表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WORLD SMITH ─ 創星の勇者たち ─  作者: pochi.
第七章 想いの証

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/54

7-5 与えられた舞台


 堂々とカレンたちの前に現れた青年──ロイエンタール・クラウス・アイゼンシュタット。彼は以前、初めてヴァルクスパイア城に赴いた時、ハロディに難癖をつけて来た人物だった。仰々しくも見える軽鎧と長い外套、そして腰に携えた長剣──どれも窓からの日差しを反射し、輝いている。予想だにしなかった人物の登場に、タケルたち三人は呆気に取られていた。


「護衛の依頼ということだが、教会はアルマで最も安全と言っていい場所だ。本来は護衛など不要なのだが……異国の地から来たと聞いた。ならば慣れない地での案内役として付き添うのもまた、勇者ギルドの務め!」


 そんなタケルたちを気にも留めず、ロイは外套を翻す。


「民の如何なる望みにも対応するのが、我が”銀朱の群鳥”の理念だ! 伝承の勇者に倣い、力になろう」


 力強い宣言がホールに響く。自信と誇りに満ちた笑みを見せながら胸を張るロイを、タケルたちは呆けたまま見上げる。カウンターの方からは、閉じた口に阻まれた笑い声が微かに聞こえる。時が止まったようなその空間で、カレンがようやく小さな咳払いをした。


「あ、ありがとうございます……! そうしましたら、教えていただきたいのですが……報酬は……?」


 勢いに押されていたカレンだったが、両手を合わせ、微笑みかけることで調子を取り戻していく。そんなカレンを片手で制し、ロイは首を横に振った。


「今回の報酬は結構だ! 教会への単なる付き添いなどで報酬を要求するのは、筋違いだからな」


 カレンとヴァルターが視線を交わす。タケルはそちらを一瞥するも、目の前の勢いしかない青年をぽかんと見上げていた。


「まあ、なんて良心的なのでしょう! ありがとうございます、ロイエンタール様」

「礼には及ばない。是非今後とも、何か御用命の際は銀朱の群鳥をご贔屓に」


 歓喜の声に恭しい宣伝が重なると、カウンターの方から声が掛かった。


「──お小遣い程度の金額なら、受け取っても良いと思うけどねぇ、ギルド長」

「煩いぞ! 口を挟むなヴェラ!」


 揶揄うような意見に、それまでの威厳はどこへやら、ロイはカウンターを指差し、声を抑えて怒鳴る。そしてすぐにタケルたちに向き直ると、誤魔化すように大袈裟な咳払いをした。


「さ、さっさと向かおう。それで構わないか、お三方?」

「え、ええ……構いませんわ」


 カレンやヴァルターは、店側のやり取りを見聞きしなかったことにするようだ。タケルも平然を装って二人が椅子から立ち上がるのに倣った。


 ロイを先頭に、ギルドの出入り口へと向かう。カウンターの側を通りぎわ、ヴェラと呼ばれていた受付の女性から「お気をつけて」と間延びした声が掛かる。表情はニヤニヤと楽しそうだ。鼻を鳴らすロイが扉に手をかけ、まず外に出る。カレン、ヴァルターが続き、最後にタケルが扉をくぐろうとした時、側のベンチから届いた囁き声がその一歩を止めた。


「タケル君、カレン様がアリアベルと接触する時は、君がロイの注意を引くんだ」

「えっ──」


 思わずベンチを振り向くが、ハロディはそれきり他人の振りに戻ってしまう。タケルは眉を顰めたが、ひとまずカレンたちに続いて屋敷を出た。


 呆然と鈍っていた脳が日差しに照らされて引き締まる。晴天の下、堂々と振舞うロイの軽鎧が陽光を反射する。身ぶりに合わせたきらりと閃いた光に、タケルは思わず目を伏せる。再び目蓋を持ち上げ、室内よりも鮮明に見えるロイの出で立ちを徐々に視界に入れていると、何やらハロディから重大な任務を与えられたのではないかと思い至って固唾を飲む。


 そんなタケルの内心など知らぬ一行は、早速ハイフォールドへの坂を進み始めた。





 教会に赴く市民が行き来する坂道を、ロイの先導で歩く。すれ違う老若男女は「ギルド長」やら「ロイ様」やらと彼に呼びかけ、挨拶を交わした。態度は尊大だが、市民にはどうやらそれも愛嬌だと受け止められているらしい。ロイは短く挨拶を返しながらも、背後のタケルたちへ案内を続けた。


「ルーメリア教会は、アルマがまだ要塞都市だった分断戦期から残っている歴史ある建物だ。この国自体がそれ以上の歴史を持ってはいるが、ほとんどが修復作業などの手が入っている。教会も細かな修復は施されているが、この国では最も手が加えられていない建造物なのだ」

「まあ、そうでしたのね。確かに周囲の建物と見比べると、異彩を放っている気がしますわ」

「総本山である聖アルビオンの建築様式という理由もあるが──……時に、お三方」


 切り出す機会を窺っていたのか、唐突にロイが話題を変えた。坂の折り返し地点で進むのを止め、客人たちに向き直る。隣を歩いていたカレンやヴァルター、一歩引いた位置から追随していたタケルは詰まるように足を止めた。


「はい、何でしょう?」

「あなた方は先日、ハロディと共に行動していた客人ではないか?」


 ぎくりと肩を竦ませ、カレンが口を噤む。タケルもつられたように肩に緊張が走り、そっと目を逸らす。幸いにもロイが話しかけているのはカレンで、タケルの仕草は気づかれていない。


「……そうだが、それが何か? あちらの依頼はとうに済んでいるのだが」


 すかさずヴァルターが答えると、ロイは暫し沈黙した。何か訝しまれているのかと、三人に緊張が走る。ヴァルターが更に何か言おうとした時、予想に反しロイは──盛大に笑った。


「はっはっは! つまりはやはり、最終的には我が銀朱の群鳥が選ばれるというわけだ! 最良の選択をしたな、お客人」


 気圧されつつもほっと胸を撫で下ろしたタケルたちを尻目に、ロイは笑いながら再び歩みを進める。颯爽と翻る外套の裾を見遣ってから、三人は思わず顔を見合わせた。


「……何をしたらあそこまで敵対視されるんだ、アイツは?」


 ヴァルターが呆れたように目を細める。”アイツ”とはもちろん、ハロディのことだ。カレンは苦笑し、タケルは空笑いを溢した。


「ま、まあ……良き好敵手、ということなのでしょうか?」

「あの人とハロディ、気が合わなそうなのは何となく分かる」

「──おい、どうした? 何か気になるものでもあったのか?」


 三人がそうしていると、先を進んでいたロイが振り返って彼らに呼びかける。それまで堅苦しさを含んでいた態度はわずかに緩み、声色もどこか満足げだ。慌てて追いかけると、カレンが真っ先に話題を変えた。


「あの、ロイエンタール様。ルーメリア教というのは、どういった教えがあるのですか?」

「……ううむ、それは……そうだな、教会の修道士に聞くのが早いだろう。客人に対応する者がいるはずだ」


 何やら苦々しい表情でそう答えるロイ。途端に辿々しくなった口調に、カレンは「そうですか」とだけ相槌を打って話題を引き上げる。──そうこうしているうちに坂を上り切ると、通用門を抜けた先の教会へと到着した。





 まるで絵画のような繊細な意匠が施された壁や扉、ステンドグラス。触れたら崩れそうでありながらも荘厳な出で立ち。教会部分に連なる宿舎のような建物すら美しく、周囲を囲う鉄柵さえも美術的な螺旋を描く、壮麗な建造物。それを改めて目の前にしたタケルたちは一様に緻密な彫刻群を見上げた。古めかしさもあるが十分に手入れが行き渡っており、それが厳かな雰囲気を更に際立たせている。カレンは思惑など忘れたかのように両手を合わせ、目を輝かせた。


「近くで見ると圧倒されますわね。遠くからだとひっそりとしているようにも見えましたのに」

「私はこういったものには詳しくないが……聞くところによれば、緻密な美術品には彫刻家や画家などの精密な技術が必要で、それがルーメリア教の神聖さや厳粛さに通ずるのだという。──中はもっとすごいぞ」


 感嘆の溜息が止まないカレンを促すように、ロイが扉に手を掛ける。重い音を立てて開かれた両扉の先では、外観とは違った絢爛な礼拝堂の光景が静かな存在感を放っていた。


 高い天井から氷柱のように螺旋を描きながら落とされた何本もの柱、白を基調とし、金で装飾された両の壁に連なる亀裂のようなステンドグラス──そこから白い床や、左右に並ぶ深い色の長椅子に落とされる彩り。視界の先にある祭壇の背後には、壁に掘られた額縁に収まった巨大な絵画と、六体の像。絵画の前に鎮座する一際厳かな像は、女性が赤子を抱いている姿を繊細に描いたものだ。その側に並ぶ柱の一つ一つには、それぞれ異なる姿の像が明かりを携えた形で佇んでいる。絵画の両側には聖旗が下げられ、そこには光と歯車を掛け合わせたような象徴が描かれていた。


 長椅子に腰掛け、祭壇に向かって祈りを捧げる人々。その仕草や足音だけが響く空間では、流石のカレンも息を呑み込む。祭壇には誰もいないが、壁の小さな燭台に乗ったルビライトを取り換える修道士らしき人物の姿はあった。小さな鉱石が真鍮の皿に溢れる音が天井に響き、それを追うように上を見上げれば、一面を彩るような絵画がこちらを見下ろしていた。


「これはロイエンタール様。お連れの方は礼拝のお客様でしょうか?」


 ロイに代わって扉の取手を預かり、囁くように尋ねる声が掛かる。身動ぎひとつ取るのにも慎重を要しながら一行がそちらに視線を向けると、白い修道服に身を包んだ女性がひっそりと佇んでいた。


「ギルドの依頼で来たのだが、異国の客人を案内してほしい。手の空いている者はいるか?」


 張りのある声量のロイも、ここでは流石に極力静寂に紛れるようにそっと問いかけた。修道女は客人を聖堂へ招き入れると、そっと扉を閉じて手を胸に当てた。


「それでしたら、案内役がございます。連れて参りますので、しばしこちらでお待ちください」


 手近な長椅子に誘導され、礼を告げてカレンとヴァルターが静かに腰を下ろす。修道女は祭壇の方へと去って行くが、タケルはその場に立ったまま動かなかった。訝しんだロイが、その背後で眉根を寄せて腕を組む。鎧の金属音が控えめに周囲に跳ね返った。


「……どうした?」


 タケルはロイを振り返り、何度か左右に視線を泳がせた。何か言いたげな様子で口元を開閉させ、しまいには頬を指先で掻く。その不可解な仕草にロイが眉間の皺を深めたところで、ようやくタケルは口を開いた。


「あ、あの……さ。俺、外からもっと見てみたいな。その……カレンたちはここの人に任せて、あんたが案内してくれないか?」

「──何だと?」


 あまりに意外な申し出に、ロイのみならずカレンやヴァルターまでもがタケルを振り返った。それがタケルの心臓を容赦無く跳ね上げる。緊張に戦慄く胸を抑え、強引に口の端を持ち上げて無理やりな笑顔を作ると、タケルは目配せを送るような眼差しをカレンたちに向けた。


「俺、ここの空気はちょっと、苦手かも、って……」


 そう言いながら、タケルは内心で”苦しい言い訳だ”と自責した。同時に、脳内ではハロディの言葉が反芻される。自分がロイの注意を引き、カレンたちから引き離さなければならない。その指令を全うするには、今しかないと思い至って絞り出したなけなしの案だった。


 タケルの内心を汲み取ったか否かは定かではないが、カレンはひとつ首肯しただけだった。それに頷き返すと、タケルは窺うような眼差しでロイを見上げる。眉根を寄せた表情が疑いの目にも見え、思わず固唾を飲む。


「……いいだろう。では、案内役が来るまで外で待っていろ。私は二、三言伝を残してから行くのでな」


 意外にもすんなりと了承の意を返され、タケルは目を瞠りつつも何度か頷いた。そっと扉に手をかけ、カレンたちを振り返る。微笑んで会釈するカレンの隣で、静かに睨み付けてくるヴァルターをやり過ごしながら体を外に滑り込ませ、神聖な静寂から逃れる。カレンの護衛として着いてきていたはずなのに離れるのは忍びないが、いた仕方ない。ヴァルターの視線は痛かったが、教会の側にいればどうにかなるだろうと無理やり楽観視することにして、タケルは近くの柵まで歩き、鉄柵に背を預けた。






 そのまましばし待つと、ロイが一人で教会から姿を現した。首筋に手を当てて解すように回し、視線の先にタケルを確認すると背筋を伸ばして歩み寄る。タケルも預けていた背を浮かせると、姿勢を正した。


「待たせたな」

「ううん、別に」


 ”外を見たい”と言いつつも動機が曖昧なタケルは、ロイの出現に内心で頭を抱えた。さて、この次はどうすればいいだろうかと。この場には、いつも良き案をくれる仲間はいない。タケル自身がどうにか時間を稼ぐため、切り抜けなければならない局面なのだ。


「で、どこを見たいのだ? 外にあるといえば薬草畑や庭ぐらいのものだがな」

「た、建物……とか?」

「──建築様式や美術について聞きたいのならば修道士に聞くのが早い。私も詳しいわけではないからな」

「あ、ち、ちょっと待った!」


 あやふやな態度のタケルに眉を顰め、ロイが教会へと戻ろうと踵を返しかける。慌てて引き止めると、タケルは観念したように溜息を吐いた。


「実はその……俺、あとの二人に着いてきちまったってだけで……そんなに教会に興味あるってわけじゃないんだ。でもそれ知られると気まずいから、教会に案内してくれる人がいるなら……その、俺は外見てくるってことにして、抜け出したかったっていうか、何ていうか……」


 口をもごつかせながらぼそぼそと、脳内で必死に練り上げた”それらしい言い訳”を言葉にして紡いでいく。黙って聞いていたロイは、タケルの声が尻すぼみになったところで盛大な溜息を吐いた。


「──まあいい。ならば私の分かる範囲で説明する。それで時間を潰して彼らを待つか。……正直な話をすれば、私も教会の空気には慣れんのでな」

「そ、そうか」


 タケルはほっと胸を撫で下ろした。どうやらロイは教会が苦手のようだ。タケルの案がすんなり通ったのも、それが理由らしかった。


 ひとまず二人は、手持ち無沙汰に薬草畑などを見て回った。聖職者の手によって育てられた様々な形状の葉や花が、整然と区切られた状態で配置されている。これらはそのまま煎じて使用される場合もあるが、多くは薬師に届けられ、調合されて医師や市井に出回るという。野生よりも神聖なる教会で育った薬草の方が効果が強いとされており、その場に生えているものは全て、調合薬にすると高級品となる。これらの売り上げや寄付を元手に支援を行う──それも教会の在り方のひとつなのだと、ロイは歩きしなに語った。


 タケルは彼の説明を大まかに聞き入れながら、ぼんやりと周囲を見渡していた。庭や薬草畑を世話するのも、聖堂で見た修道士と同じ格好をした者たちだ。どうやら教会では、聖職者以外の特定の生業が無いようだった。


 程なくして会話も尽きた。外周のうち立ち入りの許された箇所はあらかた回りきり、二人は手持ち無沙汰となる。ロイが言うには、カレンたちを案内する修道士によれば、日暮れ前には案内も終わるとのことだった。しかしライオネルの依頼がある以上、予定通りに事が運ばないという可能性もある。タケルは教会の観察などすっかり忘れ、話題を絞り出すために頭を捻った。


「勇者ギルドってさ、その……どういうもんなんだ? 昔いた勇者って奴の真似していろんなことするところだってのは聞いたけど、いまいちよく分かんなくてさ」


 何となしに尋ねたことだった。それについてロイが長い間語ってくれたら御の字だという、細やかな願いを込めた問いかけ。だがそんなタケルの予想に反し、答えは何倍もの熱量を帯びた形で返された。


「……真似をしているなどとは聞き捨てならん! ”意志を継いでいる”と言っていただきたものだな」


 静かな庭に、多少の怒気を含む声が響く。花壇を見下ろしていたタケルが顔を上げると、振り返ったロイの険しい眼差しが彼を射抜いていた。


「かつて、伝説の勇者は混沌とした海裂災期を救うと宣言し、その特殊なる力を発揮し、人々を様々な災厄から救出して回ったのだという。勇者ギルドはその意志を継ぎ、勇者に代わって人々を助ける役目を担っている。このアルマという国が、その始まりの地であることを誇りとして掲げる証左の意味合いもあるが、どちらにせよ──」


 ロイは僅かに目を細める。


「──崇高なことなのだ」


 タケルは、相槌を打つのも忘れて閉口した。まさかこのような展開になるとは思いせず、動揺が表に出てしまう。彼と同じ勇者ギルドを営むハロディのように、どこか軽い口調で……とまではいかないが、少なくとも淡々とした説明が返ってくるものだとばかり思っていた。だが目の前の青年の瞳には、熱い炎が揺らめいている。そしてどう返そうかと迷うタケルを置いて、溢れる思いのままに口を開く。


「民がその崇高さを忘れようと、我々が理念を脅かしてはならない! 例え平和な世であろうとな」

「……分かった、ごめん」


 剣幕に押され、タケルが詫びる。それでいくらか気分が戻ったのか、ロイは鼻を鳴らした。


「だが近頃は──災厄の再来が危ぶまれている。我々銀朱の群鳥もかつての勇者の如く、方々に出回っているわけだが……噂では、”伝説の勇者疑惑”を持つ者が出現したらしい。つまり伝承をなぞるなら、再び救済の兆しが現れたということになるが、しかし──」


 その先は、独り言のようなものだった。ロイの中で燻っていたものが静かに吐き出されて行く。タケルは何も口を挟めずにいたが、”勇者疑惑”という言葉を聞くと、全身を稲妻が通り抜けたのかと思うほどに緊張を覚えた。


「──”俺”からすれば、そいつは偽物だ。この有事に名乗り出ぬなど、勇者ではありえない。故に銀朱の群鳥は、民が希望を捨てぬ為にも勇者らしくあらねばならん。そう……伝説の勇者よりも勇者らしくあるという志すら持っていなければ、な」


 そこまで言って、ロイは踵を返す。数歩進むが、タケルが後に続かない事に気づき、再び振り返る。俯くタケルに頸を掻いて、小さく舌打ちをする。罰が悪い様子で咳払いをひとつ溢すと、タケルに歩み寄った。


「すまない。君に対してぶつける言葉では無かったな。私はこの手の話になると──」

「じゃあ、あんたは今ここで、”お前は伝説の勇者かもしれない”って言われたら、名乗り出るのか?」


 タケルの言葉がロイを遮る。押し殺したような声をロイが訝しんでいると、俯いていた顔が上がり、怒りとも戸惑いともつかない歪んだ表情と対峙する。静寂の庭に似つかわしくない燻った感情が風を生み、草をざわめかせた。


「この国のことなんか何も知らねぇのに、自分には何の力があるのかも分かんねぇのに、急にそんなこと周りから言われたら? そのまま受け入れて、自分は勇者だって言い切れるのか?」


 ロイは少なからず動揺したが、すぐに違和感を覚えたようだった。些細な質問にしては、言葉に感情が乗りすぎている。そう思ったところでまじまじとタケルを観察し、逡巡し──ある疑惑に辿り着く。


「……災厄と共に現れた、異国風の人物……君はそういえば以前、風変わりな服を着ていなかったか?」


 タケルが歯噛みする。しかし今は自分の正体が知れることよりも、投げつけた疑問に対する答えが欲しかった。


「そうだ、君はハロディと共にハイフォールドから下りて来た。奴がハイフォールドで用事があるとすれば城しかない。──勇者の噂ならば王に奏上され、即刻精査されるはず……だが王は防衛と調査に騎士や兵を投じるのみで、目立った動きをお見せにならない。だが、海裂災期にアルマが防衛に徹したのは、勇者との約定があったからこそ……」


 ロイの呟きが重なり、彼の中で記憶と情報が整理されていく。そして今目の前にいる少年が、記憶の片隅にいた風変わりな格好の少年と重なる。彼の中で情報が組み立てられると、その眉間が盛大に寄せられた。


「だが、しかし……いや、つまり──そういうことなのか?」

「答えてくれよ」


 タケルは、ロイの言葉に耳を貸さなかった。ただひたすらに答えを求め、それ以外は受け付けないという意思が瞳に宿っている。ロイは腕を組み、顎を持ち上げた。


「フン、ならば答えよう。俺なら……自分に勇者たる素質が認められたのならば、それに報いるためにも名乗り出る。──何があろうと、だ」

「…………それは、あんたが”勇者ギルド”をやってるから言えることだろ。俺はそもそも勇者なんて知らなかったし、聞いたってちっともしっくり来なかった。それなのに……」


 高らかな宣言に気落ちした反論が返される。タケルはロイの発言に納得出来ず、それでいて目の前の自信に満ちた姿に意識の奥では気圧されていた。自分の思いは当然だと思うのに通用しない──何度も葛藤し、励まされ、心の中で整理をつけていたはずのものがまた、新たな荒波によって氾濫の予兆を生む。


 はじめは「勇者」と紐づけられるのが嫌だった。しかし今は、ロイの「勇者は偽物だ」という言葉がタケルに、旅を経て折り合いを付けた感情を否定されたように感じさせていた。それは、タケル自身も気づかない小さな矛盾だった。


「──成程。此度の勇者は腑抜けだったというわけか」


 感情を押さえ込んだような眼差しで黙り込んだタケルを、ロイは鼻で笑った。吐き捨てられた言葉がタケルの脳に歪な熱を呼び起こす。力の籠もった眉間を気にも留めず、ロイは続ける。


「使命とは崇高なものだ。それが他でもない、星から与えられたものであるのなら──何にも変えられない自己証明ではないか。……かつての勇者は自ら名乗りを上げ、与らえた舞台で己にしか出来ない使命を全うした。それは他ならない、誇りのはずだ」


 組んでいた腕を解き、外套を翻す。教会の日陰の下で臙脂色の布がはためき、彼の纏う銀の鎧が、どこからか反射した光を受けて鈍く煌く。その様を、タケルは睨むようにして見ていた。


「なのにこの有事のさなか──勇者に近しいとされる者が、異国の客人に混じって観光しているだと? そして皮肉にも、勇者ギルドを統べるこの俺が、その案内役として付き添っているなど……」


 ロイは左手で腰の帯刀ベルトに収めた剣の柄に触れ、握りしめる。そして口元を引き締めると、挑戦的な眼差しでタケルを射るように見下ろした。


「お前、剣の心得はあるか?」

「──は?」


 唐突な質問に、タケルは顔を顰めた。だがロイはそれ以上口を開かず、ただ答えを待っている。知らず、昂った気を紛らわすような、溜息にも似た吐息が口の端から漏れた。


「……ガキの頃、習った程度なら」

「そうか。ならば、ついて来い。教会には興味など無いのだろう?」


 ロイは踵を返すと、横目で振り返ってタケルを促した。戸惑いを見せる彼に、更に彼はこう告げる。


「剣をもって──お前の性根を叩き直してやる」


 タケルにしてみればそれは無茶苦茶な申し出だった。「馬鹿馬鹿しい」と言って断ったって良かった。


 だがタケルは、その理不尽な誘いを切り捨てることが出来なかった。ここで背を向けるにはいかない。相手の中に勝手に出来上がった自分を、否定しなければ。


 足は無意識に進み、了承の意を伝える。ロイは満足げに鼻を鳴らすと、颯爽と敷地の出口へと向かった。





 移動はほんの僅かだった。庭園のような道を渡って少し進んだ先にある屋敷の前で、ロイは足を止めた。紋章が納められた鉄の門を開き、整えられた庭を抜ける屋敷までの短いアプローチを堂々と進んで行く。タケルはその背を追いながら、左右対象に整った石造りの屋敷を見上げた。いくつもの窓が静かにこちらを見下ろしている。外観は銀朱の群鳥の屋敷によく似ていた。


 ロイは一度屋敷内に消え、再び現れるとガーデンパスへとタケルを促した。屋敷に沿うようにして奥へと進むと、庭とは別の短い草で整えられた空間に出る。ロイはその奥にひっそりと佇む小屋へと迷いなく進んだ。


 鍵を開錠し、重厚な木製扉が開かれる。隙間からは木屑や皮のような籠もった匂いが、新鮮な空気を渇望するかのように漏れ出ていく。ロイの後に続いて中へ入ると、タケルはひりついていた心をしばし忘れ、その光景に目を奪われた。


 壁にずらりと掛けられた、形や長さの異なる数本の剣。使い込んだ皮の防具の数々、傷痕だらけとなった木製のダミー、藁の束──石の床には木屑や砂のヴェールが薄く被さり、少しの風の動きで塵となって舞い上がる。小屋の上部には小さな穴が開けられており、そこから漏れる光がそのひとつひとつを照らしていた。


「好きなものを選べ」


 扉の前で呆けたように内部を見渡していたタケルを差し置いて、ロイは剣掛けを指し示した。短く告げた後は自らの装備を外し始め、ひとつひとつを空いている武器架やペグに掛けていく。短く返事をしたものの、タケルは剣掛けを眺めながら呆けたままだった。装備を外し終えたロイは溜息を吐くと、迷いなく一本を手に取った。


「全部フェダーだ。当たってもさほど支障はない」

「ふぇだー?」

「……知らんのか? 訓練用の剣だ──とはいえ、本気で打ち合えば致命傷にもなるがな」


 そう言い残すと、ロイはさっさと小屋を出て行く。タケルは唾を飲み込み、なぞるようにひとつひとつの剣を眺めた。そして刀に似た刀身のものを選び取ると、手触りを確かめるように柄を握りしめ、軽く動かす。訓練用だと言われた通り、剣は刃を抜かれていた。鍔の先の刀身だけが広がったような妙な形をしていたが、重さも申し分なく手に馴染む。タケルは気を引き締めるかのように首肯すると、ロイを追って小屋を出た。


「致命傷相当の一撃を一本とする。三本先取と言いたいところだが、俺とお前では剣の腕に差もあるだろう。お前は俺から一本でも取れれば勝ちでいい」


 外では、早速剣を構えたロイが待っていた。タケルが出てくるなり勝負の条件を突きつける。タケルは訝しみながらもそれに対峙した。


「──これって、何の勝負なんだよ?」

「性根を叩き直すと言っただろう。お前にお前なりの信念があるなら、それを剣に乗せて俺に打ち込め。お前が勝ったらお前の言い分を認めよう。──だがその前に俺が三本取ったら、お前に勇者たる覚悟を決めてもらう」

「俺が本当に勇者かなんて、わからねぇのに? 特別な力なんて無い。俺にしてみればこんな状況、訳が分からねぇんだ! それなのに、勇者の覚悟なんて……俺はただ、故郷に帰りたいだけだ。その方法を探す途中で何か協力できることがあるならやるけど、”俺は勇者”だなんて、名乗ってまでやるつもりはない!」

「特別な力を自覚せずとも、持っているから選ばれるのではないのか? それを探ろうともせず否定するなど、宝の持ち腐れというものだ。──まあ御託はいい。とにかく始めよう」


 ロイが剣を構えた。右肩の上に担ぐようにして高く掲げ、鋒をタケルへと下ろす。タケルは舌打ちを溢してそれに倣った。青眼に構え、草を踏み締める。戦いは合図も無く、静かな距離の読み合いから始まった。


 タケルは構えた剣の鋒を、ロイの瞳に合わせた。高く掲げられた刀身から覗くように、ロイはタケルをひたと見据える。風が凪ぎ、草の音が止んで無音となる。そうなれば相手の動きを読む助けとなるのは、瞳や手足の動きだけだ。


 まず動いたのはロイだった。一気に距離を詰め、高く掲げた剣をそのまま振り下ろす。タケルは刀を受けるように衝撃を防ごうと構えるが、叩き付けられた一撃の違和感に蹈鞴を踏んだ。予想していた何倍もの重み、そして、しなるような剣の薄さ──当たり前だが、刀とは違う。それを今になって実感する。顳顬に汗が滲んだ。


 ロイは間髪入れず肩を狙う。それをかろうじて受け止め、その衝撃に再び顔を顰める。後ずさる足を追うようにして、ロイはタケルを追い詰める。肩の次は腰。これもタケルは受け止めるが、反応に体が追いつかず刀身がぶれる。ロイはそれを見逃さなかった。


 フェダーの広がった根本を利用し、ロイはタケルの剣線を巻き込むと、そのまま絡めとった。タケルの剣は弾かれ、草の上で小さく跳ねる。倒れ込んだタケルに鋒を突きつけ、ロイは静かに告げた。


「一本だ」


 そう言って踵を返し、元の位置に戻る。タケルは眉根を寄せて立ち上がると、剣を拾った。


 二戦目。タケルは再び青眼に構えた。ロイも先ほどと同じ構えだ。高い位置から繰り出される一撃を受けた感覚を思い出す。一撃は重いが、動きは大きい。まともに受けるよりも避けて勝機を窺うべきかと逡巡する。記憶の彼方に追いやったような剣の手触り。弓を引くより近い、相手との距離。タケルの心臓は焦燥に高鳴る。


 次もまた、先に仕掛けたのはロイだった。同じように振り下ろされる剣を、斜めにした刀身で背後に受け流す。衝撃が柄まで伝わって手が痺れるが、なんとか堪える。背後を取ったタケルに向かって振り向き様の横凪ぎが襲う。タケルは飛びすさり、紙一重でそれを躱す。シャツの布が触れて引っ張られ、一瞬息が止まる。態勢を立て直した瞬間にはロイが距離を詰め、避けるために片手持ちになっていたタケルの剣を弾き落とした。その鋒は、タケルの喉元で止められる。


「二本」


 あっという間に追い詰められた。いつの間にか息も荒くなり、肩が弾む。だがそれはロイも同様だった。タケルは再び剣を拾い、青眼に構えた。


「こんなものか」


 最後の一本を前に自分の拳を見つめ、ロイは言った。諦めでも蔑みでもない、どこか怒りを含んだような僅かに震えた声の呟き。意識が湾曲ししたかと思うと、その声に重なって脳に蘇る声があった。


『弓を取りたいのならまず刀を取れ。そして目の前の障害を打ち倒してみろ──』


 再び構えるロイに、記憶の影が重なる。二つがぶれて曖昧になると、タケルは指先が白むほどに柄を握りしめた。 


『──出来るものならな』


 タケルは、瞳の奥が燃えるような感覚に囚われた。その熱に従って、足を踏み出して距離を詰める。ロイは瞠目して受け止める体制に入った。


 まるで剣が邪魔だと言わんばかりに、タケルは何度もロイの剣の刀身を襲う。──否、刀身ではない。瞳はその先の本体を真っ直ぐに捉えている。ロイはタケルの奇妙な刀捌きに翻弄された。流れるような一閃に混じる容赦のない突き、受け止めたと思えばすぐに襲ってくる次の一手。剣の扱い方がまるで違う。ロイは後ずさる自らの足に苦々しく舌打ちすると、隙を見て中段から襲いかかる。だがそれは飛び退って避けられ、空を斬った。


 静かな距離の読み合いが始まる。ロイが一歩踏み出そうとすれば、タケルはその分後ろへ下がる。だがタケルが素早く距離を詰めれば、互いの刀身の間で火花が散る。タケルは強引に剣を進めようとはせず、距離を詰めては飛び退る。それは、ロイの心を乱すのには十分だった。


 痺れを切らしたロイが、一気に距離を詰めながら刀を振り下ろした。二本目同様、タケルはそれを剣で受け流す。その刀身は先ほどより安定していた。


 ロイは振り向き様に剣を横凪ぎに払った。タケルの隙を生んだ一手だが、同じ手だ。今度は難なく躱す。そして詰め寄るロイに立ち向かうと、繰り出された一撃に向かって剣を払う。


 草の上を跳ねて落ちたのは、ロイの剣だった。勢いのまま両手を地面についたロイの額に、タケルの剣が突きつけられる。肩で息をするタケルに合わせてそれは不安定に揺れていたが、それでも勝敗は明白だった。


「そこまでだ」


 突然、屋敷の方から鋭い声が響いた。息を整えながら剣を下ろし、タケルはシャツの袖で顎に垂れた汗を拭う。声の方へ視線をやれば、騎士の鎧を身に纏った青年がゆっくりとこちらへ向かってくるところであった。


「仕事はどうした、ロイ」


 青年は二人の間を通り過ぎ、落ちた剣を拾い上げる。ロイは俯いたまま動かず、応えない。タケルは戸惑いのままに二人の様子を窺った。


「与えられた仕事もせず、このような昼間から……庭で市民と剣遊びか?」

「あ、兄上……」


 ようやくロイの口から絞り出された言葉。タケルが青年をまじまじと観察すれば、確かにロイとにた顔立ちをしていた。ロイと同じ濃いブラウンの髪は長く、高い位置で一つに束ねている。後毛ひとつ漏らさず固く結い上げた総髪と、鋭い目つき、真っ直ぐな姿勢。若いが、厳格な風貌が威厳を生んでいる。


「書類を取りに立ち寄ってみれば……ああ君、我が愚弟が無礼を働いたようですまないな」

「あ、いや……」


 唐突に声を掛けられ、言葉に詰まる。半ば呆然としたタケルの手から剣を優しく取り上げると、青年は微笑んだ。


「少し見ていたが、変わった剣を使うのだな。君の才能は申し分無い。だが訓練相手が適さなかったようだ」


 穏やかにそう言って二本の剣を携え、小屋の中へ消えて行く。タケルは思わず、かがみ込んだままのロイを見下ろした。草を捻り潰すかのように、強く拳が握られている。


 程なくして小屋から出て来た青年は腕を組み、感情のこもらない目でそんなロイを見下ろした。


「さあ、お前は仕事に戻れ、ロイ。アイゼンシュタット家の人間として、その名に恥じぬ働きをしろ。お前が父上から与えられた使命は、剣を取ることではない。ギルドを立派にまとめ上げることだ。何のためにギルド長の座を与えられたと思っている」


 乾いた言葉を言い残し、鎧の音を響かせながら青年は去って行く。タケルはその背を途中まで見送ったが、ロイは一度も顔を上げなかった。握った拳が草の上に叩きつけられる。タケルが瞠目すると、ロイは亡霊のように立ち上がり、小屋の中へと消えて行く。


 見知らぬ屋敷の片隅にある庭に取り残されたタケルは、今更になって耳に戻って来た風や草の音を聞いた。それに混じり、小屋の中から金属がかち合う音がする。汗で冷えた体を無視してそちらに向かおうと一歩踏み出すと、扉は開かれ、中から鎧を纏ったロイが姿を現す。その表情は、不遜なものに戻っていた。


「──フン、邪魔が入ってしまったが、君の実力は認めよう。約束通り、一本取った君の勝ちだ。私の価値観を君に押し付けるのは止めるとしよう」

「お、おう……」


 先ほどの事など無かったかのように振る舞うロイに、タケルは狼狽えながらも首肯した。教会の庭で言い合った時の怒りにも似た感情、剣を交えていたときの焦燥感、全てを風が攫っていく。


「戻るぞ。教会の案内も終わった頃だろう」


 タケルを促し、去って行く背中が以前よりも小さく見える。その姿を払うように首を振ると、タケルは小走りにその後を追った。





 教会へ戻るまでは無言だったが、距離は離れていない。気まずい時間を吹き消すように視界に入ったのは、扉の前で並んで佇むカレンとヴァルターの姿だった。カレンがいち早くタケルたちの姿を見つけると、二人に駆け寄る。その後を慌てて追うヴァルターの眉は、怒りに吊り上がっていた。


「タケル様、ロイエンタール様! ああ、お姿が見えないのでどうされたのかと心配しましたわ。何があったのです? ご無事ですか?」


 道端で、タケルとロイに怪我が無いかと観察を始めるカレン。どう答えたものかと頬を掻いたタケルは、カレンの背後で鬼の形相を見せるヴァルターに肩を竦めた。


「すまない。私の所用で付き合わせてしまったのだ。何も問題は無い」


 ロイはあっさりとそう答える。タケルはそんな彼を横目に見遣って、複雑に表情を歪めた。


「教会の案内は無事に済んだのか?」

「ええ、ロイ様のご紹介でつつがなく。ありがとうございました」

「ならば良かった。では、戻るとするか」


 教会を後にし、四人はセントラルへ引き返す。その坂道の途中、ロイと話し込むヴァルターの後ろでカレンと並んで歩いていたタケルは、こっそりと彼女に耳打ちした。


「あのさ、渡せたのか?」


 途端にカレンの表情が曇る。タケルが目を丸くしていると、今度はカレンがタケルに耳打ちした。


「それが……お断りされてしまったのです。”受け取れない”、と」

「え?」


 思わず素っ頓狂な声を上げたタケルに、前方の二人が振り返る。慌てて両手を振って誤魔化すと、タケルは再びカレンに耳打ちする。


「どういうことだ?」

「わかりませんわ。詳しいことは後でお話ししますが、困ったことになってしまいました……」


 耳打ちを返され、タケルは肩を落とすカレンを見下ろすと、天を仰いだ。どうやらこちらに一悶着あった間、カレンたちにも一悶着があったらしい。


 空はこんなに青いのに、気分は曇天だ。賑わうセントラルが近づく中、タケルはこっそりと溜息を吐いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ