13:放送
『保護施設に避難をされているすべての皆様へ………こんばんは、保護施設の最高責任者であるカワサワ・タカヒコです。現在起こっている事故について改めてご説明いたします』
保護施設の最高責任者を名乗るカワサワ・タカヒコは手元の原稿を読み上げる。
原稿は予めシナリオライターが書き下ろしたのだろうか。
現在エクスとアヤが置かれている状況とはまるで違った説明をカワサワは話し始めたのだ。
『三日前にA区画内のガス管から一酸化炭素を含む有毒ガスが漏れ出し、現在A区画内は立ち入りが禁止されております。ですが、一部の人々からは感染者が内部に侵入したという噂が流れているようですが、それは悪質なデマであります。現在A区画は有毒ガスが多く充満しており、現在排気システムに不具合があるため、この有毒ガスを排気しようとすると他の区画に漏れ出す危険があります。ですので、現在A区画内はロボットによる除去作業を行い、ガスが抜けるまで恒久的にA区画内への立ち入りを禁止します』
「おいおいおい、有毒ガスが充満していたら俺は死んでいるんじゃないのか?」
エクスは画面越しにカワサワにツッコミを入れる。
もしカワサワの説明通りに有毒ガスがエクスたちがいる区画内を充満していれば、エクスは間違いなく死んでいる。
仮に一酸化炭素中毒であれば、頭痛にめまい、嘔吐などの症状が現れて中毒に陥り死ぬだろう。
「エクスさん………ここの空気には異常は見受けられません………空気中に有毒ガスを含めて異常など無いですし、三日前から温度20度、湿度は50パーセントに保たれています」
アヤは体内に搭載されている空気内の成分・温度・湿度を確かめるモードを使って確認を行う。
そして、カワサワの言っていることが嘘であるとエクスに伝える。
温度、湿度共に正常であり、異常などどこにもない。
あるとすれば区画内に変化を起こしている化け物達がわんさかいるという所か。
エクスは睨むようにテレビの画面を見つめている。
『現在、避難生活が長期間していることもあり、メンタルのケアなども重要であります。区画内にいる最寄りのカウンターのセラピーを受けるという案も一つの手です。しかしながら、感染者がいるという噂に関しては容認できません。噂を流した人物に対しては騒乱予備罪を含めて重罪を科しますので、今後はそうした噂を流している人物を見かけたり聞いたりした場合には、内部保安要員にご相談ください………以上で本日の放送を終了いたします………』
カワサワの放送はエクスとアヤを落胆させるのに十分であった。
この区画は見捨てられたのだ。
特にエクスの怒りは顔に大きく出ており、アヤが感情センサーを測るまでもなかった。
生存者の救助は打ち切られたも同然であった。
「クソっ………ここから抜け出せそうにないのかよ………なんてこった………」
エクスは壁に拳をたたきつけたい衝動に駆られるも、大きい音を立てて化け物達に感づかれでもしたら元も子もないので、必死に抑える。
そんな怒りの気持ちを静めようとアヤはエクスの拳に手を添えた。
ひんやりとした手で拳を包み込んでアヤはエクスに優しく落ち着くように言った。
「エクスさん………お怒りの気持ちは最もでございます。私の感情センサーもカワサワ氏に対する”怒り”の気持ちを抑えるために制御プログラムが働いているほどです………人に裏切られるという事がどれほど辛いものかも私は今、この身をもって知りました………」
無機質な薄い青紫色の手でエクスを包み、そしてゆっくりとその手が暖かくなるのをエクスは感じる。
次第にエクスの怒りもゆっくりとだが、治まっていく。
不思議とアヤの気持ちがエクスの心の中に入りこんでいく。
ロボットは心を持たず、感情はあくまでも人間に向けて作られた偽りの表現である。
しかし、アヤの気持ちがエクスに伝わると、エクスは心を落ち着かせてアヤに対して謝った。
「ごめん…アヤ、俺は危うく怒りで身を滅ぼす所だった………すまない、感情的になってしまって………」
「いえ、エクスさんが謝ることはありませんよ………私も貴方と同じ気持ちですから………」
一先ず冷静に戻ったエクスはこの先どうするか考えるために、冷蔵庫の中からコーヒーを取り出し、冷蔵庫の上に置いてあるマグカップに注いでテーブルの椅子に腰掛けて思考を巡らせることにした。
そして、その隣にはアヤが傍に立っていた。
エクスの気を遣ってなのか、それとも見守る為なのか…エクスがコーヒーを飲み干すまでアヤはエクスの傍を一歩たりとも動こうとはしなかったのであった。




