■第96話 リュータと合流
その夜はリコの家でみんなでご飯を食べる事になった。
ファミレスで時間を忘れて盛り上がっていたリコ達の元へ、母ハルコから
手巻き寿司にするからみんなで集まるようにと連絡があったのだ。
ナチがすぐさまリュータに電話をする。
まだ少し照れが見え隠れする、耳にケータイを当て愛しい相手の声に頷く
ナチの横顔。リコとタケはその甘い熱がこちらにまで伝染してきそうで、
互いに顔を見合わせて口元を緩め肩をすくめる。
いまだコースケの所に居候していたリュータに、出来ればコースケも誘っ
て二人で来てくれるよう伝えるナチ。
すると、
『リコっ!!
コースケさん、バイトだから少し遅れるけど参加できるって!!』
ナチが目をキラキラさせて身を乗り出すと、リコの顔が瞬時にパっと明るく
輝いた。明らかに今までとは違う様相のその表情を、タケが横目で見ていた。
ファミレスを出てリコの自宅に三人で向かう途中で、ひまわり保育園に寄り
リュータと合流した。
見知らぬ顔がそこに居ることに、リュータが少し不思議そうにリコとナチに
視線を向ける。すっかりタケの紹介を忘れていた事に気付き、リコが簡単に
事情を説明すると、少し人見知りをして堅い笑顔を作ったタケとは対照的に
リュータは持ち前の人懐こさですぐに打ち解けた。
すると、リュータが思い出したようにリコを呼ぶ。 『ぁ、リコ・・・。』
そしてなにやらこそこそと耳打ちすると、リコは弾かれたように園の遊戯室
へと駆けて行った。
そのなんだか嬉しそうなリコの背中に、タケが不思議そうに小首を傾げる。
リュータはそんなタケに、『新しい絵を見に行ったんだよ。』と、色んな事
を端折って説明した。
『コースケさん、バイトもしながら頑張って描いてるんだ~?』
ナチが胸の前で腕組みをし、感心しながらそれに続く。
『本当、頑張る人だよねぇ・・・ 努力家だよね。
・・・リコの、あの嬉しそうな顔ったら・・・。』
ナチの呟きに、リュータも微笑んで頷いた。
タケはなんだか ”コースケ ”という人物にモヤモヤしたものを感じそっと
不安気に目を伏せた。
四人がリコの家に到着すると、母ハルコが和室に座卓を用意して手巻き寿司
の準備をしてくれていた。
すし桶のツヤツヤした酢飯と、新鮮な寿司ネタの舟盛。煮物やサラダもテー
ブルの上に所狭しと並ぶ。
リコにとっては然程珍しくもないその食卓の光景だったが、タケは目を丸く
してそれを穴が開くほど見つめていた。
すると、
『あっ!大変。
なんか飲み物、買って来てもらえば良かった・・・
お茶ぐらいしか無いのよ・・・
・・・ジュースとかあった方がいいでしょ?』
困り顔のハルコの言葉に、すぐさまタケが立ち上がり御遣いに出る役を
買って出る。
『じゃぁ、私も!』 リコも上着を羽織るとタケに小さく目を遣り微笑
んで二人でスーパーへ買い物に行くことにした。
玄関を出ると、もうそこは夜のとばりが下りた藍色の住宅街に変わって
いた。あの頃よくこの家の前の坂道を、ナチも含め三人で歩いた記憶が
甦るタケ。
思い出深い、この坂道。
タケの胸を痛くする、この坂道。
タケは、上機嫌にパタパタと隣を歩くリコをそっと盗み見た。
リコはなにか凛とした空気をまとい、キレイになったように見える。
ナチは、彼氏が出来てあの頃より少しだけ女らしくなった。
(僕だけが、成長が止まったままみたいに思えるな・・・。)
タケの中に小さな焦りのようなものが生まれた。
自分だけ川の真ん中でぼうっと立ち止まって、その流れはどんどん脚元を
すり抜けて先へ行ってしまうというのに。ただその脚は濡れて汚れるだけ
で一歩も前へ踏み出すこともせず。だからと言ってそこから抜け出す勇気
もなかった今までの自分。
『・・・コースケって人も、来るの・・・?』
タケはちょっと気になっていた名前を、思い切ってリコに訊いてみた。
すると、
『ぅ、うん。 コーチャン先生はちょっと遅れて来るみたい・・・。』
リコが ”その名 ”に少し微笑んで、嬉しそうに目を伏せた。
その一瞬のうちにほんのり染まったその頬を、タケは見逃さなかった。
川の流れが微妙に変わりはじめた瞬間だった。




