5-13 桜のために舞う胡蝶、朝のために居る暗夜
「赤蝶、そこで何をしている?」
一人の若い男の子は、暗闇のなかに、大きな木の上を見つめる。
「ここからなら、外の景色が見えるんだよ。」
「夜じゃ見えないじゃないの?」
「見えるよ。」
「そろそろ帰らないと怒られるぞ。蝶は夜中に出歩かない。」
「なんでだよ?」
「夜に行動する蝶は、蛾だと呼ばれるよ。」
「蛾だって別にいいじゃん?」
「夜に生きれないなら、夜にいたいと願うのはただ自分を苦しめるだけだぞ。」
女の子は唇を噛みしめ、木の上から飛び降りた。
胡蝶のように、ひらひらと。
「桜内、明日家に帰るの?」
「うん。元々、数日だけお邪魔するな感じだけだったし。」
「残念だな。」
「何が?」
「もうすぐ桜が咲くんだ。君と一緒にお花見したい。」
「お花見は、一人だってできるじゃん。」
男の子は微笑んで、数歩進んだ。
「桜内!桜内!」
「うん?」
「桜のこと、好き?」
「桜なんて大嫌い。」
「なんで?」
「君の努力を…全部無駄にするから。」
女の子は、男の子の背中を眺める。
そうか。
胡蝶がどれだけ頑張って花粉を運んでも、桜の花は受粉しない。
「…それでも、咲くんでしょ!」
「赤蝶…?」
「胡蝶は、花粉を運ぶために花を探すんじゃない。そうでしょ?」
「花みつのために…」
「そう。だからね、これからも私に利用されてね。」
ぴょん。ぴょん。
女の子は軽くスキップして、男の子の目の前に来た。
「桜内飛青くん。私に羽ばたかせてね。」
笛木夫婦が罪を認めたあと、桜内は二ヶ月間をかけて、いよいよ報告の資料を書き終えた。
一方、赤蝶の説明のおかげで、綿と義孝はついにやなの身に起こったことを把握した。
やなの目を治療できる物質を見つけた白柳教授は、入獄したあと、すぐ赤蝶に色んな手段で、合法的に釈放された。
そして、白柳の指示のもとに、赤蝶は海藻の研究をし始めたが、それでも二年間はかかると判明した。
そこで、赤蝶は彼女の人間関係を使って、様々な専門家を揃い、白柳の研究をうまく短縮させた。
その後、赤蝶は真田家に連絡して、やなに手術を受けてもらった。
また、事件のあと、ホタルは影を連れて綿の事務室に訪れた。
「…ケイさんに似ていますね。」
やなは影の顔を初めて見た時、微笑んでそう言った。
その言葉を聞いた影は、思わず泣き出した。
その後、もちろん光も来た。
「私は…私自身のことをまだ好きになれません。」
「うん。」
「でも、君のことを好きになれると思います。」
「…!」
「ちょっと待って…!さっきの話、聞こえなかったふりなんてできないぞ!やなは僕の嫁だ!義孝でも好きに好きになれ。」
綿は義孝を光のほうに押して、やなの手を強く握って宣言した。
「綿、子供過ぎ。」
「その通りです。朝田綿と結婚して本当に大丈夫ですか。」
「朝田…ひどいよ…」
「な…に!?」
やなと光は笑い合った。
時間は元に戻れないが、傷は癒し始めた。
「ところで、やなちゃん。ひとつ気になることがあるんだ。」
「うん?」
「龍崎洵太に電話攻撃をしたのは、一体誰?」
「ああ…綿は?」
「…やなじゃなさそうだし、皇さんでもないみたい。」
「ということは、こっちの完全勝利だな。」
やなは笑って、コーヒーを手に取る。
「砂糖、取ってくれる?」




