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■第67話 別れ


 

 

 『何があったんだよ・・・? 


  ・・・ほら、聞いてやっから言ってみろぉ?』

 

 

リュータがナチと並んでベンチに座り、優しく問い掛ける。

心配そうにナチを覗き込むその顔は、なんだか泣いてしまいそうに情けないそれ。

 

 

ナチは黙ったまま俯いていた。

制服スカートの膝の上でぎゅっと握り締めた拳が、力が入り過ぎて白くなる。

 

 

リュータは拳で軽くナチの二の腕を小突き、口を尖らせて少し大仰に呟く。 

 

 

 

 『俺・・・ 今日ひとりで、


  お前が来んのずぅぅぅううううううううっと待ってたんだぞぉ~・・・。』

  

 

 

それを聞いてナチはガバっと顔を上げ目を見開き、リュータを真っ直ぐ見つめる。

 

 

 

 『ほんと・・・?』

  

 

 

やっとナチが声を出した。それはかすれた小さな小さな声だったけれど、やっと

話をしてくれたことにリュータはホっと胸を撫で下ろす。


そして、笑いながら言った。

 

 

  

 『 ”ほんと? ”ってなんだよ!!


  だって、こないだ約束したじゃんかぁー・・・

 

 

  お前にラインしたのに返事は無いは、ケータイ繋がらないは・・・。』

  

 

 

呆れたように優しく笑うリュータの顔を見て、ナチはやっと気が付いた。


あれは、アカリのただのイタズラだったのだ。ただカマを掛けられただけだった

のに、それをまんまと真に受けてしまっただけの事だと。

  

 

 

 (リュータさんが嘘ついたり、


  平気で約束やぶる人じゃないって事ぐらい、分かってたのに・・・。)

  

 

 

途端にナチは哀しくなっていった。


リュータを信じられなかった自分に腹が立った。誰よりも信じているリュータを

あんな一言でいとも簡単に疑った自分が哀しかった。

  

  

 

 『ごめんなさい・・・・・・・・。』

 

 

 

ナチは再び俯いて、か細い声で謝る。


ファミレスで一人、ずっと待っていてくれたリュータの背中を思うと申し訳なく

て胸が締め付けられて、喉元まで熱いものが込み上げまた声が出せなくなる。

 

  

 

 『なんか・・・ 嫌な事でもあったんじゃねーのかぁ?』

  

 

 

リュータが遠慮がちにポツリと訊く。


決して無理やり聞き出そうとはしないその口調。その優しさが、あたたかさが、

ナチの一番やわらかい部分にじんわりと沁みてゆく。

 

 

しかし、ナチはアカリの事は話さなかった。あれは、信じた自分が悪かったのだ。

だから自分の胸にだけしまっておく事にした。実際、アカリに恨み言を言う気も

激怒して暴言を吐く気も、ナチには更々無かった。リュータが約束を破った訳で

はなかったのが分かっただけで、もう充分だった。

 

  

 

 『・・・・・・・・心配した?』

 

 

 

ナチが潤んで真っ赤なつぶらな瞳で、リュータを真っ直ぐ見つめる。

 

 

すると、

  

 

 

 『いやぁ・・・ まじで、


  ・・・・・心臓止まるかと思った。』

 

 

 

ため息のようにそう呟くと、リュータは背を丸めて両手で顔を覆いなんだか苦し

そうに息を吐いた。

 

  

 

 『 ”妹みたいなもん ”だから、でしょ・・・?』

 

 

 

ナチは少し自虐的に嗤いながら小さく呟いて、足元の小石を足先で弾く。


隣に座るリュータがその一言にどんな反応しているのか、どんな表情をしている

のか怖くて顔が上げられず小石の行方ばかり見つめて。

 

 

そして、暫く黙ってなにかを考え込み、ナチが静かに口を開く。

それは覚悟を決めたような色合い濃く、先程までの小さく心許ない声色とは全く

違うそれで。

 

  

 

 『もう、こんな風に優しくしないでいいよ。


  ・・・ってゆーか、中途半端に優しくなんかしないで・・・

 

 

  しんどいのは・・・ リュータさんじゃないよ。

 

 

  ・・・しんどいのも、苦しいのも、つらいのも、


  リュータさんじゃない・・・ 私だよ・・・

 

 

  ・・・私、だけ・・・ だよ・・・・・・・・・・。』

  

  

 

居場所無げに居た堪れない顔を向けるリュータが、歯がゆそうに唇を噛み何か言

おうとしたのを、ナチは遮ぎるように急にガバっと立ち上がる。


そして、『でも、今夜はバイクで送ってよねっ!』と必死にその頬に笑みを作り

泣きそうに震える声を笑声に変える。

 

 

リュータは、何も言うことが出来ずただ黙ってそんなナチを見ていた。

それが、最後に見たナチの笑顔だった。泣きたくなるほど哀しい笑顔だった。

 

  

 

 

 

 

それ以来、ナチはみんなで集まる場に現れなくなった。


みんなでファミレスでゴハンする計画を何度か打診してみるも、全てナチは首を

縦に振らなかった。

リュータへも一切連絡もしなくなり、リュータもまた、ナチへ連絡出来なくなっ

ていた。

 

  

コースケはバイトを始め、リコは進学の為の受験勉強をはじめていた。

リカコも忙しい日々を過ごし、リュータだけが一人宙ぶらりんな状態だった。

 

  

ナチは、リュータのいない、リュータに逢えない毎日を元気に過ごしていた。

 

 

 


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