞こえたという証言がありました。」
「死者の身分については?」
「大家さんからもらいました。キョンさんの本名は計良真吏步です。計良という名字は、元夫の計良出人からのものですが、計良出人さんはすでになくなられました。」
「枝川末利に聞いてみた?」
「はい。朝田さんの予想通り、枝川さんは明奈さんの恋人について調べて、それで笛木志月の存在を突き止めたのです。」
「笛木志月のほうは?」
「一件目の田淵美家以外の事件、ポリーさん、黒メイナさん、長リージさんに風理さん、すべて自分が犯した事件だと認めました。」
「あっさりと?」
「はい。巡回のついでに殺したと。」
「例のアルタイルさんも…?」
「笛木志月です。」
「龍崎洵太が見たという男性も?」
「彼です。」
「となると、最後の事件、模倣犯かな?」
「朝田、前に言ったよね。視野を狭くするわけにはいかないと。」
「言ったが…?」
「六件目の犯人、模倣犯だけではなく、共犯者という可能性もあると思う。」
「そうだな…」
「それに、ポリーさんの件もあるし、女性の共犯者がいるほうが説明がつくのでは?」
「女性だったら…」
朝田はうつむき、ROSIの落書きを思い出す。
「…!わかった!」
「朝田さん?」
「桜内、笛木志月は既婚者だよな?」
「…はい。妻は笛木奈利莎という方です。」
「だったら…」
一方、朝田綿の事務室。
鍵をかけたはずのドアは簡単に開かれ、一人の女性と一人の少年は事務室に入った。
「ありがとう、糸草。」
「いいえ。」
「あら…?」
女性はテーブルにあるノートを手にとって、ペラペラとページをめぐる。
その中には、田淵美家の事件から、綿が出かけるまで、綿が把握しているすべての情報が入ってる。
「そこまで把握されているとは、桜内さん頑張りましたね。」
「どうします?」
「…あの人なら、おそらく真相に気付いたのでしょう。だとすると、今の私たちにできることはたった一つ。」
「それは?」
「糸草、君の正体だよ。彼に見つからない限り、私たちは負けない。君が私たちのエースだ。」
笛木家。
奈利莎は慌てて歩き回っていた。
自分の夫、警察の夫が捕まれた。これからどうすればいいのかがわからなくなった。
その時、チャイムが鳴った。
「志月さんの先輩の方…?」
「はい、はじめまして、笛木さん。桜内と申します。」
「桜内さん、どんなご用件で?志月さんなら…」
「はい、知っています。この度訪れたのは、あなたに用があるからです。」
「私…に?」
「一緒に来ていただけませんか?」
桜内は微笑んだ。
「六件目の犯人さん。」




