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ご無沙汰しております、淡雪です。
前回から4ヶ月も経過してしまいました。お待たせしてしまい申し訳ないです(_ _;)
見上げた晴天の青に、白く輝くその姿は、自身の重さを忘れた一枚の羽根のようでした。
「白鳥石」――そう呼ばれる純白の石灰石を精緻に組み上げ、天へと祈りを捧げるように建つ大聖堂は、街の人々から敬意を込めて『白鳥の聖殿』と称えられてきました。
広大な王宮前広場を挟んだ向かい側には、同じ石で建てられた王城『白鳥の宮廷』がそびえ、二つの白き巨躯は、まるで地上に舞い降りた一対の比翼の鳥のように美しく対をなしています。
見上げる者に降り注ぐのは、訪れる者を拒むような峻烈な神威ではなく、息を呑むほどの清廉さと慈悲の光です。
天空を目指して伸びる、極限まで削ぎ落とされた二本の尖塔は、レース細工のように繊細な透かし彫りを纏っています。
それは祈りの衣を纏った白鳥が、今まさに翼を広げ、天空へと気高く首を伸ばした瞬間の、厳かで瑞々しい躍動感を宿しているようです。
建物の壁面を支える飛び梁、フライング・バットレスすらも、無骨な重力など存在していないかのように凛と佇んでいます。
幾重にも連なる白い美しい曲線は、まるで白鳥がその白い翼を幾重にも折り畳み、静かに休息しているかのごとく優美な陰影を壁面に落としています。
アークライト公爵家の護衛騎士が重厚な鉄の扉を押し開ける中、わたくしは一度だけ、背後で悠然と佇む王城へちらりと視線を向けました。
広大な宮殿前広場の奥に鎮座する『白鳥の宮廷』が地上の権力と栄華の象徴であるならば、この『白鳥の聖殿』たるカテドラルは天空の静謐を映し出す鏡であるべきです。
カテドラルは現在、失墜した信頼の回復に努めていると聞いております。
我が国の教区の長であった司教と、司教を補佐する司祭団の数名、聖職位階第三位の助祭数名が王立学園の卒業パーティーで摘発された件は国民にも広く知れ渡り、教会から人心が離れる事態を招きました。人心が離れたのは信仰心そのものではなく、教会という組織からです。
不祥事による不信感から支持を失った教会ですが、司祭団で唯一加担していなかった筆頭司祭と残りの助祭方が健全な運営と風土、法令遵守を国民に約束し、教会組織の再建を図りました。
教会の総本山である聖神国より新しい司教を迎え、人員不足だった司祭と助祭の派遣も叶ったのがつい先日のこと。
まだ時間に余裕などなくご多忙のはずですが、わたくしが廟所から王宮に戻るとすぐに緊要な問題が生じたと、新しく着任された司教様から連絡が入ったのです。
教会が聖女に協力要請することは今後もあることだと思いますが、キティが言っていたとおり、まさかわたくしにも同行嘆願がなされるとは思いませんでした。
キティの身元保証人であるわたくしに筋を通した形でしょうけれど、聖女は聖神国に帰属するものと定めている教会がわたくしに同行と許可を求めるなんて、正直今でも信じ難いですわ。
カテドラルへ踏み込み、護衛によって重厚な鉄扉が閉じられた瞬間、賑やかな雑踏の喧騒から世界を切り離されたように、一切の雑音が消えました。
頭上から降り注ぐのは、左右に分岐する巨大な縦長のランセット窓です。深い海を思わせる神聖な群青が十五面、壁一面を埋め尽くし、圧倒的な光で宝石の海のように堂内を染め上げています。
正面を飾るのは、外の光を浴びた巨大な薔薇窓と、その真下に薔薇窓を支える台座のように並ぶ五連のランセット窓です。
壁一面の十五連窓と同じ神聖な青と、高貴な赤紫、可憐な桃色の色硝子が精巧に組み合わされ、差し込む陽光の透過光は、まるで凍りついた万華鏡のようにも見えます。
朝の光がその極彩色の輪郭を叩くとき、大聖堂全体が自ら発光しているかのように淡く輝き、俗世の塵を一切寄せ付けない孤高の美しさを放つのでしょう。
残念ながら現在は太陽が天の頂に立つ時刻なので、神秘に満ちた光の調べは美しくも厳格な色を放っています。
色鮮やかな影の刺繍を描き出す大理石の床の上に、光の粒子を纏った目に見えないほど細かな塵が、まるで祝福された妖精のように静かに舞い踊っています。
西の空が燃えるような琥珀色に染まる頃ならば、どこか物憂げで寂しく感じられることでしょう。もしくは、濃密な赤みを帯びる陰影が魔の潜む境界線を曖昧にし、神聖なカテドラルさえも不吉な薄暗がりに沈むのかもしれません。
訪れる時刻によって表情を変えるカテドラルは、やはり俗世とは隔たれた空間なのでしょう。
「――お待ちしておりました。聖女様、アークライトご令嬢様」
刻一刻と移ろう、天井からの青と赤紫の光の芸術にしばし視線を奪われておりましたら、静かで穏やかでありながら、しかしよく通る声で出迎えを受けます。
長い年月をかけて磨き抜かれた大理石の床に靴音を響かせ現れたのは、ひとりの若い助祭でした。




