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WORLD SMITH ─ 創星の勇者たち ─  作者: pochi.
九章 道標

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9-7 ”救世主”


 白亜の聖域で日差しを受け、まるで光を放つようにそこにある祭壇。背後の大聖堂から伸びる影が掛かろうと、その神々しさは失われない。白いローブを纏った教徒たちは皆、両手で携えたプレカリオを胸元に、視線を上げる。


 抜けるような真っ青な空と、周囲に植えられた緑の木々──聖域に施された金の装飾。それらに囲まれ、全ての視線を集める子供。タケルはその光景に、話に聞いただけで見たこともない、故郷の”浄土仙境”を想像した。天子が下界の民を見守る、最も神聖で、穏やかで、美しい場所。きっと、景色は全く異なることだろう。だが胸に抱く感動は、きっと似ていることだろう。


 呼吸すら憚られ、無意識に息を潜める。身動ぎひとつ躊躇われる静寂と、真綿の上に立つような浮遊感が融合する。圧倒されているのか慄いているのか、曖昧ながらも張り詰めた空気に身を委ね、タケルは真っ直ぐに、群衆のその先に立つルーメルを見つめた。


「──今、この大地に、異形なる影が現れ始めています」


 ルーメルは静かに女神のお告げを囁く。透き通った高い声がそよ風に流され、木々に触れ、大地を撫でる。


「されど、恐れることはありません。影あるところに光はあり、光あるところに救いはあります。光のもとに集い、お心に従う者たちには、やがて安寧の日が訪れます。──ただし、忘れてはなりません。影は、彼方より忍び寄るものばかりではありません。……欲望に心を奪われ、己を見失うとき、人の内にもまた──影は生まれます。囚われた者は己の心を失い、ついには影とともに浄化されることとなるでしょう」


 海鳥の声や噴水の水音が楽器となり、ルーメルの静かな調べが響き渡る。祭壇の頂に飾られた金のプレカリオが、まるで太陽のように光を拡散させる。タケルは目の前の一枚絵に見入った。ガウリーが使う魔法のような不思議さはない。だが、祭壇は魔力に包まれているかのようだった。


 教徒たちは頭を垂れ、身動ぎせずに声に耳を傾けている。ルーメルも、その周囲を囲む五人の人物たちも、ぴたりと静止したままだ。


「──光を求めなさい。されど、光を仰ぐだけでなく……己の内に潜む影を見失ってはなりません」


 言葉はそこで切られた。教徒たちは一斉に地面に跪き、深く頭を下げる。ルーメルはそれを無垢な瞳で見下ろすと、首から下げたプレカリオを空に掲げた。


「光に感謝を。聖地に平穏を。──女神ルーメリア様のご加護があらんことを」


 大聖堂から鐘が鳴る。定刻を知らせるものとは別の、胸の内に響くような音だ。前方に見える教徒たちに倣い、地に跪いていたタケルたちは、厳かな空気の余韻に浸るように、その音を聴いていた。


「……つまり、どういうことなんだ?」


 鐘が鳴り止んだところで、タケルは跪いて頭を垂れたまま、隣のハロディに囁きかけた。片目を開いて視線を寄越すと、ハロディは囁き声を返す。


「──ここにいて、信仰さえ破らなければ……異形が現れたとしても救われるってことかな」


 タケルが静かに顔を上げる。いつの間にか教徒たちは立ち上がり、祭壇に立つルーメルを見上げている。ルーメルは薄く微笑みを浮かべ、掲げていたプレカリオを胸元に戻した。


 周囲を囲んでいた五人の人物が向きを変え、ルーメルの退出を見送る姿勢を取る。そして、ルーメルが踵を返しかけた時──どこからともなく、新たな声が響いた。


「盲目なる聖地の白き教徒たちよ、その者の言葉を信じてはならぬ! その者は神の器などではない! 光のもとに囚われた哀れな傀儡だ!」


 その声は、タケルたちの背後から響いた。教徒たちが声を探って視線を彷徨わせるなか、タケルたちは門を振り返る。立ち上がって目を凝らせば、教徒たちの通過を見守っていた二人の門番が地に倒れ伏しており、門の上に立つ三つの黒い影が見えた。それは、秘密の夜会に訪れていた客人たちのようだったが、どこか違う。だが、タケルには見覚えがある。


「何者だ⁈」


 祭壇に立っていた五人のうちの一人から声が上がり、周囲を警備していたセラフィムたちが武器を手に門へ向かう。錫杖のように見えるそれは、長い柄の先に刃のついた槍に似た武器だった。


「我々が何者かなど些末なことだ。だが、我々は真実を知る者! 皆の者、教会に騙されるな! 教会は異形を飼っている! それを秘匿するためにルーメルを操り、お前たちを都合よく操ろうとしているのだ!」


 威嚇するセラフィムたちには目もくれず、中央に立つ黒い影は教徒たちに呼びかける。その姿は黒いフードと外套に隠され、一見すると正体は分からない。


「ルーメルは本当に女神の声を聞いてるのかな? ていうか、そもそもこの大地に神様っているの? みんな、少しは考えてみなよ。大地を守ってきたのは神じゃない。人だよ。だって、神様が何かしてくれた? ──これから起こることにも、何かしてくれる?」


 タケルはその声に覚えがあった。アルマがモルの襲撃に遭った時、屋根上で遭遇した──あの黒い外套の人物だ。思わず弓を取ろうとして空振る。武器は全て、宿の部屋だ。


「心して見るんだね。一体誰が救世主なのか。誰があんたらを救うのか!」


 最後の人物が高揚したような声を上げる。それを合図とするかのように、三人が空に手を翳す。すると耳鳴りのような、細く劈く音が響き、同時に空気が収縮する。聖地にいる者は等しく息苦しさを覚え、蹲る者さえ現れる。タケルたちも耳を塞ぎ、その奇妙な衝撃に耐えた。


 不快な音に混じり、別の音が歪む。──海鳥だ。誘われるようにこちらに羽ばたいた一羽が、奇声を上げながらその姿を急激に変貌させていく。


 二枚の翼が割れ、肥大化する。小さな嘴は、人一人など丸呑みしてしまうほどに鋭く伸びる。羽毛に覆われた体には鱗が生え始め、脚が盛り上がり、鉤爪の間には水かきが生え、尾には何本ものヒレが揺れる。目は鋭利な光を帯び、頭部には珊瑚のような角が生え──軋む音を立てながら、小さな海鳥が一体のモルとなる。四枚の翼が羽ばたくと、風が唸った。


「おいおい──!」


 ハロディが靡く髪を抑えながら顔を引きつらせる。それは、タケルたちも同様だった。教徒たちからは悲鳴が上がり、祭壇の側に群がる。五人の人物が驚き戸惑うなか、ルーメルは呆然とモルの姿を見上げていた。


「市民の皆様を避難させなければ──」


 カレンが小さく声を漏らすも、身動きするのが精一杯だった。セラフィムたちも武器を構えることを忘れ、異形の姿を見上げている。


 風に煽られた噴水の水が飛沫を上げ、タケルの頬に当たる。そして、弾かれたように仲間たちを振り返る。


「武器取って来ないと──!」

「正直それまでの時間、ここが耐えられるのかがわからない! ガウリー、杖無しでしばらくアイツの気を引ける?」

「チッ、どうなってやがるんだ⁈」


 タケルの声を受け、ハロディが即座に指示を出す。ガウリーが舌打ちとともにモルの元へと躍り出る。その間に、アルトが門へと駆け出した。


「タケル、行くぞ!」

「お、おう!」

「アルト、一応僕の剣も頼むよ! ヴァルター、君はカレン様を安全な場所に」

「わ、わかった」


 ガウリーがモルの前に立ちはだかり、懐から出した何かを握り締める。同時に彼の周囲で小石が宙を漂い始め、魔力が構築されていく。その背を見送り、ヴァルターとカレンは付近の木陰へ。ハロディはそれに追随しながらセラフィムたちの様子を窺った。


 タケルはアルトに続いて門へ向かう。足が速く身軽なアルトに続くのは至難の技だが、高揚した身体がそれを容易くさせる。


 しかし、門を出ようとしたところで二人の足が止まった。門の上から飛び降りた三つの黒い影が、二人の前に立ちはだかったのだ。


「邪魔をするな!」


 アルトが身構える。体術に覚えのないタケルも、思わずそれに倣う。どう戦おうかと相手の出方を窺うが、相手は意外な行動に出た。


「あんたらの武器だよ。──さあ、存分に戦っておくれよ」


 足元に放られたのは、弓矢と刀、剣と大杖。外套の下に隠し持っていたらしい。その行動の不可解さにタケルはたじろいだ。相手の声は、どこか楽しそうに浮ついていた。


「タケル、詮索は後だ。ひとまず武器を取れ」


 アルトはそう言って弓矢以外の武器をかき集め、さっさと踵を返す。慌ててタケルも弓矢を拾い、矢筒を腰に装着しながら来た道を引き返す。背後から、黒い影の声が降りかかる。


「さあ、とくと見るんだね! あんたらを救うのは女神でも光でもない! 異形に立ち向かう──

救世主だ!」


 思わず振り返りそうになる。だが、黒い影たちの不可解な言動に構っている暇はない。目の前ではガウリーが魔法で風を繰り出し、モルの攻撃をいなしている。援護しなければ。


 祭壇の周囲では、教徒たちが恐れ慄きながらもタケルたちを注視していた。一瞥し、タケルは駆けながら矢を番える。背後からは愉快そうに笑う声が届く。


 アルトがガウリーに声をかけ、杖を投げて寄越しながらモルの懐に向かって駆ける。ハロディの剣はその前に放ったのか、噴水付近を滑っている。タケルはモルとの距離を保ちながら弓矢を構え、アルトやガウリーの動きを見守った。






「何やってんだ! 邪魔な奴らはさっさと掃けさせろ!」


 杖を手に入れたガウリーは、魔力を魔石に集中させながら恫喝するような声音で叫ぶ。ハロディはセラフィムたちを祭壇へ促し、教徒たちやルーメルの安全確保を任せる。その間に羽ばたくモルに対し、祭壇を踏み台にしてアルトが飛びかかった。


 怪鳥と化したモルの甲高い叫びが響き渡る。四枚の翼をうまく扱えないのか、モルは鉤爪で石畳を抉りながら地上をのたうち回るように暴れた。


「ぐっ──近づけん!」


 翼が生み出す強風が、アルトの体を軽々と吹き飛ばす。身軽な彼女でも四方から襲いくる風を避けきることが出来ず、モルの的になることしかできない。


「先に翼を潰す」


 ガウリーが杖を掲げると、魔石が青白く発光した。周囲を冷気が漂い、空中で構築された水の粒がみるみるうちに収縮し、凍りつく。やがて氷は鋭い巨大な矢のような形を構築し、次々に彼の周囲を回転する。氷の粒が散り、温度が下がる。


 杖がモルに向かって振り下ろされる。回転していた氷は順にモルへと放たれ、何本かが翼に命中した。翼の一枚に数カ所穴が開き、そこから黒い靄が漏れる。外れた数本は庭の土を抉って砕け散る。


 翼が力を失うと、モルは再び叫び声を上げた。翼が止まった一瞬の隙にアルトが懐へ飛び込み、もう一枚の翼に居合の一撃を食らわせる。”斬らずの風切”は翼に見えない衝撃を与え、二枚目が力を失う。抜けた羽が靄となって空中に消え、一瞬だけ視界を曇らせる。タケルはそれでも目を凝らし、標的から狙いを外さぬよう注視した。瞬きすら惜しく、目が渇きを訴える。


 暴れ回るモルの瞳が、ひときわ強い緑色の光を放った。瞬間、モルを中心に衝撃波にも似た風が発生し、近くに降り立ったアルトの体を吹き飛ばす。離れて弓を構えていたタケルでさえ、翻弄されて数歩後ずさった。ガウリーは両足を開いてその場に踏みとどまるも、魔力の構築は妨害される。その隙に、モルが太い足を勢いよく踏み出した。


「避けろ!」

「無茶言うな!」


 モルは残った二枚の翼を駆使し、ガウリーに突進した。アルトが警告を告げるが、乱暴に悪態をついたガウリーはその場を動かない──否、動けない。彼はその場に踏みとどまって強力な魔法を使い、相手を追い払う。故に、突発的な攻撃は咄嗟の魔法で防ぐか、その身に受けて耐えるかの二択だ。タケルは口をひき結んで弓を引き絞る。


 嘴が大きく開かれ、巨体に見合わぬ速度でガウリーに向かって振り下ろされる。嘴の中には針のように牙が敷き詰まり、まともに食らえば頭ごと食い潰されてしまうほどだ。ガウリーの杖の魔石が赤く発光するも、間に合うか分からない。


「動くなよ!」


 タケルは大声で警告し、狙いを定めて矢を放つ。奇しくも鳥の鳴き声のような高い音を立て、疾風の如く矢が飛んでいく。ガウリーの肩先を抜けた矢は、まさに食いかかろうとしていたモルの額に命中した。モルは痛みに頭を激しく振って標的を見失うも、暴れた翼の一撃がガウリーの上体を薙ぎ払う。ガウリーはよろめいたが、腰を低く落として転倒を免れた。


 モルから目を離すことなく、タケルは次の矢を番える。真っ直ぐ見据えたモルの背後から、アルトが飛び込んでくるのが見える。アルトは姿勢を低く落としたまま音もなくモルの足元を駆け抜けた。タケルの目は、すれ違いざまに鞘から抜かれた刀がモルの足を薙ぐのを捉える。モルは体勢を崩すも、よろめきながら暴れ回る。もはや自らを攻撃する対象のみならず、その動きは周囲を巻き込んだ。


 嘴が祭壇に当たり、柱が折れる。ルーメルはその場から避難したのか、姿は見えない。周囲に集まっていた教徒たちも、セラフィムの指示によって既に距離を離していた。だが祭壇の柱が崩れたことで、悲痛な悲鳴が連鎖する。杖を構え直したガウリーが、再び舌打ちを放った。


「遠慮なく火が使えりゃ、あんな翼燃やし尽くしてやんのによ!」


 そう言うが、ガウリーは祭壇とモルの間に薄い火の壁を発生させた。一瞬の炎に翻弄され、モルが祭壇から離れていく。だが依然足は止まらず、のたうち回るようにして周囲の建物に傷を刻む。爪が抉った石畳は土が浮き出し、白亜の聖域はあっという間に汚される。


「刹那を穿ち、白き光の茨となりて戒めよ──”ソーン”!」


 教徒たちの集まる方向へ背を向け、剣を構えていたハロディから呪文が放たれる。アルトとガウリーが目を庇う姿を横目に確認したタケルは、反射的に目を庇う。同時に眩い光が周囲を覆った。一瞬で消え去った光は視界に残像を生み出し、ほんのひととき、時間を縫い止められたような感覚に陥る。彼がこれまでの旅路で何度か使用していた、目眩しの魔法だ。


 光の衝撃がモルの動きを一瞬怯ませる。タケルは素早く矢を番え直すと、瞳の焦点をモルに絞った。


 不思議と狙いが分かる。──首筋だ。他の部位より細い首筋がぼんやりと光って見える。タケルが狙いを定めるほど瞳孔は絞られ、虹彩から色が失われていく。


 息を止め、タケルは流れるような力で矢を放った。矢は空中を奔り、吸い込まれるように首筋に突き刺さる。


 モルはひときわ大きな声を上げ、首をのけ反らせた。翼が硬直し、二本の足が力を失い、胴体が、自ら作り上げた瓦礫をすり潰すように倒れ込む。そのまましばらく痙攣していたが、やがてゆっくりと動きを止め──最後は黒い靄となって空中に霧散する。タケルの放った二本の矢だけが、乾いた音を立てて地に転がり落ちた。


 タケルは荒い呼吸で顎に伝った汗を拭った。北の大地の寒さを忘れ、いつの間にか全身に汗が滲んでいた。少し離れた位置で、杖を構えていたガウリーが力を抜き、大きく溜息を吐く。アルトは静かに刀を鞘に収めていた。


「はあ……とりあえず一件落着か……?」


 ハロディは文字通り胸を撫で下ろしながら、剣を鞘に収めた。もう慣れつつあるモルとの戦闘だ。いつもの様子で、戦いの余韻にひと息吐いた。


 だが、ここは聖地だ。そして突然出現したモルは、何者かわからぬ黒い影から差し向けられたようなものだ。それを思い出し、タケルは門の方を振り返る。──果たして、三つの影は、そこにいた。


 中央の一人は静かに佇み、傍の一人は肩を揺らして笑い、もう一人はことさらにゆっくりと、仰々しい拍手をした。


「素晴らしい、彼こそ救世主だ! あんたらもそう思わないかい?」


 拍手を止めた一人は、大袈裟にそう言ってタケルを指し示す。その言葉は、セラフィムの誘導で避難していた教徒たちに向けられていた。


「いいかい、所詮教会は紛い物なのさ! 異形が襲って来ても、実際に助けてくれるのは教えじゃない。異形に立ち向かったあの坊やだ。──あの方はねぇ、異変とともに突然現れたっていう神秘的なお方なんだよ。……ルーメルなんかより、よっぽど価値がある」


 恍惚とした雰囲気さえ醸し出す声音でタケルを崇めたかと思うと、黒い影の一人が唐突に声を低くした。外套の下から黒いグローブが顔を出し、裾を勢いよく跳ね上げる。全身を戒めのように黒い衣服で覆ったその人物は、もう片方の手にボウガンを握っていた。即座に真っ直ぐに構え、瞬時に狙いを定めて何かが放たれる。


 タケルが息を呑む頃には、それはすでに視界の先へと飛び去っていた。振り返り、放たれたものの行き着く先にいる人物を目の当たりにして瞠目する。弓を構えようと閃く頃には、もう遅い。


 標的にされたのはルーメルだった。祭壇の奥、小さな庭園の東屋にて五人の人物とともに避難していたらしい。タケルの動体視力は、その合間を縫うようにしてルーメルに向かって攻撃が放たれたのだと悟った。


 ルーメルが瞬きをした。一瞬の出来事だが、時間が理を破ったかのように緩慢になって見える。タケルが思わず叫びそうになった時、ルーメルの周囲を取り囲む人物たちよりも速く、謎の白い影がルーメルの前に立ちはだかる。白い影は攻撃をその身に受けることなく、不思議な力で跳ね返した。


「──異端者だ! 即刻捕らえよ!」


 五人のうち一人から怒号が飛ぶ。セラフィムたちが一斉に三つの黒い影に向かって駆けていく。タケルは動悸に胸を押さえながら、その様子を見守った。


「どっちが異端者なんだよ!」

「貴様らに我らは捕らえられん」

「あはは、じゃあねみんな! ──さっきボクらが言ったこと、心に留めておくんだよ!」


 黒い外套を翻し、三人は踵を返した。数人のセラフィムがそれを追って門の外へと駆け出していく。あっという間の出来事に呆然としていると、新たな指示が周囲に響いた。


「そやつらも仲間かもしれん! 捕らえよ!」

「──え⁈」


 はっきりと自分たちの方向を指差され、あっという間に残されたセラフィムたちにタケルたち一行は取り囲まれた。付近の木陰に避難していたカレンとヴァルターも引っ張り出され、輪の中心へと投げ込まれる。


「──カレン!」

「どういうことだ! 貴様ら、無礼だぞ!」


 勢いで躓きかけたカレンの肩をタケルが支える。乱暴な扱いにヴァルターが吠えるも、セラフィムたちは彫像のように表情ひとつ変えず、意に介する様子もない。


「チッ」

「ち、ちょっとちょっと! 僕らはあいつらとは、何も関係ないってば」


 ガウリーが盛大に眉を寄せ、ハロディが両手を振って弁明しようとする。しかし彼らもセラフィムたちに追い詰められた。アルトは黙って柄に手を添えながらゆっくりと後ずさる。タケルたちはとうとう、一箇所に追い込まれた。


「これ、どうする……?」

「一度大人しく……従う他ないのかもしれませんわね……」


 タケルが身構えながら呟くと、カレンが神妙な顔つきで観念する。逃れれば、きっとこの街には留まれない。デルカの──道標の情報も集めきれていない。


 ついには一斉に槍の穂先を向けられる。タケルたちは大人しく両手を上げた。


「場所を改めて、──わたくしたちのお話を聞いていただきましょう」

「そう上手くいくかなぁ……」


 少しでも希望を見出そうとするカレンの声に、両手を上げたまま肩を竦めたハロディが小さくぼやいた。


 


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