第十一話 上級魔法の修行
「では諸君。訓練の準備はよいですかな?まずは準備運動からですぞ。”よし”と言うまで軽く演習場を走っていただけますかな?」
六限の開始を告げる鐘が鳴り響くと同時、白銀先生は生徒たちにそう告げた。口調は穏やかだが、それは紛れもなく指示。
一も二もなく破寮生たちは演習場の雑草を踏み荒らしながら、全身に魔力を張り巡らせて走る、走る、また走る。
一歩、二歩と走り続けるにつれて、海燕はいつの間にか八雲が先頭に立っているのに気が付くと、負けてなるものかと魔力を全開にして追いかける。
「おい八雲ぉ!そんなに飛ばして魔力持つのか!?」
「全然余裕だな。海燕こそ大丈夫か?この後上級魔法の訓練なんだぞ?」
「誰に言ってんだ!森を歩くのに比べりゃこの程度なんてことねーだろ!」
そういいながら八雲を追いかける海燕の姿を見て、炉寮一年生の担任でもある白銀先生は嬉しそうに目を細めていた。
(その調子ですぞ波止場君……どうやら、学園長の判断通り、青葉君が破寮だったのは今のところ正解のようですな。波止場君という友人にも恵まれたようだ)
試験の結果で合格者が決まった後、誰をどの寮に振り分けるのかを決定する会議は最後まで難航していた。その原因は、今、破寮で先頭を走っている灰色の髪を持つ屈強な少年、青葉八雲だった。
本音を言えば入学すらさせたくない、とでも言いたげな年配の教師たちは多く、中堅の教師たちも自分の評価を落とすまいとそれに追従していた。彼らはいずれも白銀自身がかつて教えを受けた優秀な教師だったが、自分の教え子たちや愛する家族を”北の民”に殺された経緯もあり、八雲に向けられる視線は暗く濁っていた。
『北の民が合格するなどありえん。まだあの内乱から十年しか経っていないのだぞ』
それを封殺したのは、”実力主義”を教育理念として掲げた黒羽真鴨の言葉だった。
『二度も玄武を退けた受験生が合格できないとなれば、これはもはや試験に欠陥があったと言わざるをえません。試験の方式を見直さねばいけませんね。
……本当によろしいのですか?』
その言葉で、流れは変わった。八雲の入学に難色を示していた教師たちも、試験の経緯を見て、八雲を合格させることに異論を挟めなくなった。
こうして八雲は合格となったのだが、次に、どの寮で受け入れるべきか、という話題で会議は紛糾した。
『実力から言って、彼は炉寮こそふさわしいですぞ』
そう、白銀は主張した。
炉寮は、破寮よりも生徒の総合的な能力、言い換えれば努力して積み上げてきた成績を重視して迎え入れる。試験の結果を見る限り、体術でも中級魔法の練度でも幼少期から鍛え上げてきた退魔師の子供と比べても頭ひとつは抜けている。実力を正当に評価するならば、ある一点に優れた天才や秀才が多く揃ってはいても所々にむらがあり、基礎能力で確実に炉寮生に見劣りする破寮ではなく、炉寮に迎え入れるべきだ、と主張した。
しかし。
『炉寮に”北の民”を入れるだと?そんなことができる訳がなかろう』
『とうとう正気を失われましたか、白銀先生?』
という教師たちの反論が会議の場で湧き上がっていた。
その反論が一部正しいことも、白銀先生はよく分かっている。炉寮生に退魔師出身者が多いのは事実だ。
今年の入学者に限らず、現在炉寮に所属するの生徒の多くは、両親や親族を八雲の一族である”北の民”との内乱で命を失っている。八雲は大勢の炉寮生たちにとっては物心つかない内に亡くなったことで、家族のぬくもりを奪い去った仇ともいえるのだ。
『出自で寮を決めたとなれば生徒の努力が無意味となってしまいますぞ!教育の場として、寮分けは、あくまでも生徒の能力によって成されるべきです!』
それでも頑なに白銀先生がそう主張したのは、教育者としての矜持ゆえか、はたまた彼自身の独善ゆえか。
炉寮に入る生徒のほとんどが退魔師の家庭出身なのは、幼少期から鍛錬してきた分の実力の保証があったがためにそうなっている。別に、炉寮に入る生徒が必ず退魔師の家庭出身というわけではなく、能力が足りなければ足切りされ、破寮になる生徒もいるのだ。
それなのに、能力が足りていても合致する寮に入れないのは不合理だ。
『確かに問題は起きるかもしれません。ですが、そのわだかまりを乗り越えて友情を育む、ということもあるでしょう。彼らはまだ15歳の子供なのですぞ』
炉寮で確実に浮く八雲を白銀先生が支援しながら、少しずつ炉寮生たちと友情を育ませる方に賭けるか。
豊葦の国では十五歳で成人とはいえ、八雲も、炉寮に入れる子供たちもまだ結婚もしていなければ部下も子供も持っていない。今持っている価値観も、この先幾らでも変化の余地がある子供なのだ。
教師としては、生徒たちの成長の可能性を摘むことはすべきではない。炉寮にこそ”北の民”、否m、青葉八雲という一人の退魔師を迎え入れるべきだと、白銀先生は苦悩していた。
だが、周囲の教師たちの大人としての現実的な良識と凝り固まった思考回路がその邪魔をする。
『親の仇と仲良くなる子供が、この世のどこにいる!』
『……あえて炉寮の中に一人除け者を作ることで、寮内の結束を促すというのなら……私は白銀先生に賛成しますがね。白銀先生はその頭髪と同じく、随分と輝かしい頭をしておられますな。』
常識的に考えて炉寮には迎え入れず、せめて北の民の被害をほとんど受けていない平民出身者たちの多い破寮にすべきだと、そう教師たちの中の良識派は皮肉を込めて主張した。
教師歴の浅い白銀先生に、それを覆すだけの発言力はない。
教師陣の間で発言力を増す方法は、育て上げた生徒の質と量。担任としての実績がない白銀に対して、周囲の教師たちは歴戦の名教師。過去に二級や一級の退魔師を育て上げたこともある。
その彼らが言っているのだ。
退魔師出身者が集う炉寮では、八雲は受け入れられないと。
『……それは本当に教育だと言えるのですか?妥協して破寮に入れて、それで当人のためになると?我々教師は、生徒の努力をまず第一に評価すべきなのではありませんか?』
と主張する白銀先生自身も、内心で苦悩していた。あまりにも旗色が悪い。
こういった会議で自分の意見を通したいならば、事前に最低限の根回しはしておかねばらない。しかし今回は、いきなり現れた”北の民”に関する対応だったうえ、自分の所属する派閥である退魔師派そのものが敵なのだから、根回しのしようもない。
白銀先生はそのとき、破寮一年の担任となる黒羽真鴨を見た。白銀より一年早くこの学園に入学し、白銀と同じ年に教師となった男もまた、教師の中では若手である。
彼は、十年前の内戦、公的には”北の民”の起こしたした反乱で”北の民”を何人もその手で葬っている。”北の民”である八雲に対しても、内心で思う所はあるだろう。
にもかかわらず、一体何の思惑があるのか、黒羽はただ目を瞑り腕を組んでいた。
『ならば君に、四十人の生徒一人一人の心理状態を逐一確認して問題が起きぬように対処できるか?問題があったとき迅速に対応できるのか?
……問題があってからでは遅い可能性もあるのに?』
『そこまでじゃ。皆の意見を聞き、もう結論は出た』
苦悩する白銀先生を見かねてか声をあげたのが、学園長であり将軍である平野和盛である。
『青葉八雲は破寮に入れる。これは儂の命令じゃ』
と。
『しかし、それでは……!八雲くんの能力を正当に評価したとは……!』
そのとき咄嗟に、白銀先生は抗議の声をあげた。能力を評価すれば、八雲は炉寮にこそ相応しいのだ。
他に、将軍の命令に異論をはさむ人間はいなかった。この学園は教育機関である。教育機関ではあるが、同時に、四大将軍が管理する城でもある。
城主の命令は、退魔師にとっては絶対なのだ。
この学園はあくまでも、皇区の未来を支える優秀な人材を 教育する機関なのだ。
そのことを、白銀先生はわからせられた。聞き分けの悪い生徒を穏やかに諭すように、将軍は淡々と白銀に語りかける。
『くどいぞ白銀先生。これは命令だと言うたはずじゃ。
あえてこの学園に入れた以上、生徒は儂の部下も同然じゃ。儂は部下を出自で選んだりはせん。
退魔師に必要なのはもののけを殺すための腕っぷし。生徒にそれを与える力においては、破寮の黒羽先生しかないと考えておる。だからこそのこの人選じゃ。
次に必要な、退魔師としての人格については、白銀先生を含めた他の先生たちに期待しておる。先生たちであれば、真っ当な退魔師としての人格を必ずどの生徒に対しても教え込めると信頼しておる』
じゃが、と将軍は深いためいきをついた。
『儂はこのところ年のせいか、耳がおかしくなってしまったようじゃが……
真っ当な人間、ましてや人を導く立場にある教師であれば、まさか差別などはすまいな?』
将軍は一切魔力を使用せず、教師たちを沈黙させた。
教師たちに寛容な校長先生が、教師たちに本気の怒りを抱いている。
その怒りを感じ取り何も言わない教師たちの中で、唯一動いた男が居た。
黒羽真鴨である。
『校長先生。恐れながら申し上げます。差別は……言うべきではありませんが、人間の本性でもあります。我が破寮生は”平民上がり”の成り上がりの巣窟。
ここにいる皆さまはその醜さをご存知ないでしょうが。
私のような平民上がりにとっては、”平民以下”に落ちた”北の民”なぞ、差別をするための餌にしか見えないと思いますが?』
『黒羽先生……!?』
白銀は驚いた眼で、黒羽真鴨の皴にまみれた顔を見た。二十六歳にして深い皴が刻まれたその顔には、確かに本心からの思いが込められているように思えた。
黒羽先生の言葉は、明確に白銀先生の肩を持つものだった。自分と出世争いをする同僚であるはずの白銀先生をである。
(……貸しを一つ作ってしまいましたな……)
内心でどうやってそれを返すか思案しつつ、白銀先生は将軍の言葉を待った。
『ならばそれをお主が変えてみよ。成り上がり者の薄汚れた醜い本性を、見当違いの復讐者の腐り切った性根を、戦闘好きの北の民の救い切れない性分を叩き潰して真人間にするのがお主の仕事じゃ』
『……御意のままに』
残念ながら、将軍の決定が覆ることはなかった。
『よう言うた。それでは解散じゃ。……いや、黒羽先生は残ってくれるか。青葉八雲の件で話がある』
最終的に、黒羽先生が命令を承知したことも後押しして、白銀先生は将軍の決定を受け入れた。退魔師として、上官の命令は絶対だ。将軍の判断が妥当であることも、自分にそれを覆す権限がないことも、最早明らかだった。
黒羽魔鴨とは、同僚として付き合いがある。学生時代は優秀な天才であり好青年と言ってよかったはずの男が、教師となって再会したとき、に何をどう間違ったのか、気取ったような口調で話す変人となってしまっていたとき、白銀先生は内戦の過酷さと悲惨さを想像せざるをえなかった。
だからこそ、八雲が破寮生となったことに一抹の不安を抱いていたのである。
そして今、海燕と共に遊ぶように学生生活を送っている八雲を見て、白銀先生の教師としての部分もまた安堵していた。
(これしかなかった……いや、これで良かったのですぞ)
そう思いながら、彼は走り回る生徒たちを眺めていた。
生徒たちが全力で走り回って体内に魔力を回したのを確認すると、白銀先生は薄く微笑んで整列の合図を告げた。
「それまで。皆の衆、整列ですぞ!気持ちの良い走りっぷりでしたなぁ!!」
軽く演習場を走った後、海燕たちは上級魔法の訓練を始める。生徒たちの全身に魔力が充満しており、すぐにでも練習に入ることができるだろう。
「上級魔法は、その威力ゆえに訓練場所が限られるという欠点もありますが。ご安心めされよ。この私が居る限り、諸君が死ぬことはないと約束しますぞ。まずは」
とん、と白銀先生が足を踏んだ直後、海燕たちの前に巨大な石の壁がせり上がる。
土属性の魔力がこもった堅牢な壁は生徒たちから見て、一理ほど先に出現していた。
「……この程度の防壁であれば、今の諸君でも突破可能ですな。上級魔法で石にぶつけて御覧なさい。手法は私が教えた通りですぞ。
横一列に並んで”石壁”に向けて得意な属性の上級魔法を撃つのです。
ああ、火属性が得意な子の隣には風属性を練習したい子は厳禁ですぞ。諸君、急いで並ぶのです」
こうして海燕は八雲の隣に並んで練習をすることにした。海燕の隣には、いつの間にか鶫が立っていた。
横一列に並んだあと、一人の生徒が挙手をして質問する。
「どうかしましたかな?」
「あのー、よろしければ白銀先生のお手本を見せていただけませんか?恥ずかしい話なんですが、上級魔法は練習したこともなくて……」
「ふむ、それでは困りますな。理論だけでは、上級魔法に至ったという確信も得られない。では……見北せんせい。私が水と土の上級魔法を撃ちますので、風と火を頼みましたぞ」
「承知しました。皆、一度しかやらないから自分の目に魔力を集中させて魔力の流れを理解しなさい」
補助教員にそう指示した白銀先生は、体内に精製した水属性の魔力を特殊な泡状にくるみ、そこに注ぎ込んだ大量の水の魔力を圧縮して右手に膨大な量の魔力を集中させる。
(速ぇ…!!文次と変わんねぇ……!)
海燕はその魔法の発生速度と魔力のなめらかさに驚嘆していた。
生徒にお手本として魔力の流れを見せるために加減しているにもかかわらず、その速度は戦闘中の文次郎と遜色がない。むしろこの場合、教師と遜色ない魔法が撃てる文次郎を褒めるべきだろうか。
「これが水属性上級魔法”泡沫飛沫”。諸君はこれを、目で追うことが出来ますかな?」
そう白銀先生が言い放った直後、どん、と何かが破裂したような音が周囲に響きわたる。
海燕は、確かに白銀先生から放たれたはずの水泡を目で追うことが出来なかった。瞬く間に、 海燕たちの眼前にせりあがった石壁の一部分が、巨大な水泡に貫けれ瓦礫の山と化していた。
他の生徒もまた、上級魔法の威力に恐怖し、真剣に魔力操作の工程を思い返して模倣しようとしていた。
さらに、土属性上級魔法”天岩井戸”や、火属性の”紅蓮紅臨”、風属性の”風衝風波”が残りの石壁に着弾する。瓦礫の山と化した石壁は、しかし次の瞬間には白銀先生の手で再構築されていた。
「瓦礫はすぐに石壁として張り直しますので、気にする必要はないですぞ。さ、お手本通りに焦らずやっていけばよろしい」
その指示が下されるや否や、八雲をはじめとした大勢の生徒たちが上級魔法を放つ。
「”風衝風波”!」
「”紅蓮紅臨”……!ですわっ!!」
既に習得していたもの、あるいは習得するための訓練をしていたものは、”石壁”を吹き飛ばすほどの魔力の奔流を放つことに成功していた。
海燕もまた、全身の血管が張り裂けんばかりに体内で土属性の魔力を練り上げ、体内に岩石の形をした魔力の塊を作り上げる。
体内の腹部に集中させたそれを、土属性初級魔法”柔石”で凝縮し、土属性初級魔法”凝石”で球状にまとめ、同じく土属性初級魔法”石固”で硬度を上げ、魔力を注ぎ込みながら体積を増やし、質量と硬度を増大させていく。
本来、その場にある土を使えば、体内で練り上げた魔力を土属性にする工程はある程度短縮できるし、海燕をはじめとした大勢の土属性を主流とする退魔師は、その手法が基本だ。
しかし、白銀式はあえて体内での土属性魔力の形成にこだわった。
それは都合のいい土のない場所であっても土属性魔法を使わせるための訓練であると同時に、生徒たちに魔力を大量に消費させるためでもあった。
(破寮の生徒は先天的な魔力量では我が炉寮には劣りますからな。大量に練り上げて大量に消費する、その訓練をする方が効率よく魔力量を増やすことができますぞ……!)
無論、限界以上に使わせれば体への負担も大きくなり、肉体面の成長を阻害することもある。白銀はそ生徒の調子を判断し、生徒たちの体調を見守りながら、魔法が暴発しないように気を配っていた。
海燕は長い時間をかけて教わった通りの手順で土属性の魔力を練り上げ、そして、両腕から石壁めがけて上級魔法を放たんとする。
「”天岩井戸”!!」
詠唱によって、不安定な魔力が少しだけ安定する。その効果を利用して、腕に集中させた土の魔力は暴発すること無く解放され、掌から勢いよく岩の砲弾が飛び出す。人の全身よりもはるかに大きな岩石は、しかし目標である石壁に届くことは無く空中で勢いを失い、轟音をあげて地面へと落下する。
速度も威力も射程も精度も、上級魔法とは言い難い。
明らかな失敗である。
「……っだぁー!!!」
(撃つときの角度と、魔力放出が足りなかったか!?なら次は、圧縮する魔力を減らして、その残った分でもうちょい上めがけて撃つか……!?)
「……構えは先程のままでよいのですぞ。隣の青葉くんを見なさい」
「肩にも手にも余計な力は込めず、勢いも必要ない。必要なのは、掌から魔力を放出する際の爆発的な放出能力だけですぞ。
あれならば、的を外すこともない。
皆も、八雲くんや平等院さんをよく見習うのですぞ!変な癖がつくと、狙いが疎かになってしまうので、必ず正しい姿勢で魔法を撃つことを徹底するのです!」
「了解っす!」
白銀先生の指示は的確ではあったが、上級魔法の訓練とは一朝一夕で進むものではない。
元から出来る生徒は、その後も少しずつ魔力をかき集めながら得意属性の上級魔法を成功させていったが、出来ない生徒は、不完全な魔力制御によって必要以上の魔力を消費してしまい、僅かに掴みかけた感覚を忘れないようにしながら、魔力を練り上げることにさえ苦労していた。
海燕もその一人であった。
魔力を全開にして全力で走ったことよりも、上級魔法の魔力を立て続けに練り上げ、発動しようとしたことによる疲労が海燕の全身を襲っていた。魔力の枯渇が起きかけている。
(……畜生……)
上級魔法の魔力消費量が膨大であることに変わりはなく、何発も撃とうとすればそれだけ魔力を余計に消費してしまう。
景気よく放出し続けたことで、海燕が自分で思ったよりも早く魔力の枯渇が起きていた。
(……どうすっかな……!)
海燕は正面の石壁を睨みつけて途方に暮れる。
(いや、待てよ、足下のこの魔力は使えんぞ……!)
”石壁”を睨みつけていた海燕は、白銀先生が”石壁”の起動のために演習場に大量の土属性の魔力を張り巡らせていたことに気が付いた。恐らくは、結界魔法なのだろう。
(ちょっとぐれぇならいいだろ!)
海燕は足の裏から、ゆっくりと魔力を吸い上げた。
(すんません先生。魔力を頂きます……!)
陽花の結界魔法を吸収したように、魔力の波長さえわかれば、接触している部分から魔力を己の魔力として吸収することはできる。
「次は……今より魔力を込めてやってみっか!」
他人より要領が悪いならば、他人より多く、他人より深く考えて魔法を行使しなければならない。
その教え通り、海燕はこの授業で最も多く上級魔法を行使し、そしてその全てが不発に終わった。
しかし、不発に終わった魔法も、確かに訓練を開始した当初より早く、正確に”石壁”に向かって飛ぶようになっていた。




