特務部隊 最後の任務3
そこからモクロ皇帝がやってくるまでの5日間は慌ただしかった。モクロ皇帝に協力を取り付けた後にユーロラン帝国のキックス皇帝を引きずり下ろすことになるので、キックス皇帝が薬物に関わっているという証拠を揃えなくてはならない。
私達はフレイ隊長に協力してリークル神国で掴んだ証拠の裏付けを取る。ナンルムルの献上農家が荷物をリークル神国へ送る頻度と薬物への関連を調べたり、その献上農家がキャッセル家と繋がっている証拠を取ったり。
それと、モクロ皇帝への接触作戦に向けて、王宮の下見もした。モクロ皇帝の泊まる部屋を外から確認、ルシェが待機する予定の監視塔の偵察。また、ベルロイが爆破を起こす訓練場には、燃えやすいものは置いておけないので、その荷物の撤去などだ。それらは、ゼノ隊長の協力で進めた。
あっという間に作戦決行前夜。私達は遅くまで入念に作戦の確認をしてから、全員で外へ食事に出た。
「こうしてみんなで食事をするのも、最後かもしれないんですよね……」
食事を食べながら、レイリーズがそんなことを呟いた。この任務が終われば特務部隊も解散する。そうしたら、みんなバラバラになってしまうのだろう。
「何辛気臭いこと言ってんのよ」
悲しげに眉を下げるレイリーズをイオルが小突く。
「別に死ぬわけじゃないんだし、またいつでも会えるでしょ」
イオルの言葉に、全員が微笑む。レイリーズはそれを見て、ようやく笑顔を見せる。
「そうですよね」
特務部隊が結成した時には、こんな風に笑い合える日が来ると思わなかった。私はダメ五出身でみんなから不審な目を向けられていたし、個性的な面々とはどうせ上手くいかないと思っていた。
「この部隊に入れて良かったな」
みんなに会えて良かった、とは流石に恥ずかしいから言わないけれど。
「キースとも再会できたもんね」
ブルームがからかうようにそう言ってくる。
「まぁ……そうだね」
「お、のろけるねぇ」
キースと目が合うと、恥ずかしそうに笑われる。
「ブルームとも再会できて良かったよ」
「お?」
ブルームが目を細める。
「初めは、ブルームのこと苦手だったけど、そんな軽い性格も少しはましになった気がするし」
「そう?」
「そうだよ。これからは気軽に女の子をナンパしたりしないでよね」
「わかってるよ」
ブルームは優しく微笑んだ。最近はブルームの表情も柔らかくなった気がする。そんなブルームを見て、レイリーズが僅かに頬を染めた。
「変わったと言えば、イオルちゃんが一番だろうけどね」
「……やめてくださいよ」
急に話を振られたイオルが少しむくれる。最近ではキースやブルームの前でも素を出すようになっている。
「俺はその方が好きだよ。ね、ルシェ?」
「そうですね」
「そ、そう」
さらっと好きと言ったベルロイとそれに同意したルシェに、イオルは居心地の悪そうな顔をする。そんなイオルを見ているのが楽しくて、私は笑ってしまう。誰かといることがこんなに心地のいいものだとは思わなかった。
食事を終えて寮に戻る。私は自然とキースと2人、並んで歩く。
「いよいよ明日だな」
「キース、緊張してる?」
「……少し、な」
私を見下ろしながら困ったように笑う。前髪に隠れて右目がよく見えない。
「ねぇ、前髪伸びたんじゃない?」
「あぁ……そうか?」
キースは自分の前髪を撫でる。
「邪魔じゃないの?」
「昔からだから気にしたことはなかったが……まぁ、そう言われてみれば邪魔か」
「何で伸ばしてるの? 切っちゃえば?」
うーん、とキースは唸る。
「短く切ったら変だろう」
「そうかな? そんなことないと思うけど」
私はキースを見上げる。邪魔なのは嫌がりそうなのに、伸ばしてるのは────
「もしかして、目つき悪いの気にしてる?」
キースは一度ぐっと喉を詰まらせてから、
「まぁ……伸ばし始めた頃はそういうこともあったかもしれないな」
と、曖昧に答えた。
「ふーん、別に気にしなくてもいいと思うのに」
「……そうか?」
少し明るくなった顔で図星だったことがわかり、私は笑いを堪える。
「……なんだよ。そういえばリコルも前は俺のこと、怖くて人相が悪いとか言ってたな……」
「ごめんごめん。やっぱり気にしてたんだ」
私は堪えられず笑ってしまう。キースは不満そうな表情。
「私は好きだよ、キースの顔」
キースは目を丸くしてから、腕で自分の鼻から下を隠して顔を逸らす。
「あ、照れた」
「うるせーな」
私はキースに頭をぐちゃぐちゃとされてしまう。それでも、照れたキースが見られて笑いが止められない。
「ね、邪魔なら少し前髪切ってあげようか?」
ようやく笑いが落ち着いた私はキースにそう提案してみる。
「リコルが?」
キースは不審な顔。
「信用してないでしょ?」
「あぁ」
「ひどーい!」
今度はキースがぷっと吹き出して笑う。そんなに私って信頼ないのかな。傷つくよ?
「リコルはあんまりそういう得意じゃなさそうだ」
「ズバッと本音を言うね……」
「隠しても無駄だからな」
キースの目が笑っている。
「平気だもん。私だって自分の前髪くらい切るもん」
「あ、だから時々変な時があったのか」
「え、本当!?」
そんな風に思われてたの? そう思って聞き返すと、
「冗談だよ」
と、言ってまた笑われた。むーっ! からかわれた!
「それじゃあお願いしようかな」
「そんなにバカにするなら、わざと変にしちゃうもんね」
「おい、やめろよ」
「超~短くして目がはっきり見えるようにしちゃうから!」
「それは勘弁してくれ」
キースは本当に嫌みたいで、困った表情を浮かべる。それを見たら楽しくて、また笑う。キースも一緒になって笑った。
一旦部屋に戻ってハサミを取ってから、キースの部屋に。
「じゃあ、目が見えるか見えないかくらいに切るね」
「お願いします」
キースが目を閉じる。間近で改めて見ると、キースはなかなか格好いいと思うんだ。そう思うのは、私がキースのことを好きだから、なんだろうか。
「明日、無茶だけはしないでね」
「……リコルに言われたくないな」
キースは目を閉じたままそう言った。
「本当は連れて行きたくないんだけどな」
「後方で待機してろって? そんなの、私が我慢できるわけないでしょ?」
「わかってるよ」
目を閉じたまま微笑が浮かぶ。
「リコルは無茶ばかりする。どうせ無茶するなら、俺の守れる範囲で無茶してろ」
私が突っ走ると、いつも助けてくれるキース。
「ありがとう」
静かな部屋にハサミの音だけが響く。キースのことを好きになれてよかったな。2人でいるとドキドキするけど心地よくて、何よりも幸せだ。
「……できた」
キースが目を開けて前髪に触れる。私が鏡を差し出すと満足そうに、
「邪魔じゃなくなった。ありがとう」
と、言った。キースが鏡から私に目を向ける。今まで髪を切っていたから距離が近くて、ドキッと鋭い痛みが胸に刺さる。
「じゃ、じゃあ……」
前髪も切ったし、明日は大事な日だから早めに休まなきゃ。そう思って帰ろうと声を出すが、どうも身体が動かない。何だか、もう少しキースと一緒にいたいような。
至近距離で見つめ合う。苦しいのに、キースから目が逸らせない。
キースの手が伸びてきて、私の頭を支える。顔が近づいて、ちゅっと軽く口づけをされた。そのまま私はキースの腕の中に収まってしまう。
「リコル」
「うん」
私の耳元で私にだけ聞こえる息だけの声で、
「好きだよ」
と、囁かれた。
「……うん、私もキースのこと、好き」
キースはふわっと嬉しそうに笑う。そうしてると、人相の悪さなんて全然感じない。でも、こんな顔を他の人に見せてほしくない、とも思ったりして。
「明日、必ず成功させような」
「うん」
そう言って、今度はさっきよりも長くキースは私に口づけた。




