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豊葦原のうみつばめ  作者: 空殻
入学試験編
37/59

第三十七話 誤解


「……ひでー目に遭ったけど助かったぜ、健清。ありがとよ」


「何、この程度わけはないよ。ところで、あの結界は解除出来そうかい?」

「どうだろぉな。おーい文次、何とかなりそうか!?」


 海燕は、陽花の結界に関しての具体的な対処は文次郎と瑠璃に丸投げしていた。

 玄武との戦闘による疲労があったのもあるが、実際に鳥居を傷つけずに結界を破壊するには、結界魔法に関する知識がある瑠璃や、魔力操作技術に秀でた文次郎が対応した方がいいと瑠璃が判断したからだ。


 瑠璃と文次郎は風属性の魔力を放出し続得る結界に対して、悪戦苦闘を続けていた。


「何とかなりそうだぜ。魔力が足りねぇけどな!!というわけで、魔力貸してくれ海燕!」

「合格出来るんなら幾らでもいいぜ。返済もしなくていい。つーわけで瑠璃、まだ”注連縄なんちゃら”は使えるか?」


 結界を無力化するには、どうやら膨大な魔力を必要とするらしい。平民出身の文次郎は、魔力量に恵まれているわけではないので、魔力が足りなくなったようだ。

 海燕ならば、自分の魔力の波長を文次郎と同調させることができる。海燕と、瑠璃の持っている魔力伝送魔法と組み合わせることで、文次郎に負担をかけることなく海燕の魔力を文次郎へと送ることができるのだ。


「”注連縄唐草”ね。私の魔力は充分にあるから、問題なく使えるわ。……それにしても、二人とも随分と顔色がいいけれど、どうかしたの?」


「健清に治療魔法を使ってもらったんだ」


「え、ええっ―――――――――――――――――!?ずるい!ずるいです!二人だけ治療魔法を堪能するなんて!何で私に言ってくれなかったんですか!?私も見たかったのに!」


「いや今は結界解除を優先してもらわねーと困るだろ!?」


 治療魔法が使える退魔師は、瑠璃にとっても憧れの存在である。退魔師魂を全開にして海燕に詰め寄る瑠璃に、海燕は気圧されてしまう。


「ま、待ちたまえ。君たちなら、治療魔法くらい合格さえすればこの先幾らでも見る機会はあるだろう。それよりも結界だ。今はどういう状況なのだ?」


「ああ、俺の”霜時雨(しもしぐれ)”と瑠璃ちゃんの”蓮火閃(れんかせん)”で、温度を変化させて風の魔力を少しずつ乱していって、結界を弱体化させるとこまではできたんだ。弱体化したおかげで結界に外から干渉するできるようになったから、後は俺が結界を解除っつーか、()()()すればいい」


「上書き?結界が弱体化したのなら、その結界を斬ってしまえばいいんじゃあないか?」


 八雲がそう文次郎に問いかける。その疑問に答えたのは、文次郎ではなく瑠璃だった。



「この結界の厄介なところは、結界のどこかを壊しても、残りの魔力と微量の風で結界を維持しようとするとこなんです。腐っても”結界”ですから。破壊しても元に戻ろうとする性質を持っているんですよ」


(予想より大分ちゃんとした結界だったぜ……)

 海燕は内心で陽花と、陽花に結界魔法を教えた道場を賞賛した。無駄に高性能なこの魔法は、もののけ相手に使うことが出来ていれば味方を守る防壁としてこれ以上なく役に立っただろう。


「……厄介な結界だな。まったく、大したものだ」


 健清は思わずそう呟いた。瑠璃もそれに同意する。瑠璃の言葉には、


(これほどの魔法があれば、普通に試験を突破出来ただろうに)


 という思いも籠っていた。


「そうですね。使用者が維持管理しなくていい結界魔法としては、これほど都合のいい魔法もないでしょう」

「俺も練習して習得したいくらいだぜ。ま、そんなわけでどうやっても結界は残り続けちまうみたいなんで、結界が弱まって干渉できる今のうちに俺が結界を張りなおす。陽花ちゃんの命令でクソ強い結界になってるところを、陽花ちゃんの魔力に似せた俺の似非(エセ)結界魔法でとんでもねぇへっぽこ結界に書き換えちまうんだ。見ものだぜ?」


「文次ぃてめー、結界を壊すなんて悪ぃやつだな。敵に回したくねーぜ」


 海燕は瑠璃の手を借りて文次郎に魔力を送ると、文次郎をそうやって茶化した。この場で最も責任重大な文次郎を気遣っての、海燕なりの激励だった。


「おれ、これでも村じゃ一番の悪戯小僧で通ってたからな。海燕、陽花ちゃんの魔力ってこんな感じだったか?」

「あー、もうちょい風魔法寄りだな」

「ふんっ……!こうか?」

「それは魔力を込め過ぎだ」

 

 そして、海燕の監修のもとで文次郎の魔力を確認する。他人の魔力の波長に自分の魔力の波長を合わせるということをしない退魔師にとっては相当の難事であるはずなのだが、文次郎は楽しんでいた。


(これだぜ、これ。これ位難しくないと楽しくねぇ)


 高い魔力操作技術を持つ文次郎でも、他人の魔力を精製して魔法を使うのは初めての経験である。普通はそんなことをしなくても、自分の魔力を自分が使い易い程度の波長に変換するだけでいいのだから。

 だが、そういった面倒臭い作業だからこそ、自分の退魔師としての技量を試されているような気がすると文次郎は思う。


 高い集中力で陽花の波長を再現した文次郎は、そのままの勢いで適当にでっちあげた魔法を使い、陽花の結界を上書き()()()()()のだった。




 結界の上書きに成功し、皆から揉みくちゃにされ頭を爆発させている文次郎たちを見ながら、千里は文次郎たちへの警戒心を強めていた。


「何て連中だ」


「うん、そうだね。とんでもない退魔師たちだよ、あの人たち」


 千里の言葉に、黒髪の男子、猿之助は同意する。どうやら彼は千里についていくことにしたようだ。


「やったよちーちゃん!私たちも行こうよ!!」


 千里が抱いている警戒心を欠片も持ちあわせていないのか、(つぐみ)は不満気だ。今すぐに海燕たちの輪に加わって騒ぎたそうにしている。


「”北の民”と仲がいい連中なんて信用するんじゃあねぇ」


「えー?あの文次郎くんって私たちと同じ平民だよ?ちーちゃんの気にし過ぎだよ~」


「……じゃ、鶫だけ行ってくれば。あたしは行かねぇから」


 そう言って千里が突き放すと、鶫は怒ったように頬を膨らませた。


「むー。ちーちゃんが行かないなら行かないよ。でもさ、ちーちゃんも少し気にし過ぎじゃない?いい人たちっぽいよ?」

「鶫はあいつらがどれだけ異常か知らねぇからそう言えるんだ。考えてもみろ。他人の結界魔法を解除できるような退魔師が、”北の民”と組んでんだぞ。能天気にはしゃいでる場合じゃねぇだろ」

「…そう言えばあの青い髪の退魔師さん、玄武が使っていた上級魔法(紅蓮紅臨(ぐれんこうりん))を使ってたよ」

「何!?」

 猿之助は自分が見た光景をありのままに話す。彼は、瑠璃が玄武に”紅蓮紅臨”でとどめを刺したことを、玄武の魔法を見てそれを真似たのだと過大評価していた。

 

「単にたまたま覚えてたんじゃない?いくら何でもいきなり上級魔法なんて無理だって」

「でも、あの黒髪の人は上級魔法の結界を上書きしたんだぞ?」

「むー。そりゃあそうだね。じゃあさ……もしかしてもしかして、あの人たち結構凄い退魔師ってこと?」


 人は、自分よりも優れているかもしれないものを見ると時に過剰に、より過大に評価してしまうことがある。実際のところ、瑠璃が聞けば羞恥心で悶絶するような評価が彼らの中で積み上げられていく。

 彼ら三人の中で、文次郎と瑠璃は同格の天才ということになってしまった。

 不幸なことに、過大評価はそれだけにとどまらなかった。


「あ、そう言えば私も面白いもの見てたのかなー?あの赤毛の怖そうな人、玄武の上級魔法を喰らってもピンピンしてた!……何でかな?」

「攻撃魔法を無効化する魔法を使っていたんじゃないかな。そんな魔法、僕は聞いたことないけど」

「上級魔法を無効化!?」


(何てこった……そんな魔法があったのか!?) 

 千里は思わずうめき声をあげる。


(”上級魔法を奪い取る退魔師”と”上級魔法を無効化する退魔師”が”北の民”と組んでいるだと!?あり得ねぇ……!)


 千里の中での過大評価は止まらない。なまじ二人よりも実力があり、戦闘経験がある千里は、海燕たちが組んでいる未来の先の絶望的な未来を想像してしまっていた。


(……もし。もしもあの”北の民”が。あいつらが組むことで、”あらゆる上級魔法”と、”無効化魔法”を手に入れたとしたら……)


 その時は、豊葦の国でも最強最悪の退魔師が誕生してしまうのではないだろうか。

 どんな攻撃魔法も通用せず、誰よりも早く戦場を駆けまわり、誰よりも強力な上級魔法を撃ちまくる。そんな、戦闘狂が。災厄を振りまく暴力の化身が、この世に生まれてしまうのではないだろうか。


(……あたしはどうするべきだったんだ?玄武を倒さずに、ここで……

あの”北の民”を、殺しておくべきだったんじゃないのか?)


 退魔師として、災いの種は摘んでおくべきだったのではないか。そう千里が思い始めたとき、千里たちに声がかけられた。


「君たち、少しいいだろうか」

「あ、健清くん!」

「てめぇ、何しに来た?」

 威嚇するように健清を見上げる千里に対して、健清は呆れたようにため息をついた。


「そう警戒するな。まったく、君は声が大きくてかなわない。僕はただ、真面目に試験を受けているだけだ。君たちに、頼みたいことがあってね」

「頼み?僕たちにですか?」

「……言ってみろよ。話だけなら聞いてやるぜ」

「ありがとう。無事、僕たちは試験を突破できるわけだが、着順をどうするかという問題があってね」

「着順て。普通に通ればよくないですか?赤毛の人たちももう……あれ行かない?」

 健清たちが話をしている間に、海燕たちは赤い鳥居をくぐり抜けるかと思った。しかし、海燕たち四人は動かない。


「……先に行きたきゃ行けばいいだろ。とっとと行けよ。あんたにはその権利がある」

「そういう訳にはいかない。倒れている人たちを通さなければならないからな」

「あ?」

 

 健清が指さした先には、叩きのめされて横たわっている陽花たち五人の退魔師の姿があった。


「……あの赤毛の海燕くんたちが、彼らを背負って鳥居をくぐると言い出したのだ」

「あいつらが!?」

「ああ。彼らをここに放置すれば、玄武の攻撃で命を落としかねないからね。倒れている人間を通すのは、僕も仕方がないと思ったが」

 そこで健清は言葉を切り、一呼吸置いた。


「……彼ら五人(ようかたち)を海燕くんたちが背負えば、僕たちの着順が五人分だけ下がってしまう。それは、少し不公平だろう。君たちと僕は、曲がりなりにも玄武と戦ったのだから。なので、僕たちで彼らを背負ってここを通らないか?」

「それ……僕は別にいいですけど、千里さんはどうします?」

「……どうもこうも……あたしらが持ってく以外ねぇだろうが!」


 それが、退魔師としての千里の結論だった。最後の最後の最後まで、八雲に塩を送られたことに対する怒りが収まらない。


「そこで、問題になるのが着順だ。僕は体格がいいから二人背負うことができるが、そうなると君たちの着順が二人分遅れることになる。そこで」

「ああ、もういいっつってんだろ!面倒くせえ奴だな!あたしが最後に通ってやるよ!あんたか鶫か猿之助か、早いもの勝ちで通ればいいだろうが!」


 こうして、海燕たちに続いて健清、そして千里たちも試験を突破した。

 


 そして、鳥居をくぐり抜けた彼らが見たものは。

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