結局上手く収まったという事。
そして夫モドキとは円満に結婚無効宣言をし、元夫……いやただの他人となった
私に危害を加えようとした咎で、収監となるところを救ってやり一代限りの男爵位をくれてやる。義理の姉上が王太子殿下にお願いして、他人を黙らせるためにと用意していたものなので、私の懐は痛くもかゆくもない
ちなみにヤツの元別宅の敷地外は360度公爵家の敷地となる為、行き来するために税金を課した
その為に出入りの商人たちもじわりじわりと距離を取り、使用人も公爵家に雇われたのであって男爵に義理はないとばかりに一人また一人と辞めていった。そしてその使用人たちは現在わが屋敷で働いている、そもそも彼等彼女等の主は私なので予定通りと言う
金の切れ目が縁の切れ目とはこの事だろう、愛人は子を連れあっさりとヤツを捨て実家に帰った
ここである商人がやってきて男爵領を丸ごと買い取りますよと持ちかけると、ヤツはあっさりと領地(と言っても敷地と屋敷のみ)を売りその金をもって愛人と子の後を追ったという。そしてそのまま持参金付きで愛人の生家に入ったそうだ
愛人の生家は裕福な商人なので事故物件であるヤツを忌避しているようだが、こちらから手を回して監視させることにした。元々愛人となった事を止めなかったのは、公爵家に弓を引く所業だよな~と脅し……いや丁寧にお願いしたのである
結局ヤツは再び部屋住みとなった
そしてその元男爵領は紳士が買い取る……、というかその買い取った商人は紳士の手駒だったとの事。ヤツに対して怒れる紳士は、容赦なくその財産を削り取っていった
……奴隷なのに
「どうせなら爵位も買い取ってしまえばよかったのに、私が資金を出すぞ?」
「どうせ一代限りで王家に返還される爵位なんていりません。私は姫さまの奴隷なのですから爵位など塵です」
「塵って……。あぁ、その事だが……」
私は首に下げている『鍵』を外し、紳士へと投げる。条件反射的に『鍵』を受け取った紳士は、自分の手の中にある鍵を見つめていたが、状況を飲みこめたのだろう顔を真っ青にして言う
「姫さま何を!」
「やる、すでにお前のものだったのだろう?その『鍵』は」
「知って……」
「私は学が無いので気が付くのが遅かったが、奴隷にしては資金を持ち過ぎだろうが……。すでに自分の『鍵』を自分で所有しつつ、性奴隷の様に振る舞っていたのだろう?と言うかそれは、アリなのか?」
ということは奴隷商人もグルなのだろう、良いのかそれ?
私から言わせればとっとと外して普通の生活を送ればいいのにと思ったが、紳士的には貴族とのつながりが欲しかったのではないかと考える。そもそも性奴隷として貴族の家に入り勉強をし、そしてその知識を生かし商売をしていたのだと推測
うちでもさりげなく商売しているしな……、紳士の推奨してくれた植樹はすくすくと育ち蕾がほころんでいるそうだ
その花や実を見て私は生きていく。だからもういいのだ、わが公爵家は私一代限りで
紳士に向かって微笑む私、最後の顔合わせだから引きつっていないといいななんて思っていた。紳士の方が真っ青で顔が引きつっていて、上品なハンサムさんが台無し状態である……
「私を、捨てるのですか?」
そう泣きそうな震え声で言う紳士。捨てるも何も、私のモノだったことは一度もなかったのではないかと言うと
「『血』を買ってもらったのに、まだ一度も仕込んでいないのに……」
「……そっちかよ」
ついそう指摘すると、紳士はがしっと私の手を掴み跪き
「『私は貴女に隷属する』」
「へ?」
「『それは私が命尽きるまでの祝福』」
「なに……を」
それは祝福ではなく、呪いじゃないか?
「『その側を離れず、ひたすらに貴女の為に生き、貴女の為に死す』」
『王冠の女神様に誓う、私は姫公爵閣下の僕』
その低く心地良い声を響かせ、力ある言葉を紡ぐと、それは光の鎖となり私と彼を繋いだ。比喩ではなく本物の光の鎖、伸縮自在で壁も通り抜け可能、どこまでも伸びるが決して消えない外れない鎖……
「お前、……魔術師……なのか」
「私は魔術師であり、司祭であり、奴隷であり、商人でもあり……。そして……」
「そして?」
「貴女だけの性奴隷です」
にっこりと、艶やかに蕩けるように微笑んでいるのに、底無し沼に堕ちていくような感じがした
「面倒臭いのに懐かれちゃったのね、これで閣下が紳士を要らないとか言ったら即死ね」
「即死……」
「だって王冠の女神様に宣誓してしまったのよ。撤回は出来ないわ、即死するから」
紳士にあげたはずの『鍵』はその装飾をグレードアップさせて、今私の胸元を飾っている。その『鍵』と対になる奴隷の首輪は今も彼の首に燦然と輝き、彼は真なる性奴隷(?)として私の側に侍っていた
というか私を膝に乗せご満悦である
「邪魔になったら死ねと御命じください、すぐに息の根が止まりますから。神にそう宣誓しましたから、すぐです。即死です……」
「うふふ、厄介ね」
本当に厄介である、死ねなんて私が言う訳もなく死なせたいわけもなく。むしろ私の方が奴隷の様な状態だなんて思ったりして……。せめて正式に夫にすると言ったのだが、奴隷の身分で結婚は出来なかったのだ!!
なので内縁の夫状態の紳士である……。それでもご満悦な彼、魔法の光の鎖付きである
「初夜も無事済ませたようで、お疲れさまです閣下」
「……まぁ、疲れたな、本当に疲れた……」
「内縁の夫君との愛は結晶となり、御身に根付いております。どうか心安らかに」
パチクリと目を見開き、そう宣言した姉上を凝視する。ありがとうございますなんて紳士は返しているが、ちょっと待て!
「え、妊娠……もう?」
「私との閨を惜しんでくださるのはとても嬉しいですが、安定期を過ぎればまたご奉仕できますから、少しの辛抱ですよ姫さま」
「……とても相性が良かったのね~。……我が神のご加護を」
妊娠って見てわかるものなの?魔術師だからか?と言うか神って誰?女神様か?と言うか女神様しかいないし!
……
…………
………………いや、それ以外にも神様いたぞ!!
荒んだわが国に新たにご降臨なされた、女神様の従属神。真夜中、王冠の女神神殿にご降臨された灯は王妃陛下と司祭長に見守られながら、魔術姫によって隣にある神無き神殿に移された……って
これだ、どこかで聞いたことがあると思ったらここか『魔術姫』ッ!!
王冠の女神様の従属神様は名を『愛と出産の神』といい、神官は愛を育み子を育む手助けをしてくれるそうだ。しかし私は愛もなく『血』を買ってしまったのだから、論外ではないのかと問うと
「愛があるから大丈夫でしょう?」
と言って微笑む姉上。そ、そうか、これが愛なのか……すごく恥ずかしいぞ
そんな訳で想像以上に早く子を身ごもった私。本来であれば手放していたはずの紳士は甲斐甲斐しく私の世話を焼き、商売に励み、領地運営を嬉々として行う。光の鎖は外れる気配を見せずに、私たちを繋ぎながら
例の第1回花祭りは大好評で、次は出店したいと多くの領民からの問い合わせをもらっているとの事。良い実がなれば収穫祭も開きたいと調整中
そして第1子は女の子。紳士に似た上品な顔立ちで、紳士も家令親子もその他の使用人達もみんなデレデレとなっていた。次は男の子がいいですね、でも女の子でもいいですよと鼻息荒い家人たちであった。私的にも一人っ子は寂しいだろうなと、乗り気ではある
そしてさらに数ヶ月後、王太子殿下が戴冠することに。すでに国政は殿下がになっていたのだが、王太子妃殿下があっという間に2人目を身ごもってしまった為、戴冠式が伸びてしまったのだ。妃殿下は出ても大丈夫とおっしゃっていたらしいが、過保護な王太子殿下がそれを許さなかったらしい
という訳で、伸びに伸びまくっていた戴冠式がやっと行われる
「戴冠式に参加しようと思う」
「体調はよろしいのでしょうか?」
「出産してから何カ月経ったと思っているのだ、もう平気だ。大恩ある弟殿下の晴れの日なのだから、是非とも参加しお祝いしたい」
なので家令親子と行ってくると言うと、紳士は何故私を連れて行ってくれないのかと拗ねた。そりゃお前が奴隷だからだと言うと、神に誓った貴女だけの奴隷だからいいのですとよく解らない理屈で駄々を捏ねられる
それ以外にも理由はある、だって王宮へと行くのだぞ?すっかり忘れていたが奴隷に興味をお持ちだった麗夫人が住む場所に、自ら乗り込んでどうすると諭したが大丈夫ですと自信満々である
「恐らく私は麗夫人の好みの顔をしていると思われます、だからこそ興味を無くすと思いますよ?」
「好みなのにか?」
「意外とそういうものです」
そしてその言葉の通りになる。貴賓席に向かう途中、待ち伏せしていたのであろう麗夫人と紳士を連れた私は相対す(家令親子もいるぞ)。麗夫人は紳士に声をかけるが、紳士は私を抱きしめながら軽く無視。凝視する麗夫人に私が折れ、挨拶をするよう促すと
「お初にお目にかかります。しがない奴隷風情にて、捨て置きますようお願い申し上げます」
無表情で挨拶する無礼な紳士の態度に、叱責もせずに逃げ出したのは麗夫人。まるでお化けでも見るかのような目をして、顔を真っ青にして震えながら去っていった
「予想外の反応だった」
「私的には予想内でした」
「『お初』では無かったのだな」
「……お化けでも見たのではないですか?」
そう言って私を貴賓室へと促す紳士だった
最初で最後の公務の時にも、こうやって貴賓室から儀礼剣術を眺めていた。あの時との違いは貴賓室と言っても王族用の個室ではなく、高位貴族用の続きの間だと言う事。間隔を十分に取って、家ごとに椅子が配置されているため、誰がきているか丸見えな状態
私は貴族の最上位、女公爵家として用意された見晴らしのいい真ん中の席に居る。しかも紳士の膝の上だ……
「何故椅子に座らせてくれないのだ」
「姫さまと離れると死んでしまうので」
「仕事の時は普通に離れているだろうが……」
「即死します」
「死なせないから、少し離れろ」
どれだけ言っても離さない紳士。私は諦めて彼に寄りかかり、あの時の様に近衛騎士達の羽根飾りが揺れるのをぼんやりと眺めていた
あの時は一人だったが、今は内縁の夫と娘がいる。そして家令親子と使用人たち、さらには領民たちがいていつの間にか私の周りは人々であふれていたのだった
余談になるが奴隷紳士こと内縁の夫は、財力を駆使して国政に食い込むことに成功。自称奴隷の彼は役職にはつけなかったが、陰から支え意見を言う人……になったらしい。政治の話なので詳しくは話してくれなかったし、聞いても私にはわからなかっただろう
そのかわりという訳ではないが、子供や孫たちが政治家となった。紳士によく似て秀才ばかりだ、私の『血』はどこへいったのだろう、ははは
まぁ良いけれども……
そしてわが国の貴族院筆頭となり、王家をよく助け繁栄させたのでした。
彼は魔術師であり奴隷であり司祭であり商人であり、高貴な血まで引いている超ハイスペック紳士。そして紳士以降子孫に『血』が大っぴらに出てくることはなくなった代わりに、かなり頭の良い子が産まれ続けます。
『血』は深く深く公爵家の血に溶け込むさまは、紳士の執念深さの表れです。命の螺旋(遺伝子)の中に彼の情報は書き込まれ、先天的後天的かかわらず一癖ある男の子が誕生します(主に性的に)。
なろう版に出演する彼女等の子孫は、『《3の国》の傲慢姫様の使用人たちのお話・なろう版』の近衛姉様と近衛弟様になります。姉弟の母親が姫公爵家出身……と言っても当主は初代と2代目以外皆男なので、女公爵家と呼ばれたのは初代と2代目だけと言う設定でした。
次は【裏話】になります。




