表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/227

■第7話 彼の名前


 

 

彼は、もの凄く優しい顔をして向かいの道路の子供へ大きく手を振った。


それはまるで友達のような、兄のような。

否、なんだか父親のような・・・?

 

 

リコは、男の子が呼んだ名前を反芻する。 ”コーチャン先生 ”

 

 

 

 (この人、先生なの・・・?


  どう見たって大学生ぐらいにしか見えないのに・・・。)

 

 

 

  

 『たっく~ん! ママはどうしたぁ~~?』

 

 

彼は負けず劣らず大きな声で、車道を挟んで子供に話し掛けている。

 

 

 

 『ママ、いま、やおやさんで買い物してるぅ~~!』

 

 

 

負けじとその子も大声を張り上げて返事をした。

 

 

その二人の遣り取りを、ただその場で棒立ちして見ていたリコ。

何がなんだか分からないまま、リコだけ一人ポツリ取り残されたままで。


彼は男児に向けた微笑み顔のままリコにチラリと目を遣り、話途中で放置

したままだった事に気付くと少し慌てたように説明をした。

 

 

 

 『この先に、ひまわり保育園てあるの知ってる? 公園の向かいの。』

 

 

 

突然なんの脈絡もなく問い掛けられたその話に、リコは訝しげな表情に

ならぬよう繕う。

 

 

 

 (知ってるけど・・・ 保育園が、なんなの・・・?)

 

 

 

すると、彼は続けた。 『実家なんだわ、ウチの。』

 

 

 

 『実家っ??』

 

 

 

 (ぁ・・・


  だから ”絵本 ”

 

 

  ・・・という事は、この人・・・ 保育士・・・?)

 

 

 

パチパチとせわしなく瞬きだけ繰り返すリコへ、彼は照れくさそうに。

 

 

 

 『ぁ。 でも別に、先生でも保育士な訳でもないんだけどね~

 

 

  当たり前にいつも周りに子供がウジャウジャいる環境で、


  なんか、勝手に ”コーチャン先生 ”とか呼ばれてんの・・・

 

 

  ・・・ちょっと、ハズいんだけどねぇ・・・。』

 

 

 

そう言って、また困ったような顔で優しく笑った。

その顔をまじまじと見ていたら、思わず一言リコの口をついた。

 

 

 

 『・・・ほんとの、名前は・・・?』

 

 

 『コースケ。 ナナミ コースケ。』

 

 

 

 (・・・・・・・・・。)

 

 

 

 『コースケ・・・さん・・・。


  ・・・だから、”コーチャン先生 ”・・・。』

 

 

 

”コースケさん ”より ”コーチャン先生 ”という呼び名がこの人には

あまりにピッタリで、思わず肩をすくめてクスっと笑ってしまった。

 

 

 

 (・・・コーチャン・・・先生・・・。)

 

 

 

心の中でもう一度呟き、目を細め手の甲を口元に当ててクククと微笑む。

 

 

すると、彼はリコの黒髪セミロングの頭を軽くほんの少しだけ手の平で

垂直チョップした。

 

 

 

  ズビシッ!!

 

 

 『ちょ。 ・・・今、バカにしたろぉ~? 


  笑ってんじゃないよ~ぉ!!

 

 

  ・・・で?

 

  そっちの名前は? ・・・ ”1歩早かったチャン ”』

 

 

 

リコの頭頂部に、その大きくゴツいチョップの手を当てたまま。

 

 

 

 『・・・タカナシ リコ、 です・・・。』

 

 

 

ただ自分の名前を言うだけの事なのに。


口から出た17年間言い慣れているはずのたった数文字が、やけにあつく

熱を帯びてリコの喉を通った。

触れたままの彼の手の温度が、微かに頭や髪に伝わっていたからだろうか。

真っ赤になっていたらと思えば思う程、どんどんそれが急加速しそうで

真っ直ぐ前を見れなくなっていた。

 

 

 

 

 『ほんとに、あの絵本貸してもらっていい?』

 

 

 

そう言って、コースケがケータイを差し出し画面にアドレスを表示した。

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ