離婚は一苦労ではなかった
そろそろ決着をつける時
侍女の手を借りとっておきの高級寝着をまとう。それはラベンダー色のスケスケ生地で作られた逸品、胸の蕾がある辺りまではレースを重ねているがそれより下はスッケスケ、腹丸見えである。なので割れた腹筋を隠すためと容量少なめの胸を持ち上げるために、コルセットを下に着けていた
装飾バリバリのエロ系コルセット……だと、侍女が嬉々として着付けてくれた
髪は丹念にくしけずり、流れるままに下ろしている。そして紳士の『鍵』を首元に飾った、少々豪華だが見る人が見れば奴隷購入の証だとわかるデザインらしい
「姫さま、あちらの方が馬車の中から屋敷を伺っております。寝室へ向かいましょう」
そう言う紳士は奴隷の首輪が目立つように改造された礼服をかっちり着込んでいる、スケスケの私とは大違いの出で立ち。彼と寝室へ向かい、寝台へと腰掛ける。どういう格好で待てばいいのか困ったが、紳士は私に寝台に寝そべるように言う。そして自身は寝台の側で跪く
いわゆる、それっぽい情景と言うやつだそうだ
「役得ですね、とてもいい景色です」
それはそうだろう、いかにもお前を閨に誘っている格好だ。もっと普通に待っていたっていいだろうに、こんな透けたいかにもな寝着を着ているのだから
「だろうな、ただ私としてはこのまま待っているのは寒いのだが……」
「すぐですよ、今馬車から出てきましたから」
外からわずかに馬のいななきと人の声。耳を澄まさないと聞こえないほどの小さなざわめきに、よく気が付いたものだ。私でさえ集中しないと聞こえてこない。寝室に明かりが灯った途端、乗り込んでくる夫モドキ。近くに待機させておいた辻馬車から屋敷をうかがっていたのはすでにバレバレ、なぜなら別宅侍女網からヤツが辻馬車を借りたことはすでに知らされている事だから
まぁ、屋敷付近に不審な辻馬車がずっと停まっていたら、見張っているのだなと思うわな
そして下の階がざわつく気配、どうやら屋敷内に突入した模様
さりげなく手を伸ばし太もも辺りを撫でる紳士の手をペチぺチ叩いていると、そのまま手を取られ指を絡められ指先に口づけを落とされた。その時寝室の扉が開き、夫モドキが入場。やっと来たかと顔をあげ、夫モドキを睨みつける
向こうも目の奥に歓喜の光を宿しながら、表面上は怒って見せている。お前にそんな顔で見られる覚えはない、私が女公爵なのだからと、ゆっくりと口を開く
さぁ、断罪だ
「なんだ、まるで私の弱みでも掴んだような得意顔だな。元夫」
「元?」
「大人しく去れ。今までの私への奉仕の褒美として、お前が横領したものはすべてお前にくれてやろう」
紳士に証拠を渡され、夫モドキに見せつける
「具体的に言えばわが公爵家の名を騙って得た賄賂」
赤字で修正だらけの帳簿
「農作物の横流しで得た金、勝手に受け取った結婚祝いの品、勝手に建てた別宅とその経費、愛人に使った金、隠し子に使った金」
取引先との契約書類、そして領収書
「あぁ別宅の名義は勝手にお前の物として書き換えようとしていたな、それもくれてやる」
勝手に提出した土地の権利書の原本、承認はこちらで止めていたものを手切れ金代わりとして判を押させた
「離婚理由はお前の浮気と公爵家に対する横領、女公爵たる私への不敬かな」
「お前こそ夫以外の男に肌を見せ寝台に誘うなどと、この売女が!」
「何を言う、これは私の性奴隷である。女公爵たる私が買ったモノ、『血』を買う事は『法』で認められているだろう」
紳士の首輪と私を飾る『鍵』を見せびらかすように、胸を張ると夫モドキはさらに睨んでくる。夫がいるのに性奴隷を買うなんて、夫が下手くそだという侮辱の表れなのだと言う。そもそもシていないので夫モドキが上手いのか下手なのかは知らないが、別に知りたくもない
「違法ではありません。ご主人様は正式に奴隷を購入され、奴隷はその役目をこなすことが仕事。私の性奴隷としての仕事は閨のお供、そして『血』の提供でございます」
そう言い、私の指先に再び口づけする紳士
「離婚については、王太子殿下の許可を頂いている。そもそも白い結婚だったと王冠の女神神殿で証明されたからな」
掲げるのは白き結婚証明書、証明書には王冠の女神神殿司祭長殿と王妃陛下と王太子殿下の直筆のサインが入っている。日付は数日前、今現在だって純潔なのだから疑うような事を言えば、今から神殿へ出向いてもいいように司祭長殿に待機してもらっているのだ
「よって正しくは離婚ではなく、結婚さえもしていなかったという事になる。そうするとお前が公爵家の名を騙った事は、一体どういう事になるかわかるな?お前は国王陛下より、領地経営を任されるほどあ・た・ま・がよいのであろう?」
そう今まではぎりぎり灰色だったものが、完全に黒……罪となるのだ。ここで引けばそこそこな手切れ金を入手したまま、最低限の暮らしは出来るだろう。ただしもう二度と栄華の道を極めることは不可能、貴族としては終わっている。だって公爵家を敵に回したのだから、仕方ないだろう?
今まで散々贅沢をしてきた彼等に耐えられるのかどうかなんて、私の知った事ではない
やはりと言うか何というか、夫モドキは引かなかった。しかも女公爵たる私に鈍器を向けて、突進してきたのだ。何故に鈍器?こういう場合は刃物沙汰になるのではないかな、と思いつつ
私は
「どうして男は女が弱いものだと思うのだろう?」
紳士を押しのけ素早く立ち上がり、床を蹴り身をかがめ振りかぶった鈍器を潜り抜け、一気にヤツの懐に潜る
手首を取って夫モドキを背中に担ぎ上げて、そのまま投げ飛ばした。無様に床に転がるヤツの腹に、落とした鈍器を投げてやる。折角拾って返してやったのに、「ぐえ」なんて蛙が潰れたような鳴き声をあげるだけ、礼も言わない。顔は何が起こったかわからないという間抜け顔のまま、停止する夫モドキ。そのまま踏んづけてやろうかと思ったが、過剰かなと思い紳士に合図、彼は心得たとばかりに縄で拘束して終了
無事拘束できたのに、紳士は眉をひそめ怒りをあらわにした
「ご主人様に触れるなんて、この男の皮を剥いでもいいですか?」
「どちらかと言えば私が触れたのだが……。それにこんなやせっぽちに触れたって、楽しくはないだろうに」
「しなやかで美しい筋肉です、『騎士の血』がわずかに出ているのかもしれませんね」
王家や母の実家には『騎士の血』を持つ者はいないはず、多分実父からの遺伝ではないだろうか
というか、多分そう。スケスケの寝着から覗く肩から腕の筋肉はしっかりと付き、コルセットで隠している腹筋はうっすら割れている。王女時代にこっそりと従騎士に変装し、基礎の戦闘訓練を受けた数回だけでこの体
それだけで腹筋が割れて、びっくりして訓練を止めたのだが筋肉はおちなかった
こんなびっくりな私を触ったって面白くもそそられもしないだろうに。こんな私を大切そうに腕の中に囲う紳士は、変わり者なのだろう……
いや、仕事だったか
縄でグルグル巻きにした夫モドキを、腕一本でつるし上げ使っていなかった夫用の部屋に放り込む。ヤツが使うのは、最初で最後だな……。




