■第8話 ナチ
『えええ!!
なにそれなにそれっ?!
・・・それって・・・ 付き合うことになった、って事ぉ?!』
ナチが大声でやたらと滑舌よく興奮気味にまくし立てた。
ひとつの机でナチと二人、お弁当を広げるいつものお昼休み。
ザワザワ騒がしい昼食タイムの喧騒の中、ナチのよく通る甲高い声が
教室中に響き渡った。
周りのクラスメイトも、ナチの声に少なからず反応してチラチラと
こっちを見ている。
『ど・・・どこをどう解釈したらそうなるのよっ!
た、ただ・・・
本を、貸すって、だけで・・・
・・・その為に・・・ アドレス、を・・・。』
『リコ!! アンタ、馬鹿じゃないのっ?!
普通、気のない子にアドレスなんか教える訳ないじゃっ!!』
普段から比較的声が大きいナチだけど、今日は一段と激しい。
大袈裟に身振り手振りを加えながら、うっとりと何処か遠くを見つめ
ナチは一人、完全に悦に入っている。
リコはそんなナチを一瞥し、私たち女子高生は普段男の子との接点が
少ないだけに、きっと共学の子よりも想像力とか妄想力が過剰に発達
していくのだろう、と自虐的に顔をしかめた。
すると、ナチが鼻息荒くリコに言い放つ。
『リコ!!!
きっと、絵本借りるなんて口実だよっ!!
・・・次会うときは、実質デートよっ! デ・エ・トっ!!!』
ナチのあまりに全く根拠ない勢いに圧され、仕舞いにはなんだかリコも
そんな気になりかけ、しかし声を掛けたのは自分の方だという事に気付き
一人かぶりを振る。
その前にアドレスの交換をしたはいいけれど、コースケからの連絡を待て
ばいいのか、こちらから連絡したらいいのか。
そこからして、もう、どうしたらいいのか全く分からないリコ。
たかが連絡ひとつ取ってみても不慣れで経験皆無な自分自身に嫌気を感じ
つつふとナチを見ると、リコのケータイを勝手にいじっている。
『ちょっと!! それ、私のケータイ・・・。』
するとナチは、『善イソっ!善イソっ!』と意味不明な事をブツブツ呟き
ながら、勝手にリコのケータイでメールの文章を創作しはじめていた。
奪い返そうといくら腕を掴んでも引っ張っても、ナチは器用にリコの腕を
すり抜けて中々取り上げられない。
困り果てたリコがゴツンとナチの腕を小突くと、自信作とばかりに胸を張
り『コホンっ』とひとつ咳払いをして完成した文章を読み上げたナチ。
『 ”はじめて あったときから きに なってました~ ”』
『ちょっと、バカっ!!
ケータイ返してよ!!
・・・なにが ”善は急げ ”よ、まったく・・・。』
格闘技の技の掛け合いのようにして、やっとの事でナチからケータイを
奪い返すと、ナチ作のとんでもない文章はキレイサッパリ消去した。
『だって~・・・ 気になってたのはホントの事でしょ~?』
強く握り締めるケータイのリコの手の甲を、ツンツンと意味ありげに
つついてナチは若干納得いかなそうな顔を向ける。
(そりゃ、そうだけど・・・
”気になる ”の意味が・・・
確かに、気にはなってたけど。
別に・・・ 好き、とか・・・ そうゆうんじゃ・・・。)
リコは心の中でブツブツと繰り返す。
少し頬を赤く染め眉根をひそめているリコへ、からかってすっかり面白
がっていたナチが、ポツリ一言小さく小さく呟いた。
『・・・応援するからさっ。』
( ”応援 ”か・・・。)
たったこれだけの事で、こんなにドキドキしたりソワソワしたり。
ケータイを握り締める手が少し汗ばんでいて、なんだか照れくさくて。
コースケの困ったようなあの笑顔を思い出していた。




