14:ルーツを探して
エクスはコーヒーを飲みながら思考を巡らせていた。
これからどう動くか………。
外は化け物達が動き回っており、エクスたちのいるA区画は封鎖された状態。
このA区画内に軍用ロボットを派遣するというのも、あのカワサワという自分勝手な責任者が失脚しないために、生存者がいた場合の口封じのために行われる可能性が極めて高い事。
そう考えると、出来れば早いうちに行動したほうがいいかもしれない。
だが、施設を脱出しても行く当てはあるかと言われたらエクスは首を横に振るしかない。
よくわからない容器の中で目覚めて、自分の名前は思い出せず、情勢以外の知識や武器の扱いしか分からないのだ。
自分は一体誰なのか?
それが分からないから困るのだ。
正体不明の謎の人物が主人公のゲームや小説は昔からあるが、自分がいざそういった人物になると、自分のルーツを探ろうとするだろう。
コーヒーを飲み干してから、エクスはアヤに尋ねた。
「なぁ、アヤ………ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」
「ええ、何なりとお申し付けください」
「アヤを作った会社は何処にあるんだ?」
「製造元…という意味であるなら、私は岡山県の北部にあるロボット製造会社で作られました。会社の名前は、North・Okayama・Precision・Industry…略称はNOPI、書類上の正式名称では北岡山精密工業社製です。日本のロボットメーカーでも2割のシェアを占めていました。本社は名前の通り岡山県の北部、津山市にあります」
「岡山か………あ、でもアヤは生物災害の時に軍に接収されたんだよね?接収された場所とかはわかるかい?」
生物災害が発生し、感染の水際作戦が行われている間に、軍が主体となって販売店に並ぶ前にロボットの最新型が工場などから接収された。
もし、工場の場所が分かればエクスが今いる保護施設の場所も容易に分かるだろう。
「申し訳ございません、接収された場所までは分からないのです………私の場合は製造番号も刻印されていないので私自身、何処で製造されたのかは分からないのです。この保護施設に関しても施設内部はともかく、施設外の広域地図情報を開くことが出来ないので、場所の特定は現時点では出来そうにありません………」
「地図を開くことが出来ない………というと、エラーが起きるというわけか?」
「はい、インターネットへの接続も出来ないので、恐らく管理者側が情報を遮断しているのかもしれません………」
エクスはアヤも自分のルーツを知らされていない事に驚いた。
アヤの場合は、接収したタイミングが出荷前で刻印する直前だったのかもしれないが、施設外の地図情報が開けなかったり、インターネットが使えないなどの事を考慮すると、エクスはこの区画にはヤバイことが隠されているかもしれないと感じ始める。
だが、真実は時として知らなかったほうが幸せだったということもある。
調べるには慎重にならねばならない。
エクスの思考はまだグルグルと回りそうだ。
「とりあえず、今はしっかり休んで何時でも動けるようにしておこう。アヤ、この部屋の電気が使えるうちに簡易充電器への充電も行ったほうがいいんじゃないか?」
「そうですね、ではお言葉に甘えて充電しておきますね」
アヤは一旦礼をしてからコンセントに簡易充電器を差し込んだ。
充電器の電気が完全に溜まるまで1時間ほど掛かるようだ。
部屋に飾られている時計の時刻はPM11:01となっている。
アヤの簡易充電器の充電が完了する頃には日にちが変わりそうだ。
簡易充電器をコンセントに差し込んでから戻ってきたアヤと再びエクスは会話を重ねていった。




