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前回の投稿から五ヵ月が経過しておりました……ご無沙汰しております、淡雪です。覚えておられるでしょうか……(汗)
去年の六月から体調不良が続き、年末にさらに悪化、一難去ってまた一難ではなく、一難去らずしてさらに一難、な五ヵ月間でした。
今も継続している不調ですが、病院もいろんな科を受診しないといけなくて、体力的にも通院は本当にキツイですね。
何と言っても待ち時間の地獄が……。
朝一で行っても呼ばれるのはお昼近くとか、待合室でただひたすらに待つことの何という苦行でしょうか。つまりは暇!
どんだけ一気に不調になってるんだか、自分でも信じられない思いです。私の体どうなってんの!?
というわけで(何が。)、とりあえずの最新話です!
長らくお持たせしてしまい……いえ、お待たせしてばかりで申し訳ないですっ。
「この時期に緊要な問題とは、いったい何なんでしょうね」
馬車に揺られながら、キティが胡乱気な様子でレースカーテン越しの街並みを眺めています。
お忍び用の貴族馬車を使用していますので、近衛騎士はもちろん、王宮騎士を護衛に帯同はできません。宰相であるお父様にご相談して、アークライト公爵家の騎士を幾人か護衛としてお借りしました。御者もその一人です。どの貴族家に仕えている騎士であるのか、特定できないよう軽装備で警護に当たってくれています。
わたくしの専属護衛騎士であるアテマ伯爵方や、キティの護衛も兼任しているアーミテイジ卿は同行しておりません。彼らは先行して訪問先の安全確保に努めています。
王太子妃候補とはいえまだ一介の貴族令嬢に過ぎないわたくしですが、疎かにしていい身ではありませんので、国王陛下は道中の警護に影を付けてくださいました。
隠密に長けた方々であるとだけ教えていただいたのですが、わたくしが面識ある方はお一人しかおられません。表向きは守衛の任に就かれている、アルバ・エーデルフェルト卿です。表敬訪問の件でわたくしを訪ねてきた侍従の足取りを報告してくださった方ですわ。
彼はユリエル様に忠誠を誓った王太子殿下直属の影ですので、陛下がお付けくださった方々の中に含まれていないのかもしれませんけれど。
影は基本、姿を見せません。隠密に長けているならば尚のこと。
ですので、彼らが今現在どこから護衛してくださっているのか、わたくしは知りません。影の数も知らないのです。
「呼ばれたのが私だけならまだ理解できるんですけど、エメライン様まで呼びつけるとかあり得ないですよ」
キティが不満顔を隠そうともせず、到着した目的地を睨んでいます。
抱く感情をそのまま表情に乗せる、真っ直ぐな気性のキティをわたくしは好ましく思っていますが、後宮預かりのメイドとしては些か心配になります。
荘厳なバロック様式の教会に着いた馬車の扉を、外から控え目にコンコンと叩かれました。開けても大丈夫か、確認のノックです。
同乗するジュリアが、わたくしの羽織る白いフーデッドクロークのカウルを目深に被せて容貌を判別しにくくしますと、了承の合図を返してキティに釘を刺します。
「どこに誰の目や耳があるかわからないのです。出先での不用意な発言は控えなさい。容易く言質を取られてしまいますよ」
「あ、そっか! 気をつけますっ」
キティが口元を両手で覆い隠したタイミングで、扉が開けられました。
エスコートに手を差し出すのは公爵家の騎士です。実家では、彼ともう一人がいつも護衛についていました。
わたくしを護衛し慣れた、気心の知れた者がいいだろうと采配してくださったのはお兄様に違いありません。わたくしと護衛騎士の相性など、細やかな配慮に腐心されてきたのはいつもお兄様でしたもの。
お父様は、護衛は第一に質であるとお考えの方なので、護衛対象の心の機微などはそもそも眼中にございません。薄情なのではなく、効率と実益を重視するがゆえのご判断です。
実娘といえど、王家や国家の前では駒の一つと割り切る方です。
国益を担う責任と王家を存続させる使命に一寸の迷いもないお父様は、間違いなく一級品の忠臣でしょう。王家が望めば、魔力のない娘さえも躊躇いなく差し出すのですから。
王家血統に相応しいのは、優れた魔力を持つご令嬢であるべきはずですのに。
ゆえに、かつての護衛騎士であった彼、ラウフェンが今回の任に就いている時点で、お兄様のご配慮と関与があったと察したのです。お父様であれば、ラウフェンを選ばないと思うからです。
お父様は効率と実益が損なわれることを何よりも厭います。
ラウフェンの顔を覚えている者であれば、彼が護衛する馬車に乗っている人物がどこの誰であるかなど、勘付いて容易に結び付けてしまえるとお父様ならばお考えになるでしょう。であれば、お父様がご用意する護衛は、皆わたくしと面識のない者たちばかりで固めるはず。ラウフェンがこの場にいるはずがないのです。
ラウフェンの手を取りステップを降りながら、そんな埒もないことをつらつらと考えていましたら、ラウフェンが暗色の、首から鼻までを覆う筒状の布、ネックゲイターを装着していることに気づきました。
カウルを目深に被っているため、こちらの視点などわからないはずのわたくしの視線を感じた様子で、ラウフェンがわたくしにしか聞き取れない程の声音で正確な返答をこそっと呟きます。
「たぶん面が割れてるだろうからと、小公子様に渡されました」
なるほど。抜かりはなしということですわね。さすがお兄様です。
これならば、後でラウフェンが護衛に追加されていた事実をお父様がお知りになっても、お小言程度で済まされるのではないかしら。
ラウフェンもさすがですわ。長年の付き合いから、向けた視線だけでこちらの意図を汲み取ってくれるのですから、打てば響く関係は健在ですわね。
ただの貴族令嬢でいられた頃の気安さはもう互いにできないけれど、ほんの少しだけ時が戻ったような、郷愁に似た懐かしさに目を細めます。
同じ感傷を抱いたのか、ラウフェンもエスコートする指にほんのり力が込められました。
この訪問を終えれば、彼が再びわたくしの護衛に就くことはありません。たとえ実家へ里帰りすることがあっても、護衛は王宮から派遣された騎士たちです。当然ながら影もつくことでしょう。ラウフェンたち公爵家の騎士が護衛を任されることはありません。
それを理解しているラウフェンが何を思っているのか――微かに力の込められたその指先から伝わるものがありました。
珍しく感傷的だわ、と微笑みながら触れている指先でトントンと叩いてやれば、捨てられた子犬のように縋ってしまったと恥じた様子で、耳を赤く染めたラウフェンが視線を逸らします。
まあ、生真面目なあのラウフェンが! 随分と可愛らしいこと!
珍しいものを見たとまじまじと見つめていましたら、僅かな気の緩みを咎めるように、同じくカウルを目深に被った後続のジュリアがそっとわたくしの背に手を添えました。
「お早く、中へ」
そのとおりですわね。人目を避けている身で吞気に外で談笑など本末転倒です。
同じようにカウルを目深に被りステップを一人で降りたキティを連れて、教会内部へと踏み込みます。
ご令嬢は馬車から一人で降りたりは致しません。平民になったとはいえ後宮預かりのメイドですから、護衛がついている以上、キティも立場的にエスコートなしでステップを降りるべきではないのです。
目撃した瞬間、ほんの一瞬でしたがジュリアの動きが止まりました。固まったというべきかもしれません。
これは、王宮へ戻ったらお説教コース間違いなし、かしら。
宰相様はとても貴族らしい方なのだと思います。
一般家庭的にはどうかというと眉をひそめるレベルの鬼畜だと思いますが、宰相であり筆頭公爵家の当主としては〝立派な〟人格者なのでしょう。お兄様であるジャスパーさんは、逆に優し過ぎて上位貴族としては手ぬるい。
そんな家庭で育ったエメラインは、そりゃあいろいろと達観しなきゃやってられなかっただろうなぁ、と不憫に思いながら追い詰める私。
ユリエルもそんな感じで育っているので以下同文。
追い詰める私。追い詰める手を一切緩めない私。
ユリエルは不憫に思えないネ! ナンデダロウネ!
【悪役令嬢だと言われたので、殿下のために婚約解消を目指します!】書影画像
家紋武範さまより【千社札】




