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■第76話 固い意志の瞳

 

 

試験は、滞りなく終了した。

 

 

筆記試験も実技に於いても、緊張せず自信を持って取り組めたのは、

やはり日々スケッチブックと共に生活してきた成果か、ケータイ画面の

中で微笑むコースケの笑顔に癒されたからだろうか。

 

 

試験会場を出ると、リコは軽快な足取りでいつものファミレスへ向かっ

て駆けた。レンガ風の建物に赤い屋根の、そこ。いつも来ている場所な

のになんだか今日はそれが目に入った瞬間、リコは嬉しそうに頬を緩め

て出入口へと飛び込む。

 

 

リコ達の指定席、店内奥の窓際4人掛け席に既にナチの姿がある。


一足早く着いて待っていてくれた学校帰りのナチは、慌てて立ち上がり

大きく手を振って合図をした。

 

 

 

 『・・・ど、どうだった? リコ・・・。』

 

 

 

ナチは少し身構え眉根をひそめ小さく訊ねる。

”保証する ”って宣言した割には、人一倍不安げな強張ったその表情。


リコが親指を立て ”good! ”と満面の笑みで合図をすると、ナチ

は万歳するように両手を上げて『ヤッタじゃんっ!!』と叫んで飛び上

がってしまい、周りの客の若干冷たい視線を浴びてバツが悪そうに席に

腰を下ろした。


そしてナチはすぐさま片手を上げウエイトレスを呼ぶと、メニューを指

差しケーキセットを二人分注文した。

 

 

『今日はおごっちゃうっ!!』 リコの試験の手ごたえを、自分の事の

ように心から喜び、頬を高揚させた。

  

 

 

 

次は、ナチの入試が1週間後に迫っていた。


懸命に勉強してきたナチだが、実は今の成績での合格はギリギリだと担任

から言われていて、それでも志望校は変更せず第一志望の短大を受験しよ

うとしていた。

 

 

ウエイトレスが運んで来たケーキを前に、フォークを握った手元に目を落

としナチはぽつりと話し始める。その目はどこか遠く、想い続ける人の顔

をそっと見つめるようなそれで。

 

 

 

 『私ね・・・


  今まで生きてて、こんっなに勉強したのはじめてだよ。

 

 

  でも・・・ なんか、目標がね 欲しかったの・・・

  

  

  難しい目標を立てて、それに向かっていっぱいいっぱい頑張って、


  それで結果が出たら・・・

 

 

  ・・・いい結果が出たら・・・ 私ね・・・。』


 

 

リコには、ナチの言いたい事が痛いほど分かった。

なんだか胸の奥がきゅぅっと狭くなるような痛みを憶える。

 

 

ナチはリュータに逢いたかったのだ。


逢いたくて逢いたくて、何度泣いたことだろう。

何度、ケータイの通話ボタンに触れようとしただろう。

 

 

でも、この1年の間、ナチは決してリュータに連絡をしなかった。

もしも逢えない間に気持ちが弱まったのなら、それはそれだけの事だった

のだと諦めようとしていたのだ。

 

 

そして、それはリコも同じだった。


合格出来たら、その時は一番にコースケに知らせたい。

コースケのお陰でこんなに頑張れた、自分に自信が持てたと伝えたい。

 

 

 

  逢いたい・・・


  あの、困ったような情けない笑顔を見たい・・・

 

 

 

そればかり思う日々だった。

 

 

リコの合格発表は2週間後。そしてナチは1週間後の試験で、その2週

間後に発表だった。

 

 

二人の目は真っ直ぐと前を見据え、固い意志の光が宿っていた。

  

 

 

  

 

するとその時、ナチのケータイがけたたましく鳴った。

いつもの着信音と変わらないはずのそれが、何故か鋭く胸に突き刺さる。

 

 

ナチはなんとも言えない嫌な感覚に襲われ、慌ててカバンからケータイを

取り出し画面に目を落とす。そして一瞬不安そうな顔をすると、勢いよく

立ち上がり慌てて小走りで店の外に出て行った。

 

 

リコは何かあったのかと、店外でケータイに耳を当て立ち竦んでいるナチ

を心配そうに見つめる。ガラス越しに見えるナチの強張った表情に胸騒ぎ

を感じた。

 

 

 

  (家族か誰かに、なんかあったのかな・・・?)

 

 

 

すると、ナチが青ざめた顔で戻ってきた。


その足取りは小さく、心許なく。目は真っ赤に潤んで、瞬きという行為を

忘れてしまったかのよう。

 

 

『ナチ・・・? どうしたの??』 リコは立ち上がって駆け寄り、ナチ

の肩を抱き不安気に覗き込んで訊く。

 

 

ナチのぎゅっとつぐんだ唇が小さく小さく震えて動いた。

それは、弱々しくかすれてこぼれる。 

 

 

 

 『リ、リュータさんが・・・・ 事故った・・・・・・・・・。』 

 

 

 


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