5-5 咲き誇る桜
「桜内さん!一体何かあった?」
「朝田さん…僕、あとどれくらい努力すれば?」
桜内は苦笑いして問いかける。
「先輩がいない上、連続二つの事件が起こり、僕だってみんなに頼っているばっかりのではなく、なるべく手がかりや証人を探しに行ったのに…!
「なのに…!なのにどうして…!
「三件目が…」
三件目。
綿はキーワードにすぐ反応した。
桜内の机にはひとつ、事件の書類が置いてあった。
それは綿がまた読んだことのない資料だ。
「…あのさ、桜内、桜は好きか?」
「え?」
桜内の困惑な目線を無視して、綿はただ微笑んでいた。
「好きか?」
「いいえ…むしろ、大嫌いです。」
「どうして?」
「桜の花は実れないでしょ?どれだけ努力をしても報われない。」
「…僕は、桜のことが大好きだ。」
「美しいからですか?」
「それもあるが、一番惹かれたのは、絶対諦めていないところだ。」
「…!」
「咲いても無駄だと知っていても、桜は毎年花を咲かせる。奇跡などないと知っていても、諦めたりはしなかった。
「桜内だって、ここで諦めたりしないでしょ?」
桜内!桜内!
うん?
桜のこと、好き?
桜なんて大嫌い。
なんで?
君の努力を…全部無駄にするから。
「…朝田さん、ありがとうございます。」
「力になれてなにより。さっき、三件目の事件が出たって?」
「はい。資料はこちらです。」
死者は娼婦の黒メイナ、本名は不明。
通報した人はタクシー運転手の土橋巡太。彼は一晩中仕事をしたあと、自分のアパートの前に車を泊めてひと休みしようとしたところ、死体の足の部分を見かけてしまって、死体だと判明した時点で速やかに警察に通報した。当時は朝方五時四十五分だった。
死者の顔と手首、胸元に多数のあざが残されており、首もとには左から右への切り傷があったが、息が止まったあとの傷だと推定された。
彼女の腹は切り裂かれ、小腸は引っ張り出され、肩のほうに置かれていた。子宮と膀胱は見つからず、切り落とされたと考えられる。
凶器は鋭く長い刀である可能性が高い。推定死亡時刻は四時頃。
「死者の身分を判明したのは…あ、笛木か。」
「はい。」
「今のところ、怪しい手がかりは?」
「特にありません。今部下たちに目撃情報を集めてもらっています。」
「わかった。ほかに手がかりが見つかったら連絡してくれ。」
「お願いします。」
同日の夕方、桜内から電話が来た。
しかし、それは三件目ではなく、二件目の事件の手がかりだった。
ポリーの同居人だった男子赤根樹磨は、自ら警察に連絡した。
「赤根さんの話によると、彼はずっとポリーを探していて、そして毎週発行の新聞でポリーの写真を見かけたので、それで警察に連絡したんだ。」
「その赤根から何か大事な情報をもらえたか?」
「ポリーさんについてもそこまで知らないみたいですが、元の苗字は安中で、エンジニアの元夫がいる、だそうです。手がかりそう多くはないが、一応こちらでも調べています。」
「わかった。」
電話を切ったあと、綿は桜内から聞いた情報を一々ノートに書き込む。
「朝田…?珍しいんだな。こういうメモ取るんだな。」
「これは、やなにすぐに現状を把握してもらうために作ってるんだ。」
「…!そうか。」
綿はやなの帰りを未だに諦めていない。
そう思うと、義孝はふと微笑む。
翌日、四月九日。
綿は午後に桜内のところに行って、ほかの証人の証言資料をもらう。
そして、義孝は別行動で、事件現場の周りで目撃情報を収集しようとした。
教会の前でしばらく待っていたが、義孝は使える目撃情報を得れず、がっかりするところに、いつぞや見たことのある姿が現れた。
「糸草さん!」
「黒澤さん!ああ、同い年みたいですし、糸草で構いませんよ。」
「でしたら名前の義孝と呼んでください。」
「そうします。義孝はここで何をしていますか?」
「三月十九日の朝方にここら辺を通りかかって、怪しい人物を見かけた人がいないかを調べています。」
「それでしたら、渡部さんに聞いてみませんか。」
「渡部…?」
「はい、葬儀も風習を研究している女の子で、よくそこの墓地に行きます。毎朝通うらしいので、十九日?も来たのかもしれません。」
「…!ありがとうございます、糸草!助かりました!」
「いいえ。渡部さんはそこ、青い屋根のところの二階に住んでいます。明るい人なので、快く手伝ってくれると思います。」
「今聞きに行ってきます!」
義孝は慌てて山を降りる。糸草はふと笑い、墓地の方へ向かう。




