特務部隊 最後の任務1
翌朝、私達はゼノ隊長を通じてキューレ王子に連絡を取った。キューレ王子が皇帝になれるよう、力を尽くすことを伝える。そのために、すぐに動かなければならないことも。
キューレ王子はその日の昼過ぎに私達の寮に再びやってきた。今度は、ゼノ隊長とフレイ隊長も連れて。私達が王宮に行って王子と会談をすれば、誰かの目に止まる。それがアイレーン王子の耳に入れば、私達の動きがバレてしまう。それを防ぐために、キューレ王子は出向いてきたのだ。
誰も、一国の王子が兵士の寮にやってくるなど思いもしないだろう。私達の拠点が寮になったのは、ここまで読んでのことだったのか、と邪推すると、キューレ王子も侮れない。本当のところはどうかわからないけれど。
昨夜、私達が考えた案を共有する。私の能力がバレることを避けるために、アイレーン王子がダイス帝国と通じていることは言えなかったが、アイレーン王子がキューレ王子を何かしらの方法で陥れようとしていることは間違いない。それを伝え、そのアイレーン王子の企みの上を行く、確実にキューレ王子が皇帝になれる方法を模索すべきだ、と提言する。
アイレーン王子を潰してしまう手ももちろんあるが、皇帝となるキューレ王子にはなるべく後ろ暗いところを作ってほしくない。自らの手で正々堂々と皇帝の座についてほしい。
そのために、ダイス帝国を使う。キューレ王子がダイス帝国との行き来を自由にできるようにしたい、という考えを持っていることをダイス帝国に伝え、それを支持してもらう。その上で国民に公表し、キューレ王子は皇帝の座につく。それが理想のシナリオだ。
私達の考えを聞くと、キューレ王子は特に異論はないようで深く頷いた。
「問題は、どうやって王子がダイス帝国の皇帝と接触するか、ですが……」
「チャンスはある」
王子は言葉とは裏腹に厳しい表情をしている。
「5日後、ダイス帝国皇帝のモクロ様がユーロラン帝国にいらっしゃる。父上との定例の会談のためだ」
「じゃあ……!」
そこが好機だ。そんなにすぐにチャンスが巡ってくるなんて。そう思うけれど、キューレ王子の顔は曇っている。
「だとしても、僕が1人でモクロ皇帝とお会いすることは簡単なことではない。正式に申し入れれば可能だろうが、その場合、父の息がかかった者も同席することになるだろう」
「それはダメですね……」
キューレ王子の考えは、ユーロラン帝国の現皇帝キックス様やアイレーン王子には知られてはならない。知られずに接触する方法を考えなければ。
「モクロ皇帝はユーロラン帝国に入った時点から第一・第二守護兵団によって警護される。王宮に着くまでの密かな接触は不可能だ」
「王宮に入ってからは第一守護兵団の皇帝キックス班を中心に警護される。キューレ王子が顔を合わせる際には必ず兵士がいるし、キックス皇帝が近くにいることがほとんど。キューレ王子がお話をしても、誰かに聞かれてしまう可能性が高い」
ゼノ隊長とフレイ隊長がそれぞれ警護について説明をしてくれる。当たり前のことではあるのだが、どこにも隙がないように感じられて、全員で頭を悩ませる。
「モクロ皇帝の到着された日には晩餐会があり、1日目はそれで終了。2日目の朝から父と会談、夜にも盛大な宴が催され、翌日には帰られる」
「隙がない……」
それだけじゃない。私は予め隣に座っているキースの手に机の下で隠れて触れる。
『たぶん、アイレーン王子はここで仕掛けてくるはずだ』
『どういうことだ?』
キースはキューレ王子に視線を送りながら、眉間をぴくぴくと引きつらせる。王子に向けてその顔、ちょっと不穏だからやめた方がいいかも。
『アイレーン王子は私達にダイス帝国のことを教えてくれた。ってことは、キューレ王子にバレても問題ない、事を起こすタイミングが近いってことでしょう? それに、アイレーン王子はダイス帝国と裏で繋がってる可能性が高い。キューレ王子を貶めるのに何かしらダイス帝国の力を借りるとしたら、モクロ皇帝がユーロラン帝国に来ているこの機会が最適じゃない?』
『なるほど……』
動揺からか、キースは私の手をぎゅっと握る。一応、キューレ王子を交えた会議中だよ!? そう思いながらも、拒否しない私も大概だと内心苦笑い。
『それじゃあ、アイレーン王子が事を起こす前に接触する必要があるっていうことか』
『そう。たぶんチャンスは1日目。恐らく2日目じゃ遅すぎる』
『1日目と言うと、到着されて晩餐会に出る予定だな。晩餐会で狙うか?』
『いや、晩餐会こそ警備が厳しそうでしょう? それこそアイレーン王子だって出席される』
『そうしたらやっぱり王宮に来るまでの間か?』
『それよりも、夜はどうかなって思うんだけど』
『夜?』
ゼノ隊長とフレイ隊長が警備の穴を見つけるために、警備について詳しく説明してくれているが、説明されればされるほど穴がなく、秘密裏に接触するのが不可能に思えるだけだった。
『夜は流石に部屋でお1人でしょう?』
『そうだが、部屋の外には警備がつくぞ』
『窓の外は?』
『窓の外……』
キースが城の構造を頭で思い描く。その図が、私の頭の中にもしっかりと入ってくる。
『窓の外には小さな庭があるのね。そこに警備はつくのかな?』
「モクロ皇帝がおやすみになられる部屋の窓の外の警備はどうなっているのでしょうか?」
キースが声を出して尋ねると、ゼノ隊長が目を見張った。
「すぐ側に塀があって、その間に数人の兵士が立つ予定だが……まさか、部屋の外から侵入しよう、というわけではあるまいな?」
「そんな盗賊のようなことを……」
フレイ隊長も厳しい表情を浮かべる。私とキースは思わず顔を見合わせてしまった。普通にそうするつもりだった。確かに、兵士にはあるまじき行為だったか、と気がついて少し笑ってしまう。なんだか、兵士では考えられない行動をしすぎていて、感覚が麻痺してきたみたいだ。




