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■第95話 リコとナチとタケ


 

 

 『えっ?! タケが・・・?


  ・・・ぁ、あのタケ・・・ だよねっ???』

 

 

 

リコがナチに電話をし、タケがこの街に戻って来た経緯を簡単に話す。


電話の向こうのナチの荒い息遣いで、驚きと喜びが笑ってしまうくらい

に伝わる。まるで今にも飛んで来そうな勢いの、身を乗り出すナチが目

に浮かんだ。

 

 

明日いつものファミレスで三人で会う約束をしたのだが、タケが出た電

話を中々切ろうとしないナチは、いつまでも一方的に興奮冷めやらぬ感

じで喋りまくり、いい加減ケータイの充電が切れそうで内心焦るタケを

照れくさそうに困らせた。

 

 

 

タケは一人、思い詰めた顔で佇んでいた。

 

 

まずは仕事を探さなければならない。

のんびりしてる時間など1秒だってなかった。一日でも早く仕事を決め

て大好きなこの家に迷惑をかける状況から脱しなければ。


取り敢えずまずは求人誌を掻き集めて、とにかく土方仕事でも新聞配達

でも何かしらの働き口を見つけなければと、焦る気持ちとヤル気が胸で

膨れ上がっていた。

 

 

 

 

タケはリコの家の1階の和室に寝泊りさせてもらう事になった。


和室の戸を静かに引くと、母ハルコが用意してくれた真っ新なカバーがか

かった布団が敷いてあった。それは、きちんと手入れされてふかふかで清

潔な感じが一目で分かる。


今まで自分が寝ていた薄っぺらく冷たいそれを思い出し、なんだか夢の中

にいるように立ち竦んだまま布団を見つめるタケに、後ろからハルコがパ

ジャマを差し出しながら声を掛ける。

 

 

 

 『これ、うちのお父さんのだけど我慢してね。』

 

 

 『おばさん・・・


  本当に・・・ 僕。 なんてお礼を言ったらいいのか・・・

 

 

  本当に、本当に・・・。』

 

 

 

うな垂れ言葉に詰まるタケの肩に手をおいて、ハルコは笑って言う。

 

 

 

 『大袈裟な子ねぇ~・・・


  タケ君は私のもう一人の息子みたいなもんなんだから。


  そんな事、気にしないの!

 

 

  でもね、ここから先はタケ君次第よ!


  しっかり自分の人生を、自分の足で進みなさいねっ!』

 

 

 

そう言って、『おやすみ』とハルコは自室へ戻って行った。


『おやすみなさい』と腰を90度に曲げ頭を下げると、タケはそっとパジ

ャマに顔をうずめる。それは、柔軟剤のいいにおいがした。

ハルコから微かに香る、優しいにおいが。

 

 

タケがひとつ、罪悪感にも似たため息を付いた・・・

 

  

  

 

 

翌昼、リコとタケがファミレスに着くと、既にナチがいつもの窓側の席で

待っていた。


タケの姿を入り口に見つけるなりナチは慌てて走って駆け寄り、タケの背

中を少し乱暴にバンバン叩きながら顔を真っ赤にして喜びの声を上げる。

 

 

 

 『背、だいぶ伸びたんじゃない?』

 『ちょっと痩せた~?』

 『でも、やっぱ変わってないか~?』

 

 

 

ナチの口撃は昨夜に引き続き繰り返され、タケの嬉しい苦笑いがその頬か

ら消える事はなかった。

 

 

席につき改めてタケの今回の事情を聞くと、ナチは泣き出しそうな顔を向

けた。先程の矢継ぎ早の口撃が嘘のように、肩をすくめ小さく縮まり口を

つぐむ。潤んだ瞳でせわしなく瞬きを繰り返している。今までのタケを思

いこぼれそうな涙を必死に堪えていた。

 

 

そして、ポツリ呟いた。

 

 

 

 『タケはこっちに戻ってくる運命だったんだよ。


  これからは、きっと、全てが良い方に向かう一方だよ。

 

 

  ・・・ゼッタイ・・・。』

 

 

 

ナチのそれは、まるでそう願うかように乞うように。

 

 

その後は、離れていた間の尽きない話が続いた。


リコとナチの進学の話をし、あんなに勉強が嫌いだったナチが難関の短大

に合格した話に驚きを隠しきれないタケ。あまりに信じられなくて二度聞

きしてしまう程。

 

 

 

 『 ”恋の力 ”ってやつなのよ・・・。』

 

 

 

リコが、わざとイタズラっぽく目線を流し天を仰ぐように言う。

 

 

 

 『えっ!!! ナチ・・・


  ・・・も、もしかして???』

 

  

 

ナチの嬉しそうなノロケ話がその後3時間は続いた。


タケは何年かぶりに心の底から笑った気がした。

 

 

 


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