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5-3 噂をすれば

翌日、三月三十日。

綿たちが死者の夫、田淵明輝を疑いし始めた頃、真田家から電話が来た。

真田家の当主、すなわちやなの母は、やなに家に帰ると命じた。

綿はその理由を聞こうとしたが、向こうは躊躇なく電話を切った。

「やな…帰るの?」

「当然。」

「じゃあ送るよ。」

見えなくなったやなの代わりに、光を恨んでいる綿のように、真田家はやなを見守れなかった綿を許せなかった。

二人が結婚した今でも、真田家は綿につねに冷たい態度で接していた。

それを知りながら家まで送ってくれた綿に、やなは感動で微笑んでいた。


しかし、その日の午後、真田家に入ったやなはまるで消えたのように、音信不通になってしまった。

綿は一旦家に帰って、翌朝にまた真田家に行こうと思った。

ところが、三月三十一日に、真田家から事務所に帰った綿を迎えたのは、焦っている義孝だった。

「朝田、やなちゃんは?」

「昨日と同じ、会わせてくれなかった。義孝、そんなに焦っていて、何かあった?」

「また、事件が。」

「はぁ…!」

「しかも場所はほぼ同じ、例の教会だ。」

「…桜内のほうは?」

「午後に警察署に来てくれないかと。でも…」

「やなのことも心配しているけど、真田家にいると思うから、危ない目には遭わないはず。まず、僕たちのやるべきなことをしよう。」

「わかった。準備してくる。」

義孝には前向きな言葉を言ったが、やながそばにいないことに、綿はかなり不安を感じる。

あの悪夢が、現実となったみたいに。


「死者はポリーという娼婦です。」

桜内は隠さずに語った。

「本名不明、詳しい背景も知りません。もう一人の娼婦と同居していると聞いたが、住所には誰もいませんでした。ルームメートの行方はまだ調べています。」

「傷のほうはどうでした?」

「首に刃物による傷が。腹は切り裂かれ、引っ張り出された小腸には多くの傷痕が残されたが、拭いた形跡があり、指紋は見つかりませんでした。また、下の部位にはぶつかりの傷があります。」

「なるほど。死者の身分はどうやって見つけた?」

「生特隊の隊員、僕の後輩の笛木志月くんが情報を提供してくれました。」

「笛木志月…」

「この辺りの娼婦たちと知り合いだそうです。朝田さんも、何か知りたいことがあれば、彼に直接に聞いたほうが早いと思います。」

「わかった。」


桜内から基本情報をもらったあと、義孝は田淵美家の事件の犯人の殺人動機について調べし始め、綿は志月から情報を手に入れる次第、ポリー事件に取りかかろうとしている。

「初めまして、朝田さん。僕は生特隊、すなわち風俗警察と呼ばれている部隊に所属している笛木志月と申します。よく桜内先輩から朝田さんの話を聞かせていただいております。今後とも、よろしくお願いします。」

「うん、よろしく。死者の身分を判明したのは君のおかげだと聞いたが?」

「はい。ポリーさんと知り合いで、見た瞬間にわかりました。」

「なるほど。彼女のルームメートとは?」

「何回か会ったことはあります。かわいい系でおしゃれな女性、としか覚えていませんが。」

「二人の関係はどんな感じ?あまりよくなかったとか?」

「それは…どうでしょう。別々の行動がほとんどなので、そんなに仲良くない、なのかもしれません。」

「ポリーさんはどんな人?」

「うん…寂しそうに見える女性です。誰とでも話せるのに、親友といえる存在はいなさそうです。」

「恨みを買いやすいという感じは?」

「そうですね。距離感のある態度が逆に客を引き寄せるみたいで、それで嫉妬されることもあるのかもしれません。」

「なるほど。ほかに聞きたいことを思い付いたらもたお願いするぞ。」

「もちろんです。」

「と、言っても、休まないとまずいな、君。三月も四月も夜勤じゃない。体を壊さないようにね。」

「…!出勤表に気付いたのですか!?」

「職業病でね。」

綿は子供っぽくにっこりして、振り向かずに部屋から出た。


一方、義孝は田淵家の近くで、近所から情報を聞き出そうとしている。

しかし、美家夫婦の関係があまり良くないこと以外に、有力な手がかりはなかった。

「おばさんこんにちは。こちらの方は…?」

「黒澤さん。美家さんと家族との関係について聞きたいだそうです。」

「田淵さんですか?そういえば最近、田淵さんが浮気したとか、そういう噂ありませんでした?」

義孝は目の前に立っている少年を見つめる。

帽子とマスクに顔が隠され、服装もシンプルなものしかないにもかかわらず、義孝は少年の不思議な清らかな雰囲気を感じ取った。

「ああ、確かに、聞いたことあります。」

「田淵さんはよくそちらの公園に行くので、そこで相手と密会しているのでは、と噂されています」

「ふふ、糸草って引っ越してきたばっかりなのに、こういう情報に詳しいんですね。」

「大事ですからね。黒澤さん、今話したことは自分もそこまで詳しくなくて、確証はないが、少しでも力になれたら嬉しいです。」

「糸草さん、ありがとうございます。とても重要な手がかりかもしれないので、今すぐ帰って調べてみます。」

慌てて走り出した義孝の背中を、少年糸草は微笑んで見守っていた。

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