第十四話 逸材たち
「お初にお目にかかります。わたくし、平等院華燐と申します。破寮の一年生ですの。あなたは……威寮の方ですのね。その胸の宝石、貴方によく似合っておいでてすわ」
華燐は、威寮の生徒とは仲良くしておけ、という汐里先輩の忠告をしっかりと頭に入れていた。
威寮所属の生徒の胸元には、魔法に対する防御効果のある宝玉が瑞々しい果実のように輝いている。その輝きは、補習を受けている今の華燐にはことさら眩しく映った。
目の前の青い髪を三つ編みにし、一見すると田舎の平民かと思わせるようなのどかな顔をしている少女が現在の華燐よりあらゆる部分で優秀な退魔師であることは疑いようもないのである。
退魔師の世界は身分を重視する家もあれば、実力を重視する家もいる。華燐の家は、後者だった。時勢を読みながら身分はなくとも強力な退魔師の天才を一族の伴侶として迎え入れ、時には貴族や皇族に取り入って婚姻関係を結び、さらに時には強力な異国人の血まで取り入れて生き延びてきた。
魔力と実力。それこそが平等院の絶対的な基準。だからこそ、己よりも上の実力を持つ人間は生まれに関わらず尊敬する。
(……ああ、威寮。わたくしには縁のない白衣も眩しいですわ……)
口がさない者に言わせれば『強者にへりくだる一貫性のない一族』であり、平等院家に連なる者が説明するならば、『偏見に囚われない独特の審美眼を持った一族』。それが華燐の実家、平等院家であり、華燐もその気質を受け継いでいた。
平等院家は実力があり、一族の利益となるならば誰でも迎え入れる。なので、目の前の女子が皇区の退魔師であろうとそうでなかろうと、縁を作っておいて損はない。
華燐の従者だった少年も、華燐敵視していた恋敵も入学試験に落ちた。その上、華燐は破寮という、平民出身者が多い寮に割り当てられてしまった。
今の華燐には、余所の寮の友人が必要だった。出来れば退魔師の家系であることが望ましい。平民出身者とでは感覚が異なるのだ。
「これはどうもご丁寧に。わたしも海燕の隣にこんな綺麗な方が居るとは思わなくて驚いちゃいました」
「瑠璃は俺の姉貴か何かか?」
海燕がすかさず突っ込みを入れる。瑠璃は事も無げに微笑んで言った。
「師匠ですけど」
「む……」
海燕は現在、瑠璃から彼女の実家に伝わる固有魔法を教わっている。返す言葉もなくすごすごと引き下がった。
「まぁ……それはご立派ですわ。波止場君とは同じ道場だったんですの?」
「いえ」
「……?では幼馴染とか?」
「試験で会ったばかりだぜ」
気のない海燕の言葉に、華燐は怪訝な表情となる。
「何故それだけの縁で師弟に?試験は競争関係だったのですわよね?それで魔法を教えるのですか?」
退魔師の魔法とは、則ち己の縄張りを護るための道具であり、生きる術である。もののけを打倒するため磨き抜かれたそれは、悪用すれば力弱き平民や闘う術を持たない一部の貴族、商人に牙をむくこともある。だからこそ、優れた退魔師は見込んだ人間を弟子とし、心身共に健やかなものに限り己の秘めた技を教えるのだ。上級魔法などもその一つである。
「理由は色々とありますが……一番は、退魔師としての義務感からですね」
海燕は口をさしはさむことなく魔力操作の作業に没頭していた。華燐は怪訝な表情のまま、海燕と瑠璃を見比べる。
(……そういう仲という訳でもなさそうですわね。ますます謎は深まるばかり……)
はてなと首を傾げる華燐をよそに、瑠璃は喜色満面の笑みで華燐の手を取った。
「私と海燕がどうやって知り合ったかはともかく……今、物凄い魔力の流れを感じました!火属性の頂点のような熱くて底無しの魔力を……!平等院さんの魔力ですよね!?」
「え、ええ。確かにあれはわたくしの魔力ですわ……」
「凄いじゃないですか!私も火属性なんです!今まであんなに純粋な火の魔力を感じたなんてはじめてで、本当にどうやってあんな魔力を練ったんです!?」
悪意一切なしの純粋な賛辞だった。瑠璃にとっての不幸は、火属性の魔力を出そうとして出したものではない、ということだ。
瞬く間に微妙な表情になり、瑠璃から顔を反らす華燐。交錯する二人の同級生を見かねて、海燕は口を開くことにした。
「瑠璃ぃ、そこまでにしとけ。ありゃあ火属性の魔力なんかじゃねぇよ」
「……はい?……あのう。それは一体どういうことです……?」
海燕が説明しようとしたとき、更にやってくる人影があった。
「おーっす、海燕ーっ!何やってんだって……こりゃあまたどえらい美人さんだ。瑠璃ちゃんにも負けてねぇ」
「唐草さん、ごめんあそばせ」
炉寮の制服である道着に身を包んだ文次郎だった。華燐は助かったとばかりに瑠璃から離れて、即座に文次郎へと向き直る。
「……炉寮生の方もいらしたのですね。お初にお目にかかります。わたくし、破寮生一年の平等院華燐と申しますわ」
「こりゃあどうもご丁寧に。俺は文次郎と申します!海燕の親友やってます!」
「知り合ってまだ一週間だろぉが。はぇ~よ」
胸に手を当て一礼する華燐に対して、文次郎は背筋を正して深々と頭を下げた。そんな文次郎に海燕は突っ込みを入れる。
そのとき、華燐の脳内には雷鳴がとどろいていた。
______心臓の鼓動が高鳴る。
まともに視線を合わせられているだろうか。
自分の動揺が、伝わってはいないだろうかと、思わず頬に手を当てる。華燐の脳内はにわかに華やいでいた。
(顔面偏差値が高いですわ!!『あり』ですわ!!)
平等院華燐。名門退魔師の一族に産まれた彼女は、面喰いだった。
相手は炉寮生。しかし黒髪だ。つまりは元平民だ。由緒ある退魔師の家系とは釣り合わない。が、彼女はそんなことは気にしなかった。
華燐はかつて、一族が運営する道場ではなく市井の道場に通った。そのきっかけは、交流試合で出掛けた先の道場の見目麗しい先輩退魔師に恋をしたことだった。最初は華燐に先方の道場への師事を認めていた両親も、華燐が男にうつつを抜かしていると知るや激怒した。修行に身がはいらなくなっては困ると危惧した一族の介入によって華燐は別の道場へ強制的に移籍させられ、華燐の周囲には友人の女子ばかりとなった。早い話が、彼女は美しい異性に餓えていた。
(逸材。逸っ材っ!!来ましたわ、本当に素晴らしい方が!やりましたわっ!!)
華燐はにこりとした笑みを崩さぬまま内心で快哉を叫んだ。
学園での生活は過酷だ。華燐にとって辛く苦しく困難な修行が続くなか、海燕という異性は華燐の好みとは違う。粗野そうな雰囲気の海燕は、華燐の守備範囲外なのだ。
その点、新たに現れた男子は華燐のお眼鏡にかなっていた。その少年、文次郎は平民の証である黒髪を新調した櫛でとかし、魔力で艶やかに輝かせていた。魔力量そのものは多くはないが、精悍な顔立ちと曇りひとつない輝く瞳からは陰湿さとは程遠い爽やかさを感じる。
「いやぁ、俺のような平民上がりにみんなよくしてくれて……ちゃんとついてけるようにしたいと思ってるぜ」
「寮が違うからって安心すんなよ、文次ぃ。俺ぁすぐにおめーにも追い抜ついて追い抜くからな」
「ははっこえーなぁ海燕。一対一でやりあったら俺がお前に勝てるわけねぇんだし勘弁してくれよ」
目の前で拳を合わせあう赤髪と黒髪。その姿を見て、華燐は海燕が魔介華への水やりを終えたらしいことに気付き愕然とする。
「……」
華燐は自らの醜態を晒すわけにはいくまいと、植木鉢を抱えてその場を離れようとする。
「で、では御二人とも、積もる話はありますがまた後程……」
「いやちょっと待てぇ」
が、華燐はその場を離れることはできなかった。海燕が止めたからだ。海燕は華燐の手を握る。
(流石に鍛えてやがんな、こいつ)
華燐は内心で華燐に尊敬を抱いた。華燐の手には豆が出来ており、筋肉もよくついていた。戦闘を生業とする退魔師の手だと海燕は思った。
魔力で身体能力を底上げできる退魔師ではあるが、体術の訓練は基礎の基礎だ。優先度の問題で魔法の訓練に時間を割かれそちらが疎かになる者も多いが、華燐はそうでもないらしい。
「ここでやってけよ。半端な出来でその鉢を渡したら黒羽の旦那にどやされんだろぉが」
「ひ、他人にお見せできるものではありませんわ!」
「んなこと言ってる場合か!?おめぇの鉢を見てみろ!……それで花を育てられんのかよ」
「う……」
乾燥し栄養もなにもない植木鉢の土、もとい砂を見て、華燐は観念して頷いたのだった。
***
「なるほど、魔介華ですか。これはなかなか難易度の高い試練ですね」
「面白いことやってるなぁ、そっちは。俺もちょっとやってみてえ」
「基礎の基礎、ですわよね?そんなに大袈裟なものでしょうか」
華燐と海燕が魔介花の説明をしたとき、二人はその試みを嘲笑わなかった。それどころか瑠璃は難しい顔で腕を組んでいる。
「そのように大袈裟なものでしょうか。基礎を鍛えるためのものであって、そこまで難易度が高いとは……」
華燐が何気なく言った言葉を、瑠璃は真っ先に否定した。
「魔力を吸い上げる華というのは、育てるのがとても難しいんです。魔介華は私の知る限り特に厄介な品種のひとつですよ?育てる過程で魔力の与えすぎによる病気に罹ったり、育ちすぎて鉢を破壊することも珍しくありません。栄養のある茎を求めて魔虫も寄ってきますし」
「植物を育てるってのは楽じゃねえからな。まず栄養のある土を出せなきゃ芽も出してくれねぇだろうなぁ」
元平民の文次郎の言葉は華燐の胸に深く突き刺さった。
「適量を与えなきゃ課題をこなしたとは言えねえってことか」
「そういうことだな。……平等院さん、もう一度土を出してくれないか?俺らなら、何か力になれるかもしれない。瑠璃ちゃんはその手の魔力を吸う植物に詳しいんだ」
「……ご指導頂けますか?唐草さん……」
ぺこりと頭を下げた華燐に、瑠璃は一も二もなく頷いた。
「勿論です!そうですね。作物を作りたいのであれば、まず水捌けのいい土を作るところから、ですね。底に通気性のいい軽石を置きましょう。孔の多い細かめの石を作ってください。軽石で結構ですよ」
「石ですの?それって根に当たるのではなくて?」
「当たります。ですが、魔介花の根は細さの割に強いので石程度ではどうということはないんです。問題は、排出されるべき水が底に溜まり続けて腐らせることなんです。魔介花は繊細な植物ですから、吸収できる水の魔力にも限度があるんですよ」
「分かりましたわ。早速やってみます。……すー、はーっ……」
(根の動きを邪魔しない軽石。粒は細かく、水捌けはよく……)
瑠璃の言葉に従い、華燐は深く深呼吸をする。華燐は土属性の魔力を身体全体で練り上げる。まっさらな状態の魔力が、華燐の想像に従ってその波長を土属性へと近付けていく。魔力変換によって、確かに自分の魔力は土属性に近付いているという実感が華燐の中にはあった。
(……こいつは……!!)
(……すげぇ……!!)
(……!!)
瑠璃の目は驚愕と喜びで見開かれる。なぜなら、華燐の身体から感じられる魔力は、純粋な火属性の魔力だったからだ。
(こ、こんな人見たことないっ……!!まるで、火属性魔法を使うためだけに生まれてきたかのような……!!)
人が持つ先天的な魔力の波長は、一人一人異なる。たとえ血を分けた親兄弟であったとしてもだ。同じ日に産まれた双子ならばその限りではないが、異なる波長になる双子もいる。魔力の波長は、人が持つ個性でありひとつの才能だった。
退魔師は自分の持つ波長に近しい魔法をまずは覚えていく。魔力を練り上げ変換する時に生じる損失が少なくて済むからだ。瑠璃も、先天的に火属性に近い魔力を持つ。しかし、瑠璃はこれ程純度の高い火属性の魔力ではない。普通はそこまで純粋な魔力を持たないのだ。
華燐の目が見開かれ、練り上げた魔力を掌から植木鉢へと放出しようとする。
「……いざっ!」
「……それまで。よーく分かったぜ、平等院さん」
そして華燐の掌から魔力が放たれようとしたまさにその瞬間、文次郎が華燐の手を止めた。
***
「……華燐ちゃんは、土属性の魔力が練れてねえ訳じゃねえ。俺はちゃんと華燐ちゃんの魔力を感じたよ」
(……海燕は気付きましたか……?)
(おぉ。ちゃんと練れてたぜ。ほんの一割くれえだけどよ)
「でも、今のままじゃ不完全だ。華燐ちゃんの火属性の魔力が強すぎて、土属性の波長から戻ろうとしちまってるんだ」
「……では、このまま放出してしまって良いのでは?」
「確かにそれでも悪くねぇが……華燐ちゃん、今、練った魔力を全部動かそうとしてるだろ?」
「え、ええ。それが基礎ですから」
華燐は素直に頷いた。
退魔師が魔法を使う際、練り上げた魔力は即座に使いたい任意の魔力へとすべて変換し、放出したい体の部位に操作して放出する。そうでなければ、魔法に充分な威力が出ないからだ。
「その『全部』ってのが余計な力みになっちまってんだ。華燐ちゃん、俺の指示通りにやってみてくれねぇか?」
「え、ええ。構いませんが……」
(……おいおい、大丈夫か?勝手に基礎を変えて。変な癖が付いたらどぉすんだ)
(……海燕、ここは文次郎くんを信じましょう。何か考えがあるようですし……)
(おぉ。どうなっかな……?)
ヒソヒソと瑠璃と囁きあいながら、海燕は華燐の魔法が発動するのを待った。
(……!)
海燕の皮膚に鳥肌が走る。目を閉じた華燐は、淀みなく魔力を回していた。そして、確かに土属性の魔力が生まれる。ただし、今回変換された魔力は少なかった。少量の魔力はまるで川を泳ぐ魚のように華燐の掌に集まっていく。
「はっ!」
華燐の掌から土属性の魔力で精製された小さめの軽石が噴出され植木鉢を満たしていく。瑠璃と海燕は思わず手を打って華燐を称えた。
「おおっ!すげぇ!大したもんだぜ!!さっきとは比べ物にならねぇ!」
「い、いったいどうやったんですか!?私には違いが分かりませんでした!」
「わ、わたくしが火属性意外の魔法を……こ、こんなにあっさりと……?」
「…………作った魔力の中から、一部だけ動かすことにしたのです。他の魔力はそのままにして」
「そりゃ基本じゃねえか?」
「いや、それが違うんだ。そもそも華燐ちゃんは魔力の量自体が俺らとは比べ物にならねぇぐらい多いんだよ」
「湖とか沼を想像してみてくれ。普通の退魔師が頑張って湖を『浄水』で清めようとしても、どうにもならねぇだろ?」
「あぁ。湖が平等院っつーことか?」
「そうだ。基本だからしょうがねぇけど、湖の全部を動かそうとするから無理が生まれるんだ。平等院さんに限っては基本を捨てて考えた方がいい」
「よく気付いたなおめー。」
「俺は海燕と違って天才だからな!」
「んだとこらぁ!」
(……文次郎くん、貴方は……)
瑠璃は海燕と戯れる文次郎に対して深い尊敬の念を抱いた。
瑠璃は華燐に対して感激と共に、一種の嫉妬心を持った。先天的に火属性の高い適正を持つということは、それだけ火属性を極められるということだ。短所であると同時に、強力な退魔師を目指す上での素質を華燐は持っている。そのうえ、類いまれな魔力量を持っているのだ。
これは平民出身の文次郎から見て理不尽すぎる差である筈だった。平民の魔力量は、代々退魔師の家系に比べてあまりにも少ない。努力によって差を埋められるとは言っても、そもそもそこまで努力できない平民がほとんどだ。にもかかわらず文次郎の瞳からは負の感情が感じられなかった。
(……天才、ですか。確かにその通りですね)
「湖の表面に浮き出た藻を掴んで動かす。華燐ちゃ……平等院さんはそれでいいんだよ。下手に全部の魔力を変換しようとしても、湖の方がついていけねえんだ」
話している途中で華燐を名前で呼んでしまっていることに気付いたのか、文次郎は名字呼びに言い直した。
「……不思議な感覚です。今はとても体が軽いですわ文次郎さん。いつもは火属性意外の魔力を使うと疲れてしまいますのに……」
「そりゃ、魔力を少しだけ変換する方が身体に無理がねぇからな。自分にあった魔力の運用をしたから身体が喜んでるんだ。これからは、使いたい魔法に応じた適量を意識して運用すればいいんだぜ、平等院さん」
にっこりと笑って言ったあと、文次郎は真顔で言葉を付け加えた。
「……ただな、平等院さん。このやり方は万能じゃねえ。魔力操作が外から見て分かりやすくなったってことは、もののけから見て何をするか分かりやすくなったってことでもある。実戦なら火属性魔法を使った方がいいと思うぜ」
「……華燐。華燐と呼んでくださいまし、文次郎さん。わたくしは平等院家ですが、その前にあなたの同級生ですわ」
「そう言ってくれて嬉しいぜ、華燐ちゃん!」
(……んー?華燐のやつ……)
白い歯を見せて文次郎は爽やかに笑い、華燐と固い握手をかわした。文次郎を見る華燐の目には熱が灯っていると海燕は思った。
***
「……これは……」
二週間後、破寮一年の担任である黒羽真鴨は受け取った魔介華を食い入るように見つめていた。
平等院華燐から受け取った鉢からは、赤と金の入り交じった藤が咲き誇りその身を垂らしている。その華やかさは見るものを魅了し、その香りは人の心を落ち着ける穏やかさを持っていた。
そして、波止場海燕から受け取った魔介華には花はなく、血のように赤い蕾があった。蕾は、深夜の月明かりの中で開いた。人のものとは思えない血走った禍々しい瞳が、赤い花の中で輝く。長く退魔師を続けてきた黒羽に、久しく感じなかった緊張、恐怖が走った。
ぎょろり、と赤い瞳がまるで黒羽を覗き込んでいる。その瞬間、植木鉢は粉々に砕け、蛸の触手のような根が黒羽に向けて解き放たれた。黒羽は上級魔法、紅蓮紅臨を指先ほどの大きさまで圧縮して迎撃する。
「……やはり通じんか……!」
触手は火炎を受けても勢いを弱めることはなかった。それどころか、一回り太さを増して黒羽めがけ迫る。
「陣地構築。紅烏天狗」
触手が黒羽へと到達する寸前、黒羽の持つ黒い翼が黒羽と触手との間に割り込む。羽根はその丈を大きく広げ、ぬるぬると蠢く触手と魔介華を包み込んだ。そのまま羽根は赤く輝き、魔介華を包み込んだまま動かなくなった。
深く息を吐く黒羽は、思わず魔介華を蹴り飛ばそうとして首を横にふる
「将軍へ報告しなければ……!」
苦々しい顔で魔介華を包み込んだ羽根を動かす黒羽の顔には、普段の彼からはあり得ない焦りがあった。




