8-9 白き街の路地裏
デルカをさらに北上すると、気温はますます下がった。泉の水面には薄氷が浮かび、湿った地面を踏む靴が霜を砕く。空は晴れ、太陽が昇っていても肌は震え、小雨でも降ればいっそう刺すような寒さとなる。タケルはアルトのように首巻を口元まで引き上げ、自らの呼気の温度にすら縋った。かじかむ手に装着した籠手の上からでも無意識に手を摩ってしまう。初めて体験する寒さだった。
「──何だか、懐かしく感じてしまいますわ。この、目の覚めるような冷たさ」
「やはり寒冷地は不思議と静かですね。陽があっても夜のような静けさです」
白銀の大陸、イス帝国からやって来たカレンとヴァルターは慣れているためか、息が白く立ち上っていくのを懐かしむように語り合う。馬車の中に避難していたタケルは両足を抱え込んで身を縮めながら、そんな二人に恨めしそうな瞳を向けた。
「冬になれば、この辺は雪が降って真っ白な世界になるはずだよ。その純白こそ、アルビオンの象徴ってことらしい」
いつもより厚着したハロディが御者台から笑いかける。街道は進むほどに細く、岩場や森を避けるように曲がりくねる。器用にハヤテの進路を操る彼は、デルカを過ぎてからずっと手綱を握っている。
「そういえば、ルーメリア教会の方々も純白の装いでしたわね。──今頃、アリアベル様たちはどうしているでしょう」
「光の魔力に目醒めていたようだから……あちこち引っ張りだこになるんじゃないかな? 変に利用されて無いといいけど……ま、あの子結構芯が強そうだったから、大丈夫かな」
寒さを誤魔化すように、緩やかな会話が流れる。それを背中で聞きながら、リリーは馬車のステップに組んだ足を乗せ、遠ざかる景色を眺めていた。
「なあ、この先ずっとこんなに寒いのか……?」
タケルが鼻をすすりながら尋ねると、ヴァルターが小さく溜息を零した。
「そんなに頻繁に気温が上下してたまるか。……街に着くまでの辛抱だ。流石に建物の中は暖かいだろう。──着いたらまず食事を摂って体を温めるか」
「タケル様の故郷は、暖かい場所なのですね」
「山の上の方は寒かったけど……そんなところ、滅多に行かなかったんだ」
タケルは体を摩りながら、馬車の天井を見上げた。幌の上のアルトも普段の装いの上に一枚羽織っているが、刀を振るうのに邪魔だと言って最低限の短い外套しか重ねていない。それでも平然といつものように座禅を組み、周囲の気配を探っている。いつもは腕がむき出しで胸元を開けているガウリーも同様で、長い厚手の外套を重ねているだけだ。それでも平然と外を歩いているが、彼はたまに豪快なくしゃみを放っていた。もしかしたらアルトの手前、弱みを見せられないのかもしれない。
「さあほら、向こうに見える塔みたいな白い建物! あれが聖アルビオン大聖堂だよ。周りを囲っている街が、首都のパースだね」
「まあ、建物まで真っ白なのですね!」
上り坂の向こう側に、背の高い、針のような五本の塔が連なった建物が聳え立つのが見えた。カレンやヴァルターに倣い、タケルも凍える身を起こして御者台の脇からそれを覗く。塔の周囲を囲む街はどれも外壁が白く、どこかアンスールの街並みを思わせる。しかし異なるのは、屋根まで白く染められていることと、目立った装飾が見えないことだ。馬車が近づくにつれて外壁越しに全貌が見えてくるが、決まった形の模様しか目に入らない。タケルはそれに見覚えがあった。アルマのルーメリア教会で見た、プレカリオだ。
星のような放射状の模様に、輪が重ねられたような金の細工。カレンもその模様に見覚えがあったのか、タケルを通してアリアベルから手に入れたプレカリオを懐から取り出した。鎖の下で揺れる金の飾り。街の装飾は、全てその紋様に準ずるものばかりのようだ。
外壁の門へ辿り着くと、門番に引き止められた。巡礼ですかと尋ねられ、カレンが持っていたプレカリオを見せて話を合わせる。念の為アルシオン王の通行証も提示すると、兵士たちは顔を見合わせて小声で何かを話し合い、最終的に一行の通行許可を出した。
「──ようやく到着ね。はあ、なんて空気が淀んだ街なのかしら。……じゃあハロ、それからタケル君にカレンちゃんたち。世話になったわね」
キャリッジハウスを探していると、リリーが馬車から飛び降りて手を振った。突然の行動にタケルやカレンは目を瞠ったが、ハロディたちギルドの面々は呆れ顔だ。
「……本当に世話しかしてなかった気がするけど」
「あら、ちょっとは手伝ってあげたでしょ?」
ハロディが半眼で諦めたように悪態をつくも、リリーはそれを一掃する。距離を取っていたアルトは密かに胸を撫で下ろし、ガウリーは当て付けのような舌打ちを鳴らす。面食らっていたカレンはそんな彼らに関わらずリリーに歩み寄った。
「これから、どちらへいらっしゃるご予定なのですか?」
「あら、お姉さんの行き先が気になるのかしら、カレンちゃん?」
ほんの少し身をかがめ、カレンの耳元でリリーが妖しげに囁く。カレンの背後に控えたヴァルターがあからさまな咳払いをすると彼女は身を起こし直し、両手を腰に当てて笑う。
「でも残念ね。企業秘密なの」
「──……早くどっか行けよババア」
「ちょっと! うら若き乙女に向かってババアとは何よ! アナタって本当に失礼な男ね」
目を逸らし、ぼそりと呟いたガウリーの言葉を耳ざとく拾い、リリーが肩を怒らせる。だが彼女はそれ以上は追及せずにひとつ息を吐くと、踵を返して片手を振り、街中へと去って行った。
「──ま、同じ街にいるならまたどこかでばったり……ってこともあるんじゃない?」
ハロディは苦笑混じりにそう言っただけで、ガウリーを嗜めはしなかった。タケルは仲が良いのか悪いのか分からないやり取りに呆気に取られつつ、キャリッジハウスに向かう後に続きながら、リリーの背中を振り返った。
馬車を預け、白い石畳の街を歩く。建物もそうだが、白い石を選んで造られているためか、同じ石造りでもアルマとは雰囲気が全く異なっている。しかも行商の姿は無く、露店も無い。道行く人々は住人か旅人風の装いの者で、皆足音すら控えるように静かだ。所々に飾られている装飾や旗は金色で統一され、まるで街は雲の上の楽園のようだった。
住民は、すれ違うタケルたち一行に物珍しい視線を投げかけた。値踏みされているというよりは、単純に観察されているような目だ。ちらりとこちらを一瞥しては、視線を落として通り過ぎてゆく。特別こちらに声を掛けるわけでもない。基本的には気さくなアルマでの生活に慣れていたタケルは、あまりの静けさに息を潜めた。
最奥に聳える大聖堂から西側は崖なのだろう。遠く、波の音が聞こえてくる。タケルはそれを懐かしく思った。初めてノヴァの地に降り立ったのは、荒れ狂う海の上のベンダバール号だ。それが、タケルにとって初めて見る海だった。波音を聞くのはあれ以来だ。
「ひとまず食事が出来る場所を探すか。身体を温めながら、情報を得られればいいが」
ヴァルターがそう言って街中を見渡す。同じような建物が連なるうえに派手な看板が無いため、店が見分けづらくなっている。タケルは店探しを早々に諦めてヴァルターに任せると、興味の向くままに街を見回した。
天を衝くような大聖堂の五本の塔。まるで、雲間から刺す光芒にも似た白い外壁が陽光を反射させている。金の装飾がきらきらと輝き、まさにそこから神が降り立つのではないかと錯覚するほどの美しさだ。大聖堂周辺と街は明確に隔たれていて、その造りはアルマやアンスールでも見た光景だ。だが、身分の違いというよりは聖域とそれ以外を分けているように見える。向こう側に見える門を注視すれば、礼拝で行き来する人々の姿があった。皆一様に白いローブを纏い、住民が丸ごと教徒であることが窺える。
「な、なんか緊張するな」
「本当ですわね。こうして街中でお話しするのも躊躇われてしまうほど」
タケルが思わずひっそりカレンに話しかけると、カレンも小さく頷いて笑う。先頭に立って堂々と相談し合うヴァルターとハロディの背後で、二人は肩を竦め合った。
程なくして、一件の食堂を発見した。大聖堂の門にほど近い、路地裏に入ったところだ。軒先で壁に寄りかかり、パイプを吸いながらぼんやりと空を眺めている人物を発見したのが切っ掛けだった。
「──失礼。この街で、食事を提供してくれる店がどこにあるのかご存知ではないか?」
ヴァルターが声を掛けると、その人物は慌ててパイプの火を消して振り向き、居住まいを正した。褐色の肌に、ウェーブがかった短い黒髪。他の住民と違い、白いシャツに黒いベストを纏った給仕風の若者だ。目尻の垂れた目と、深い海の色をした瞳が印象的だった。
「──おっと、珍しい。旅のお客さんですか」
若者はそう言うと、背にしていた建物の扉を開けた。
「生憎、この街は味気ない精進料理を出す店ばっかりなんです。うちなら外の料理もお出し出来ますよ。──まあ、簡易的なものにはなりますが」
ヴァルターが振り返り、タケルたちは顔を見合わせる。すると、若者はさらに声を掛けてきた。
「サービスしますから、さっきの一服はどうか、見なかったことに」
そう言い残し、さっさと店に入ってしまう。タケルたちが再び視線を交わし合うと、カレンがいち早く微笑んだ。
「せっかくなので、こちらのお店にいたしませんか? これも何かのご縁でしょうし」
「しかしカレン様、あの男……少々怪しくはありませんか」
心配性で疑り深いヴァルターが懸念の声を漏らすが、一刻も早く暖まりたかったタケルは何度も頷く。それを見たカレンの意思は固くなる。
「ま、いいんじゃない? 何かあったらその時はその時で。警戒心もほどほどにしないと」
「貴様の楽観視も大概なんだが……。はあ、では、カレン様のお心のままに」
ハロディが慰めるようにヴァルターの肩を叩く。ヴァルターは眉間を押さえて深いため息を吐くと、絞り出すような声で同意を示した。
店に入ると客の姿は無く、若者が店内のランタンを点けて回っていた。とても営業中だったようには思えない様子に、一行は怪訝そうな眼差しを向ける。小さなカウンターと、四人掛けのテーブル席が二つ。随分と質素な店だ。
「自由に掛けてくれていいですよ。見ての通り、他に客はいませんのでね」
若者はそう言うとカウンターの中に入り、腰にサロンを巻いて準備を始める。その言葉に従い、一行は好きな席に着くことにした。結果、カウンター席はタケルとカレン、ヴァルターとハロディの四人で埋められ、アルトとガウリーはそれぞれ別のテーブル席に座る。タケルは席に着くと、カウンター内の店に敷き詰められた瓶の並びを物珍しげに見上げた。それぞれに茶葉のようなものが入っている。小さな花の欠片が入っている瓶もあり、不思議とそれが興味を引いた。
「酒をご所望なら残念ですが、アルビオンではお出し出来ない決まりです。その代わり、森や谷で採れる植物を煎った茶葉が豊富でしてね。──薬みたいな味がするやつもありますが、よかったらどうです?」
若者は気さくにタケルたちに語りかけながらメニューの説明をした。離れて座るアルトとガウリーのことも気にかけず、それぞれに注文を聞いて調理に取り掛かる。一人で切り盛りしているようで、他の従業員は一行に現れない。すると、街に入ってからの緊張感はたちまち解けた。
「いやぁ、お兄さんみたいな気さくな人がいて助かったよ。……ここだけの話、街の人はなんだか、そう……厳格すぎる気がしてさ」
出された料理を口にしながらハロディが若者に話しかける。若者は手を動かしながら肩を竦めて小さく笑った。
「まあ、仕方のないことですよ。ここはルーメリア教徒の地です。住民は丸ごと信心深い人間ばかり。巡礼以外で来る外の人間は珍しいから、どうしても警戒してしまうんでしょう」
「すると、お人さんも教徒ってことになるのかい?」
「……俺は、まあ……そうですね。しがない食堂の人間ですので、神聖な教徒の方々には及びませんが」
ハロディの問いかけに、若者は歯切れ悪く答えて苦笑する。そして次の料理を提供しながら、声のトーンを少し上げて新しい話題を切り出した。
「お客さんたちはどこから? ここには、どういった目的で?」
「まあ、アルマからって言っておこうかな。調べたいことがあって、来ることになったんだ」
「──調べたいこと?」
「そう。今、あちこちで起きてる異変のことは知ってるだろう?」
ハロディはタケルの正体を隠しつつ、”異変の調査”の過程でここまで辿り着いた、と若者に説明した。イルダリアを目指すためにエオローの森へ入りたいが、それが叶わなくなっていること──そして、その手がかりがこのアルビオンの地にあるかもしれないということ。そんな話をかいつまんで打ち明ける。アルビオンの地で勇者の伝承がどう認識されているのか分からないため、タケルに対する配慮だった。
「異変に関しては近く、ルーメル様からのお告げが降りるそうですよ。そうすれば何かしらの導きが示されるはずだという話です。わざわざ調査などせずとも、……お答えは、女神ルーメリアによってもたらされます」
おおかたの話を聞いた後、若者は静かにそう言った。タケルはスープの入ったボウルを両手に持ち、中身を啜りながらそんな彼を見上げる。言っていることの意味はあまり理解出来ないが、信心深いというよりは、どこか諦めたような口調だ。
「ルーメル様、というのはどなたなのですか?」
「このアルビオンを統べるお方ですよ。女神ルーメリアの声を聞く、”神の器”とされる人物です」
「まあ……そうだったのですね。そのお方から、お告げが」
カレンの問いかけに答える時も、若者はどこか物憂げに見えた。ぼんやり見上げていると、カレンを挟んだ向こう側からヴァルターの厳しい視線が向けられているのに気づく。タケルは慌ててボウルをカウンターに置き直し、スプーンを手に取った。以前から”スープはスプーンで掬って口に運べ”と口煩く言われているのだが、どうしても癖が出てしまうのだ。
「あ、あのさ! デルカって街の人がどこにいるのか知ってるか?」
タケルは誤魔化すように若者に尋ねた。突然の問いかけに若者は一瞬目を瞠ったが、すぐに余裕ある表情に戻る。
「……まあ、それでも調べたいというのなら止めはしませんがね。──そうですね……では、懺悔室を回ってみてはいかがでしょうか?」
「「懺悔室を回る?」」
タケルとカレンの声が重なる。若者はそんな二人にふっと笑いを漏らすと、手を止めて腕を組んだ。
「街には教会がいくつかあります。その懺悔室には日がな、罪を赦されようと神に告白する者が絶えません。──それを、盗み聞くんです」
「そ、そんなことが出来るのか……? いや、していいものなのか?」
とんでもない話を持ちかける若者に、ヴァルターが怪訝な目を向ける。若者は余裕の微笑みを返した。
「懺悔室には心許ない仕切りしかありません。空いている席に座って耳をそばだてれば、もしかしたら秘密の情報が得られるかも」
「そ、そんなんで大丈夫なのかい? この前せっかくだからと思ってちょっと見て回ったけど、アルマのルーメリア教会はもう少しちゃんとしてたような……」
「教徒であれば、他人の懺悔に介入しませんからね。盗み聞いて相手を貶めるような者もおりません」
「……なるほど。一般的な街だと噂が広がりそうなところだけど、そういう心配はしなくていいってわけか」
「そういうことです」
ハロディが肩を落として溜め息混じりに笑う。どうやら彼はアリアベルの一件で、暇な時間に教会を回っていたらしい。つくづく探究心のある男である。あのとき流れに身を任せて動いていたタケルは、内心で嘆息した。
「──聖アルビオンは、追い詰められ、罪の意識に苛まれた者が赦しを得るため、最後に行き着く場所でもありますから。……救われるかどうかは、別ですがね」
「……随分、第三者目線の言い方だ」
ハロディの値踏みするような視線を笑って受け流し、若者は食後の紅茶を振る舞った。空になった皿は手際良く片付けられる。料理も紅茶も一人一人違うものを注文していたのだが、若者は一度聞いただけで再度確認することなく、実に円滑にタケルたちの給仕を行った。その無駄のない動きを時折利用して、彼はいくつかの質問を誤魔化している。だがそれが然程気にならない、自然な対応だった。
「……まあ、分かったよ。お兄さんの助言を活かしてみるか。──ところで、名前は?」
茶で喉を潤しながらハロディが尋ねる。すると若者は、洗い物の手を動かしながらぽつりと名乗る。
「ジュー・アトゥと申します。以後、ごひいきに」
ジューと名乗った若者の店を出ると少し歩き、人通りのない路地裏で作戦会議が始まる。暖かい野菜料理とスープで回復したタケルは、寒さで縮こまっていた脳が回る感覚とともに、若干の眠気を感じながら咳払いをして気を取り直す。口火を切ったのはハロディだった。
「じゃ、懺悔することある人?」
「……あの男の話では、懺悔することなど無くとも入り込んでみろということだったのではないか? ……というか、カレン様に懺悔することなどあるわけがない! 行くならお前なんじゃないか?」
「そりゃまあ、僕だって清廉潔白に生きてきたわけじゃないから懺悔すべきことはあるけど、神様に赦しを乞うてもなぁ」
片手を上げて挙手を募ったハロディにヴァルターが噛みつく。これももう恒例となったやり取りで、タケルは溜息とともに背後を振り返る。一様に腕を組み、平然とそこに立っているアルトとガウリーからは手が上がる気配はない。
「じゃあ、俺が行く? 懺悔室ってのはよく分かんねえけど、そこに入って話聞くだけなんだろ?」
タケルが申し出るも、ハロディやヴァルターからは難しい表情が返ってくる。首を傾げていると、ハロディが唸り声を上げた。
「ううん……懺悔室に入るだけなら良いんだけどね。大体は壁の向こうに教会の”聞き手”がいるんだよ。だから黙ってそこにいても不審がられるだけだと思う」
「作り話でもいいから、とにかく何か懺悔がなくてはな」
話によれば、教会の懺悔室には聞き手がおり、最後に「お心が安らかになりますように」「神はあなたをお救いになるでしょう」というような救いの言葉がもらえるらしい。直接対面するわけではなく、壁で隔たれたやり取りなのだという。つまり、何か話さなくてはならないのだ。
「……でも、なんか話しながら隣の話に聞き耳立てるのって、難しくないか?」
「まあ……出来る人と出来ない人がいるよねぇ」
タケルは申し出たものの、そういった芸当には自信がなかった。逆に、絶対にどちらかがおざなりになる自信はある。下手を打てば両方失敗する恐れすらある。頭を悩ませていると、カレンがポンと拳を叩いた。
「では、二人一組で行動するのはいかがでしょう? 一人は語り、もう一人が聞き耳を立てるのです」
「カ、カレン様……⁈ そんな悪知恵……ゴホン、いえ、なんて機転の利いた名案でしょう!」
「──……確かに、懺悔室に一人で入らなきゃいけないって決まりは無いね。付き添いという体で入り込むことは出来そうだ」
日に日に強かになりつつあるカレンに、時折ヴァルターは解釈違いを起こしているような反応を見せることがある。だがすぐに持ち直し、彼女の案を持ち上げた。それにハロディも深く頷く。
「じゃあ早速、ペアを決めて教会を訪ねてみようか」
一行はそうして路地裏の片隅で頭を突き合わせて話し合う。空気の冷える午後の昼下がり、人目を忍んで行われた突発的な作戦会議。その姿を見下ろすのは、白く輝く太陽のみだった。




