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修羅場未満も一苦労である

次の日奴隷紳士が帰宅した。またもや麗夫人が来た事、さらに母まで来た……と言うか連れてこられたが正しいか。そして王妃陛下に性奴隷を購入しようとしていることがばれていることなどを話した


「まぁ、蛇の道は蛇。王妃陛下ともなれば独自の情報部でもおありなのでしょう。たしか王妃陛下は某侯爵家出身とか、あそこは情報戦に強いですからね。私の商会もたまに先回りされてひやひやした事があります」


念の為に法に触れるようなことはしていませんからねと紳士


「それでだな、あ~」

「何でしょう、ご主人様?」

「その……だな、く、口づけは違反行為に……含まれているのだろうかという事が、聞きたくてだな」

「……買っていただけるのですか、ご主人様」

「その、うむ、試しにだな……。ほら生理的に無理とか言うのがあるだろう。か、確認しておかねば、な……」


彼が笑顔で取りだしてきた鞄からは、お試し期間用の書類が入っていた。見ると『口づけ一回』とか『交合一晩(要避妊薬使用)』とか細かい設定での契約書が何枚も……、なんて直球な契約書なのだろう。しかしこの契約書、魔術で縛られるかなり高度な技術を使われているものだった


「お安くなっておりますので、お気軽にどうぞ」

「交合は気軽には出来ないだろうが!…………く、口づけなら…………契約…………してやってもいい」

「ええ、ええ、ではこちらにサインを。そしてこちらの文様に魔力を少し流して下さい。魔道具起動の要領で、ほんの少しで大丈夫ですよ。あっ、と申し訳ありません、私としたことがサインの際には第三者の立ち合いが必要だったのを忘れていました。ご主人様のお言葉に浮かれてしまっているようですね……家令殿に頼みましょう」


完全に浮かれている奴隷紳士、ベルで侍女を呼び出し家令に来てもらうよう頼むと笑顔で私を見つめる。……まぁそうだろう、やっと懐に現金が入るのだから




恥ずかしいので目を閉じろと言うと、素直に目を閉じる奴隷紳士。おそるおそる顔を近づけぶちゅと彼の唇に唇をつけた。顔が赤くなっているのがわかる、しかし彼は不満顔で


「こんな口づけ、口づけとは言いません。挨拶ですよこれ。お金なんていりませんから、この程度ならどんどんしてきて下さい」

「そ、そうなのか?」

「そうです。契約書が必要なほどの口づけとは……」


私を膝の上に座らせて顎をクイっと上にもちあげると、ちゅと可愛い音を鳴らせながら唇をあわせる。どういう違いがあるのかと疑問を抱いたが、2・3回軽く合わせた後喰われた。いや喰われたというのは比喩で、唇ではむはむと食まれた……、びっくりして「え」と声をあげた隙にぬるりとしたモノが口内に……


「ん……」


し、舌が。ヤツの舌が私の口の中を蹂躙する。こ、これが金をとる口づけ?い、い、息が出来ぬ!!


と思ったら、少し間を置いてくれた。今だとばかりに息をすると、「んあ」なんて自分の声とは思えない変な声が漏れてしまった。舌が口内を去った後、奴隷紳士の唇と舌が私の顎から顔の輪郭に添って彷徨いだし、首筋をねっとり舐められてから、またもやはむはむ。最終的に耳に口付け


体がゾワゾワと震えっぱなし。これって口づけなのか?と思ったが、うむ、一応口を付けているな!!


「これでも、まだ手加減しているんですよ……ご主人様」

「そ、そう……なのか?」

「何てお可愛らしい……、折角なので他の契約も試してみませんか?」


膝の上に横向きで座っていたのを、私の体を自身の体によっかからせるような感じに向きを変える。うぅむ人間椅子なんて思っていたら、奴隷紳士から新たな契約書を手渡され、一体何をするつもりかとその契約書を覗き込むと


「『おさわりまで許可』……」

「サインをどうぞ」

「……私の記憶が確かならば、サインには第三者の立ち合いが必要ではなかったか。あぅ、ん、どこをさわって、ひゃ!」

「まぁまぁ固いことは言わずに、生理的に無理では無ければこのまま。それにこれ位の違約金、私が払いますよ。……それよりもご主人様をさわらせて?」

「まだ昼だぞ?」

「ですから服の上からさわります」


普通こういう場合、触るのは私ではないのかと思いつつ震える手でサインと魔力を与える。それを確認してからニッコリと微笑み、本格的に触りだす(言っておくが服の上からだぞ!)。ついでに口付けも再開


「ご主人様、結構お胸がありますね」

「なんだぺったんこだとでも思ったか?まぁ、凄くある訳でもないが、そこそこあると思う」

「しかも張りがありつつも柔らかい……、のですが……」


紳士の手が胸から腹へ移動する(何度も言うが服の上から!)


「……腹筋、割れていますよ?」

「や、痩せているからではないか?脂肪が少ないのであろう」

「服の上から触ってわかるほどの腹筋って、どうなんですか?」


どんどん手が下りていくと思ったら、扉がドンドン叩かれる、助かった!!


「姫さま、夫モドキが来ました!!今、玄関ホールにて父と交戦中!!」


全然助かっていなかった、別の脅威が発生しただけだったな!!


「交戦って、いや、それはともかくアレが来たのか?珍しい……」


慌てる侍女は廊下で叫ぶ。奴隷紳士は残念とこめかみに口づけを落とし、私を開放する。私は紳士の膝から立ち上がり(ちょっとよろめいたのはご愛嬌)くしゃくしゃになった服の上から(まさぐりすぎだ)上着を羽織る


彼もソファから立ち上がり、服を整え契約書を鞄にしまった


「いかがいたしましょう、ご主人様」

「夫婦の寝室に下がっていろ」

「御意」


そういって隣の部屋へと姿を消した。その部屋は本来夫婦の寝室として、私室から直接入れるように扉で繋がっている部屋。その部屋は整えられてはいるが、一度も使われてはいない。そもそも夫モドキがこの屋敷で夜を過ごしたことはないし、もちろん今となっては過ごさせる気もない


廊下が騒がしくなってきた、どうやら夫モドキが来たようだ


私の部屋に立ち入らせる気はないので、自分から廊下へと出向く。久々に見た夫モドキは、なんとなく太った感じがしないでもない。夫モドキは私を見て怒り心頭とばかりに怒鳴った


「閣下、不貞とはみっともない。恥を知れ!」

「なんだ、騒々しい」

「公爵たるもの夫以外を閨に連れ込むなど、淫売のすることだ」

「口を慎め、お前は一体何様だというのだ」

「閣下の夫ですが!」


不貞の証拠を掴もうとばかりに私を押しのけ部屋へと入るが、無人。きょろきょろと視線を動かしたあと、仄暗く笑って横にある夫婦の寝室へ続く扉へ向かう夫モドキ。……あちらには奴隷紳士が隠れているのだった、ちょっとヤバいかも?なんて思ったが


「間男をどこへ隠した!」


恐らく騒いでいるうちに、続きの夫用部屋へ抜け脱出でもしたのだろうと思ったのだが、そういえば夫用部屋へ続く扉は閉めきりだったような?窓も閉まっているし、どこへ行った紳士?


夫モドキはしばらく部屋の中をウロウロしていたが、ニヤリと笑って大きなクローゼットを見た。まさかあんなところに隠れているのか、紳士?


「夫がありながら間男を誘うなど、王家に顔向けができませんねぇ……閣下」

「……」


愛人と隠し子がいるお前がそんなこと言うなよと思ったが、今は奴隷紳士の事だ。夫モドキは得意げにクローゼットの扉を開けた


のだが


「誰もいないな。というよりもなにも入れていないぞ、そこには」

「そんな馬鹿な」


何せ使っていなかったからな!とばかりにからっぽ。馬鹿な馬鹿なと繰り返しながらクローゼットの奥を叩いたり、引き出し部分を開けたりしているが、何度見たって空である。そもそもそんな小さな引き出しに人なんか入るか、と心の中で呆れる私


夫モドキは呆けたような顔で、そんな馬鹿なと呟く


もしかして間者でも使って屋敷を見張らせていたのだろうか、絶対の自信が打ち砕かれたように茫然としている


「騒々しくてかなわん、とっとと去れ」

「……ここは私の家でもありますが」

「では別の家の住人に、お前が高らかに私の夫だと自ら(・・)宣言したとでも伝えてやろうか?言っておくが私はまだ子供なのだろう、少女趣味と疑われたくなければとっとと帰った方が良いぞ?」

「チッ……」


悔しそうに顔を歪める夫モドキは、舌打ちしやがった


ついでとばかりにこそこそと家庭菜園(?)を進めていたことについて、余計な事はするなと釘を刺しつつ帰って行く。まぁ、あれだけ大っぴらにやっていれば、いやでも目につく植樹だな


夫モドキが出ていったあと窓へと近づきカーテンの隙間からチラリと見ると、ヤツはわが家の紋章付馬車を使っている


アレに私のしるしを使わせるのも腹が立つ


窓を開け放ち夫モドキの香水の匂いを追い出しながら思う、あぁ鼻が曲がるかと思ったほどの強い香り。……あちらも自分の子供に爵位を継がせるために、私の弱みを握ろうと躍起なのかもしれない。子供想いですね~、なんて思うか馬鹿


「姫さま、紳士殿は何処に?」

「もう裸だったらどうしようかと思ってしまいましたわ、姫さまってば!」


人払いをしていた所為で、ソウイウコトをしているのかと思った家令親子はそう尋ねてくる。……まぁ、危うく流れでサインをしそうになっていたが、まだそこまではいっていないぞ。とりあえず部屋へ戻ってソファに深く沈みこむ、そろそろ潮時なのだろう全ての決着の


はぁとため息をつくと、続きの間の扉が開き


「帰りましたね。まさかこんなに早く乗り込んでくるとは甘いお人だ」

「あ、え、どこから?」

「隣の部屋にいましたよ、ずっと」


先程まで空っぽの密室から、奴隷紳士が出てきた!


「隠し扉でもあったのか?」

「いえ、普通に隠れていました。全然気が付かないので、こちらがびっくりしましたよ。ご夫君の目は節穴ですね……」

「私もわからなかったぞ?」


まぁ、私が節穴なのは通常運転なのだが


「ご夫君の目は節穴です。こんなに利発で可愛らしいご主人様をないがしろにするなんて、先見の明もありません。早い所手を切った方が得策だと私は思います」

「……そして自分を買ってほしいとでも?」

「それはご主人様に任せます」


穏やかな表情でそう言う紳士


短い人生の中で、私の大切なものと言えば家令親子に、義理の姉上、王妃陛下、王太子殿下くらいしかいなかった。そのなかにあっさりと入り込んできた奴隷紳士。もし紳士が金の為に私に優しくしてくれたのだとしても、それは借金奴隷だから仕方がない。むしろそれくらい立ち回りが上手(うま)いほうが、わが子の父として申し分ない


そんな事を思いつつ、結局はそんなこと言い訳なんだよなと可笑しくなった。私が彼に惹かれているだけなのだと


「正式にお前を買うと決めた、その『鍵』ごと全て」

「『鍵』まで……、高額ですがよろしいのでしょうか?」


借金奴隷の証である首輪を外すための『鍵』は、奴隷商人が持つ。その為、奴隷の真の所有者は奴隷商人となっているのだ。だから気に入らなければ奴隷を返却することも可能だし、種付けだけでも構わない


真に気に入りその借財ごと引き受けてもいいと思ったのであれば、『鍵』を買い取ることとなる


前にも言ったが借金奴隷の全ての借金、それは本人個人のものとそれ以外の生活費を含めた、かなりの高額となるもの。それを買い取ると言うことは、……まぁそういう事だ


「私はお前を気に入った。その『鍵』を使い奴隷の証である首輪を外すのは、私が子を孕んで無事に出産してからになる。少なくともそれまで大人しくしていてくれれば、首輪を外した後は好きに己の人生を歩むがいい。……それだけの切っ掛けをくれたお前に、私が報いることができるとすれば金を出すことぐらいだろう」

「ご主人様」

「せめてそれまでは、私を……甘やかしてくれないか?」


駄目か?なんて力なく聞いてみる。身柄を金で買う癖になんて思われはしないか、いや実際金で買うのだが……。なかなか返事をしない紳士を見上げると、何故か手で口を押さえて視線は斜め上に向いていた


何かあるのだろうかと周りを見渡すと、紳士と似たような格好で家令親子も小刻みに震えていた。なんだ、どうしたのだ?都合が良すぎると怒っているのだろうか?


「どうした?」

「やだ、姫さまってば!そんな上目遣い、反則ですよぉ~!」

「そうです、そんなこと言われてはひとたまりもないですぞ」

「な、なにがだ?」

「ご主人様が可愛くて辛い……」


皆さらに震えだしそんなに寒いだろうかと、開け放たれていた窓をそっと閉めた……。

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