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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
6.スパイ事件の真相に迫れ!
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王都にて 選択4

 キューレ王子が帰られてから、私達は言葉もなく呆けていた。それぞれがそれぞれに今後どうするのか考えているのだろう。


 私達は2人の王子から選択を突きつけられている。どちらにつくのか。


 アイレーン王子の導く強大な国がいいのか、キューレ王子の導く友好的な国がいいのか。正解はないのかもしれない。どちらが国民を幸せにするのか、国民1人1人によって正解は違うだろう。それでも私達は選ばなければならない。だとしたら。


 顔を上げてみんなを見渡すと、キースと目が合った。キースは肩を竦めて笑ってくれた。


 どちらかを選ぶ。そして、選んだ方を正解にするために行動する。それが今私にできることだ。


「私はキューレ王子についていきたいと思う」


 私がそう言うと、全員の顔が上がる。


「夢みたいなことを言っていると思った。ダイス帝国と自由に出入りできるようになれば、ユーロラン帝国のバランスは大きく変わる。思ってもみない争いも起きるかもしれない。それでも……」


 目を閉じてキューレ王子を思い出す。あの、未来を見据えた真っ直ぐな瞳を。


「確実に血が流れるアイレーン王子の考え方よりも、私はキューレ王子に賭けたい。ユーロラン帝国と、ダイス帝国の人達の良心に賭けたい」


「そうだな」


 キースが引き締まった顔で頷く。


「俺達の仕事は増えそうだけどな」


「国は荒れるだろう。守護兵団は大忙しだろうね」


 ブルームが苦笑いをする。


「でも、それはダイス帝国に攻め入ることになっても同じです」


「同じ忙しさなら、人を殺すよりも止める方が随分ましですよね」


 ベルロイとルシェがそう言って表情を緩めた。私達の気持ちは決まった。


「そのためにはアイレーン王子の企みを阻止しなくてはなりません」


「どうやってキューレ王子が皇帝になるのを防ぐつもりなのか。それを早く突き止めて、アイレーン王子が行動を起こす前に手を打たないと」


「その必要はないんじゃないかなって思ってる」


「どういうことだ?」


 全員の目が私に集中する。


「アイレーン王子が皇帝になろうとしてることはわかってる。時間もない。それなら、もっと確実な方法でキューレ王子を皇帝にしちゃえばいいんだよ」


「アイレーン王子が仕掛けてきても揺るがない何かってこと?」


 ブルームの疑問に私は頷く。


「キューレ王子の考えは、ダイス帝国にとって理がある。皇帝を始めとする能力・魔力がほしいとを目論む人達はもちろん、国民だって利益を得る人は少なからずいるはず。ダイス帝国は今のままキックス皇帝がトップにいるユーロラン帝国よりもキューレ王子が皇帝になることの方が嬉しいってことだよね?」


「ダイス帝国を使う、か」


 キースが腕を組む。


「キューレ王子の考えを、すぐにダイス帝国に伝えてしまえばいい。ダイス帝国はキューレ王子側につくはず。隣国が支持する王子が皇帝になるのを、アイレーン王子は排除できるかな?」


 答えは明白だ。


「国民の反感は必至だよ?」


「本当にそうかな? 地方の献上農家以外の農家の生活の苦しさを知っている? それがダイス帝国と行き来できるようになれば、新たな収入源が得られるわけだから、改善される可能性がある。地方民にとっては願ってもないことだよ」


「地方民はそうでも、貴族がな……」


「同時に皇帝の悪事をバラすんだよ?」


「……なるほど」


 ブルームの顔が明るくなる。


「皇帝とキャッセル家の悪事を公にすれば貴族への反感が強まる」


「そう。貴族の長きに渡る不正がわかれば、国民はどう思う? いくら貴族が強いからと言って、大勢の国民から反感を買えば……」


「キューレ王子が進めるダイス帝国との国交自由化が現実的になってくる」


「いけるかもしれないな」


 キースが少し興奮した声でそう言った。


「問題はアイレーン王子が行動を起こすより先にダイス帝国の皇帝とキューレ王子が接触できるかどうか」


「明日、すぐにキューレ王子に連絡を取ろう」


 全員が頷いた。


「恐らく特務部隊、最後の任務だ」


 キースが厳しさの中に充実さを滲ませた声でそう言う。


「全員、気合を入れてかかるぞ」


「はい!」


 みんなで力強い返事をする。もしかしたら、私達は間違った選択をしているのかもしれない。でも、決めたからには信じて突き進むしかない。選んだ道を、少しでも正解に近づけるために。


***


 長い会議を終えて第一会議室を出る。遅い夕飯を食べようとイオルに誘われたのを断って、私はキースの背中を追った。


「キース」


 少し疲れた様子の背中に声をかけると、キースは振り返って優しく笑った。


 私はキースと一緒に外で夕飯を食べることにした。店に入るような気分でもなくて、近くのお店でサンドウィッチを買って、広場のベンチに腰かけて食べることにする。夜も遅いというのに人通りが多い。


「何かやっぱり王都って落ち着かないな」


 私はサンドウィッチを頬張りながらそう言う。空を見上げるも、星はあまり見えない。


「居場所がない気がする」


「俺もそう思う」


 口数の少ないキースも空を見上げた。


「王都は狭くて窮屈だ」


 少し寂しそうな横顔を見ながら、キースも王都出身でなかったことを思い出す。


「キースはどのくらい王都に住んでるの?」


「10歳で来たから……そろそろ12年だな。人生の半分以上を過ごしているのに、未だにここに馴染めない」


 少し苦い顔をしながらぽつぽつと話してくれる。キースの口から、過去のことを聞くのは初めてだった。


「キースの名前がまだセンスルだった時のこと、聞いても良い?」


 躊躇いながら尋ねると、キースはしっかりと頷いてくれる。


「俺が生まれ育ったのはフィデロ地方の田舎町。リコルの育ったカンネの町とそこまで変わらないくらい小さな町だった。父親は俺が生まれてすぐに亡くなり、俺は母親と二人暮らしだったんだが、母親は病気がちでな。俺が物心ついてからは荷運びなどをして金を稼いでいたが、その金も微々たるもので、苦しい生活だった。その頃から比べると、今は贅沢すぎる生活なんだが……」


 キースはその先の言葉を飲み込んだようだった。私も何となくわかる。ここは豊かさと引き換えに、何か大切なものが欠落した場所に感じるから。


「あの頃は、母親から能力の使い方を教えてもらっている時間が一番楽しかった。いつか兵士になって、それで母親に楽させてやるって息巻いてな。今思えば、あの頃の勉学をまったく学んでいなかった俺に、そんなことは無理だったんだが……母親は嬉しそうに笑っていたのを覚えている」


 きっとキースはお母さんのことが大好きだったんだろう。穏やかな表情をしているから。


「俺の能力は母親よりも強く出ていたから、俺は能力を使って仕事をもらうようになった。がけ崩れで道を塞いだ石を壊したり、とかな。そうしているうちに、どこからか噂を聞きつけたのだろう、父上が俺に会いにやってきたんだ」


 酔っ払った人が楽しそうに騒ぐ声が遠くに聞こえる。賑やかなのに、不思議と余計に静けさを感じた。


「父上の子供は女が2人。それでは跡継ぎに困る、と悩んでいたところに俺を見つけたらしい。父上は俺の能力を見るや、すぐに母親と話して……俺を引き取ることに決まった」


 苦しげに眉をひそめるキースの手を握る。すると、少しだけ表情を和らげて笑ってくれた。


「俺は、そんなにすぐに俺を手放すことに決めた母親を恨んだ。母親と離れる時には喚き散らしたよ。今思えば酷いことをしてしまった。……最後くらいちゃんと別れればよかった、と」


 心配する私を見て、キースは笑顔を作って頭を撫でてくれる。でも、手から伝わる感情は痛いくらいの後悔。キースの辛さが私の心に染みていく。


「母親は、恐らく自分の命が短いことを悟っていた。幼い俺だけを残して逝けば、俺がどんなに苦労するかわかっていたんだろう。それならば、確実に兵士になることができる父上に引き渡したほうが、と思ったんだろうな。そのことに、俺は母親が死んでから気がついたんだ」


 キースが私の手をぎゅっと握った。


「金が手に入った母親は、苦しみを和らげて逝くことができた。母親が逝った後は丁重に弔ってくれて、あの町ではありえないくらい立派な墓まで。俺だって希望通り兵士になれたし、父上には本当に感謝している」


 そんな父親を罰せなければならないキースを思うと、私は上手く笑えない。


「キースは本当にいいの? お父さんのこと」


 聞きたかったことを口にする。私達がキューレ王子につけば、ビブリオを裏切ることになる。そして、キューレ王子が皇帝になった後には、きっとビブリオは守護兵団を追放される。それどころか、スパイを国に入れていたことが明るみに出れば、罪を問われて最悪は死罪に……


「いいんだ」


 キースは寂しそうに笑う。


「オルナーガの家がなくなれば、俺は元の自分に戻るだけだ」


「センスル……」


 栗毛の馬につけたキースの元々の名前。キースはしっかりと頷く。


「父上に感謝はしているが、それとこれとは別の問題だ。俺は、俺が選んだ道を行く」


 その瞳は迷いがないように思える。でも、迷いがないからといって、心が痛まないわけではない。私はキースの手をぎゅっと握る。キースの痛みは一緒に感じていたい。キースが1人で苦しまないように。キースがいつも私にしてくれるように。


「ありがとな」


 キースは笑って私の頭を撫でてくれる。


「大丈夫だよ、俺は」


「うん」


 大丈夫なわけがないだろうと思う。それでも、キースが大丈夫だと言って進もうとするならば、私はそれを支えるだけ。私達はしばらくその静かな夜を2人で過ごしたのだった。

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