表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/47

5-2 再びの暗闇

三月十九日の午後。

電話が鳴りはじめ、台所から出れない義孝の代わりに、綿が電話に出た。

出る直前にチラッと相手の番号を確認した。警察署からだ。

「もしもし?」

「朝田さん、こんにちは。桜内です。」

「うん。どうした?」

「お忙しいところすみませんが、早朝に教会の近くに殺人事件起こったので、皆さんに来ていただきたいです。」

「ってことは、結構複雑な事件なのか?」

「まだわかりませんが…容疑者リストに名瀨影さんが書かれているので、そのために朝田さんに連絡しました。」

桜内の連絡を受けたあと、綿と義孝、そしてやな三人は警察署に向かう。

「お疲れさまです。こちら、事件に関する資料です。まずご一読を。」

書類を義孝と綿に渡したあと、桜内は点字資料をやなに渡した。


被害者の身分は未だに不明。

刃物による傷が多く、その三分の一は喉あたりにあった。

三月十九日の早朝に、散歩していた年寄りの夫婦が見つけた。精確な時刻は不明だが、事件の連絡を受けた直後に山周辺の出口が全部封鎖され、当時山の中にいる人たちの身分も確認された。

その中に、名瀨影がいた。

「偶然だろう?名瀨影がそこにいて、そして近くに事件が。」

「もちろん、最初から名瀬さんを疑っているわけではないが、名瀬さんに話を聞いたとき、名瀬さんは死者のことを知っていると言っています。」

「知り合い!身分不明じゃないか…?」

「知り合いというか、小学校の同級生で、名前も住所も覚えていないんだと言っていました。」

「名瀨影の資料を調べれば?」

「それが、全然見つかりませんでした。」

綿はふと、影の特殊な過去を思い出す。

ホタルの家族を壊すために連れ出された子供だ。最初から戸籍に登録されていないかも。


「…桜内さん、ホタルにこの話は?」

「はい、先ほど連絡して、少し質問もしてみたが、名瀨さんも何も知らなかったみたいです。」

「いいえ、事件のほうではなく、死者が影さんの小学校の同級生であることを、彼女に教えましたか?」

「はい。ただ、名瀬影さんの過去については自分も知らないと、そう言われました。」

「それで充分です。桜内さん、ここ数日間に事件に関する情報を提供している手紙を集めておいてください。影さんが犯人じゃないと言いたい手紙だけで。」

「わかりました。」

「それと、詳細についてはまだ公表しないでください。行方不明リストに死者に似ていた方は?」

「いませんでした。」

「では、なるべく死者の顔などの資料も暫く公表しないように。」

「わかりました。ほかには?」

「以上でお願いします。ありがとうございます。」

桜内はやなが話したことをしっかりとメモし、義孝と綿に問題はないと確認したあと、準備をし始めた。


綿とやなは引き続き手元の資料を研究し、義孝は事件現場に来て、手掛かりを探していた。

通りかかる人たちに一人一人聞き込んだ義孝は、一つ気付いたことがあった。

名瀨影がここにいることは、偶然ではなかった。

「つまり、あそこの住人はみんな、名瀨影があの時間にあそこに現れるとわかっていたってこと?」

「そう!事件起こった時間を言ったばっかりなのに、あの連続殺人犯がやったのでは?と答えてくれる人が結構いた。」

「まさか本当に…?だとしても変だ。住人たちに名瀨影のスケジュールが把握されたとでも?」

「…ルーティーン。」

「…?あ、なるほど。」

義孝は綿、そしてやなのほうを見る。

「やなちゃん、どういうこと?ルーティーン?」

「影さん、毎日同じ時間帯に同じことをしていたのであれば、覚えられたとしてもおかしくはないでしょう。」

「…!それもそうか!」

「でも、どうして影さんは毎朝その山に行くのでしょう。教会に行くような人ではありませんし。」

「そういえば、山頂に墓地があったよ。」


桜内に手伝ってもらったら、すぐ答えがわかった。

その墓地には、名瀬ケイの墓がいた。

「影さん、ケイさん…会うことができない兄に会いに行ったんだね。」

「かもしれないな。」

「しかし、影さんのこの日課がここまで知られていたら、利用された可能性も出てきたね。」

「でもやな、当時山にいた人たちの中に、特に怪しい人はいなかったよ?」

「通報される前に山から降りたのかもしれない。」

「じゃあ僕また行ってみるよ!怪しい人を見かけた人がいるかもしれないし!」

「頼んだぞ、義孝。」


事件から四日経過、三月二十三日。

桜内はまとめた手紙を綺麗に並んで、三人に判断してもらっている。

綿はざっくりとすべての手紙に目を通し、その中から一通を選んだ。

「これがやなが待っている手紙だな。」

「…!朝田、なんでわかったの?」

「筆跡がわかりやすかったから。いいから、内容を読むぞ。」

その手紙の内容は、死者の身分を告げることだった。

「死者の名前は田淵美家さん、○○小学校に通っていたと。」

田淵美家。

彼女が、これから行われる悲惨な連続殺人事件の、最初のヒロインとなる人だった。


学校の資料を調べた桜内は、死者が田淵美家で間違いないと判明した。

しかし、田淵家から失踪届出されず、事件の調査も仕方なく遅くなっていた。

三月二十七日の正午、桜内が改めて失踪届の資料を調べたとき、新しい名前が入ってきた。

「やなちゃん、桜内さんから電話が来た。失踪届と一致して、やっぱり田淵美家さんだと。」

「わかった。失踪の時間と理由は?」

「…詳しくは知らないと。桜内さんが、聞き込みに行ったほうがいいのって聞いている。」

「そうしてください。」

「…部下に失踪の詳細について聞いてもらうだって。」

二日後、三月二十九日。桜内から再びの電話。

三月二十八日に、田淵美家の夫である田淵明輝に聞き込みに行ったとき、彼の話によると、美家は今の生活に不満を抱え、書き置きを残して家出をしたらしい。

そのせいで、三月二十六日、すなわち書き置きに書かれていた帰る予定の日付に美家が帰らなかったため、明輝が失踪届を出したわけ。

しかし、明輝が提供したその書き置きから、田淵美家の指紋を検出できなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ