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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
5.スパイを捕らえろ!
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パリス地方にて スパイを捕らえよ6

 翌朝、私達はキース達が泊まる宿へ向かう。朝早かったので、住民の姿はまばらだ。


 宿に着いて部屋を訪ねると、準備を済ませた4人が出てきた。キースも普段と変わらぬ様に見える。それでも、キースに昨夜のことを謝らなければ私の中でけじめがつかない。


 何か言わなきゃ。全員いる前で突然謝るのもおかしいかな、でも、今を逃したら任務が始まっちゃうし。


 そう躊躇いながらキースを凝視していると、見ているのがバレたのか目が合ってしまった。キースは私の顔を見ると僅かに眉を潜めた。


「ベルロイ、ルシェ! さ、早く行って馬の準備するわよ!」


 睨み合う状態になっている私達の横でイオルがベルロイとルシェをぐいぐいと押し出している。


「キース、先に外に出ているよ」


 何かを察したのか、ブルームもそう声をかけてさっさと宿から出ていく。レイリーズも私の肩を軽く叩いてから先に行ってしまった。気を使ってくれたんだ、っていうことは私にもわかる。後でお礼を言わなきゃならないな。


 私はキースの瞳をじっと見つめたまま、


「お、おはよう」


 と、とりあえず声を出してみた。


「……あぁ」


 キースは目にかかる長い前髪を手持ち無沙汰に触っている。


「……何だよ」


 何も言うことのできない私に痺れを切らしたのか、キースはそう言ってきた。


「あ、あの」


 あぁ、何で私はこんなに緊張してるんだろう? 人に何かを謝るなんて、初めてだったかな?


「昨日は……ごめん」


 何とか言葉を絞り出す。キースは表情を変えず、眉間に皺を寄せたままだ。


「怒って……る?」


「当たり前だ」


「ご、ごめん」


 やっぱり怒ってた。私はもう一度謝って頭を下げる。


「キースの命令に背いて、単独行動しようとしたり、あと、いろいろ……ごめん」


 いろいろ、はキースの手を払い除けてしまったことなのだけど、面と向かってそれを口にするのは恥ずかしいので濁して謝る。キースは許してくれるかな……。


 反応がないキースを上目遣いで見ると、キースははぁ、と溜息をついた。


「リコルは何でも1人で抱え込みすぎだ。自分のことは人には関係ないと思っている節があるだろ?」


「うっ……うん」


 思い当たることがありすぎて心が痛い。


「それで人を突然拒絶して突っ走る。少しは人に頼ることを覚えろ。俺でなくてもいいから」


 キースは優しい。優しすぎて涙が零れそうになって、目にぐっと力を入れた。


 ぽんっとキースの手が私の頭に乗る。それだけで心臓が一気に跳ね上がる。


「キースには頼ってばっかりだよ」


 それが怖くて拒絶したくらい。でも、これからは人の好意も受け入れる自分になりたい。頼って、頼られる自分になりたい。


「足りないくらいだ」


 優しい声色に驚いて見上げると、キースは眉間の皺を消して破顔していた。見たことのないくらい優しい笑みに心臓がうるさく鼓動を刻んでいる。


「さ、行くぞ。絶対に捕まえる」


「うん」


 私は赤くなった顔を隠すように俯いて、キースの後ろを歩いて外に出た。ユーロラン帝国のために、とは言わない。自分のために、特務部隊のためにこの任務を成功させるんだ!


***


 ソーケトルに向けて馬を走らせる。ソーケトルの街は小さいので、近くにいれば馬車が通ればすぐにわかる。その代わり私達みたいな見慣れない人間が7人もやってくると目立ってしまうので、街には入らずに側で張り込みをする。


 サイの言う通りならば10日に1回は『差し入れ』があるようなので、最長でも10日張り込んでいれば馬車はここに停まるだろう。


 キース、レイリーズ、ルシェ、ベルロイがすぐに駆けつけられる近くに陣取り、私とブルーム、イオルは街の外で馬車が来るのを待つ。馬車が来たらイオルの通信で連絡する手はずになっている。


 適当な位置を見つけ、張り込みを開始する。基本的には何も通らないのどかな森の中なので、静かな時間が過ぎていく。


 イオルが、


「こうやって張り込みをしてると、フィデロでのことを思い出すわね」


 と、言って笑った。そういえばあの荷馬車を襲った時も私とイオルは後方で待機だった。


「今度は突然飛び出したりしないでよ」


 イオルにそう釘を刺されてしまう。私は苦笑いをしながら、


「わかってる。今度は突っ走ったりしないから」


 と、言った。あの時はまだみんなのことを信じられていなかったのかもしれない。今なら、もし何かあっても仲間を信じて待つことができる気がする。だって、特務部隊のみんなは強い。守護兵団で最強の部隊とすら思えるくらいに。


「どうだか」


 イオルはじとっとした目で信じていないような顔をしたが、ブルームは楽しそうにくすりと笑った。


「リコルちゃんは変わったね」


「イオル程じゃないわよ」


「それも、まぁそうだけど」


「ちょっと」


 ブルームやキースにも素を出し始めたイオルは恥ずかしそうに私達を睨んでくる。ブルームはそれを意に介さぬように、


「キースのおかげかな?」


 と、笑った。私は首を振る。


「キースだけのおかげじゃない。レイやイオル、まぁ……ブルームも含めて、みんなのおかげ」


 素直にそう言うと、ブルームは少し目を見開いて、


「本当に変わったね」


 と、嬉しそうに笑った。

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