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豊葦原のうみつばめ  作者: 空殻
入学試験編
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第十七話 四ノ島の試験 勝利



「さあ、ここからが本番だぜ!気合入れろよ()()!!」


「あったりめーだぜ海燕!”霜時雨(しもしぐれ)”っ!」


 海燕の言葉を聞いた文次郎は、かなり嬉しかった。その高揚感とともに無詠唱でも撃てる魔法をあえて詠唱し、魔法の効果を高めて放つ。


(なんだかんだ言って海燕って、俺の話もちゃんと聞いてるよな)


 軽口も冗談も、相手との緊張をほぐして友情を育むためのものだ。それが無下にされず相手に届いていたとなれば嬉しくならないわけがない。


 気分の乗った文次郎の中級水属性魔法”霜時雨”は、大きく素早いだけの水弾にしか見えない。しかし、その水弾は中級魔法とは思えない正確さで神木の根に着弾すると、根の表面を凍り付かせはじめた。灰色の根が、少しずつではあるが白い氷に覆われていく。


「……やるじゃねぇか!」


 それは海燕にとってもありがたい援護だった。


 根の表面や切断面に着弾した水の魔力は、霜となって根の表面にまとわりついたのだ。その霜は根を冷やし、根の再生速度を確実に鈍らせていた。


「さっき樹液で根が再生してるのを見て思ったんだ。樹液が表面に出て再生するなら、表面や樹液を凍らせてやれば、再生できなくなるかもしれねぇってな!」

 

 その推測は正しかった。

 神木の根が再生する過程は、まず樹液が切断面や傷を負った部分に放出され、樹液の中に濃縮された魔力と神木の成分が蒸発によって混ざり、解放されるとともに傷を負った部分の細胞を蘇生させて生やすという段階を踏んでいる。

 中級魔法程度では完全にその機能を止めることはできなかったが、根の再生速度を遅らせ、根自体の運動機能を鈍らせる効果はあった。


 この隙を逃す二人ではなかった。



「よぉし!俺が斬って文次が凍らせる!そんでここを耐えるぞ!」


「おう!」


 文次郎は防御の全てを海燕に任せ、四本の根すべてに”霜時雨”を撃ち込んでいく。海燕が動き回って根の反撃を防ぎ、上昇した魔力を木槍に解き放って根を斬り続けている限りは負ける気がしなかった。

 

 瑠璃と八雲が上手くやってくれることを信じてひたすら粘る。徐々に激しさを増す根の攻撃に耐えるためには、仲間への信頼が必要だ。


 根の一本が文次郎に向けてなぎ払うような攻撃を放つ。に対して、右腕と両足に魔力を集中させて防ぐ。骨が嫌な音を立ててきしみ、脳が痛みを訴えて勢いのままに吹き飛ばされそうになるところを文次郎は足の魔力で耐える。


(海燕はもっと頑張ってんだ!これくらい気合で耐えろ俺!!)


 自分の肉体内における魔力操作は、退魔師の基礎の基礎だ。上級魔法まで会得している文次郎は、咄嗟の魔力操作にも優れていた。体術こそそれなりではあるが魔力を防御だけに回せば、根の攻撃も一回程度ならば耐えられた。


 その一回の間に、海燕が必ず根を叩き斬ってくれる。


 そして海燕を狙う再生しかけの根に、”霜時雨(しもしぐれ)”を撃つ。


「はぁ……はぁ……っ!!!」


 絶望的な戦いだった。


 二人から見て無尽蔵の魔力を持つ根に対して、二人の魔力も体力も時間と共に確実に磨り減っていく。戦い続ければ必ず敗北する無謀な戦いをそれでも続けられたのは、


「もう少し、もう少しだけ粘れ文次!!」


 自分以上に根の攻撃を受け、顔面を血で赤く染めながら必ず自分を庇う海燕と。


(瑠璃ちゃん……!八雲!!)

 

 ここにいない二人の仲間に対する信頼だった。


 文次郎は瑠璃が大好きだ。退魔師として尊敬し目指すべき人だと思っている。そんな必要はなかったのに、自分を救って、拾ってくれた人でもあるのだから。

 だが、そんな人にもどうやら人助けより優先すべきものがあるらしい。


 それは、神木の保護だという。

 

 それを聞いて、文次郎は瑠璃のことが少しだけ分からなくなった。

 あれほど人を助けることに全力を尽くしている退魔師でも、試験の最中でも、優先すべきことなのだろうか。


 いや、きっとそうなのだと文次郎は思う。



 なぜなら。森に棲むもののけがこれ以上増えて、また四ノ島から解き放たれてしまえば、文次郎のような人間も、退魔師ではない平民も、もしかしたら退魔師だって大勢が死んでしまうかもしれない。


 人はもののけから守られるべきだと、強く思う。大猪との戦いで、文次郎と同行していた平民出身の退魔師は皆死んだ。あんなことは、あってはいけないのだ。

 それがたとえ避けられない死であったとしても、本人にとって覚悟の上のことだったとしても、死というものが理不尽で、不本意なものだと思い知ったからだ。


 だからこそ、文次郎は力の限り戦った。退魔師として、人々を守るために、仲間を信じて魔法を撃ち続けた。

 四本の根がいつの間にか消え、別の分木から新しい根が現れても戦い続けた。


 瑠璃たちが神木との和解に成功してすべての根が活動を止め、地中に姿を消したとき、ぼろぼろの海燕を支える文次郎は泣いていた。


「勝った、勝ったぜ海燕!!」


「…ああ。文次。腹ァ減ったな……」


 文次郎に致命傷はなかった。海燕がその身を使って守り切ったからだ。

 海燕もまた、血にまみれ打撲や切り傷はあれど、致命傷はなかった。文次郎の魔法が、何度も海燕の危機を救ったからだ。


 神木の根だけでなく退魔師も、死力を尽くした戦いを重ねることでより強く、深く魔力を自分自身のものとしていく。この戦いに、彼らは勝利した。それは、新たな成長へと繋がる勝利でもあった。

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