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早すぎる遭遇裏 〜レイドとゲイル 類は友を呼ぶ〜

よろしくお願いします。

先日の聖王教会で行われた、5歳の子供達のために『祈りの歌3階位導き』の祝福を受けている最中に、公爵にしてこの国の宰相を務める…レイド・リスティアナと、その妻であり、世界に数人しか存在しない祈りの乙女の称号を持つ…シェリー・リスティアナの一人娘が倒れたことは貴族の間でも噂の的となっていた。


王城にある自分の執務室にてこの国の宰相であるレイドは酷く苛立っていた。


1週間前に教会で倒れ、それから3日も目を覚まさなかった娘が心配でしょうがないのである。

それなのに、この4日間ほど屋敷に帰ることすら出来ず王城に泊り込み仕事をする日々が続いていた。

つまり娘が目覚めた時以来会うことができていない。


体の調子は大丈夫だろうか…?

自分が居ないことを不安がって泣いていないだろうか?

家に帰ってこない自分に怒って嫌われたりしたら…


レイドは、愛娘に『お父様なんて嫌い』と言われる瞬間を想像して心なしか顔を青くさせた。

本当は今すぐにでも屋敷に帰り、まだまだ可愛い盛りの娘の側から片時も離れたくないレイドだった。


周囲には例え5歳だろうが10歳だろうが可愛い盛りだと言い切るだろうと思われており親バカなのは周知の事実だった…。

実際、レイド自身も何歳になろうと娘が可愛いのは当たり前だろうと考えており、いつまでも可愛い盛りなのは当然だと言い切ったこともあるくらいだ。








執務室のドアがノックされる音に鬼の様な速さで仕事を続けながらも、レイドは中に入るように返事を返す。

手を止めればそれだけ屋敷に帰るのが遠のくため、必要最低限の休憩以外は仕事を続けていた。


その気迫に恐れをなし、どうしても必要な場合以外は誰も訪れることはなくなっていた。


「よぉ、調子はどうだ?」


そんな中、部屋に気軽に入ってきた男は軽く片手を挙げならレイドのピリピリした空気も物ともせず、ずかずかと室内に入り部屋に備え付けられいている来客用のソファに腰掛けた。

男のガッシリと筋肉のついた大きな体を受け止め、フカフカとしたソファが沈み込む。


「何の用ですか?」


入ってきた男の無遠慮な態度も、レイドが手を動かしたまま視線すら向けずに応えている事についても、お互い気にしていない点から何時ものことなのだろうと伺える。



「あぁ、特に用は無いんだが…」


「用が無いなら帰って下さい。私は今忙しいんです。どうせまた、ジェイク君から逃げているんでしょう。貴方も良い加減真面目に仕事をしたらどうですか?」


レイドの言葉に男は頭をガシガシと掻きならがら苦笑いを浮かべる。


「あーどうも、書類仕事は苦手でな。剣を振っている方が性に合う。」


「貴方も、黒の騎士団長になったんですから、書類仕事にも慣れた方が良いですよ。毎回、逃げ出す貴方を捜す羽目になるジェイク君に同情しますよ。」


レイドが呆れたようなため息を吐く。いつもなら、この男が自分で書類仕事に戻るか、黒の騎士副団長をしているジェイクが見つけに来るまで放っておくのだが、今日は早くお引き取り願いたかった。一刻も早く仕事を終わらせ屋敷に帰るために、余計なことに構っている暇はない。

左耳につけている、通信の為の魔法石に魔力を流し無詠唱でルーン魔法を発動させると、すぐに相手との回線が繋がった。


「はい。こちらジェイクです。如何されましたかレイド様?」


「あぁジェイク君かい?実は、ここにゲイルが来ているから引き取りに来てくれないかい?」


レイドの言葉に、ソファで寛いでいた男…ゲイルが慌てた声を上げているが、レイドは気にせずに通信を続ける。


「ハッ。かしこまりました。すぐに団長をお迎えに伺います。お知らせ頂きありがとうございます。」


「それまで引き止めておくから。よろしくね。」


レイドが通信を終え、視線を前へ向けるとゲイルが部屋から逃げ出そうとしていた。レイドはにっこりとした微笑みを浮かべながら、右手をゲイルへと向け精霊魔法を発動する。

レイドの右手の甲に紋様が浮かび淡白い光を放つ。


「おっおい。ちょっと待て」


背後からの物騒な気配に気づきゲイルが振り返った時には、レイドの無詠唱による魔法が発動していた。慌てて声を上げるが、既に遅く、光魔法により捕縛される。

ゲイルは、ため息を吐きながらガックリと肩を落として、大人しく書類仕事に戻るしかないことを悟った。

戦いの場なら、いくら相手(レイド)がこの国でも5本の指に入る最高の魔法使いであっても、こんな簡単に捕まったりはしない自信がある。今回は油断も少しはあったが、本気で抵抗するつもりはゲイルにはなかった。いつかは、書類仕事をやらなくてはいけないことは分かっていたからだ。


「はぁーしょうがねぇなぁ。書類仕事に戻るか…。それにしても、いつもなら放って置くのに今日は機嫌が悪りぃなぁ」


ゲイルが少し不貞腐ふてくされたように愚痴ると、レイドが穏やかに笑っているのに寒気を覚えるような笑顔で答える。この笑顔で、宰相として諸外国から自国へ有利な条件をいつも引き出している。


「お互い国の重要な職務についているのですから真面目に働かないと駄目ですよね。私なんて、可愛い娘に会うことも我慢して仕事しているんですから」


レイドの言葉にゲイルは心の中でツッコミを入れる。いや重要なの後半だろう…私が可愛い娘に会うことも出来ずに仕事に追われているのに、貴方だけ逃げだそうだなんてさせませんよ…という言葉が聞こえて来たような気がした。

うん…このやくで間違いない。周囲には上手く隠していたが、学生の頃からこういう奴だった。自分だけが苦労するのを良しとせず、周囲の人間もきっちりと働かせる…そんな奴だった。


その後、迎えに来たジェイクにゲイルを回収…連れて行ってもらい、再び、一刻でも早く屋敷へ帰宅する為仕事に没頭するレイドだった。







それから数日後



ゲイルは再び、書類仕事とジェイクから逃げ、レイドの執務室に訪れていた。

今日のレイドは、前回訪れた時と違い逃げて来たゲイルを気にすることもなく仕事を続けている。

どうやら、あの後やっと仕事から解放され、屋敷に帰ることができ、娘に会えたことで仕事の鬼から元に戻ったようだ。


「娘の様子はもう良いのか?」


ゲイルは、今更だとは思うが、前回訪れた時はレイドの鬼気迫る様子に聞くことが出来なかった彼の娘の様子を聞いて見ることにした。


「えぇ、すっかり元気になりました。最近は、屋敷の図書室に通って勉強をしていますよ。」


レイドが王城では見せたことのないような、心からの笑顔で娘について話すのを見ながら、城の奴らが見たら腰を抜かすかもなぁとゲイルは考えた。


「あぁそうなのか。良かったな。」


「そういえば、貴方のところのご子息も先日5歳になったんでしたよね?」


「下の子供がな。祝福の儀式も終えたから、そろそろ魔力のコントロールを教えないとなぁ」


レイドの言葉にゲイルが自分の子供のことを考えながら嬉しそうに答える。ゲイルも、周囲には子煩悩で知られている。親バカなところが似た物同士なのだ。

ゲイルの言葉にレイドが少し考えるように片手を顎にあてる。

レイドは、ゲイルの上の息子の事を思い出していた。




彼なら、魔力のコントロールの先生として適役かもしれないですね。年もそんなに離れていなからシュカも緊張しないだろうし。下の息子と一緒ならなお良いですね。

魔力のコントロールも覚えられるし、年の近い友達も出来きます。




レイドの頭の中に喜ぶ娘の姿が思い浮かぶ。

本当なら、レイドが自ら娘に教えて上げたかったが、今は仕事から手が離せない。

その為、娘に魔力コントロールを教えてくれる良い先生を探していたのだ。


考え込むレイドを不思議に思いゲイルは問いかける。


「ん?どうした?何かあるか?」


「実は、うちの娘も魔力のコントロールの訓練をそろそろ始めようかと思いまして。どなたか、娘の年に近い良い先生を知りませんか?」


レイドは、有無を言わさない雰囲気で問いかけながら微笑む。

ゲイルはにやりと笑い、直ぐに上の息子を学院の休暇中に家に呼び戻す手紙を書くことにした。

こんなことでもないと、素直に会いたいから帰って来いと息子に言うことの出来ないゲイルは、良い理由が出来たと考えついたからだ。


(まぁ、良いか。リヒトに会うのも2年ぶりだしな。グロームも喜ぶだろう。)


ゲイルは、息子達の事を考え、ニヤニヤと笑った。


そんな姿にお互い、自分はともかくこいつがここまで子煩悩になるとは学生の頃には考えもしなかったがな…と心の中で思った。



ありがとうございました。

次回投稿は来週の予定です。

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