5-9 筆跡
翌日、五月一日。
綿の指示の元に、桜内は手紙を公表し、筆跡から犯人を特定したいと思った。
しかし、その日の新聞には、二通の手紙が公表された。
一つは、四月二十七日に届いた、嘲笑うような口調のした手紙。
もうひとつは、新聞社に届いたハガキだった。
「二つの事件、ちゃんと更新されましたかな。
一人目は残念でしたね。
ところで、警察の皆さん、こちらの希望通り手紙を隠してくれて、ありがとうございました。
切り裂きROSI」
ハガキに書かれた最後の一言により、警察側は世論にひどく攻撃された。
また、二通の筆跡はほぼ一致していた。
桜内は焦りを感じつつ、綿の指示通り、死者の人間関係や背景について調べていた。
そしたら、当日の朝零時三十五分のとき、長リージとある男性が話しているところを目撃した警察が現れた。
また、零時四十分にも、長リージと一人黒いコートを着ている人と一緒にいた目撃情報もあった。しかし、相手は小柄に見えたが、性別は不明だった。
推定死亡時刻である零時五十分に近いため、長リージと会話したこの二人の身分は、事件の解明にかなり重要である。
そして、十日間の調査のあと、五月十日。
桜内は四件目の死者である長リージと同棲した女性、木寺茉郁を見つけた。
「うそ!長リージが最近報道されたその死体なの!?」
「はい。」
「…これであの子もいよいよ解放されました。」
「どういうこと?」
「彼女は少し情緒不安定なところがあります。元夫の死と関係があるみたいです。」
「元夫?」
「ええ。純太という男で、名字はたしか須田です。カフェをやっていました。」
「長リージさんは、純太さんの死因について語ったことはありますか?」
「たしか、彼女が三十五歳のときに水に溺れて死んだらしいです。彼女も一緒に水に落ちたが、助かれました。その事故のせいで、たまに吃音が出ます。」
「なるほど。」
「その日…彼女が亡くなったその日の朝方、彼女からメッセージが来ました。お金を借りたいと。」
「金を?」
「はい。十二時四十分のごろです。私は四十分ちょうどに待ち合わせ場所について、少し彼女と喋ったあと、五十分ぐらいに去りました。」
「彼女になにか異常は?」
「とても嬉しそうに見えました。昨晩ご飯に行ったら旧友と久しぶりに会えたと。」
「あなたはどのような格好で会いに行ったのですか?」
「ちょっと出かけるだけと思ったので、黒いコートを被っただけです。下半身は…長いズボンだと思いますが、色までは覚えていませんでした。」
「ありがとうございました。」
茉郁と話したあと、桜内はすぐに長リージの過去を調査し始めた。
ところが、五日間後の五月十五日に、まさに地獄からの手紙が現れた。
手紙の届け先は、有名な教会の自治会に所属している留守さん。
封筒の中には手紙以外に、人間の腎臓も入っていた。
「留守さんへ
半分だけで申し訳ないが、腎臓をお送りいたします。残りの半分を揚げて食べてみたら、結構いけました。
もう少しだけ待っていただければ、血まみれのナイフをお送りしましょうか。
鬼さんこっちですよ。留守さん♪
地獄より」
手紙と腎臓を受け取った留守は、すぐに警察へ連絡した。
そして証拠たちはすぐに桜内のほうに届いた。
「朝田さん、前の手紙と違って、今回は黒いペンで書いた手紙でした。」
「例の署名もないな。」
「それから、前の二通の手紙や壁の落書きと違う筆跡が検出されました。」
「腎臓のほうは?長リージさんのもの?」
「そちらの報告はまだです。」
「ふーん。こうして見ると、三通目が一番怪しいかな。」
「…僕は、三通目が一番可能性薄いほうだと思いますが。」
「ほう?なんで?」
「そうですね…前の手紙と違って、三通目の手紙に書かれた情報はどれもすでに公表された情報です。」
「ふむふむ。」
「ROSIと署名した手紙のほうは、壁の落書きもあるので、事件に直接関与していることは間違いないでしょう。しかし、三通目の手紙においては、今のところ関係性はまだ薄いです。」
「…桜内、僕と同じだな。」
「え?」
「いいえ、なんでもない。」
綿は微笑んで、それ以上説明するつもりはないようだ。
翌日、五月十六日。
腎臟の検定報告が出たと同時に、桜内の事務室に電話が来た。
九保アリサ、三件目の死者である中馬明奈のライバル。
アリサの話によると、明奈はこの間新しい恋人に出会ったらしい。
アリサの説明の背景に、微かに末利の声が聞こえた。彼はそのことを納得できなかっただそうだ。
「腎臟は死者の長リージさんのもので間違いないようだな。そして、中馬明奈さんのほうは、新しい恋人だと?」
「はい。」
「使えそうな情報ではあるが、これ以上調べしづらいかもしれないな。」
「引き続き、長リージさんの元夫のことを探してみます。朝田さんと黒澤さんも、なにか思い付いたらいつでも言ってください。」
「頼むぞ。ところで、枝川を尾行する人も手配してくれないか?」
「どういうことですか?」
「彼のことだ、その新しい恋人を探し出せるのかもしれない。」
「そうですね、わかりました。」
桜内は電話を切って、改めて気合いを入れた。




