パリス地方にて スパイを捕らえよ4
リークル神国から戻ってきたブルーム達とカンネで合流することになった。私達は宿でもう1泊し、カンネに向けて馬を走らせているところだ。
キースとはあれからまともに口をきいていない。キースは何か言いたげな表情をしていたが、私が何も喋らないオーラを出したおかげで何も言ってくることはなかった。
もし、キースに何か言われても説明できない。私は愛されるべき人間ではないから、もう愛さないでほしい、だなんて、告白もしていない相手から言われたら、キースも困ってしまうだろう。
ブルーム達はリークル神国でちゃんと成果を上げていた。教会内で夜、神官達が薬物を使用する現場を押さえたということだ。
神官達を問いただしたところ、薬物がユーロラン帝国から持ち込まれたものだということがわかり、その証拠となる帳簿をフレイ達に渡すことができた。ここからキャッセル家を追い詰められるかどうかは、フレイ達に任せることになる。
カンネの街に着いた。ブルーム達とは宿で落ち合うことになっている。私はフードを深く深く被って足早に街を歩いて宿に向かった。
「リコル!」
宿の部屋に入ると、リークル神国に行っていた5人が既に私達を待っていた。私を見ると、レイリーズが嬉しそうに声をあげた。私は嬉しい気持ちを抑えて、
「この街で私の名前を呼ばないで」
と、低い声で告げた。レイリーズは私から漂う雰囲気に普段と違うものを感じたのだろう、神妙な面持ちで頷いた。
簡単な挨拶を交わし、こちらで仕入れた情報を共有する。ダイス帝国からの巡礼者がソーケトルから不法に入国している可能性があること、それに守護兵団の兵士と馬車の御者が関わっていること。
「巡礼途中で不法入国、か。守護兵団が関わっているとなれば、それが一番簡単で確実な方法だろうな。しかし、そんなに堂々と入ってきているとは考えつかなかった」
ブルームは腕を組んで唸った。
「不法入国してきたダイス帝国人を捕らえられれば、いよいよ黒幕も明らかになるな。一体誰が手引しているのやら……」
「核心に迫ることができますね」
「明日から早速ソーケトルで張り込みだ」
「人数は絞ったほうがいいかな?」
「そうしたいところだが、戦闘になる可能性が高い。既に入国しているダイス帝国人が加勢してくるかもしれないし、戦力は多いほうがいいな」
「じゃあイオルちゃんとリコルちゃん以外の……」
「私は行くよ」
私はブルームの声を遮ってそう宣言する。私の身内の問題もある。待っているだけ、なんていうことはできない。
「わかった」
キースは頷いてそれを承諾してくれた。
「ただ、後方で待機だ。リコルとイオルの側にはブルームを置く。2人はブルームから離れるな」
ブルームは「任せて」と、笑顔で答えた。
「さて、今日は休もうか。久しぶりにキースとリコルちゃんに会えたんだ。ゆっくり話も聞かせてもらいたいね」
先ほどまでと空気を変えてブルームが明るく提案する。
「私は別のところに泊まるから」
「え?」
キース以外の全員が目を丸くして私を見る。
「言ってなかったけど、ここは私が生まれ育った街。いろいろと都合が悪いから姿を消させてもらう。朝には戻ってくるから」
そう告げて私は立ち上がる。今日はアスモの診療所に身を寄せるつもりだ。
「待て、リコル。1人じゃ危ない」
「平気よ、1人じゃないから。あいつがいる」
今はとにかくみんなから離れたい。
「だとしても、戦えるわけじゃないんだろ?」
「あそこに不用意に近づく人間はいないわ」
「道中だってどこで狙われてるかわからねえだろ」
「私はここで育ったのよ? そんなヘマはしないわ」
なかなか引き下がらないキースに苛立ちを感じる。
「ダメだ。リコルは置かれてる状況をわかってるのか? 俺も行く」
「は?」
キースとまたあの部屋で2人きりなんて堪えられない。それに……
胸がじんわりと痛む。何でそんなに優しくしてくれるの? もうやめて。私はそんなことしてもらう人間じゃないのに。ここで死んだって私は……
「やめて。迷惑だから」
「リコルが攫われて迷惑するのはこっちなんだぞ」
「放っておけばいい」
「リコル……っ! お前何を……!」
「まぁまぁ2人共」
見かねたブルームが私達の間に割って入る。私はキースを見ていられなくて目を逸した。苦しい。
私だって馬鹿なことを言っているのはわかってる。だけど、どうしたらいいの? このままキースと一緒にいて守られ続けていたら、私は自分を許せなくなりそうだ。そんな甘えた場所にいていい人間じゃない。私は人殺しなんだから。
「それじゃあ私が一緒に行きます」
声をあげたのはレイリーズだった。
「私は誰かに襲われてもリコを守れます。女ですから寝る部屋も同じにできますし、一緒にいても問題ないでしょう?」
「ダメだよ。あんな環境に女性を連れていけない」
「リコも女性じゃないですか」
レイリーズが不敵に微笑む。ムッとした顔をしてもレイリーズは一切動じない。
「わかりました、いいですよ、1人で行っても。私は私で勝手にリコの後をつけさせてもらいますから。家に入れてもらえないのなら、外で1夜を過ごしますからね」
「ちょっと、レイ……」
「イオルも乗ったわ」
横からイオルも口を挟んできた。
「どの道あたしはレイリーズと離れたら危なくて眠れないもの」
「そうですね、では2人でリコに着いていきましょう」
「勝手に……」
私は半ば呆れて2人を見る。2人共どこか楽しそうに私を見ている。何で私の周りの人間はこうも……
「わかったわよ。その代わり、酷いベッドしかないからね?」
「外で過ごすよりは幾分もましですよ」
勝ち誇った顔のレイリーズが朗らかに笑った。
●登場人物の見た目紹介
ゼノ・ウルスラ(46)
性別:男
身長175cm、茶色い瞳
第一守護兵団キューレ班隊長。
現在はスキンヘッド(ハゲ)だが、昔は鮮やかな赤い髪の毛の持ち主だった。
年齢を感じさせないがっちりとした体格は日々の訓練の賜物だ。




