■第97話 タケの気持ち?
『あのさ・・・ タケって、リコのこと好きだったりした?』
リュータがぼそっと、ナチに訊いた。
リコとタケが買出しに行き、二人はリコの家で母ハルコの手伝いをしていた
時のこと。まだ松葉杖のリュータは座卓の前でイスに腰かけ、最大限に手を
伸ばして割り箸を人数分置き、ナチはキッチンと和室を行き来して取り皿を
運び並べていた。
突然のそれに、ナチがプっと吹き出す。
『・・・中学の時ってこと??
ないないな~い!!
私達はそうゆう好きとか嫌いとか、そんな仲じゃないの!
タケがリコを・・・? 有り得ない、有り得な~いっ!!』
ナチが一笑に付した。
何をどう考えても、思い当たる節はなかった。
当時から男女の垣根を越えて常に三人でいて、タケがナチとリコへ態度に差
を付けて接したことなど、どんなに頭をひねっても思い出せない。
互いを異性だなんて意識したことは一度だって無かったのだから。
リュータが『そっか。』と、あっさり引き下がり『ぁ、そう言えば』とすぐ
さま別の話題に切り替わったので、その話はそれ以上掘り下げることはなか
った。
その頃、リコとタケはスーパーで飲み物を選んでいた。
夕飯の買い物時を少し過ぎたスーパーはあまり客はいず、どこか寂しげ。
照明もいつものそれと同じはずなのに、なんだか若干薄暗く感じる気もする。
ドリンクが並ぶ冷蔵コーナー前でジュースのペットボトルを睨むリコの後ろ
でタケがカゴを持ちそれを見ていた。
『相っ変わらず優柔不断だなぁ~・・・。』
たかがジュースなどどれでもいいのに全く決められない真剣な表情のリコを
タケが可笑しそうにクククと笑う。
笑われてリコは振り返り、ちょっと不満そうに唇を突き出して目を眇める。
『タケは、いまだにコーラばっかり飲んでるわけ~?』
中学時代、いつもコーラばかり飲んでたタケをリコは覚えていた。
『体に悪いよ』『平気だってば』という遣り取りを何百回繰り返したろう。
なにかひとつのキーワードが出ると、当時の懐かしい思い出が次々溢れ出し
て『あの頃・・・』と二人は夢中でしゃべり、笑い合い、あっという間に時
間は過ぎていた。
すると、いつまでもドリンクコーナー前で笑い続け、一向に空のままのカゴ
を提げている二人の耳に、ケータイの着信音が響いた。
『ちょっと、二人でいつまでジュース選んでんのよっ!
みんなお腹空いて死にそうなんだからっ!!』
不機嫌そうなヤキモチを妬いているようなナチの声に、リコとタケが顔を見
合わせて再び笑った。
リコ、ナチ、リュータ、タケ、そして母ハルコと弟リクの6名で囲む食卓は
とても賑やかで一瞬も静かになる瞬間などなく、笑い声が家中に響き渡って
いた。
中学時代の恥ずかしい話の暴露大会になり、リコ・ナチ・タケの三人は競っ
て告げ口し合い、みんなで爆笑する。それに加勢するようにハルコも今だか
ら言える裏エピソードを付け足して大笑いしたりして、なんだか室温が数度
上がったのではないかと思う程だった。
その時、
ピンポーン・・・
みんなの笑い声で、押されたドアチャイムに誰も気付けずにいた所、リコが
もの凄い勢いで立ち上がり、玄関へ駆けてゆく。
慌てて手から離した箸が、畳の上にポトリと落ち転がった。
『お。 コーチャン先生のお出ましかっ?』
リコの慌てようを横目に、リュータがナチに目配せした。
タケはその様子をじっと目で追っていた。
『お邪魔します・・・。 ぁ、こんばんはぁ~!』
コースケが1時間遅れで、遂にやって来た。
既に盛り上がり熱気が凄い家の中へと、礼儀正しく会釈しながらリコに続く。
コンビニのバイトが終わってからやって来たコースケは、両手にぶら下げた
大きな袋2つをリコに渡した。
『これ、バイト先のなんだけど・・・
アイス。
・・・ちょっと買い過ぎた~!』
コンビニのアイスコーナーにあるそれを全種類買ってきたような、凄い数の
アイス。たった7人しかいないのに、ゆうに20個は入って袋は重い。
『どれにしようか迷いまくっちゃった~・・・。』と、照れ臭そうに眉尻を
下げ笑うコースケに、リコは嬉しそうに幸せそうに微笑み返した。
コースケの皿や箸を準備し甲斐甲斐しく動き回るリコを、タケがひとり冷静
に見つめていた。




