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豊葦原のうみつばめ  作者: 空殻
入学試験編
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第十三話 四ノ島の試験 四大属性


「真ん中の道を行くなら、烏退治は俺にやらせてくれ。もののけに喰われちまった受験生の仕返しはしてやりてぇ」


「許可します。今は烏を追い払うだけでも構いませんよ」


「そりゃないぜ瑠璃ちゃん。ちゃんと仕留めてみせるさ」


「鉄烏子は本当に鉄より硬いぞ。この距離から届くのか?」


「ちゃんと考えてるさ」


 中央の道を選んだ海燕たち四人は、魔力の消費を抑えて、茂みの中から鉄烏子の様子を窺っていた。

 鉄烏子は海燕たちには気が付かない。受験生の死体を啄むのに必死だった。

 鉄烏子に敵意を燃やし、受験生を弔おうと一番張り切ったのは文次郎だった。文次郎は、死体を啄む鉄烏子を仕留めようと三日月のように反り返った木の枝を持ち、”木洩火”でその中央に火をつける。

 そして、更に全身で火属性の魔力を練り上げる。文次郎はさらに体内で練り上げた魔力を両手の掌に集中させた。

 ”木洩火”によって燃やされた木の炎と、文次郎が両手に収束させた火属性の魔力が重なり、一本の矢のような形になる。




(儀式魔法!)


 瑠璃が文次郎のやろうとしている技に思い至る。中級の儀式魔法として”火弓閃(かきゅうせん)”という、魔力を弓に乗せる魔法があるのだ。文次郎は矢に見立てた魔力の塊を作り、それを飛ばそうとしているのだ。

 

(”火弓閃”は、火属性の魔法を弓矢を射る動作に見立てて放つことで遠距離攻撃にする儀式魔法だ。放つ炎の威力が減退してしまうという致命的な弱点があったが、それを木洩火で補うということか)


 八雲は文次郎の発想と、魔力制御能力の高さに感心する。彼は文次郎の所作をじっと見守りながら魔力をため、万が一の事態に備えていた。


「名付けて火属性中級狙撃魔法、”火弓火葬(かきゅうかそう)”」


「気負わずやれよ、文次」


 海燕は文次郎を激励しながら、その技術に圧倒されていた。

 寺子屋や道場で学ぶ魔法は、火、水、土、そして風の四つの属性が基本となる。これを四大属性と言い、人間の持つ魔力の波長は、基本的にこの四つのいずれかに該当するのだ。自分の魔力の帯域と異なる属性の魔法を使う時は、自分の体に負荷をかけ、魔力の波長を変えることで任意の魔力に変更しなければならない。文次郎の先天的な適性は、水属性。今文次郎が練っている魔力は、自分の適性とは異なる火属性の魔法である。魔力を矢の形にして遠くの目標に当てるだけで、どれだけの技術が要求されることか。


 寺子屋や道場で学ぶ四大属性の魔法は、基本的に魔力を練って任意の魔力に変換し、魔力を体内で循環させて制御し、魔力を放出することで発動する。これを魔力の三要素と言う。魔力の三要素のいずれかを失敗すると、魔力が分散して魔法が発動しないか、最悪の場合は魔法を暴発させてしまうという結果になるのだ。


 にもかかわらず、文次郎は適正と異なる火属性の魔法を、昨日海燕が教えたばかりの”木洩火”で強化し、その炎を制御しきっていた。


(ぶっつけ本番でそんな魔法をやるとは……)


 自分の得意な属性以外の魔力を練り、魔力を完璧な精度で操って高い威力を保ったまま目標まで到達させる。口で言うのは簡単だが、それが目を瞑って針の先に糸を通すほどに困難な作業であるということを海燕はよく知っている。ましてやぶっつけ本番で新しい魔法を試すなど。


「文次郎を信じよう、海燕」


「俺は別に失敗するなんて思ってねぇ」


 だが、どうやら文次郎には弓の腕があったらしい。

 魔力で目を強化しなければ見えぬ距離から狙い打った火矢は、寸分違わず鉄烏子の羽根に着弾し、空似浮いていた烏を大地へと焼き落とした。


「……お見事」


「……文次おめー、弓術でもやってたのか?随分とまぁ古い技術持ってんな」


「五級とか六級の頑固おやじたちに混ざって儀式魔法として弓の稽古してたからな。まぁ、役に立ってよかったぜ。四級以上の退魔師さんになると、もののけに近付いてから中級魔法を連発した方が楽だろうけどよ」


「謙遜がお上手ですね。遠くから一撃で勝負を決められるのであれば、それが一番です」


 魔力は肉体を強化し、もののけの魔法や強力な攻撃に対する耐性をある程度強化することができる。生存重視で攻撃魔法を節約するか、効率重視で高威力の魔法を覚えるかは、前述した魔力の三要素における個人の適性との兼ね合いにもよる。


「鉄烏子との戦闘を避けることが出来たのは幸運でした。……ご遺体は酷い状態でしょうね。すぐに行って、埋葬してあげましょう」


 そして四人は、遺体が吊るされていた木へと移動した。


 その遺体を見た瑠璃が青ざめ、四人に警戒を促す。


「全員戦闘態勢!!!」


 瑠璃の声に従い、四人は全身の魔力を解放する。海燕も、木槍を構えなおした。


「……おい……やべぇぞ……」


 海燕たちが見た受験生の遺体は、烏に啄まれた跡以外にも、致命傷となった傷が残っていた。


 遺体の腹部は()()によって貫かれ。


 受験生の遺体は、木乃伊のように干からびていた。

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