特務部隊 最後の任務2
「その、外に立つ兵士はどこの所属ですか?」
続いてブルームがそう尋ねると、ゼノ隊長はさらに驚いた顔をする。お前もか、と言わんばかりの。しかし、ブルームや他の特務部隊のメンバーも至って真面目な顔。私とキースだけじゃなく、他のみんなの感覚も麻痺してる。そう思うと面白くて、私とキースは心の中で笑い合う。
「それは……第二守護兵団の王城内警備班、だが……」
それならいける。私達は顔を見合わせる。王城内警備班なら、普段と変わらぬ警備をしているだけのはず。特別警戒していない彼らなら、どうにかして出し抜けるかもしれない。問題は、どうやって彼らを遠ざけるか、だけど……
『どこかで別の問題が起こったら、兵士達はそこへ集まるよね?』
『何か問題を起こす気か?』
『罪に問われない問題にすればいい。例えば……』
私はベルロイの顔を見る。目が合うと、不思議そうに首を傾げられた。私の思考が伝わったキースが発言する。
「兵士の訓練場で大きな音を出したなら、兵士が持ち場から離れるかもしれません」
「訓練場?」
ゼノ隊長は渋い顔だ。
「訓練場はだいぶ遠いけど、そんなに大きな音が出せるか?」
ゼノ隊長の疑問を聞いて、ベルロイがハッとした顔をする。気がついたな、とわかって、私がニヤリと笑うと、ベルロイは苦笑いを浮かべた。
「俺、ですね」
キースがベルロイに向けて頷く。
「ベルロイは火魔法の使い手。ものすごい魔力を持っているにも関わらず、その制御ができないためにほとんど使っていません。その制御をするための練習として訓練場で魔法を使っていたのなら、罪には問われないでしょう。しかし、ベルロイの魔力の威力は凄まじい、らしい。俺も見たことはないのですが……」
「兵士が寄ってくるくらいの音は、出せると思います。その後しばらく、使い物にならなくなってしまいますけど……」
ベルロイが恥ずかしそうにそう言う。
「仮にそれができたとして、窓の外からどうやって皇帝の部屋に忍び込む? モクロ皇帝の泊まる部屋は3階だぞ?」
ゼノ隊長の言う通りだ。私達の中に風の魔力を持った者はいないし、壁を登れるわけでもない。隣の部屋からモクロ皇帝の部屋へベランダを伝って忍び込む手もあるが、まず隣の部屋に侵入するのも難しいだろう。どうしたものか、と悩んでいると、キースとブルームが顔を合わせて何やら不穏な笑みを浮かべた。
「俺とブルームなら、可能です」
「?」
全員の顔にクエスチョンマーク。私も聞いてない。でも、その自信満々な顔から見るに、確実な方法を持っているのだろう。
「侵入は俺が。ブルームは外で俺の補助を。俺はイオルの通信の石を持って入りますので、キューレ王子には部屋で待機していただければ」
「レイはベルロイと訓練所に。ベルロイが大爆発させた火をなんとか鎮火してほしい」
「……わかりました」
ブルームの指示に、少し不安そうにしながらもレイリーズが頷く。
「私とルシェは?」
「ルシェは援護かな。侵入はできても、もし皇帝の部屋に兵士がいたら、それに対処しなければならない。万一にも傷つけるわけにいかないから、硬直させておくのがいいだろう」
「わかりました。近くに見張り台はありますか?」
「あるが……少し距離があるぞ」
すっかり私達の勢いに押され気味のフレイ隊長が渋い表情のままそう言った。しかし、ルシェは頼もしく頷いた。
「部屋が見える位置にあるのなら大丈夫です。警備だと言ってその場にいる兵士はなんとか誤魔化します」
ルシェも頼もしくなったものだ……と、少し感動してしまう。
「それで、私は?」
「リコルか……」
キースの顔が曇る。確かに、この戦闘がメインの作戦で、私の出番は少なそう。でも、何もしないわけにもいかない。じっとキースを見つめる。
「危ないから置いていく……と言っても聞かないだろうな」
「もちろん」
「じゃあ、俺と一緒に潜入だ。万一の場合、音を立てず、傷つけずに兵士を黙らせなければならない。それには、俺の能力よりもリコルの能力の方が有用だろう」
こくり、と私はキースの指示に頷く。
『それに、モクロ皇帝がキューレ王子の要求をスムーズに飲まなかった場合、説得する人が必要だ』
キースが私の手にそっと触れて、そう伝えてくる。
『そうだね、それは任せて』
私は無言のままもう一度頷いた。
「しかし、それはあまりにも危うい作戦のように思えるが……捕まれば君達もタダではすまされないぞ」
「それはわかっています」
渋い顔のままのゼノ隊長にキースは臆さず頷く。
「それでも、この方法以外に考えつきません」
「いや、もっと他の方法を……」
「ゼノ」
ゼノ隊長を制したのは、今まで黙って成り行きを見守っていたキューレ王子だった。
「彼らの作戦に乗ろう」
「王子……!」
ゼノ隊長とフレイ隊長は驚いた表情で王子を見る。
「モクロ皇帝に秘密裏に近づこうとするならば、こちらも荒い手を使わねばなるまい。もし、彼らが失敗した時には、僕が責任を取ろう」
「しかし、それではキューレ王子が……!」
心配の声をあげるゼノ隊長に王子は毅然とした態度で首を横に振った。
「行動を起こさなければ、僕はアイレーンにこの国から追い出されるだろう。それならば、行動を起こして追放される方がまだましというもの」
キューレ王子の覚悟には私達も言葉を失う。
「僕を案じてくれることには感謝するが、それならば、この作戦が上手くいくよう、ゼノもフレイも力を尽くせ。表立って動けなくとも、できることはあろう」
「はっ!」
王子の言葉に、2人は姿勢を正して敬礼をした。それを見てから、王子は私達の顔を見渡す。
「こんな重い任務を君達だけに任せてしまうこと、許して欲しい。どうか、頼んだ」
そして、王子は頭を下げる。王子が兵士に頭を下げるなど、本来ならあってはならないことだ。
「王子!」
堪らずゼノ隊長が王子を止めた。顔を上げた王子は真剣な顔で私達を見ている。
「全力を、尽くさせていただきます」
掠れた声でキースがそう誓った。




