5-4 寂しい空っぽ
三月三十一日のポリー事件から、六日経った。
四月六日。
「朝田、遥兄さんからの電話。」
「おお!それを待ってた。」
義孝の困惑な目線を無視して、綿はすぐ電話に出た。
「もしもし?うん。うん。おお!さすがです。住所は?…ふん。今日中に行ってみます。了解。それでは。」
「朝田、なんの住所?」
「安倍家に、ポリーのルームメートについて調べてもらった。堀田繪珠理だそうだ。」
「…!なんで?」
「なんでって聞かれても…堀田夫婦の好みの名前だからかな。」
「そっちじゃない!光たちに協力してもらった理由は?」
「やながいるなら話は別だが、事件が複雑になりつつある。猫の手も借りるしかないんだ。」
義孝に適当な話をしながら、綿はコートを手に取る。
「よし。出掛けてくる。」
「…いってらっしゃい。」
綿は、遥からもらった住所に沿って、堀田繪珠理が住んでいるアパートにたどり着いた。
「…すみません、107号室の堀田さんに用があるのですが。」
「どのようなご用でしょうか。」
「妹が行方不明になったので、友達の堀田さんに聞いてみようと思いまして。」
「お名前は?」
綿はすぐに、桜内からもらった田淵美家の資料に書かれている、彼女の本名江崎美家を思い出す。
「江崎です。」
「少々お待ちを。」
管理者の人が綿の話をそのまま向こうに伝達したあと、ゲートはすぐに開けた。
「どうぞ。一階の廊下の一番奥にあります。」
コンコン。
綿がドアにノックをしたあと、一人の短髪な女性は慌ててドアを開いた。
メイクの仕上がりは志月の言った通り完璧だったし、甘い香水の匂いがした。
「江崎…さん?」
「はい。」
「美家さんのお兄さん?」
「…!はい。」
「…どうぞ。」
綿はソファに座り、そして繪珠理はココアを持ってきた。
「インスタントのココアしかないが、構いませんか?」
「全然大丈夫です。」
「それはよかったです。それにしても、どうして私のところに?」
「堀田さんは、二人目の死者のルームメートですよね?実は、美家さんの行方不明が事件に関係していると言われたので、それで訪ねてきました。」
「美家さんとはただの知り合いですので、詳しいことはわかりませんよ。」
「では、二人目の事件は?」
「ポリーさんですか?手がかりらしきものは特に思い当たりません。逃げたのは、容疑者扱いが嫌なだけです。」
「そうですか…」
「私のことを、犯人だと思っていないのですか?」
「死者の方のことを、とても大事しているように見えますので。」
「ポリーです。大事しているというほどではないが、あの子は、見守られなければならない人です。寂しい人ですので。」
「堀田さんは?寂しくないのですか?」
「それは寂しいですが、まだ人を信じることができるので、幾分マシでしょう。」
「…ポリーさんは人を信用できないのですか?」
「厳密に言えば、男を信用できないのですが。」
「…わかる気がします。自分も、女性のことをあまり信用できません。」
「ふふ、そうですか。寂しいですか?」
繪珠理にそう聞かれて、綿はなぜか泣き出した。
「江崎さん…!?」
「すみません…」
「…ポリーもきっとそうでしょう。一人で死に向き合って、きっと寂しくて泣いたのでしょう。」
「ポリーさんの気持ちは知らないが、もし自分がポリーさんのでしたら、きっと寂しくなかったと思います。」
「どうしてですか?」
「寂しいだろうかと、心配してくれる人がいるからです。」
今度は繪珠理が泣き出した。
翌日、義孝はここ数日公園で見聞きした話を綿に報告した。
「浮気か…で?怪しい人見つけた?」
「昨晩だけ、田淵さんと一人の女性と密会しているところを目撃した。」
「ほう…!どんな人?」
「暗かったので、短髪でしか。」
「そう…どうやら、桜内さんにお願いしたほうがいいかもな。」
「というと?」
「尾行したい人がいるから、公園での見張りと一緒に桜内さんにお願いしようか。」
義孝と相談したあと、綿は桜内に、繪珠理の尾行と、公園での見張りをお願いした。
翌日、四月八日正午。
桜内からの電話に出たとき、綿は尾行に成果があったと予想した。
しかしそれは、更なる悲劇の始まりだった。
「朝田さん…」
「桜内さん?どうした?声が震えているぞ。」
「僕…諦めたい…」
「…!今どこにいる?」
「事務室…」
「今すぐそっちに行くから、そこで待ってろ!」
電話を切った綿は、義孝に説明する暇もなく、迷わず警察署に向かった。
しかし、桜内の事務室に入ったとき、綿は違和感を感じた。
席に座っている桜内は、綿のことを見ているが、目に光はなかった。
まるで、空っぽ。




