表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
5.スパイを捕らえろ!
55/85

パリス地方にて スパイを捕らえよ5

 私は来た時と同じようにフードを深く被ってアスモの診療所へ馬を走らせる。遠回りになってもなるべく人の通らない道を選んで。


 キースと変な感じになってしまった。部屋を出る時も、キースは私のことを見てくれなかった。自分が招いたことなのに、妙に胸が痛む。


 これでキースが私のことを嫌いになってくれればいい。私は独りで生きていきたいのだから。


 そう思うのに、それが私の本心なはずなのに、何でこんなに苦しいんだろう。


 診療所にアスモの姿はなかった。鍵もしっかりとかけられていたので、合鍵を使って入った。アスモは前触れ無く診療所を空け、別の街へ診療に出かけたりするので、今回もそれだろう。アスモがいれば私が女子2人を連れてきたことを面白がるだろうと思っていたので、いなくて好都合だった。


 レイリーズとイオルはキョロキョロと診療所の中を観察していたが「ここはどこだ」とか「リコルはここで育ったのか」などということは尋ねて来なかった。私も特に説明したりはしなかった。


 ベッドは2台しかないので、私は1階から毛布を引っ張り出してきて2階に運んだ。私はこれに包まって寝ればいいだろう。


 寝具の準備が終わると、おもむろにイオルが口を開いた。


「あんた、イオル達と離れている間にキース様と何があったの?」


「何って……別に、何も」


 平静を装ったが、イオルはじとっとした疑いの目を私に向けてくる。


「何もないわけないでしょ」


「何でもないって」


「リコ、何か悩んでるなら私達に話してください。頼りにならないかもしれませんが、話しくらいは聞けますから」


「そんなこと言われても……」


 どう言ったらいいかわからない。心を読んでキースの気持ちを知った、とは言えないし。


「キース様に押し倒されでもしたの?」


「はぁ!?」


 イオルの突拍子もない発言に思わず大きな声を出してしまう。


「そ、そんなわけないじゃない!」


「あー、言いにくいのはわかるけどね。でも、キース様だって男だからね。そりゃ2人きりになったら、ねぇ?」


「は、はい」


 レイリーズは少し頬を赤らめて私を見てくる。


「ちょ、ちょっと! ありもしないこと想像して勝手に照れるのはやめてよ!」


「リコルも案外純情なのね。そんなに照れるなんて」


「わ、私は照れてないし!」


「いいんですよ、リコ。ここには私とイオルしかいませんから……」


 この2人の暴走が止まらない! 勝手に決めつけては、私が何と言おうとその想像をやめてくれる気配がない。


 私は思わず溜息をついた。そうだ、しばらく離れていて忘れていたけれど、この2人はこういうところがある。


 どうしたものかと思案していると、バカバカしくなってきて笑みが零れてしまった。何だか暗く落ち込んでいた自分が馬鹿みたいに思えてくる。


 すると、目の前の2人もやれやれというように笑っていた。


「な、何よ?」


「ううん。まったく、世話が焼けるな、と思って」


「世話って……」


 もしかして、私を元気付けるための? そうだとしたら2人は私のことを想って────


「で? どこまで行ったわけ?」


 前言撤回! やっぱり私の事、からかって遊んでるだけだ!


「どこまでって、だから……」


 キースに手を繋がれたこととか、何度か同じ部屋で寝泊まりしたこととか、抱き締められて好きという気持ちを読んでしまったこととか、躊躇いなく触れられるようになったことが走馬灯のように頭の中を駆け巡る。


「あ、やっぱりキスくらいされたんだ」


 固まってしまった私を見てイオルがニヤニヤとしている。レイリーズは赤くなった顔を手で覆いながらしっかりと私を見つめていた。


「そ、そんなことされてないから!」


「えー、本当に?」


「本当!」


「じゃあ何があったのよ?」


 言い切ると、少し不満そうにしながらも、その話はそれで終わりにしてくれたようだった。顔が熱くてたまらない。


 私は呼吸を整えて気持ちを切り替えてから、弟に再会したことを説明した。説明しているうちに2人にはちゃんと聞いてもらいたい、という気持ちになって、自分の生い立ちや弟を殺したことなども話した。2人は打って変わって神妙な面持ちで私の話を聞いてくれている。


 私が自分自身のことを話すのはキースに続いて2回目。話すことは怖いけれど、2人には聞いてほしいと思ったんだ。


「それで、弟に『人殺し』って言われて、自分のことを思い出してさ。キースは私のことを守ってくれるし、その……大切にも、してくれてると思うけど、私にはそんな資格なかったんだ、って。特務部隊に入って忘れてたけど、私は人の人生を奪った人間。幸せになっていいはずがないんだよね」


「それでキース様を遠ざけようとした、って?」


「うん」


 レイリーズとイオルも私を遠ざければいい。私はコントロールを誤れば、簡単に人を殺せてしまう人間なんだから。


 イオルが座っていたベッドから立ち上がって私に無言で近付いてくる。何だろう、と顔を上げると……


「いたっ!」


 思いっきりデコピンされた。びっくりして、あと痛くて、私は目を白黒とさせる。


「あんた、バカね! ここまでとは思わなかった!」


 イオルは私を怒鳴りつける。バカ、そうかもしれない。人を殺したんだから────


 そう思った瞬間、イオルは屈んで私の首に思い切り抱きついた。


「な……っ!?」


「バカね、ほんと。不器用すぎるじゃない……」


 耳元から聞こえてきたイオルの声に涙が混じっていた。


「い、イオル……?」


 困惑していると、私の前にレイリーズが立って、イオルと同じように私に目線を合わせるために屈んだ。


「幸せになるのに資格なんていらないんですよ」


 穏やかに笑った。


「そんなに抱え込まないでください、リコ」


 レイリーズは瞳に涙の膜を張って、イオルもまとめて一緒に私を抱き締めた。


「リコは優しいんですね……」


「そ、そんなこと……」


 私の声にも涙が混じった。


「優しいですよ。私だって人を殺したことがあります。兵士ですから。でも、そこまで思い詰めたことはなかった。本当に……優しいです」


「悪人を倒すことが兵士の仕事でしょう? でも私が殺した弟は悪いことなんて……」


「リコルのこと、虐めてたんでしょ!?」


 涙で顔をぐちゃぐちゃにしたイオルが噛み付くようにそう言った。


「それなのに、それをそんなに背負って生きてきたなんて……」


「すごいですよ、リコは」


「やめてよ……」


 やめてほしい。そんなに優しいことを言われたら、涙が止まらなくなってしまうから。


「私達はリコのことが大好きですよ」


「初めは『何だこいつ?』って思ったけどね」


「でも、イオルだって今は大好きでしょう?」


「まぁ……うん」


 イオルは涙を拭いて至近距離で私に向き合った。


「好きになるのは私達の勝手だから。リコルが嫌がっても、それは譲れないから! キース様だって同じ。キース様がリコルをどう思おうが、それをリコルが止める権利はないの。諦めなさい」


「イオルの言う通りですよ」


「うっ……」


 もうダメだった。情けなく涙が流れてくる。嗚咽も噛み殺せない。そんな私を2人は容赦なく抱き締めてくる。


 心が温かくてどうしようもない。今まで誰からも愛されなかった私に訪れた初めての温かさだった。


 しばらく3人で泣き続け、ようやく涙が収まって顔を上げると、イオルに笑われる。


「酷い顔」


「イオルに言われたくない」


「泣き顔だって可愛いイオルに何てこと言うのよ」


「ふふっ」


「そうやって笑ってるレイリーズだって酷い顔なんだからね!」


「そ、そうですか?」


「イオルよりましだから安心しなよ」


「ちょっとリコル!?」


 私達はそんなやり取りをして笑い合う。怖いくらいの幸せ。温かくてどうにかなってしまいそうだ。


「キース様ともさっさと仲直りしなさいよ」


「リコのこと、心配してますよ」


「キース、怒ってるかな……」


 さっきの怖い顔をしていたキースが目に浮かぶ。私の我が儘で傷つけてしまった。


「怒っていても許してくれますよ」


「キース様は特別リコルに甘いから」


「そ、そうかな?」


「いい加減自覚しなさいよ」


 イオルは呆れた顔でわざとらしく溜息をつく。


「みんな、キースの気持ちに気がついてる、の?」


「当たり前じゃない。気がついてないのは鈍いあんただけよ」


「ぐっ……」


 心を読むまで気がつけなかった、とは口が裂けても言えそうにない。そんなにキースはわかりやすいのだろうか?


「あんたはどうするの? キース様のこと」


「どうするって?」


「好きかどうかってこと」


 どうなんだろう。私はキースのこと、どう想ってるんだろう。


「わ、わかんない」


「正気?」


「だ、だって恋愛なんてしたことないし。ねえ、レイはどういう時にブルームのこと好きって思うの?」


「えぇ!? 急に私、ですか!?」


 私が真剣な顔で頷くと、レイリーズは居住まいを正してこほんと咳払いをする。


「もっとブルームさんのこと知りたいなって思ったりとか、気がついたら目で追ってしまっている時、でしょうか……」


 尻すぼみに声が小さくなって顔を赤らめている。そんなレイリーズは何とも色っぽくて可愛らしい。


「リコルはキース様のこと、そういう風に思わないの?」


 私は少し考えてから、


「もっと知りたい、とは思う」


 と、答えた。


「じゃあ触れられて嫌だと思ったりする?」


「ううん、しない」


「気がついたらキース様のことを考えていたり、とかは?」


「それは……まぁ、たまには」


「それを好きって言うんじゃない!」


「えぇー」


 そうなのだろうか。よくわからないけれど、すごくドキドキしてきた。


「とりあえず、どう思ってるのかじっくり考えてみたら? 焦るものでもないと思うし」


「そう……してみる」


 キースのことを好きかどうか。ちゃんと向き合って考えよう。キースの顔を思い出すと胸がドキリと突き刺すような小さな痛みがした。明日会ったらちゃんと謝らなくちゃ。

●登場人物の見た目紹介


フレイ・アレジオロス(39)

性別:男

身長178cm、黒い瞳

第三守護兵団一班隊長。

深緑の髪の毛。

静かな雰囲気で年齢の割に若く見えるので、隠れファンが多いらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ