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WORLD SMITH ─ 創星の勇者たち ─  作者: pochi.
第七章 想いの証

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7-4 群鳥の巣



 ロワーサイドの人間が教会から拒まれている──となると、ずっと頼りにしてきた案内役でもあるハロディを頼ることが難しい。アルトやガウリーであってもそれは同じだ。むしろハロディより受け入れられ難い可能性の方が高い。


 円滑に依頼をこなすなら、妥当なのは貴族であるカレンが教会へ赴く方法だ。しかし、彼女とその従者であるヴァルターのみで教会を訪れたとしても、所詮は異国人。怪しまれず行動するならば、現地の協力者が欲しいところだった。


 何かあった時の護衛としてタケルを同行させるにしても、異国人以上の存在だ。彼は、”教会”というものの存在意義を先程ようやく理解しかけたばかりだった。


「えっと、つまり……るーめりあっていう神様がいて、その人に祈る場所だから……ううん、”鏡社”みたいなもんなのか?」

「”カガミヤシロ”?」


 食事の片づけられたテーブルでの、食後のティータイムを兼ねた今後の作戦会議。その最中に始まった”教会”という印象の擦り合わせで、タケルは眉間を寄せて目を閉じ、なんとか自らの故郷と繋げようと試みる。そうして捻り出された呟きに、カレンとハロディが興味津々といった体で身を乗り出した。


「……天子様の御心と、己の心を写す澄泉鏡っていう泉があるお社のこと。あんな、教会みてぇな立派な建物じゃないけど」

「へえ、”スイセンキョー”、ね。泉っていうとすごく自然的な感じがするけど、まあイメージとしては似て非なるものってことでいいのかな」

「なんだかとっても、神秘的で幻想的な場所が思い浮かぶようですわね」

「なんか、今さらだけど……目が回りそうだ。あんたらの国って、どこもかしこも、何ていうか……ざわざわしててさ」


 タケルは、これまで訪れた国や街の風景を思い出す。白を基調として鮮やかに彩られた、海辺の街エレヴァン、石に囲まれ、複雑に入り組んだ堅牢なアルマ、湖に浮かぶ美しい重層構造の国、アンスール──どの地も建物が密集しているようで、タケルにはまるで迷宮のように感じられた。唯一親近感が湧いたのは、素朴な宿場町のリューデだけだ。


 アルマのルーメリア教会は、平坦な要塞といった印象のヴァルクスパイア城に比べると、繊細に見えた。針のように天を差す塔のような屋根や、柱一つとっても意匠が彫られた石造りの外観。だがその灰色の壁は重厚さを醸し出しており、そびえ立つ山のような印象すら感じられる。山育ちのタケルは、そのひとつひとつに目を凝らしていたら気が遠くなりそうだと密かに感じていた。


 ともかく、そのような状態のタケルをたった一人の護衛とするのは心許ない。”ラ・カーヴァ幹部の依頼”という点を気にしているヴァルターは、意気込むカレンの傍、終始苦渋の表情で頭を悩ませていた。


「現地の同行者が欲しいところだが……当ては無いのか?」


 アカツキの話が途切れると、ヴァルターは困り切った様子でハロディに尋ねた。するとハロディは少しの間頭を捻り、何か思いついたような素振りを見せると半分目を伏せ、瞳を逸らす。そして、どこか忌々しげな声音で案を出した。


「…………まあ、護衛を兼ねてってことならどこかに依頼するのが早いけど、…………それでいうと、セントラルにも格好の場所があるよね?」


「「「格好の場所?」」」


 ハロディ以外の三人の声が重なる。視線を交わし合う異国の人間たちに肩を竦めると、ハロディは溜息とともに頬杖をついた。


「セントラルにも勇者ギルドがあるだろう? ──”銀朱の群鳥”だよ」


 タケルたちは途端にある人物の姿を思い出す。──そういえば以前、ハロディに絡んできた人物がいた。仰々しい軽鎧を身に纏った青年が、そのような名称を口にしていたような。確か、彼の名前は──


「ロイの所には、なるべく関わりたくは無いんだけどね」





 翌日。タケルたちは朝から起き出して身支度を整え、噴水広場へと向かう。その際一張羅だと目立つタケルは、ヴァルターの予備のシャツやパンツを借りてすっかりこの地の人間に成りすました。ブーツには慣れたものの、異国の服装には未だに違和感が否めないタケルは、出来る限り一張羅の半着を着用していた。すると下半身は野袴であるのが自然で、草履の代わりにブーツを履くくらいの事しかしてこなかったのだ。


 しかしその変装じみた格好のおかげか、市民たちがタケルを横目に噂を立てるようなことは無くなった。タケルは内心、「怪我の功名とはこのことか」と、ほっと胸を撫で下ろした。


「ふふ、いつものタケル様に見慣れてしまっていると、なんだか物珍しく見えてしまいますわね。──今のお姿の方が、わたくしにとっては身近に感じるはずですのに」


 カレンは歩きながらそんなことを言って、頭の先から爪先までまじまじとタケルを見つめて微笑む。それが気恥ずかしくて、タケルは顔面に登り始める熱を払うように目を逸らし、口を尖らせた。


「──浮ついた気分でいることは許さんぞ。お前は護衛の一人だが、教会には武器を持ち込めないのだからな」


 そんなタケルに、容赦のないヴァルターの忠告が飛ぶ。深呼吸の後に咳払いをし、タケルは殊更に口元を引き締めると、ひとつ頷いた。


 噴水広場に着くと、露店で賑わう人々の陰から怪しい人物がタケルたちの前に現れた。するりと人混みを抜け、足音すら潜めた外套姿。頭にはシャペロンを被り、眼鏡を掛けている。全身に緊張を走らせたタケルはすかさず前に躍り出た。


「だ、誰だ……?」


 背後ではヴァルターがカレンを背後に庇っている。そんな三人の前に現れるだけ現れて静止していた人物だったが、突如、肩を揺らして笑い始めた。


「あっはっは! 良い反射神経だね君たち。もうそれ以上護衛なんかいらないくらいだ」


 その声に聞き覚えがありすぎて、タケルとヴァルターは揃って肩を下ろす。背後から顔を出したカレンは、覗き込むように外套の人物を見上げた。


「……ハロディ様?」

「正解!」

「お前な……肝の冷える現れ方をするな! 全く、紛らわしい……」


 ヴァルターが額を抑え、重苦しい溜息とともに苦言を呈する。そして今一度ハロディの姿を改めると、盛大に眉根を寄せた。


「…………怪しすぎないか?」

「いやあ、クローゼットを漁ったんだけど、正体を隠せる物っていったらこれくらいしか見つからなくてね。──タケル君は、相変わらずすごい精度だ。服装の文化って人の印象をこうも変えるものなんだね」

「いいって、それはもう」


 シャペロンの影の下で空笑いしたハロディは、タケルを見やって顎を摩る。着慣れない服装が落ち着かないタケルは感想を述べられても返す言葉が浮かばず、鬱陶しそうに切り捨てた。


「ロイに見つかったら厄介なことになるんだよ。だから僕はギルドに入ったところで場所の説明だけして、あとは引っ込んでるからさ。交渉は任せたよ」

「ええ、わかりましたわ」

「いいかい? ”教会を見学したいけど異国人だけで入って良いものか不安だから、同行者が欲しい”って、あくまで単なる付添人を欲してる感じで受付に声を掛けるんだよ。世間知らずを演じてね」


 ハロディが人差し指を立ててニヤリと笑い、カレンが真剣な眼差しで何度も頷く。まるで悪知恵を仕込まれているかのような光景に、タケルは閉口するほかなかった。





 噴水広場を抜け、ハイフォールドの通用門へ通じる道に出る。門までの坂道に入る手前にあるのが、セントラルの勇者ギルド”銀朱の群鳥”の屋敷だ。石煉瓦を積み上げたような建造物が所狭しと並ぶ街で広い敷地を有し、尖った屋根が異彩を放っている。


 両開きの扉脇では、ギルド名の刻まれた釣り看板が揺れている。側にある縦長の窓は色とりどりのステンドグラスで、中は窺えない。


「そういえばカレン様、ここは一応”勇者ギルド”。中にいる武装した人物は全て、一応は君の大好きな”勇者”って名目なんだよ。直接そう呼ぶことはなくてもね」

「お前のところが三人しかいないから失念していたが、そういえばアルトは”勇者など腐る程いる”と言っていたな。──そういうことか」


 意味深な口ぶりでカレンに話しかけるハロディ。それに答えたのは呆れ顔のヴァルターだった。カレンは複雑な眼差しで屋敷を見上げると、視線を戻してゆっくりと首を横に振る。


「わたくし……出会った当初、タケル様に対して勝手に憧れの勇者様を押し付けてしまったこと、後悔しておりますの。ここまでの旅路で現地の伝承にも触れて、考えを改めましたわ。憧れは消えませんが、誰かと重ねず胸の内に秘めておくと決めたのです」

「おお、そうなんだ」


 カレンの言葉にハロディは目を丸くする。その傍でタケルはカレンに微笑み掛けた。これまでの旅路で、確かに彼女は自分を殊更に勇者と持て囃すことは無くなった。


 ともかくも、ギルドの人間らしき人物が出入りするのを何度か見送った後、タケルたちはようやくその重厚な木製扉に手をかけた。


 行く先を確保するようにゆっくりと扉を開き、ヴァルターが主人を促す。開いた隙間から漏れる独特の香りが、別世界へと誘うように鼻を擽った。


 カレンに続くようにして、屋敷内へと入る。重そうな床板がブーツの踵を押し返す。扉の先に広がっていたのは、広々としたロビーのような場所だった。


 高い天井の三点には同じ装飾のシャンデリアが並び、淡い暖色で室内を照らしている。入ってすぐ目に入るのは、数歩進んだ先にあるカウンターだ。重厚な存在感と螺旋の彫刻は、床と同様の落ち着いたダークブラウン。その上品なカウンターに囲まれ、中央では受付だろう人物が頬杖をついて書類を捲っている。奥に見えるのは、いくつか置かれた大小のテーブル席だ。壁際には、肘掛だけが螺旋状に繋がった椅子も点在している。その椅子は隣り合っているにもかかわらず対極を向いていて、タケルは初めての光景に首を傾げた。


 テーブル席のいくつかは埋まっており、客らしき行商のような出で立ちの人物と向かい合い、武装した人物がなにやら話している。タケルたちがぐるりと室内を見渡していると、殿のハロディが彼らに囁いた。


「そこのカウンターが受付だから、あの人に声かけるんだよ」


 そう言ってカウンターを指し示すと、ハロディは扉脇の長椅子にそっと腰掛ける。カレンはタケルやヴァルターと頷き合うと、軽く深呼吸をして一歩踏み出した。


「あの、依頼はこちらでよろしいのでしょうか?」


 カレンが受付に声を掛けると、カウンター内の人物は書類から手を離して顔を上げた。ベージュのフード付き外套を纏った姿は受付にしては怪しげな雰囲気だ。しかし垣間見える首や肩、剥き出しの腕は華奢で丸みを帯びており、女性であることが分かる。フードの下で顔の半分は長い前髪に覆われ、それが怪しさに拍車をかけている。左目だけでカレンを見据えたその女性は、次にヴァルターとタケルに観察するような視線を向け、ようやく応えた。


「──ようこそ、銀朱の群鳥へ。珍しいお客さんですねぇ」


 そう言って細められた切れ長の目、三日月のように笑う口元──紫がかったベージュの髪に紫の瞳、青ざめたような紅を塗った唇。タケルの頭の片隅で、あの幽霊画じみた狂気の研究者の姿がぼんやりと姿を現して消える。隣のカレンを見下ろせば、彼女は緊張の面持ちながらも微笑みを携えて会釈をしたところだった。


「ご用件は?」

「異国の地から参ったのだが、お嬢様がこちらの教会にいたく感激されてな。ぜひ中を見せて頂きたいと仰せなのだが……現地の付添人が居た方が確実かと考えているのだ」

「こういった依頼はこちらにお願いすればよいと街でお聞きしましたの。お引き受けいただけますか?」


 ヴァルターに続き、カレンがにこやかに依頼内容を告げる。受付の女性はわずかに目を瞠ると、すぐにまた怪しげに微笑んだ。


「それはそれは、少々変わったご依頼ですが、光栄なことです。お力添えしたいところではあるんですがねぇ、今このギルドは目まぐるしい繁忙を極めておりましてねぇ」


 妙な抑揚の語り口調で、女性は手元の紙をペラペラと捲った。頁に素早く目を走らせ、何やら確認作業を開始する。程なくして、あからさまに眉尻を下げた顔を持ち上げた。


「ご存知かとは思いますが、昨今は妙な異形が出現してますでしょう? それでねぇ、弊ギルドのギルド員は調査や護衛で引っ張りだこ。ちょうど今、全員が出払っているところでしてねぇ」

「……そうなのですか?」

「ええ、……ええ。──けどまぁ……そうですねぇ、その依頼内容なら、紹介出来る人物はいますがねぇ」


 女性はいかにも困り切った声音で語る一方、口元には含み笑いを浮かべていた。顎を摘み、首を傾け、ゆっくりと瞬きを繰り返しながら言葉を濁し、まるで値踏みするかのような視線をカレンに向ける。カレンは笑みを崩さず、側に控えるヴァルターを見上げた。


「候補があるなら頼みたいのだが、何か問題があるのか?」

「いえね、声をかけてみないことには分からないものでねぇ。──少々お待ちいただくことになってしまうというかねぇ」

「構いません。ぜひ、お願いいたしますわ」


 曖昧な返事をする女性に対してカレンがキッパリと返す。すると女性はさらに笑みを深め、少し離れた位置に置かれていた小さな卓上サインを手に取った。


「承知しました。……では、あちらのテーブルにお掛けになって少々お待ちくださいな。空いてる席ならどこでも、好きなところを使って構いませんよ」


 彼女の目の前に置かれた卓上サインには、”離席中”の文字。外套の間から伸ばされた細腕が、テーブル席の方角を指し示す。カレンたちが了承すると、女性は音もなくカウンター奥の扉へと消えていった。


 カレンたちは打ち合わせ中らしきテーブルの脇を抜け、ひとまず窓際にある円卓の三人席へと腰を落ち着ける。ハロディは相変わらず、扉前の長椅子にひっそりと座っていた。


「な、何かさ……ちょっと怪しい感じだったな」

「この街でこれまで怪しげな人間を何人も見てきたからか……なんとも思わなくなってきたな」


 窓のステンドグラスが日差しを通し、テーブルに色彩豊かな影を落としている。それを食いつくように見つめながらタケルが声を潜めて呟くと、ヴァルターは呆れたように首肯し、カレンは苦笑した。


「──しかし、ギルド員が出払っているのは予想しておくべきでした。外壁に守られた場所ではモルの姿も無いので、外の混乱を失念してしまいます」

「そうですわね。ですが、ギルド員が全て出払っているなんて……ギルドの規模は分かりませんが、それほど壁の外はモルで溢れているのですね」


 二人の会話を聞きながら、タケルは向こう側のテーブルを盗み見た。間を携えた者と、一見なんの武器も持っていないように見える人物が客と会話を続けている。テーブルに両肘をついてなんとなくそれを見つめていると、徐に椅子を引いたので慌てて視線を外す。片耳でその後の動向を追えば、彼らはそのまま屋敷を出ていったようだった。


「……みんな出払ってるのに残ってるのって、どんな奴なんだろうな」


 最後のギルド員と依頼者が出ていった扉を振り返りながら、タケルが再び呟く。カレンやヴァルターが何か応える前に、返事のような扉の音が響いた。三人が思わずそちらを振り向くと、受付の女性に連れられて出てきたのは、何やら見覚えのある出で立ちだった。


 タケルの視界の端で、ハロディが外套を閉じる気配がする。カウンターに女性を残し、堂々とタケルたちのテーブルまで闊歩してきたのは、まるで騎士のような装備を纏った青年だった。


「ルーメリア教会までの護衛を依頼しているのは、其方らで間違いないか?」


 高らかな声が客席に響き渡る。腕を組み、胸を張って姿勢良く立つ青年を、タケルたちは唖然と見上げる。


「え、ええ……間違いありませんわ」


 カレンがわずかに引きつった微笑みを返す。すると青年は得意げな笑みを浮かべた。


「その依頼、このロイエンタール・クラウス・ローゼンシュタットが承ろう!」


 その場にそぐわぬ力強い宣言。タケルは背後で、面白そうに小さく笑う声と、溜息を聞いた気がした。



全話AI補助利用作品です。

利用範囲:イメージイラスト作成・名称のアイデア出し

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