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■第80話 アカリとの再会


 

 

 『リュータさんっ! リュータさんっ!!!』

 

 

ナチがもの凄い勢いで病室に飛び込んで来た。


スライド式のドアが思い切り右に移動し開け放たれ、そのあまりの勢い

に少し戻って閉まりかける。

 

 

全速力で走ってやって来たのだろう。ナチはゼェゼェと肩で息をし苦し

そうに顔を歪めるも、その表情は興奮して頬は真っ赤でまるで全力で駆

け回り遊ぶ夏休みの小学生のようだ。

 

 

ベッド脇でぴょこぴょこ飛び跳ね興奮冷めやらぬ様子のナチを、リュー

タは愛おしそうに見つめ頬を緩める。

 

  

 

  『おぅ! どうだった?


   うまくいったかぁ?試験・・・。』

 

  

 

まるで幼い子供を見るように、優しく優しく微笑んで。

 

  

すると、

  

 

 

  『私、天才かもっ?! もぉぉ完璧っ! 超ぉぉおお完璧っ!!』

 

  

 

そう言い放ってナチはリュータの両手を掴み、ブンブン振り回す。


まだその手は包帯を巻かれケガ人だという証拠がハッキリ見て取れると

いうのに、そんなのお構いなしな目の前の小柄な暴れん坊。

そんなナチの無邪気な様子がおかしくて笑いながら、リュータはナチを

心から愛しく思っていた。

 

 

そして、掴まれている片手を静かに離すと、ナチの頭にそっと手の平を

乗せる。それはぽんと頭の上で一度跳ねると、ゆっくり優しく左右にず

らしてナチの小振りな頭を撫でた。

 

 

 

 (・・・・・・・・。)

 

 

 

ナチを真っ直ぐ見つめるリュータ。

瞬きをする時間すら惜しいくらいに、真っ直ぐ。

 

 

本当は、そのままナチを抱き締めたかった。


急速に鼓動を打つ心臓がナチに伝わる程強く、ナチを胸に感じたかった。

確かな重みをもった熱いものが胸に迫り上げ、息をするのでさえ苦しい。

 

 

 

  (ナチ・・・。) 

 

 

 

しかし、そう出来ずにいた。


そうしたい気持ちをギリギリの所でぐっと堪え、その代わりナチのプニ

プニした頬をつねって両端に引っ張る。

  

 

 

  『よく頑張ったなっ! エライぞ、ナチっ!!!』

 

  

 

そう、思いっきり褒めた。


ナチも頬を引っ張られカエルのような無様な顔のまま、うんうんと嬉し

そうに赤くなって頷いた。

 

  

 

 

 

リュータは奇跡的に左足の単純骨折と打撲で済み、数日間の入院の後は

自宅療養をすることになった。

経過もすこぶる順調で、少しずつ松葉杖で歩く練習も始まっていた。

 

 

試験が終わったナチは卒業まで自由登校になっていたので、弁当を持参

して毎日朝から晩までリュータの傍にいた。


松葉杖での歩行練習に付き添ったり相変わらず悪態つき合ったり、時に

は何もしゃべらず二人で片方ずつイヤフォンをして病室の小さいテレビ

を見ていたり。

それでもナチは、そんな時間が幸せで涙が出そうになるくらいだった。

 

  

 

とある日。


病室のドアがノックされゆっくりと開き、二人が目を向けるとそこには

リュータの両親とアカリがいた。

 

 

ナチは一目でリュータの家族と気付き、慌てて立ち上がって両親に挨拶

をする。一気に緊張してやけにアタフタする滑稽なナチの小さな背中。


アカリとはあの日、嫌な別れ方をして以来だったが、ナチには何故か嫌

悪感など何も無かった。

 

 

しかしアカリは相変わらず不機嫌そうな様子で、ナチの方は見ようとも

しない。そんな様子にナチはこっそり呆れて笑うと、肩をすくめた。

 

 

ぶすっとして俯いたままだったアカリが、やっと重い口を開く。

それは低くふてぶてしさ滲む声色で。

 

 

 

 『・・・ちょっと、いい?』

 

  

 

『ぇ? ・・・ぅん。』 ナチが訝しげに目を細め、頷いた。

 

 

ナチとアカリが、微妙な距離をあけながら病室を出て行く。

その二人の背中をかなり心配そうにリュータがじっと見つめていた。

 

 

 



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