■第84話 あれから
『すごい・・・ すごいね・・・・・・・。』
リコが今にも涙の雫が落ちそうな瞳で、一面の壁のイラスト画を見つめる。
愛おしそうにゆっくり瞬きをした瞬間、大きな雫が頬を伝ってこぼれた。
『俺もずっとバイトして、結構金も貯まったから、
この春から夜間の保育士学校通う事にしたんだ。
ほら、大学4年て殆ど講義ないし。
まぁ、普通は就活でみんな飛び回る時期だし・・・
バイトは昼間にして、夜に学校。
なんか、それを・・・
・・・どうしても、リコちゃんに話したくて・・・。』
照れくさそうに、でもどこか誇らしげにコースケが頬を緩める。
リコは、心の底から嬉しかった。
コースケが確実に前に進んでいる事が、まっすぐ前を向いている事が、
その揺るぎ無い信念が、そんなコースケが・・・。
すると、思い出したようにコースケは再びリコの手首を掴み引っ張る。
そして園児用の小さなテーブル前まで連れて行き、リコの肩をそっと押し
て座らせると、『一足早く、おめでとう会しよう!』
そう言って、自宅のキッチンに駆け込みその奥からケーキを持ってきた。
待合せのファミレスに遅れて来たのは、このケーキを用意していたからだ
ったのだ。
2~3人用の丸いデコレーションケーキには ”リコちゃんおめでとう ”
と書かれたチョコレートプレートが真っ白い生クリームの上に在る。
まるで幼い子供の誕生会用のような、リスやうさぎのマジパンが乗った
ケーキがいかにもコースケらしくて、リコはぷっと吹き出し笑った。
『この次は・・・
ナッチャンのおめでとう会とぉ・・・ リュータの退院祝いだな!』
コースケがやけに得意気に口角を上げる。
『3人分あわせても良かったのに・・・。』 そう、リコが呟くと
『だってさぁ、合格するとは限らないだろぉ~?
アイツが無事退院できるかも分かんねぇ~し・・・。』
コースケがイタズラした子供のようにニヤリと笑う。
そして、困ったような情けないような眉尻を下げたやさしい顔をリコに
向けた。
(コーチャン先生・・・。)
その笑顔を瞬きもせず見つめるリコ。
すると、自分でもよく分からないうちに勝手に言葉が溢れだした。
『コーチャン先生・・・
あの時・・・ 私・・・ 困らせてごめんね・・・。
急に、あんな事言われて驚いただろうし、迷惑だったよね・・・?
私も、あんなタイミングで言うつもりなんか、
・・・全然、 無かったのに・・・。』
申し訳なさそうにうな垂れて呟くリコを、コースケは先程までとは別人の
ような真剣な眼差しで真っ直ぐ見つめる。
そしてリコと正面から向かい合うと、ゆっくりと言葉を選んで話し始めた。
『あの時の事は・・・ 正直、ほんと・・・ 俺・・・。
でも、迷惑とかそんな事・・・ 1ミリも思ってないよ!!
ほんとに驚きすぎて、バカみたいに動揺して、
あんな別れ方しちゃって・・・
・・・我ながら、ほんと。 情け無いよ・・・。』
リコは黙ってコースケを見つめていた。
コースケが小さく俯きなにか覚悟を決めたように、再び話し始めた。




