表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

一苦労どころではなかった

取りあえずその夜はゆっくり休んで次の日、朝食をすませた後作戦会議となった


「折角なので、かの夫モドキを『ぎゃふん』させてから、止めを刺しましょう」

「ぎゃふん?いや、いい、続きを」


意味は解らないが、奴隷紳士はとても生き生きとしていた為、続きを促した


「ご主人様に間男の陰がある事はすでに噂になっているからこそ、乗り込んでこられたのでしょう」

「まおとこ……」

「私から言わせれば共同出資者の域を出ていない状態で乗り込まれても、不貞の証拠にはなりませんよ」


口づけは不貞ではないのかと、ジト目で紳士を見るが微笑まれてスルーされる


「なのでもう少しこっそり、堂々と姿を見せるようにします。深い仲になってきましたよとばかりに、夜にお伺いしましょう」

「こっそり、堂々……夜に」

「そして衣服を上等な物にします。あまり派手派手しい衣装は好みではないのですが、こっそり目立つ派手なものを身につけることにします。いかにも貴女が貢いでいますよと言う感じの、高級品を」


普段から上等で上品な衣服で身を包んでいるのに、これ以上どうするのだと思ったが、上には上があるらしい。その名も『女公爵、公爵領の税金を男に貢いでいるよ作戦』。……夫モドキは自分がちょろまかしているからそういう事には敏感らしい、すぐ引っかかるだろうと紳士


「しかし公爵領の税金を公爵たる私が使いこんだって、別に普通ではないか?領内のものは私のものなのだし」

「極論で言えば食いつぶしたってご主人様の領地ですから、国に税金さえ払っているのであればそれ以外は好きにできますよ。……実際そんな事はしないでくださいね、領地を整えるお金も必要ですから」

「解っている」


そもそも私は日常生活レベルの値が王族出身なのに低すぎるらしいから、そんなに金は使わないし


「自分も横領している癖に、この前のごとく勝ち誇ってやってきますよ。己の子供に継がせる財産が減るのは嫌でしょうから、それほどご主人様を泳がさずにそこそこのところで乗り込むはずです」

「なるほど」

「と言う事で私は出入りの商人風に着飾り、夜屋敷に来るように見せつけます。商人は普通夜には来ないですから、ご夫君ならピンとくるのではないでしょうか」


しかも逢引の日を固定すれば、とてもわかりやすい浮気の日となり罠を仕掛けやすくなる。しかしこの前現場を押さえるのに失敗しておいて、罠に乗ってくるかなぁとも思う。2度目は慎重になるものではないかと問うと、そこらへんも織り込み済みで細かな打ち合わせをしましょうと、家令親子にも話をふる


「そもそも夫モドキは、夫婦の寝室にいなかったらその隣にある夫の部屋へ抜けたって考えなかったのでしょうか?」

「クローゼットは念入りに調べていたのにな、あちらのドアには触りもしなかった」


侍女の台詞に私も賛同する。実際鍵が閉まっている事を知っていた私だって、あの状況にあったらノブを確認ぐらいすると思うけれどもな……


「あの方、確か部屋住みでしたね。嫡子ではなかったと」

「部屋住みだからといって、夫婦の私室双方から夫婦の寝室に入れることくらい貴族では常識だろうに?」

「あまり裕福ではない貴族の屋敷には、夫婦の寝室がない場合もありますよ」

「いや、アレは高位貴族だぞ。父親は国王陛下のご学友と聞く」


確か国王陛下は学校には通わず、教師とご学友を王宮へ呼び勉強していたはず。あちらのご両親の仲は円満なのでしょうかと紳士は言うと、侍女が裏侍女情報網を使って聞いてみますと一旦退出した。ついでに夫モドキの実家の屋敷の間取りを探ってみますと家令が一旦退出


待っている間に紳士がお茶とお菓子を用意してくれたので、しばらく休憩。そして数刻後


「姫さま、聞いてまいりました!どうやら夫モドキの父親は家付き娘に婿入ったので、夫の部屋から夫婦の寝室へと続く扉は常に鍵をかけてあった状態だったそうです!仲が悪かったわけではないのですが、夜の営みは家付き娘にお伺いを立てて寝室に呼ばれなければ出来なかったんですって!」

「そして夫婦の寝室にあった広いベッドは家付き娘である夫モドキの母親のもので、普段父親は自室の小さなベッドで就寝していたそうですぞ。典型的な入り婿だった訳ですなぁ……」

「……凄いな、2人とも、そんな情報まで仕入れられるのか」


家令親子の情報入手能力に感心していると、これは王家……というか王妃陛下の情報網からだそうだ。私が困った時に使えるようにと、秘密の連絡網を使用したと言う。それを聞いて奴隷紳士はしばし考え込んで


「心ならずも父親と同じような立場に立たされたのですね。婿入りとなりますから夫の部屋から夫婦への寝室のドアは閉ざされているもの、と刷り込まれているのでしょう」

「そして近い将来、家付き娘である姉が母と同じ立場になるわけだ。先に生まれただけで家と財産を継ぐのだからと……もしかすると母や姉に対する不満を、私で晴らしているのかもな」


本当にそうだとすれば、迷惑な話だ。なので私が奴隷紳士をこっそり呼びだし、こっそり貢いでいる様を見せつける作戦と共に、夫モドキの愛人に夫モドキの刷り込みを正してもらおう作戦を決行する。早い話が別邸の侍女たちに、夫の私室へ繋がる扉に鍵など掛けないのに~と噂させるのだ。そして愛人経由でヤツに、『夫の部屋へと逃げたのではないか』と考えを誘導させる


ちなみにあちらの別邸には夫婦の寝室は存在しないらしい、ヤツの部屋のどでかい寝台でイチャイチャしているとの事


その鍵さえ解ければ今度こそはと、のこのこやってくるかも……しれない


「これ見よがしに高価な葡萄酒でも購入するか」

「それはいいですね、ご夫君はご主人様が飲まない事を知っているはず……ですね?」

「知っておりますわ。そもそも杏子のジャムで喜んでいるのですから、推して知るべしです」

「悪かったな、日常生活レベルの値が低くて……」


杏子のジャムだってそれ程安くはないのだが、な。そんな感じでヤツがのこのこ来ればそこで『ぎゃふん』だし、来なければ来ないで別邸に乗り込んで証拠書類をつきつけ『ぎゃふん』とする。奴隷紳士と家令親子は鼻息荒く、こっちに来やがれギタギタにしてやると張り切っているのだった


じっくりと長期にわたる細密な作戦(?)となるだろう、心してかかる様命じた




作戦会議後、昨日の契約書を提出にお里(?)へ帰る紳士は、正式な書類も用意させておきますとウキウキしながら出かけていった。ついでにこまごまとしたものを注文してくるため、帰宅は遅くなるという。……とうとう正式にお買い上げかなんて、感慨にふけっていたら


すっかり忘れていた、彼女の事を


「奴隷はいないのかえ?」


お里帰り中恒例、麗夫人の来襲が!!




本日は一人でお越しに、また母を連れて来てもらっても困るので一人でよかった。お待ちくださいと声をかける家令をものともせずに、勝手知ったる応接室へとでも行こうとしたのだろうが、階段の上から待ったをかける


「お待ちを麗夫人、いえ伯爵夫人。用もないのにわが公爵家の屋敷に踏み入れるとは、少々無礼が過ぎるのではないのでしょうか」


爵位は私の方が上、でも年上の方なので言葉遣いは比較的丁寧に。階段下から私を睨みつける麗夫人は、下からだが上から目線。無礼な小娘とでも思っているのだろう彼女は、私を睨みつけながら言う


「王妹に対し無礼な」

「女公爵に対し無礼です。貴女と私は同じ『元王女』ですが、今は女公爵と伯爵夫人。叔母でもある貴女に敬意は払ってきたつもりですが、今一度現在の立場をよく考えてみたらいかがか?」


奴隷紳士を正式購入することが決まった今、正直もう来てほしくないしちょっと貸せとか言われても困るから。麗夫人は悔しそうに顔をしかめて、吐き捨てるように言葉の爆弾を投げつけた


「きさまとなど一緒にするでない、……お前は」


それは私が思ってもみなかった真実の爆弾、いや微かに思っていても信じたくはなかったそれは見事に破裂して


そういえば、第4妃が思わせ振りな事を言っていたっけと






「ご主人様、入ってもよろしいですか?」


私室のベッドで丸まっている私、別に体調が悪いわけではないが心はズタズタ。そう言われるとなるほどと納得してしまう、今までの私の待遇。夜になっても明かりをつけずに部屋に籠城中の私に、お里(?)から帰宅した奴隷紳士が声をかける。返事はしなかったが、彼は勝手に入ってきた


魔法灯を寝台の横にぶら下げて、そっと腰掛ける彼。私はさらに毛布に深くくるまる


「聞きました、麗夫人から王家の血を引いていないと言われたそうですね……」

「……そうかもしれないとは思ってはいた。不義の子であれば国王陛下が無関心なのも、……いや存在しないものとして扱うのもわかる」

「……」


だって私は国王陛下に全く似ていない。似ていない親子だっているだろうが、母の面影さえも宿していない私はやはりよそ者だったのだ。なのになんで『王女』だったのだろうか、母の連れ子でいいじゃないか、もしくは不貞の子ならば……


「殺せばよかったのに……」

「ご主人様、それを言ってはいけません!」


彼に初めて強く怒られてしまった


「ご主人様は国王陛下の第4子第3王女として、戸籍に登録されています。王家が正式に認めた第4子第3王女です、それは王家の血が流れていなくても、です」

「流れていないのに?」

「そうです。王家が認め戸籍に登録されたのであれば、貴方は王家の一員なのです。それが『法』というものです。そしてあなたは王家と議会の承認の元、女公爵となった。これは貴女が誰の子であろうと、関係のない事。法の元正しく承認された、女公爵閣下なのです」


本来わが国では、公爵家とは王家の『血』を保存するための家。それなのに私が王家の血を引いていないのであれば、その大前提が崩れてしまうのに


それでも私はこのままでいいの?


「いいのです、貴方は王家と議会と神殿に正式に認められた女公爵。誰が何と言おうとも、それが覆ることはありません。それが法なのです」

「……詳しいな」

「法を掻い潜るのは得意ですから、ね」


丸まって毛布の海に沈んでた私を抱きあげ、こめかみに唇を寄せる奴隷紳士。お腹辺りに手を回しぎゅうと抱き囲う。いいのか口づけは仕事だろう、タダ働きになるぞと言うと


「私にとってはご褒美ですよ、私の可愛いご主人様……」


私を横向かせ覗き込むように唇を合わせ、食まれる。自ら舌を出し誘うと、彼は蕩ける様な瞳で私を見つめ舌を絡めた。あまりに顔が接近していると、どこを見ていいのか困るので目を閉じる


小さな喘ぎ声と水音、彼の手は慰めるように体をさする。少々手付きが怪しいが、服の上からなのでギリギリセーフというやつなのだろう


「貴女は神と国と王家に認められている『女公爵』閣下、神以外に退けられる者はいません……」

「いい、のか……?」

「勿論です、私の姫公爵閣下……。貴女はいと高き君……、元王女殿下で女公爵である方」

「いや、私の身分の事ではなく……契約はいいのかと聞いたのだが」


私の体を撫でまわし、そろそろ中へ忍び込もうとしていた奴隷紳士は、目を丸くして私を見る。契約違反は違約金なのだろうとニヤリと笑って見せると、彼は眼元を赤くして微笑んだ。どうやら照れているらしい彼は、正式な購入の手続きをしていませんでしたとはにかむ


私は自らぎゅうと彼を抱きしめる、驚いた彼もすぐに甘い微笑みを浮かべ私を抱きしめ返した


「もう少しだ」

「はい、私の姫さま……」


その日初めて1つの寝台で眠った、勿論何もしないでただ抱きしめあって眠っただけ




それでも1人きりではない、他人のぬくもりに包まれた初めての夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ