ナンルムルにて任務の後は1
会議が終わるともう辺りはすっかり暗くなっていた。リルルートへ向かうのは翌朝なので今夜はここでもう一泊することになった。簡単な食事を済ませてから部屋に戻ると、レイリーズが、
「リコ、お風呂へ行きませんか?」
と、誘ってきた。お風呂はこの能力を持つ私にとって、一番嫌な場所だ。身体を隠すことができないため、他人と接触してしまう可能性が高いから。断ろうかと口を開きかけると、横からイオルが、
「じゃあイオルも一緒に行く」
と、宣言して、返事も待たずに支度を始めた。
「イオルはお風呂が長いんですよね」
レイリーズがうんざりしたように溜め息をつく。
「女子のお風呂ってこんなもんじゃない? レイリーズはちょっと肌に気を遣わなさすぎよ。そんなんじゃすぐにシワシワになっちゃうんだから」
「えっ……!? 今から気にし始めるなんて早くないですか?」
「何言ってんのよ! アンチエイジングは早い方がいいの!」
「ど、どんな対策をしたらいいのでしょう?」
2人は美容の話に花を咲かせ始めた。その2人を見ていると、昼間のことが嘘のように思えてくる。
「ちょっと、リコル。いつまでそこで突っ立ってんの? 早く支度しないと置いてくわよ!」
イオルに睨まれて、私は仕方なく支度を始める。いつの間にか一緒に行くことになってる。ま、たまにはいいか。
ナンルムルの街に一つだけある共同浴場へ向かう。浴場から出て来るほんのり頬を赤くした人達とすれ違った。私達がお金を払って脱衣所へ行くと、数人の女性がお風呂から上がって涼みながら世間話をしていた。時間的にもちょうどピークが過ぎたところのようだ。
3人並んで服を脱いでいると、一番早く服を脱ぎ終えたイオルが仁王立ちでレイリーズの胸辺りを険しい顔をしながら凝視している。
「な、なんですか? あんまり見ないでください」
脱いだ服で身体を隠すレイリーズを見て、イオルは、
「ムカつく……」
と、呟いた。そんな2人を無視して私はさっさと浴場へ向かおうとすると、私の前にもイオルが立ちはだかり、私の胸を凝視してきた。イオルは顔を上げると、
「うん、あんたには勝ってるわね」
と、勝ち誇った顔で言った。
「そうでしょうか? リコの方が……」
「はぁ!? ふざけないで! よく見てよ!」
イオルは自分の身体を隠していたタオルを取って胸を張ってレイリーズに迫った。淑女にあるまじき行為だ!
「ちょ、ちょっと! はしたないですよ!」
「絶対! 私の方があるわ! そうでしょ!? そうって言うまで解放しないから!」
私はぎゃーぎゃーと騒ぐ2人を置いて浴場に入る。もわっと熱すぎるくらいの熱気が襲う。私はなるべく人のいないところに陣取って身体を洗い始めた。お風呂は静かに入るのが幸せ────
「ちょっと、リコ! 私を置いて行かないでください!」
「レイリーズ! 逃げるな~!!!」
────今日はそれは難しそうだ。
***
身体を洗い終えてお湯に浸かる。熱すぎずぬるすぎず、長く入っていられそうな温度だ。私が入ったすぐ後にレイリーズが続いて入ってきた。
イオルじゃないが、確かにレイリーズのスタイルはいい。出るところは出て、締まるところは締まっている。顔も綺麗だしレイリーズと結婚する男性は幸せ者だ、とおじさんみたいなことを思った。
「はぁ……ようやくイオルから離れられました」
イオルは熱心に髪の毛を洗っているところだった。レイリーズの言う通り、これは時間がかかりそうだ。
「リコ、昨日はどうでしたか? キースさんと」
「キース?」
その名前を聞くといろんな感情が一気に蘇ってくる。昨日、転びそうになった私を支えてくれたキースから伝わってきた感情のこと。今日の昼間、気絶させられなかったこと。
いろいろ思いを巡らせてから、
「……別に、何ともないよ」
と、だけ言った。
「レイはどうだった? ブルームと」
話を逸らすためにその名前を出したのだが、レイリーズの表情が思いがけず陰った。
「それが……ブルームさんから食事に誘ってくれて、夕食までご一緒させていただきました。そこで、珍しくブルームさんの心からの笑顔を見ることができて嬉しかったんです」
惚気けているようだが、レイリーズの顔はそうとは思えないほど曇っている。
「ブルームの心からの笑顔って想像つかないけど……。で、何が気になるの?」
「……はい。途中までは本当にいい雰囲気だったと思うんです。それなのに突然ブルームさん、私にルシェとベルロイを勧めてきたんです。……その、どうも恋愛対象として」
私は自分の顔の中心に皺が寄るのを感じた。ブルームがレイリーズのことをどう思っているかはわからないけれど、レイリーズの言葉を信じるのであればブルームは自分から誘った食事の場でいい雰囲気になっておきながら別の男をレイリーズに勧めたということになる。
「やっぱりブルームさんは私のことなんて……」
レイリーズは美しい容姿を悲しそうに歪めて水面に目を落とした。
ブルームはレイリーズの気持ちに気がついていないのだろうか。傍から見たらわかりやすく見えるレイリーズの好意に鈍くなさそうなブルームが気が付かないなんてことがあるのか。それとも、気がついていてあえて別の男を勧めた? そうだとすればブルームはレイリーズの気持ちを疎ましく思っていることになる。
女性に軽々しく声をかけるブルームが自ら寄ってきたレイリーズは遠ざける。それって妙じゃない?
イオルのことすら適当にあしらうだけのブルームがレイリーズに対してははっきりと拒否をする。その理由はなんだろう。
「私はブルームのことなんてまったく興味ないんだけど、ブルームって特定の好きな人とか彼女とかいないの?」
「いないって話よね。しばらく見てきたけど、女っ気はなさそうよ」
ようやく身体を洗い終えたイオルがざぶん、と勢い良く湯船に入ってきた。
「じゃあなんでレイのこと、遠ざけるようなことするんだろう。同じ部隊のメンバーだから?」
「さぁ? イオルにも全然手を出してくれないし。あたしが特務部隊に入る前に入手した情報だと、街ではよく遊び歩いてるみたいだったから、もしかしたらそうなのかも。守護兵団の兵士でブルーム様に手を出された人っていないんじゃないかしら」
「ふーん」
守護兵団に女子は少ないので手を出していなくても不思議じゃない。でも、こんな身近にブルームを想っている人がいるのに。それに、レイリーズは綺麗だ。男でレイリーズに好かれて手を出さない人なんているんだろうか。
「あーあ、もう全然上手くいかない。キース様なんてまともに話してもくれないし」
イオルは鼻の下まで湯につけてぶくぶくと泡を出している。
「イオルもいい加減諦めたら? レイももっといい男いるって」
私は励ましてみるが、2人とも浮かない顔をするだけだった。
「いっその事、本当にルシェとベルロイのこと好きになっちゃえば?」
「は!? やめてよ!」
「そうなれたらいいですけどね……」
イオルからは過剰な反応と共にお湯をかけられ、レイリーズは悲しそうな顔のまま呟いただけだった。恋って大変なんだな。私にはわからないけれど。
●能力紹介
レイリーズの水魔法
戦闘面では魔法の中でも最も弱いとされる水魔法。
それをカバーするため、レイリーズは剣技を磨いた。
剣で戦いながら詠唱を行い剣先に水魔法を発動させることで、威力強化やリーチを伸ばすなど、剣技の強化として魔法を使っている。
水不足に陥った時には水魔法の保持者は臨時で駆り出されて忙しくなるらしい。




