特務部隊 最後の任務4
作戦決行当日。作戦行動は夜だが、私達は誰ともなしに第一会議室に集まった。
「いよいよだ」
キースの言葉に全員頷く。
「アイレーン王子の企みを阻止し、キューレ王子が皇帝になる助けをするぞ」
「はい!」
全員で声を揃える。緊張はしているが、不安はない。私達なら必ず成し遂げられると信じている。
私とキース、ブルーム、イオル、ルシェは午後から王宮警備に入れてもらっている。訓練場で待機するレイリーズとベルロイは王都の見回りをする予定だ。
「リコル」
王宮に赴く時間になった時、レイリーズに声をかけられた。
「頼みましたよ」
その顔には信頼が滲んでいる。
「そっちもね」
「焼け焦げないように気をつけます」
「俺もなるべくレイリーズは燃やさないように気をつけるよ」
ベルロイがそう言って苦笑いをする。
「本当に気をつけてね、レイ」
「はい、ブルームさんも」
ブルームは名残惜しそうな視線をレイリーズに向けてから、
「行こう」
と、言って5人で王宮に向かった。王宮ではルシェとイオルがゼノ隊長と共にキューレ王子の近くの警備を、私とキースとブルームは入り口付近の警備だ。イオルの通信の石は私がしっかり預かって、別れる。
私ははじめて王宮に入ったが、流石に豪華だ。赤い絨毯と、きらびやかなシャンデリアに目がチカチカとしてくる。
モクロ皇帝は定刻通りに王宮に入られた。私は頭を垂れながらもチラリと見ると、恰幅の良い豪華な格好をしたおじさんだった。キックス皇帝とキューレ王子、アイレーン王子が揃って出迎える。
「わざわざご足労いただきありがとうございます」
などという挨拶を交わし、皇帝達は王宮の奥へ入っていく。これから歓談をした後、豪華な晩餐会の予定だ。その間、私達はすることもなく、ただここで不審者が現れないか警備を続ける。晩餐会の直前くらいに交代の時間となり、隙を見て裏庭に待機する予定だ。
「ずっと立って黙ってるの疲れちゃった」
ただでさえ、今日は王宮へ来るというので正装をしている。休憩になり解放された安堵で、私は腕を回す。
「まだ時間はあるし、王宮内の兵士用食堂で簡単に食事を済ませようか」
私達3人は並んで歩く。すると、前方から立派な鎧に身を包んだ人物が歩いてきた。
「キース」
ビブリオだ。私達は身体を固くしてお辞儀をする。
「父上……」
「お前」
鋭い目をキースに向けてくる。私達がここにいるということはビブリオは知らなかったはずだ。そして、そこから推測されるのは、私達がキューレ王子側についた可能性があるということ。
チラリとキースを見るとビブリオの鋭い視線に怯まず、しっかりと見つめ返していた。
「急ぎますので、失礼致します」
固い声でそう言って、ビブリオの横を通る。私とブルームもそれに続く。
「どうなるのか、わかっているのか」
私達はビブリオの少し後ろで足を止める。
「俺は自分のすべき選択をしただけです」
キースはそう言い返して、再び歩き出す。後ろを振り返ると、ビブリオも振り返らぬまま歩いていってしまった。
「キースがお父上に反抗するなんて、初めてのことじゃないの?」
「そうかもな」
私は不安になってキースを見上げる。特に動揺しているような気配はないけれど……
「大丈夫だよ」
キースは私の視線に気がついていつもと同じようにそう言うと、私の頭を撫でた。お父さんのこと、吹っ切れたのだろうか。恩人である父親を裏切ること、心が痛まないはずがない。それでもキースが強く笑うので、安心した。
***
時間が来て、私達は裏庭の目立たないところに待機する。晩餐会は終わって、モクロ皇帝も部屋で休んでいる頃合いだ。
私はキースとブルームと一緒にベルロイが起こすはずの爆発を待っている。
「ねぇ、どうやって皇帝の部屋に侵入するの? いい加減に教えてくれてもいいと思うんだけど」
何度聞いても教えてくれない侵入方法。キースとブルームは顔を見合わせてニヤリと笑う。
「まぁ、見てのお楽しみってことで」
「何それ」
私はむっと口を尖らせる。
「俺とキースで養成所時代に考えた必殺技なんだ」
「必殺技?」
2人はニヤリと楽しそうに笑う。まぁ、ちゃんと侵入できるならいいけど。男の子って必殺技とか好きよね。
「何だか、2人とこうして夜に外にいると、出会った時のことを思い出すね」
「ミョルンで野盗をやった時のことか」
「そうそう」
あの時、初めて2人の連携を見て、圧倒的な強さに感心したんだったっけ。
「随分、昔のことに感じるね」
ブルームが目を細めて笑う。
「リコルちゃんは能力もあんななのに、奥せず敵に挑んで、何故か野盗のアジトまで突き止めて、不思議な子だと思ったよ」
「あの時、私の能力のこと疑ってたでしょ?」
「能力を疑ってたわけじゃないよ。どちらかと言うと、リコルちゃんはすべて知ってて、俺達を利用してるのかな、とか」
「野盗のアジトを調べ上げてたってこと? ないない」
「しょうがないじゃないか。まさかこんな能力だなんて思ってもみなかったし」
くっくっと声を潜めて笑う。
「ブルームには疑われてるかもって思ってた。だから、ブルームが怖かったの」
「再会した時も、随分と嫌われていたもんだと思ったもんね」
「それがなくても印象は悪かったわよ? いきなりナンパしてくるんだもん」
「ブルームはいつもあんな感じだったからな」
キースが苦笑する。
「キースだって私のことダメ五ってバカにしてきたから、印象は悪かったわよ」
「それは悪かったって」
「ははは」
ブルームが笑って、私とキースも遅れて笑う。
「まさか、こんなことになるとは思わなかった」
「俺もだよ」
キースが熱のこもった目で私を見る。一緒に戦う仲間になって、キースのことは男性として好きになった。そんなこと、まったく想像していなかったな。
「この任務が成功したら、みんなで揃ってキューレ班かもな」
「私は出世に興味ないんだけど」
「嫌でも拒否できないだろ」
ブルームがしっかりと前を見る。
「何にしても、ここは始まりにすぎないな」
そうだ。キューレ王子を皇帝にしたら私達は忙しくなるだろう。ここからが大変だ。私達だって、この任務を最後に縁が切れるとも思えない。
「軽く成功させないとな」
「当たり前だ」
キースとブルームが笑い合う。そういえば、初めて会った時に2人の信頼関係を見て、羨ましく思ったんだったっけ。
「リコルも」
2人が私を見る。その顔には、ちゃんと信頼の感情が浮かんでいる。
「うん」
私もそれにちゃんと答える。
「必ず成功させよう」
静かな夜を切り裂くボンっという大きな音がした。本当にすごい音だ。私達は頷き合って、ブルームが立ち上がる。
「おい! 爆発があったみたいだぞ!」
大声を張り上げると、裏庭の兵士達がこちらへやってくる。
「あっちだ! ここは任せて、見に行ってきてくれ!」
「わかった!」
兵士はいとも簡単に頷いて、緊迫した様子で駆けていく。
「行こう」
私達はなるべく音を立てないように走る。部屋の下まで行くと、部屋からは灯りが漏れ出していた。
「よし、行くぞ」
キースがそう言って私を抱える。
「わ、ちょ、ちょっと……」
「しっかり掴まってろ!」
勢いに押されて、私はキースの腕にしがみつく。ブルームはいつの間にか詠唱を始めている。詠唱が終わり、ブルームがキースと目を合わせる。頷いて、キースは手を下にかざした。
「行くぞ!」
瞬間、ボンッという小さな爆発音がして、私達は上に飛び上がった。
「!!?」
飛んでる!? 飛んでる、というか飛び上がってる!? 私達はちょうど皇帝の部屋の少し上の高さまで飛び上がった。でも、これ、どうやって部屋に入るの!?
「ひっ」
身体が落ちる感覚がして、思わずキースにしがみつく。お、落ちるよ!
すると、ひんやりとした風が吹いてきた。見ると、皇帝の部屋のベランダから私達に向けて氷の道ができる。キースはそこに着地し、そのまま滑ってベランダへ着地した。
「どうだ?」
キースが得意げな顔を浮かべる。
「俺の能力だけだと狙った場所に着地できないから、ブルームの氷で滑り台のようなものを作るんだ」
「こ、怖かったよ!」
そっと下ろされたけれど、足がガクガクしている。
「なんだ!?」
音に気がついてか、ブルームの周りに何人か兵士が集まってくるのが見えた。
「ブルーム!」
しかし、ブルームの近くに兵士が辿り着く前に、ぱたぱたと倒れていく。上を見ると、塀の上の見張り台に人影が見えた。
「ルシェ、やるね」
「うかうかしてると俺達より強くなっちまいそうだ」
キースも心なしか嬉しそうにそう言った。
「よし、行くぞ」




